蛇とキッチンバサミ

鹿嶋 雲丹

第1話 キッチンバサミ

 モノは大事にしなければならない。

 古くなって捨てるときには、感謝して捨てること。


 それは、私の大嫌いな父から度々聞かされて来た、言葉の内の一つだった。


 錆びたキッチンバサミ。


 すっかり切れ味が悪くなった、元よく切れるキッチンバサミ。


 私がこれを使った回数は、旦那が浮気した回数とイコールだ。


 でも、旦那が可愛がっている蛇が逃げ出した数とはイコールじゃない。


 一匹多い。


 まったく、どこに逃げたのかしら。

 まあ、もう何年も経ってるからどうでもいいけどね。


 キッチンバサミに浮き出た錆をそっと撫でながら、私は三回目の浮気を知っていると、旦那に暴露した夜の事を思い出した。


 旦那が可愛がっていた蛇の肉を、カレーに入れたこと。


 皮を素揚げにし、パリパリになったそれを砕き、サラダにかけたこと。


 今回で、それは三回目であること。

 

 カレーもサラダも、旦那はとは知らず、うまいうまいと言って残さず食べていた。


 私は過去の事も含め、洗いざらい吐いた。


 もう、今回で終止符を打とうと思ったからだ。


 旦那は、私が示した旦那の蛇専用キッチンバサミをさも恐ろしげに見た後、トイレに駆け込んでいたわ。


 そして、私のことは、ついに一度も見なかった。


 私は言った。


 次にこのキッチンバサミで切るのは、あなたにぶら下がっている蛇にするわ。


 って。


 結局、このキッチンバサミを使う、四回目の機会は訪れなかった。


 旦那が、ずらりと数字が並んだ通帳と印鑑を置いて、消えてしまったからだ。


 旦那が飼っていた蛇も、全てケースからいなくなっていた。


 仕方ないから、新しいキッチンバサミを買うか。


 切れ味の鋭い、いいキッチンバサミを。

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