第12話 鳥団子
カフェを出た三人は、外に出ると極力目立たないようにホテルの横手に回った。
周囲に見えるのは、どこまでも続く水色の空と白い綿雲。
この日の天空二層は、観光にもってこいの理想的な晴れ模様だ。
ホテル・アクィラは、空に浮かぶ建造物の例に漏れず、巨大だった。横幅も奥行きも地上の建築物とは比較にならないほど長く、歩き回るだけで疲れてしまう。
これだけ大きな建物が建てられる理由は、初めから建設用地の広さが決まっている地上とは違い、天空では下支えする天空石の数でのみ広さが決まるためだ。
天空石自体が高価なため金銭面での上限はあるが、単純な面積で言えば、山の上でも海の上でも利用できる空は、実質無限の土地だった。
ホテル側面には特別気になるものもなく、続いて裏手に回ると、日陰が消え、太陽光が直接肌を焼いた。
高度が高く、日を遮るものが雲しかない天空は、直射日光が強いのが難点だ。
三人が眩しそうにしながら歩いていくと、裏口へ続く階段のひとつに、人一人分ほどの大きさのカラフルに蠢く団子があるのに気づいた。
近づくと、それは多種多様の鳥の山であることがわかる。何かに群がっているようだ。
「なんだありゃ……」パジーが超常現象を見るように呟く。
「わかりません」シバも首を傾げる。
三人が訝りながら更に接近すると、ようやくその正体がわかった。
それは、鳥に囲まれた老人だった。
囲まれたというより、埋もれたという方が正確か。
「変な人がいる」ナイラが率直な感想を述べた。
「襲われてるんですかね?」
「さすがに違うだろ……。おい、目合わせんなよ。俺はよく知ってる。ああいう手合いは絶対面倒だ」
「不審者ってことですか?」
「そうだ。……あ?お前それどう言う意味で言ったんだ?おい、どこいくんだ?」
パジーが気づくまでの間に、シバが鶏団子に躊躇いなく近づき、仕事モードで声をかけていた。
「こんにちはー、警察なんですけど少しお話いいですか?」
「あいつ職質しやがった!」
鳥の山を掻き分けるようにして、老人の顔がこちらを向いた。
赤ら顔をしており、傍らには酒瓶も見える。酔っ払いのようだ。
「ここで何されてるんですか?」
シバが教科書通りの声かけをする。
「んー?サボリだよ。今日は良い天気だからね。暑いくらいだ」
「羽毛に包まれてっかんな……」
近づいていくナイラの肩で、パジーがぼやく。
「身分証は携帯されてます?」
「身分証?社員証ならあるよ。ほれ」
鳥団子の中で、彼は身を探って社員証を取り出し、シバに見せた。
その間、いくら動いても絶対に離れない鳥たちは、まるで死体を漁るハイエナのようだった。
シバは社員証を読み上げた。
「お名前はカンさん。ホテルの従業員なんですね」
「そんな立派なもんじゃない。ただの掃除人さね」
「またまたぁ。昼間から飲んだくれてるお年寄りは実は偉い人って相場は決まってるんですよ。実はホテルのオーナーさんとかでしょう?」
「いや、正真正銘アルバイト」
「じゃあただのクズじゃねぇか……」
パジーが再びぼやく。
「今は何してるんですか?」
「見ての通りさ。鳥に餌やってるんだよ」
「そうは見えねぇよ。どう撒いたらそうなるんだ」
「おや?今喋ったのはこの子かい?」
パジーの再三のツッコミにカンが目を光らせて立ち上がると、ナイラとパジーの前まで素早く寄ってきた。
「なんだよ……言っとくが俺も警察だぞ。手なんかだしたら現行犯で――」
「なんとまぁ!喋る鳥なんて長い人生でも一度も見たことないよ!どれ、こっちにお尻を向けてくれ」
「なんでケツなんだよ!怖ぇな!何するつもりだ!」
「なら仕方ない」
ブチッ――
老人は間髪入れずにパジーから一掴み羽をむしった。
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次話、初めての手がかりをみつけます。
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