第四章

登場人物


主人公 千(せん)

背中に5の数字が入っている王子の一人として選ばれた男の子。化け狐一族で、妖力は水。周囲の湿度や酸素に含まれた水や周囲の水を操って攻撃が出来る。ただ、この能力をあまり使っていないからどんな技を使えるのかについて本人は分かっていない。

身長は178㎝の高身長だが心は少年で感じた事や思った事を顔にも態度にも出してしまう。


化け狐 サクラ

198㎝弱の背丈を持つ人型の化け狐。千とは魂の繋がりの儀式で千を自分の器として認めた。魂の繋がりであり相棒である千と常に一緒に行動をしている。千を背中に乗せる時は獣化になり、大人二人は乗れるくらいの大きさになれるが本人曰く気安く乗られるのは好きでは無くプライドが高い。昔は暴れて沢山の国や村を崩壊しては恐れられる事に喜びを感じていたが3番の数字を持つ王子に封印されて洞窟の中で暮らしていた。千が器になってから千の行動に振り回されるが魂の契約があるからか千の事は一番信用していていつまでも幼い子供のような性格でいる千の世話をするのが最近は少し楽しかったりするが振り回される度に器にして良かったのかと考えさせられる。夢はサクラの名前で世の中に恐怖で震え上がらせる事。


龍神 好実四葉(このみ よつは)

千の家に繋がる道の門の所にある桜の木に惹かれ桜の花を見ていた所を千に見つかり、四葉が住む村の代表として王子達に挨拶をした。昼は村の妖怪達に評判の薬屋さんをして、夜は龍の姿になり迷える子供達の魂を天に返す仕事をしている。

見た目は174㎝で年齢は千よりは年上の男性。髪は白く千曰くとてもサラサラの風になびく姿は静かなせせらぎの川のようで美しいらしい。

最近の悩みは今まで奴隷のように扱われていた村が幸せな生活を送る為にはどうしたら良いのかという事である。お漬物が最近人気になってきて求めてくれる人が多い。


紫月(しつき)

千が視察した村の生き残りの少年、村の長に両親を殺されて一人で弟の翼(つばさ)を育てている。現在は赤鬼夫婦が経営している旅館のお手伝いをしていてよく休憩がてらに四葉さんの家に遊びに行くのが日課である。翼も小さいながら厨房で村の女性達に囲まれてお手伝いをしており、その時間だけは紫月も自由に行動が出来る。最初は認めていなかった千の事が最近は気になっているようで密かに想いを寄せている。


村の一族

千の両親

千が生まれた時に数字がある事に気が付いていたが数字がある者は化け狐に必ず殺されるという昔からの言い伝えがあった為本人には内緒にしていた。

村の中では爺様と実の兄の亜廉(あれん)は千が生まれた時から知っていたが王子として正式になった日には他の村人も知り、今まで我が子の死ぬかもしれない儀式までよく耐えたと慰められて今も村で普通の暮らしをしている。


実の兄 亜廉(あれん)

千の実の兄。6個違いで亜廉にとっては千は可愛くて仕方が無い存在。しかし王子としての数字を持っている事とその数字がある者は化け狐に殺される言い伝えを聞いて千が器の儀式の時は気が気じゃ無かった。王子として頑張る千の成長に驚くがまだまだ幼い弟を守りたいと思い爺様の所に行っては千の近くに居たいと頼み断られ続けられている。


爺様

千の村に住む一番偉い爺様。そして化け狐のサクラの師匠でもある。千が生まれた時に数字がある事を千の両親から相談されて言い伝えを教えたのは爺様だった。両親が我が子の未来を知って嘆き悲しむ姿に心を傷め少しでも化け狐が千を殺さないようにと千が洞窟の中に入って居る時に爺様の化け狐と共にお祈りをしていた。ただ、その事については村人も含めて千も知らない。爺様は自分の事をあまり話さないので村人の間では年齢は幾つなのかという話が良く耳にする。


兄弟の盃を交わした王子達

1番 新一(しんいち)

鎖骨に1番の数字を持つ1番上の王子。能力は炎で、弱点は水と炎を操るには力が必要なので疲れてなかなか能力の力を維持する事が出来ない。また性格上やる気がある人物では無く、なるようになれという性格なので戦の時も基本は「なるようになるさ」というスタイルで戦う。最近の悩みは盃を交わした兄弟達が冷たいこと。一人っ子なので兄弟が出来る事に1番楽しみにしていたのも新一だった。最近は長男の王子として弟達を引っ張って行く事に必死になりすぎてしまっている所がある。


