11th Dead 『完璧すぎる教育者は"妥協を許さない"』

 俺の名前は、北川ナガレ。


『サベツダメエエエエエ!』『コクジンヲウヤマエエエエエ!』『ビジンバッカズルイイイイイ!』

『やっかましいわ、無能偽善者ポリコレの残骸どもが! 物言わぬ死肉の切り身になっとけェ!』

『『『デッズヴィイイイイイイ!?』』』


 昨今某世界的大企業を蝕む死病、その病原体によく似たゴミ共を屠り散らかすゾンビ怪人だ。


 さて、それで何だったかな……ああそうだ。厄介な試作品武器の二つ目の解説だったな。

 俺がついさっきから屍人どもを切り裂くのに使ってる武器……"無影黄昏トワイライトの対"として設計・開発されたそれの名は"鏖麗茨姫スリーピング・ビューティー"。無影黄昏トワイライトとは対照的に左半身へ装備される近接武器で、左腕を覆うスティレット風の刃を備えた籠手と、左足へ巻き付くように装着される円筒形の機械装置の二機からなる機械仕掛けの白物だ。


『シュヤクワコクジィィィン! ジンシュサベツハンタァァァァイ!』

『人種差別反対を掲げといて黒人以外の人種を差別してんじゃねぇ~~よッッ!』

『ロザッッ!?』

『本末転倒だろうがぁ!』

『リイイイイイン!?』


 "鏖麗茨姫スリーピング・ビューティー"の籠手に備わるスティレット風の刃――風と呼ぶのは、刺突に特化した本家に対しこっちは切断も可能だからだ――は早川さんの依頼を受けたプロの刀鍛冶が打った逸品で、上物の玉鋼と特殊な製法のお陰で"軽い"・"鋭い"・"折れない"の三拍子揃った優れものだ。とは言え刃毀(はこぼ)れはするので定期的に刃を砥がなきゃいけねぇが、然し戦場で態々砥石を出して刃を砥ぐのはリスクがでかい……


[Warning! Warning!

The blade has deteriorated.

Replace the blade immediately.]

(和訳:警告!警告!刃が劣化しています。ただちに刃を交換して下さい。)

『へいへい、わかったよ』


 ってワケで、左足に巻いてある装置の出番なワケだ。

 つーもの、この装置は全自動で刃を砥いでくれる研磨機で、刃毀れの具合にもよるが平均して約一分足らずで完璧に研磨してくれる高性能な代物だ。しかもその上予備の替え刃も大量にストックしてあるので、研磨中の敵襲や破損時なんかの対応にも隙がねえ(あと余談だが、籠手そのものも散弾防げる程度には頑丈だから刃なしで殴っても強い)。

 刃毀れ具合に関しては無影黄昏トワイライトのAIが警告してくれるから、砥ぐタイミングをミスって刃がボロボロ、なんてこともそうねぇしな(ただAIヤツの過保護ぶりが裏目に出て刃を頻繁に交換しなきゃなんねぇんでそこが結構面倒ではあるがね)。


『ヴアアアアア!』

『づおりァッ!』

『ゲグァァァァ!?』


 さて、こっからはそんな"鏖麗茨姫スリーピング・ビューティー"の有する欠点について述べさせて貰おう。まずそもそもこの武器、単なる自動研磨機と刃付きの籠手ってワケじゃねえ。対をなす"無影黄昏トワイライト"同様その内部にはAIが仕込まれていて、やはり装着者をサポートするようプログラムが組まれてるんだが……


[Warning! Warning!

Your body is overloaded.

Follow the instructions from "Sleeping Beauty".]

(和訳:警告!警告!身体に負荷がかかっています。

    "鏖麗茨姫スリーピング・ビューティー"からの指示に従って下さい。)

『うるせぇなァ~この程度俺にとっちゃ負荷でもなんでもねぇんだよ一々気にすんな』


 当該武器のAIは装着者の肉体へ直に干渉し、その一挙手一投足を戦場での最適解に"矯正"する。だがその矯正は――ダジャレみてーだが実際真面目な話――"強制"でもあり、AIと装着者の間にはほぼ確実に"齟齬ズレ"が発生する。齟齬ズレは装着者の身体へ少なからず負荷をかけちまう……要するに"身体が徐々に壊れてく"ワケだ。開発コンセプトは無影黄昏トワイライト共々『素人でも有事に無理なく動けるようになる武器』だったらしいが、武器が使い手を傷物にしてたんじゃ意味がねえってコトで試作品……どころか実質的な失敗作として扱われてるのが現状だ(一応早川さんは改良に取り組んでるが、聞くに『進捗ダメかも』との事なんでぶっちゃけ期待はできねぇわな……)。


『実際豆柴の奴が試着したらあいつ十五分で吐血しやがったからな……』


 生身の人間より頑丈な死越者オレなら一応負荷は気にならねぇが、それでも扱いづらいのに変わりはねぇわけで……


『よ、よし! あと少し! もう三分ちょいで充電が終わるぞ! もう少し! あと少しだ!

 そうだそうだ頑張れ頑張れ! お前だお前だ! お前を待ってたんだプラズマ・ノダチ! お前は本当に俺によく馴染むからなぁ!』


 ノダチ充電完了が間近となりゃ、こんな感じで"変なテンション"にもなっちまうのである(武器に話しかけるとは我ながらマジでイカレてたんだろうなーと反省してる)。


『……ああ、気を悪くするなよ無影黄昏に鏖麗茨姫! お前らも未完成品でありながらよく頑張ってくれた! 不完全な状態でこれだけの成果を叩き出せるならお前らが完成したらきっと本当に素晴らしい武器になることだろう! その時また俺が使うかどうかはわからんが、何かの巡り合わせで再びお前らと再会することになったらその時は――

『『『『『ヴアアアアア!』』』』』

『だぁぁぁーっ! 空気読めこの間抜け面の劣等クソゾンビどもが!

 日曜夜のフジテレビで茶の間を不愉快にさせてる不細工ヅラさっさと引っ込めるかさもなきゃ細切れンなって二度と視聴者の前に姿見せんなゴミカスどもぉぉぉぉぉ!』


 しょうがねぇ。充電完了前にひと暴れさせて貰おうか……

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