Scene3 大好き

第19話 命日

静かなる部屋……

男がひとりリビングにて、空を見上げて涙する。


「お兄ちゃん。

 どうして泣いているの?」


菜々緒が、梨麻に尋ねる。


「いや、なんでもないっす。

 菜々緒も牛ヒレバーガー食うっすか?」


「あ、うん」


菜々緒が小さくうなずくと梨麻は、キッチンまで向かい先程壱から奢ってもらった期間限定牛ヒレバーガーを包丁で2つに切ったあとレンジで温めた。

そして、そのひとつを菜々緒に渡した。


「はい。

 熱いから火傷しないようにっすよ」


「うん。

 なんか元気ない?

 晩御飯のことなら私は別に……」


菜々緒が、恐る恐るそう言った。

すると梨麻がうなずく。


「そっか。

 菜々緒は優しいっすね」


「そんなことないよ……」


菜々緒は、そう言ったあと不安げに梨麻に尋ねた。


「今日は、マーメイドのお姉さんは呼ばないの?」


「え?ああ……

 今日は特別な日っすっから」


「今日?」


菜々緒が首を傾げる。


「そう今日は菜々の命日っすから」


「あ……今日は、そうだったね」


「ああ」


梨麻は、静かに牛ヒレバーガーを口に運んだ。

菜々緒も牛ヒレバーガーを口に入れる。


「もしかして私とエッチする気になった?」


それを聞いた梨麻は、菜々緒の方を見る。


「君とは出来ないかな」


「そっか」


菜々緒は、不安そうにうなづいた。


「まぁ、今日は禁欲するっす」


「ふーん。

 お兄ちゃんが禁欲って珍しいね。

 ほぼ毎日マーメイドのお姉さんとエッチなことしているのに」


「そうっすね。

 でも、今日は菜々の誕生日でもあり命日でもあるっす。

 今日くらいは、大人しくしとくっす」


「そっか……」


菜々緒は、優しい表情でうなづいた。


菜々緒は、家政婦専用のマーメイド。

セックス専用のマーメイドと違いそのテクニックは違う。

そのため敢えて家政婦専用のマーメイドを購入しセックスする。

と言うのもよくある話だった。

だが、梨麻は菜々緒にはそういうことをする予定はなかった。

その為、セックス専用のマーメイドではなく家政婦専用のマーメイドとして購入し現在に至る。


「さてと風呂に入ったら寝るっす」


梨麻は、そう言って菜々緒の頭を撫でる。

牛ヒレバーガーはもうない。


「あ、うん。

 私はドラマが終わってから眠るね」


「ああ。

 あんまし夜更かししちゃダメっすよ?」


「うん!

 お兄ちゃん大好き!」


菜々緒は、梨麻に抱きついた。

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