第19話  私と優しい彼と(高崎茅羽耶視点)

 私が初めて彼、桜木くんと出会ったのは二年前だった。


 当時の私はクラスのカーストトップと呼ばれるグループに様々な形でいじめられていた。


 クラスメイトは全員見て見ぬふりをして、誰も私のことを助けてくれない。先生に相談をしても何も解決しない。


 そんな日常が続いていて、もう全部諦めて死のうかななんて考えていたそんなある日のことだった。いつものように彼らにおもちゃにされていると突然一人の男の子が乱入してきた。


「やめろよ……小林」

「あっ?」

「えっ?」


 当時は他クラスなのもあって名前も知らなかった桜木くんは私の筆箱をボールにしてサッカーをしていた彼らのことを止めてくれた。


「なにお前?」

「B組の桜木真砂希。そういうのはやめとけって言ってるの。明らかに困ってるでしょ」

「……はっ? だから?」

「やめとけっていう話。やられて嫌なことは他人にするなって習わなかった?」


 桜木くんは一歩も引かずに正論を叩きつけていた。


「怠すぎ……覚えとけよ……桜木」


 そう言って私の筆箱を放り投げて去っていく彼ら。桜木君は溜め息を吐きながら、床に放置された私の筆箱を埃を払ってから渡してくれた。


「はぁ……大丈夫?」


 それと同時にほらと言われて渡された筆箱。


「……ありがとうございます」

「どういたしまして、気を付けてね。また、何かあったら教えてよ。止めに来るから」

「……」


 そのときはあまり期待もしていなかった私だったけれど、それから彼は事あるごとに私に話しかけてくれるようになった。


 昼ご飯をひっそり一人で食べているときや、廊下ですれ違ったなどの些細なときでも。


 何より彼は親身になって私の相談にのってくれて、実際に行動に起こしてもくれた。


 そんなことが続くうちに私は彼のことを異性として好きになり、ある日告白をする勇気を固めて、彼のことを校舎裏に呼び出した。


「ごめん、ちょっと遅れちゃって。……それでどうしたの? 高崎さん」

「……桜木くん、その好」

「あっ、真砂希いたいた。何してるの? こんなところで」


 私の覚悟を決めた言葉は突然やってきた女の子によって遮られた。


「詩音? 友達と話してただけだけど」

「こんなところで? ええっと、はじめましてだよね? 一応、真砂希の幼馴染の神園詩音って言います」

「……高崎茅羽耶です」

「へぇ~、いつの間に真砂希、私以外の女子と友達になってたんだ」

「何? その僕に詩音以外に異性の友人がいないっていう決めつけは?」


 なんというか桜木くんと神園さん、その二人は幼馴染ということもあるのか、息ぴったりの会話をしていて、私なんかが入り込む余地がないほどお似合いな気がした。


 そう思うと同時に告白をする勇気なんて消えていった。


「ごめん、さっき何か言おうとしてたよね? 何だったの?」

「……なんでもないです。ちょっと忘れてください」

「そう? まぁいいけど」


 それから私は桜木くんのことを意識こそすれど何も出来ないまま転校をすることになった。


 転校が決まってから彼のことを再び校舎裏に呼び出したが、やはり何も言えないまま私は誤魔化すように彼にお礼だけ伝えて後悔を残したまま別れる形となってしまった……。



 それから二年、お母さんの再婚で出来たお義父さんの仕事の都合で私はもともと住んでいたこの街に戻ってきた。


「茅羽耶? 学校ってどうする? 一応、前と同じ学校にも行けるけど、別の学校の方がいいよね……?」


 お母さんの控えめな提案。


 あいつらがいる学校、嫌な記憶が大半でまたいじめられるかもという不安もあった。だけどそれと同時に桜木くんにまた会いたいという気持ちの方が強かった。


「お母さん、前と同じところでお願い」

「……いいの?」

「うん、お願い」


 そういうワクワクした気分で過ごしていて、いざ明日、桜木くんに再会できると浮かれた気分で雨の中家の近くを散歩していると、私は心臓が止まりそうな出来事に遭遇した。


 彼が自殺しようとしていた場面に。



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毎日更新しんどすぎる

でも甘えたら一生更新しなくなるから今日も今日とて無理やり手を動かす

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