2番 龍次(りゅうじ)

腕に2番の数字を持つ王子。能力は風使いだが力のコントロールが出来ず戦地となった場所を壊滅したり味方にも被害が出るので国の中では厄介者にされているが本人は気が付いていない。他者にヒソヒソと悪口を言われていても「俺が格好いいから噂をしているんだな!子猫ちゃん~」と言って近づくので皆からウザがられている。根っからの女好きだが女が好きというよりもチヤホヤされるのが好きなだけで本気でその人に恋をしている訳では無い。因みに千の事を馬鹿にしていたが龍次も初恋はまだである。


3番 鏡夜(きょうや)

舌に3番の数字を持つ王子。能力は千里眼である程度の距離であれば何が起きているのかを見ることが出来る。眼鏡はその距離を伸ばそうとしてわざと視力を上げているがそれで見える距離が伸びる事は無い。逆に千里眼を使う時は目を瞑ってしか出来ないので意味が無いことを本人は気が付いていない。鏡夜にも実の兄弟が居るが特に仲が良い訳でも無く会えば話すくらいのあっさりした関係の10個離れた兄が居る。

ただ、兄の影響を受けて和風な家を好むようになったが本人は「兄は関係ない、自分の好みだ。」と言い張っている。

最近は血が繋がらないが盃を交わした弟達を大事にしたくて新一兄さんと意見が度々ぶつかる。


4番 楓(かえで)

左足のふくらはぎに4番の数字を持つ王子。見た目は前髪が目を隠す程伸ばし背中を丸くしてのそのそと歩いている。能力が闇使いというのもあるからか常に闇のオーラを発しているが本人はその方が居心地が良いと思っているので気にしない。ただ新一と同じ能力は使い手で楓の場合も体力の消耗が大きく体力が新一より無いので疲れやすく戦ではあまり派手な活躍はしない。出来れば戦も帰りたいと思って影で終わるのを待ったりする事もある。姉が二人居るので良くおもちゃにされて扱き使われていたので弟が二人出来て兄という立場を手に入れて嬉しいからか弟達の事はとても大切な存在になって来ている。

ただ、恥ずかしいので本人達には絶対に言わない。

兄弟の中では龍次と性格が合わないので嫌い。よく率先して龍次を虐めるのも楓である。

そして極度の人見知りなので女性達を囲んで飲む時は千と一緒に端でお酒を飲むのが好き。女性が近づこう者ならシャーと威嚇する程苦手。(原因は姉達のせいで女性に対して夢を持っていない。)

弟達の事を大事に思っており、体力が消耗しようとも弟達の為ならと能力で助けてくれる優しい一面もある。


6番 希生(きなり)

耳裏に6番の数字を持つ王子。いつも派手なメイクをしていて美容が大好きな男子。千よりは少し下の男の子でよく千の背後にくっ付いて隠れたりする。新一と龍次と違って女性が根っから好きというよりも女性達とメイクや最近流行なファッション、美容について話をするのが好きなだけでこの人が好きという感情は特にない。

国に仲の良い幼なじみ(男)が居てよく遊んだり毎日文通をする程の仲良しである。能力は氷使いの冬。その場がどんなに熱い環境でも冬の環境にする事が出来る。体力はそれなりにある為ある一定の距離であれば基本はそこまで体力を消耗せずとも冬にする事が出来る。

ただ戦いの時は相手を凍らせる事に夢中になって他に目を向けていないと自分の身体も一緒に氷になってしまう為不意打ちで攻撃された場合身体を傷つけられるというよりも壊されてしまい死に至る事がある。

1番年下で甘えん坊だが本当は結構腹黒くて計算高くどんな頼み方をすれば面倒な仕事をしなくても済むかを常に考え、兄達に仕事を押し付けてはマッサージに通ったりするのが好き。


千の部隊

1番隊隊長 はじめ

見た目はスキンヘッドの男で見た目は厳つく感じるが意外とお茶目でクマの人形が無いと眠れないという可愛いギャップを持つがそれを知っているのは同じ部隊の人達か千賀しか知らない。千に言われてから敬語無しで意見を言えるようになり、最近では千と千賀とはじめで意見交換をするのが好き。因みによくこの3人が固まって訓練するが部下からは筋肉バカの集まりだと影で言われている事に気付いていない。


