引きこもり猫を拾う
酔い覚ましのグレープフルーツジュースをぐびぐび飲んで、シリアルの朝食を摂り、ススムが仕事に行くのを見送り、朝ドラをアユムくんと眺めてから、なんぼか二日酔いも収まったので、じゃあペットショップに行ってみよっか、とマンションの部屋を出た。
エレベーターを降りると、ご近所さんが立派な犬を連れてエレベーターを待っていた。もう犬の散歩を終了しなくてはいけない暑さのようだ。
ご近所さんに頭を下げる。アユムくんは犬の頭を少し撫でる。犬は「ハッハッハッハ」と息を切らせていた。暑かったらしい。
9月の東京はちっとも涼しくない。ホームセンターに向かいながら、どんなハムスターがいいかアユムくんに希望を聞いてみると、
「本当は、ハムスターより犬とか猫を飼いたいけど、兄ちゃんが絶対無理だって言うんだ。それにペットショップの犬とか猫とか、値段がすごいし」とのこと。
「そうだねえ……犬は毎日お散歩しなきゃいけないし、ちょっと難しいかもね」
んーと、と考えて、
「モルモットは? モルカー観てた?」
と、尋ねてみる。
「うん、モルカー観てたよ。ドライビングスクールも観てたけど、それ学校で言ったら赤ちゃんかよって笑われた」
他人の好きなアニメを赤ちゃんの観るもの呼ばわりするとは、えらく民度の低い学校のようだ。まあ確かに2期はちょっと微妙だったが。
なので一緒に憤っていると、アユムくんは笑顔になった。
ホームセンターが見えてきた。地元にも展開していた大型チェーンのところだ。地元のホームセンターにはだだっ広い駐車場があったが、ここは駐車場はさほど広くなく、大型トラックみたいな車ばかり停まっている。あとは貸し出し用の軽トラだ。
「あ」
アユムくんがなにかに気付いて立ち止まった。
「どうしたの? なにかあった?」
「あれ、捨て猫?」
むむ? アユムくんが指差したのはホームセンターの駐車場の隅っこだ。なにやら段ボールが置かれている。中から子猫の鳴き声もする。近寄ってみるとどうやら本当に捨て猫のようだ。
子猫が1匹入っていた。ハチワレだ。とにかくとんでもなくすごくかわいい。アユムくんは釘付けである。
「ねえ、あおいさん、」
「とりあえず警察に連れていこう。このまま拾っていったら泥棒になっちゃうかもしれないよ」
「でも警察に連れていくとホケンジョに連れていかれちゃうんでしょ?」
「飼い主がいないって分かったら渡してくれるかもよ」
「……そうだね。そうする」
アユムくんはとても聞き分けのいい子だ。近くの交番に向かうと、大男でコワモテのおまわりさんが出てきた。怖くて思わず言葉に詰まる。
「あの。猫が捨てられてるのを拾ったんです。飼い主から盗まれたんじゃないって分かったら飼っていいんですよね」
アユムくんがすぱすぱと説明すると、コワモテのおまわりさんはニコォっと笑って、
「そうだよ。お母さん、そういうことですか?」
と聞いてきた。お母さんじゃなくて義姉なんですけど、と言ってから、わたしからも事情を補足した。
もしこれで飼うことになったらススムに反対されないだろうか。恐る恐る電話をかけてみる。
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