16th Dead 『"英雄"が遅れて来るように重大な発見や明確な気付きは終盤でこそ齎される』

 俺の名前は北川ナガレ。


『rrrrrrrrRRIIPPPPLLLLLLLLLLLLEEEEE!!』

『づおっらぁっ!』

「せィやぁぁっっ!」

『RI!! PP!? RIPPPPLLLEEEEE!?』


 相方の"戦闘型悪役令嬢"ヨランテ共々、極太光線を飛ばし八本足で小規模な地震をも起こす大蜘蛛の化け物と交戦中の、ゾンビ怪人"死越者エクシーデッド"だ。


『でぁらあああああっ!』

『rrrrrRRRIIIIIiiippppPPPLLLLLlllllleeeeeeEEE!!!!』

「はぁぁぁぁぁああああああっ!」

『RI,ppPPLLEEE!?』


 ただの一分が数十分にさえ感じられるほど濃密な死闘を経て、俺たちは大蜘蛛の歩脚を破壊し続ける。

 結果八本あった歩脚の内六本を破壊し、残るは二本……普通の蜘蛛なら動けねえとか通り越して内臓への負荷なり出血なりでくたばってるだろうが、そこは流石(?)人知及ばぬ領域の存在バケモノ、八本脚が一本欠けたなら七本脚で、更に一本欠けたなら六本脚でって具合に残った歩脚で器用に動きやがるんだから質が悪い。


「ぜっ、はぁっ、ふへっ、ふ……なーんか、心の何処かで『流石に四本より少なくなったらバランス崩して転ぶのでは?』って思ってたのですけれど……」

『……っづ、っぐ……残り二本でも、バリバリ直立してやがる……っぁ゛ー……』


 一応、脚が減ったってのは奴にとって当然不利であり、目指す大蜘蛛撃破ゴールが目前へ迫りつつあるのも確かだが……じゃあ果たして余裕で終点ゴールまで駆け抜けられるかってぇとこれが微妙な所で……何なら俺らは疲労困憊、対して大蜘蛛ヤツは歩脚二本でも案外ピンピンしてやがる。

 台詞をつけるなら『やりやがったなこの野郎、だがこっちはまだまだイケるぜかかってこい』ってトコか(つーかお嬢はともかく死人で本来そんな疲れないハズの俺が目に見えてヘトヘトってどういうことだよ)。


歩脚アシを減らしても弱体化の気配ゼロだろうと、流石に全部へし折ってやりゃあ……いや、待てよ?)


 乱れた呼吸を整えながら、俺はふと思案する。


(……とすると

 ―――であって

 ____なワケであるからして

 ――つーことは

 ___ってなると

 …………なんだから、即ち)


 思案は程なく自問自答に形を変え、結果俺は一つの結論に至る。



『――……逆だったかもしれねェ』



 思わず声が出た。


「……北川様? どうしましたのいきなり?」

『ああ、悪いなお嬢。なんかちっと思い至っちまったもんでよ……』

「思い至ったって、何にですの?」

大蜘蛛あいつぶっ殺す作戦』

「……つまり"二本のこりの脚をいち早くへし折って引き千切る方法"?」

『いや、歩脚アシは折らねえしがねえ……狙いは"別"だ』


 疲れからか俺の説明が下手だからか、理解が追い付かず困惑するヨランテに、俺は思いついた作戦を説明する。まあ、作戦ってほど崇高なもんでもねーがな……。


『――ってワケだ』

「なるほど。悪くありませんわね」

『ホウ、意外だな。ダメ出しされるかと思ってたぜ』

「まさか。無駄に硬い脚を必死でへし折る作業に比べればどうってことありませんわ」

『成功する確証はねーぞ。俺の憶測が一つでも外れてたら即失敗だからな』

「つまり、北川様の憶測が全て的中していれば作戦は成功するのでしょう?」

『そりゃそうだがよ……』

「でしたら拒む理由あんてありませんわ。元より既に落としていたかもしれない命、北川様に拾って頂けたおかげでここまで延命できたのなら、そのご恩に報いるは必然……要するに"位高ければ徳高きを要すノブレス・オブリージュ"ですわね」

『へへっ、そういうもんかねぇ~。ならちっと世話んならせて頂きますぜ、"ユイカお嬢様"ぁ~』

「……!」


 冗談のつもりだった俺の発言が予想外だったのか、ヨランテユイカは少々困惑気味だったが……


「ふふん。ええ、よろしくってよ。思う存分に頼りなさいな――」


 その実すぐさまノってくる程にも余裕だったようで、



「高貴なる戦闘型悪役令嬢、ヨランテ・CORRECTORSコレクターズ・カインドネスこと"春日部ユイカ"であるわたくしをっ!」



 夜明けの日差しに輝く長髪を微風に靡かせて、堂々と華麗に言ってのけた。



『rrrrrrrRRRRRIIIIIPPPPPPLLLLLLLLllllleeeeeEEEE!!!!!!』



 立て続けに大蜘蛛の発した怪音は、さながら最終決戦開幕の合図ってトコだろう。

 さて、こっからが正真正銘最後の戦いだ……!


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