2番隊隊長 千賀(ちか)

ボブヘアーの千賀は村1番美男子と言われている。美容が好きなのか顔に傷が付かないような戦い方をする為、はじめと千に泥を付けられたりよく虐められる。

それではじめと千と千賀の相性は良く、千賀も千に対して意見をハッキリ言えるので困った事は無いが、爺様にはバレないようにはじめよりは周囲の目を気にしている。


花の都

王子達が住む場所。それぞれ王子達の家に続く道の入り口に門がありそこには個性溢れる様々な飾りがされている。その門の入り口にある中心部には城がありその建物の中に入っていくと通行証を持った商人や王子達に商品を渡して使用して貰うまたはそれにお墨付きをして貰う事で売り上げを伸ばそうとしている人達が出入りしている。中にはその人々の群れを利用して物乞いをする人達も居る。王子の間は基本は王子以外は立ち入り禁止されている。中には2階建ての部屋が広がっていて寝転がることが出来るソファとキッチン(料理が出来るのは新一、龍次、鏡夜、楓だけ)があり良く材料を買ってきては料理を自分達で作り兄弟達でご飯を食べる。またそれぞれに部屋が与えられているので一人になりたい時はその部屋に籠もる事も出来る。1階は兄達の部屋があり、2階に弟達の部屋がある。

花の都にある王子達の家に続く道の門の所は王子の家で働いている者や王子達以外は固く禁じられていて他の王子の所で働いている者が違う王子の家に行く事も固く禁じられている。これに反した者は死刑、または流刑されてしまう。


王子の掟と村の掟

王子と村の掟は厳しく守らないと王子であっても反逆者として死刑になることがある。

例えば王子が国や国民に対して殺しをした場合や王子の力を使って国中を混乱させた場合は特別な許可の元死刑にされる。実際に過去の王子達の中で王子の権力を使って好き放題にした事により同じ兄弟の盃を交わした兄弟に殺されるという事はあった。

また、王子の身の危険を守る為に厳重に警備を強化しており村人と深い関係を持つことや自分達の城に招き一緒に食事をする事は禁じられていて王子の家で働く者達との交流も控えめで無いといけない。

また王子は常に戦では戦闘を立たなくてはいけなく、それぞれの出身の国、村の軍隊の指揮を取るのも王子達の仕事である。

また戦での王様はそれぞれの出身の1番偉い人が戦の中心部に座らないといけない。

(例:千の村の1番偉い人は爺様なので爺様が戦の時は中心部に他の王様と一緒に戦が終わるまでは座って待機しておかないといけない。)

