第三十三話 嬉しくない再会 前編
王家の地下道は、トンネルのような構造であり、魔道具の明かりが等間隔についている。
光と影の中を交互に潜りながら、俺はライアンに向かって駆け出した。
目の前の男は槍を持っていて、俺は剣。
リーチに差があるから何とかして距離を詰めたいのだが――
ヒュンッ
「うおっ」
飛んできた槍が頬を掠めた。
後からバコンッという音がして、俺が立っていた位置には大きなへこみ跡が出来ている。
旅の時から何一つ変わらない、むしろ以前より強烈になっている威力に戦慄した。
一筋の血が、頬を流れ落ちる。
「……ッ」
まともに食らいたくはないな……
俺のはるか後方に突き刺さった槍は、しかし瞬時にライアンの元へ瞬間移動する。
《武器召喚》
それが、ヴァーミリオン家秘伝の魔術。
槍に刻印された術式により、どんな場所からでも対象者へ瞬間移動出来る。
手元から離れたはずの槍は、次の瞬間にはライアンが握っていた。
「どうした、こないのかい?」
「行けるもんなら行ってるっつーの!」
俺は槍をギリギリで躱しながら進もうとするのだが。
「こらこら…避けるんじゃ……ないッ!」
ライアンが槍を手放す。
槍が地面と平行に落下し。
「ッ!?」
その時、危機察知能力がけたたましく脳内に鳴り響く。
やばいっ!
俺は走り出そうと踏み込んだ膝の力をそのまま抜いて、崩れ落ちるように転がる。
同時に――ライアンが槍を
ビュンッ
先ほどとは比べものにならないスピードだった。
遙か後方で槍が壁に突き刺さった轟音が地下道を反響する。
頭部の数ミリ上をレーザービームよろしく過ぎ去った槍に冷や汗が止まらない。
「チッ」
舌打ちしたライアンだったが、蹴った槍を取りに行こうとはしない。
そうだ、これの恐ろしいところはその強さと速射性――
ライアンが再び足を後方に振り上げると、槍はピンポイントで真下に召喚され、まるで振り子のように振り抜かれたライアンのつま先が、槍の石突き部分を蹴り飛ばす。
魔力で底上げされた脚力は、槍のスピードを弾丸と見間違うほど底上げた。
ノータイムで次の槍が…来rッ!
「がァッ!?」
辛うじて直撃を避けられても、余波だけで身体が吹き飛ばされる。
飛んでくる槍は、真っ直ぐに進もうとする俺を妨害した。
最悪なことに、この場には盾となる障害物もない。
「フハハッ、イイ!それでイイッ!」
対するライアンは、その場から1歩も動かない。
近付く必要が無いからだ。
俺は、赤い靴を履かされた少女のように、強制ダンスを踊るしかない状態であった。
何とかして距離を縮めたい……このままじゃジリ貧だ――
「ハッ」
俺は右手に集中させた魔力を剣に流し込み、かつて精霊戦でやったのと同じく地面に叩き付けた。
大きな爆発音と共に、舞う土煙。
目くらましだ。
「ふむ……」
唸るライアンに動揺した様子は、ない。
しかし、流石に勘で槍を飛ばしはしないのか、俺の察知能力は反応しなかった。
この隙にたたみかける――ッ!
俺は一気に前へ飛び出し、剣を振り抜く。
「ッ!」
「フッ」
槍で合わせてきたライアン。
「――不思議だなぁ、身体は衰えているはずなのに動きは鈍っていないようだ…」
剣と槍を押し合いながら、至近距離でライアンは呑気に話しかけてくる。
「ッ!?」
「君、無事に
「精霊?何の話だ?」
こいつ……やっぱり、ガスパールのこと知っていやがるな?だから、私兵をあのダンジョンに向かわせたんだ――
「しらばっくれるなよ、膝を貫いたのはこのボクッ!どう考えてもその動きは普通じゃない…さッ!」
槍で押し返される俺。
バク転で勢いを流しつつ、負けじとリーチの差を埋めるように近距離で攻撃し続ける。
だが、ライアンは意に介さず、踊るように応戦してきた。
「それっ、それッ!」
「クッ!」
槍を手首で回転させ、多角的に攻撃をしてくるライアンに、気付けば防戦一方となっていた。
ライアンが槍を振るう度に、右へ左へ動かされる。
この攻撃は俺に移動させるための誘導、されども従わざるを得ない。
すると、視界の隅にキラリと光るものが映った。
魔方陣!?さっきの煙幕で設置していたのかッ!
斜め下から飛び出してくる魔力矢をバックステップで躱す、が。
「死ねえええっ!」
着地と同時に、万全の構えから繰り出された突きを、剣の腹で受けたため吹っ飛ばされた。
「ガッ!」
飛びそうになる意識を気合いで耐え、空中で姿勢を立て直しつつ受け身を取った。
「ハアッ……ッ、おっちゃん、良い仕事するじゃねえか……ッ」
追撃に備え、すぐさま立ち上がる。
幸い、剣は無事だ。
だが。
「不味いな、距離を離された……」
向こうでライアンが笑ったような気がした。
一方、ガスパールはセオドアの指示通り王城内を飛んでいた。
『おぉ、やっぱり城ん中は豪華絢爛だねぇ』
ガスパールの身体にとっては広すぎるシストニオ王城ではあるが、ガスパールの進み方に迷いはない。
セオドアは知ってか知らでか、ガスパールはその特性上、契約者が一番大切にしている人間の
そのため、セオドアからの指示がなくともさほど迷わず、目的の部屋まで辿り着く。
『ここが、セオドア愛しの嬢ちゃんがいる場所か……セオドアにはショッキングな光景だったらどうしよ…』
くだらないことを考えながら扉をすり抜けると、そこでガスパールは戦慄する。
『嘘……だろ』
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