第11話 だがすまないっ……!!
「…………」
「…………」
自宅。俺の住むアパートだ。
「………………」
「………………」
当然、俺がいる。でも、他にもいる。
「……落ち着いたか?」
「……あぁ、すまなかった……」
恥ずかしそうに俯いてるのがそうだ。イケメンだ。俯いていても分かる。俺がお持ち帰ったイケメンだ。全く変な意味ではないが。
「……タクシー代はあとでよこせよ。割り勘でいいから」
駅のゲーセンで震える子鹿になったこいつを引きずってタクシーに乗せ、俺の家まで連れてきた。
そして今、テーブルを囲んで話し込んでいるわけだ。
「もちろんだ。……本当にすまない、そんなことまでしてもらって……」
イケメンは落ち込んでいても華がある。助けて良かったと思えてくるから不思議だ。
いや待て待て。今はそんなことを考えている場合じゃない。掴み取ったチャンスだ。必ずものにする。
「……なぁ。お前、女が苦手なんだよな?」
「……そうだ。だがすまないっ……!! だからといって俺の体は、男を受け入れるようにはできてないんだ……っ!!」
「狙ってねぇよ!? 家に連れてきたからって、お前の体なんてお目当てじゃねぇよ!!」
「そ、そうなのか? てっきり、ナンパから助けてもらった礼を体で払えということかと……」
「お前の中の前提として、俺の扱いはどうなってんの? ぶっ飛ばすよ?」
意外だと言わんばかりに目を見開くイケメン。こうも素直だと責めるのも悪い気がしてくる。気がするだけで止める気はないが。
「そうじゃなくてよ。もしお前が女を嫌う理由があるのなら、教えて欲しいと思っただけだ。言いにくいなら別に構わんが」
その時は、及川に事情を話せばいい。本人が拒否したといえば理解してくれるだろう。
「……それで礼になるのなら……」
納得したように頷き、イケメンは話し出した。
◆◇◆◇
俺は、昔からよくモテたんだ––––
「ちょっと待てごらぁぁ!!」
「ぬごっ!? い、いきなり何をするんだ!!」
「あ、すまん。腹立たしいデジャブを感じたもんで、つい殴っちまった」
「そ、そうか……? ……じゃあ、話を戻すぞ」
イケメンは口から流れる血をぬぐい、再び話し始めた。
◆◇◆◇
昔からモテた俺には、女が寄ってきた。
当時は極端に女嫌いということもなく、ナンパや告白も適当に受け流していたんだ。
そんなある日、いつものように俺に声をかけてきた女がいた。高2の秋だったな。
話したこともなかったから、俺はまた適当に受け流した。
でもその女は、今までとは違ったんだ。
受け流しても、受け流しても俺に話しかけてきた。
初めて話して一月が経った頃だろうか。俺はそいつに、遊びに行かないかと誘われたんだ。
いつもなら断っていたが……しばらく話すうちに、俺もその女に興味が湧いてきていた。俺は、遊びの誘いを受けたんだ。
今思えば、あれがデートってやつだったんだろうな。女を受け流していた俺にとっては、初めてのデートだった。
待ち合わせ場所の駅前に、女は待っていた。俺は女に走り寄り、声をかけた。
自分から声をかけよう、なんて思ったのは初めてのことだったな。
その後は、2人で映画を見て、食事をした。
そのどれもが俺にとっては新鮮で、なんというか……楽しいものだったと思う。
だが……そんな時間はすぐに終わった。
食事を終えた時、女が提案したんだ。この後カラオケとかどうか、って。こんな時間が続くなら、それも悪くないと思った俺は、その提案に乗っかった。
けど、そんな甘い話はなかった。
2人で入ったはずのカラオケボックスには、既に女が数人いた。
だが俺を誘った女は、驚く素振りもなくそいつらと話し始めた。
訳がわからず立ち尽くす俺に、女は言った。
友達も呼んだから、みんなで遊ぼう––––ってな。
女たちの中心に座らされた俺は、見知らぬ女に弄ばれた。
べたべたと体を触られ、ふざけて服を脱がそうとしてきた。
やめてくれ、と言っても聞く耳なんて持ってくれない。女たちの遊びはどんどんエスカレートして行った。
そして、最後には仰向けに押し倒された俺の下半身に、女が乗り––––
◆◇◆◇
「……その後は、あまり覚えていない。……いや、思い出したくないだけかもしれないが……」
「そうか……悪いな、嫌なことを思い出させた」
素直に悪いと思える程には、こいつの過去は壮絶だった。逆レイプってやつだろう。
聞いてるだけで、胸糞悪い。
「気にするな。俺が自分で話したことだ。……まぁだから、今日は本当に助かった。いつも、ああいう場面ではトラウマが蘇ってな……」
「あぁ、困ったら頼れよ。イケメンでも、悩みくらいあるよな。……ほんと、顔が良くても報われない奴ばっかだぜ……」
悲しい世の中だ。いや、フツメン達にとっては悪くない気もする。どっちだ?
「? 何のことだ?」
「いや、何でもねぇ。前も話して思ったが、お前とは話が合いそうだ。仲良くしよーぜ」
この前、青山のドジっぷりを的確に評価していたこいつとは価値観が合いそうだ。
「前? 何のことだ?」
ん。ショックで忘れたか?
「ほら、4階のフリースペースで話したろ」
「4階……フリースペース……」
そこまで口にして、イケメンは思い出したように手を叩いた。
「ヤンキーか!」
「だから違げぇよ!! 他に思い出すことがあるだろぉぉが!!」
やっぱりイケメンは嫌いだ!! あの時の会話に思い出を感じ、名残惜しいと思っていたのは俺だけだったのか!!
……はっ! まさか……
「これが失恋……!?」
「ま、待て泣かないでくれ! 俺が悪かったから、気を悪くしないでくれ。な?」
そしてこれが、喧嘩した彼氏に慰められる気持ち……ってちがぁぁぁぁう!!!!
「……ん?」
心が喚き散らしている時、テーブルに置いたスマホが震えた。
肩を優しく叩くイケメンを突っぱねてスマホを手に取ると……
『たすけて』
この4文字を見て、俺は思い出した。
そういえばなんか忘れてたなー、と。
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