王子達は偉い人達(王様)を守りそして領土を拡大していく為に尽力しなくてはいけない

俺は今日はご機嫌だ。

朝から鼻歌を歌っては王子の間で他の兄弟達が俺の事を見ているのも知らないフリをして一人で何度も何度も希生から借りた手鏡で髪型や服が乱れていないか確認していた。

「千、今日はご機嫌だな。」

と俺の2番目の兄さんの龍次兄さんが俺に話しかけてきた。

「うん!分かる?実はねこれから久しぶりに四葉さんに会いに行くんだ~。」

「お?そうなのか~この間の戦の訓練以来だもんな~何ヶ月ぶりだ?」

「半年ぶりだよ~」

「よくそこまで我慢できたな。」

「うん、でも逢えない時は文でやり取りをしているからそこまで寂しくは無いよ。」

「そうか、そうか。それじゃあ兄として男の輝く筋肉の付け方を教えてやろう。」

「うん!教えて~・・・・・・」

「・・・・・・・うるせーよ!!お前等このアホ二人!!」

と俺の弟の希生がマスカラを付けながら怒ってきた。

「希生がキレた。」

とボソッと言ったのが俺の4番目の兄さんの楓兄さん。

「マスカラしている時は必死なんだよ!!変な会話してんじゃねー!」

といつもなら可愛い弟だがメイクをする時は一番この兄弟の中で怖いと思わされるほど怒る声は怖い。

「「ごめん。」」

と俺と龍次兄さんは謝ってショボンとした。

そんな弟達の姿を笑って見ているのは俺の1番目の兄さんの新一兄さんである。

俺は前にお祭りで両想いになった四葉さんに久しぶりに逢えるのが楽しみでこの日が一秒でも早く来て欲しいと思う程待ち遠しくて仕方なかった。

俺は今日は初めて自分で洋服を選んで着たくらいだったのでサクラが朝から自分で起きて出かける用意をしている俺を見て

「毎日がこれならばどれだけ楽でしょうか。」

と言っていた。

俺はまだ逢える時間にならないかなと思いながら部屋のソファに座って鏡を見ていると王子の間の扉が開いて新一兄さんのお父さんである王様が部屋に入ってきた。

「王子達、本日も頑張っておるかな?」

という声に俺達は急いで持っていた物を机に置いて王様の前で横一列に並んだ。

「そこまで気を張らんでも大丈夫じゃ。今日は王子達に伝えたい事があって来たのじゃ。」

「王様、戦でございましょうか?」

と俺の3番目の兄さんの鏡夜兄さんが王様に問う。

「いや、今回は戦では無い。王子として以前行った祭りが好評でのう他国があの気球を見てとても綺麗じゃったと言って争い無しで協定を結ぶ予定の国が何国か出来たのじゃ。その国の人達にお披露目として城にそれぞれの王様と家族を招こうと思っておるのだ。そこでだ、王子達にはダンスを披露して貰いたい。もちろんパートナーは自由じゃ自分が好いておる者でも居らぬなら城の者でも国の者でも構わん。パートナーと一緒に出席する事をお前等に命ずる。」

と言ってすぐに俺達の有無を聞かずに部屋から出て行ってしまった。

俺達は緊張感が解けてその場に座り込んだ。

「戦じゃ無くて良かった。」

と俺が言うと

「それ!俺今まだこの間の訓練のせいで出来た傷口塞がってないから本気で動けないもん。」

と希生が言う。

「だろ?ていうかダンスってどういうの?」

「嘘でしょ?兄さん、ダンスの授業で学んだじゃん。」

「そんなのあったっけ?覚えてないんだけど。」

「この間の訓練で頭打ったの?」

「希生と千、さっきから会話が聞こえているけど。千はダンスの授業受けていないぞ、視察で居なかったからな。」

と鏡夜兄さんが俺達のコソコソ話を聞こえていたらしく話に入って来た。

「え?皆ダンスの授業やったの?」

「「「「「「やったよ~。」」」」」」

「えー俺だけ知らないのか~。」

「大丈夫だろ、サクラが居るし。」

と新一兄さんが部屋の隅で立ってこちらを見ているサクラを指さすと

「新一王子人を指で指してはいけません。」

とサクラに怒られた。

「ごめん、ごめん。最近、千だけじゃ無くて俺らにも容赦ないからなーサクラは。」

と怒られてもそれを受け入れる兄弟達にサクラは最近は嫌な事や駄目な事は部屋の中でまるで俺達を監視する教育係のようになっていた。

「サクラ~ダンス踊れる?」

と俺がサクラに聞くとサクラは(当たり前です)という顔で頷く。

「じゃあサクラ後で教えて~、そういえばさパートナーって言ってたよね?後で四葉さんにも予定聞いて来れるかどうか聞かなきゃ。」

と言うと兄弟達がバッと俺の事を見て

「待て待て待て、もしかして四葉さんを呼ぶつもりか?」

と新一兄さんが話しかけてきた。

「そうだよ?だってパートナーって誰でも良いんでしょ?それに王様も好いている者を連れて来いって言ってたじゃん。」

「そうじゃなくて四葉さんって男性だろ?王様が言ってたのは女性の事を指していたに決まっているだろ?」

「そうなの?でも俺女性とダンスなんてしたくないよ。俺のパートナーは四葉さんだけだから。」

「マジかよ。そこまで恋が進展しているなんてお兄ちゃん知らなかった。」

と泣き真似をする新一兄さんに鏡夜兄さんがバシと軽く叩いて

「冗談はさておき、本当に四葉さんを呼ぶのか?」

と鏡夜兄さんに聞かれたので不安になって

「駄目なのかな・・・。」

と聞くと

「駄目じゃ無いけど納得してくれるかは分からないな。」

と龍次兄さんが言い出す。俺は益々不安になって

「やっぱり他の誰かを誘うべきかな」

と聞くと

「まあ、付き合いたての恋人を恋を邪魔するのは良くないよな。いざとなったら新一兄さんがどうにかしてくれるだろう!!」

鏡夜兄さんが言ってくれた。俺はさっきまで凄く落ち込みかけていたので鏡夜兄さんの言葉に凄く救われた。

「俺頼みかよ。」

と新一兄さんは言っていたが笑顔で言っていたのでいざという時は協力してくれるらしい。問題は四葉さんだ、彼の事だからこういう場に出席は出来ないと言うかも知れない。

しかしダンスと言えばこの国ではタキシードを着る決まりだ、四葉さんが出席するのであればその姿を見ることが出来る。そう思うと一早く四葉さんに会って話をしたくなった。

「という事で四葉さん!!王子の披露する場に一緒に出席して下さい!!」

と俺は王子の会議を早々に終わらせて急いでサクラと一緒に走って四葉さんの家まで来た。

四葉さんの家はいつもと変わらず薬草の乾いた匂いがしていて自然が好き俺はとても落ち着く場所だ。

それに今日は四葉さんの手作り料理も食べられる日なので机に沢山の料理が並べられている。俺はご飯を食べる前に四葉さんに土下座でお願いした。

「私みたいな者が・・・・そんな大事な場所に・・・・。」

と青ざめる四葉さんに俺はもう一度

「だって他の人なんて誘えないよ、俺は四葉さんをパートナーとして一緒に出席したいんだ。駄目かな?」

とチラッと四葉さんの目を見ると四葉さんは困った顔をしながら

「・・・・・・・そうですね。そんな頼まれ方をされては・・・・でも王様方は私達の関係は知らないのではありませんか?」

「うん!兄さん達が言うなって言うから言っていないよ!何でも王子は女性と結婚しなくてはいけないっていう掟があるらしいんだ。」

「そうなんですね、知らずとは言え・・・・私は何てことを・・・・・」

と一層青白くなる四葉さんに俺は胸を張って

「でもさ、それって変だと思わない?だってさ、女性と結婚しなくちゃいけないなんて誰が決めたんだろう?それに好きでも無い人と結婚するのは俺は嫌だし、そもそも掟自体が変なんだよ。」

「・・・・・と言いますと?」

「だって、好きになった人が妖怪かもしれない訳で妖怪の中には性別が無い者も居るでしょ?そうしたら女性って括っているのが変だよね。あと戦でもそうだよ、戦をする時に男性しか駄目だって言っている国があるけど俺の村では女子供も皆戦いたい者は戦えだもん、従者とも話しちゃ駄目だという掟もあったし何か前から変だなって思ってたんだよね。」

「しかし、ここに来た時に村の掟でサクラさんと器になったのは何も疑問に思わなかったのでは?」

と聞かれて俺はハッと気が付いた。俺は確かに最初にここに来た時は掟に対して疑問に思っていなかったのだ。逆に掟だから仕方ないと思って疑問に思わなかった。

「確かに前に希生に掟だったら死ぬの?て言われて掟なら怖くないって仕方が無いって言っちゃった、俺やっぱりワガママなのかな。」

「いえ、人は様々な物事に触れて成長していくものです。そしてその成長と共に学ぶ知識を様々な場面で応用出来るのです。千は沢山の人に触れて大きく成長したという事でしょう、なので疑問に思うことが沢山出来る事は良い事だと私は思いますよ。」

と先程まで真っ青だった四葉さんがまだ青白い顔で俺に微笑んでくれた。

「ただ今回の王子のダンスについては私は出席出来ません。」

「どうして?」

「理由は私はこの村のたった一人の人物でしか無いからです。」

「でも王様は村や国の誰かを連れて来て良いって言ってたよ。」

「ええ、それはきっと建前しょう。沢山の他国から来る王様やそのご家族の方を前にダンスが踊れる者はごく一部の由緒正しき人物のみかと、私もダンスは踊れません。」

「じゃあ四葉さんは俺が他の人とダンスして良いの?」

「時には仕方ないこともあるという事です。」

「どうしてそんな冷たい事を言うの?王様に挨拶に来た時に村の代表として挨拶したのに今は村の一人にしか過ぎないって言うの?」

「決して冷たいことを言っているのでは無いのです。この村には長と呼べる者が居ないので私が代わりに代表として行っただけで私は本当であれば王子と一緒に居られる立場では無いのです。」

「でも俺達両想いなんでしょ?」

「はい、私はそう思っておりますがそういう公の場は今はまだ控えた方が宜しいかと。」

「分からないよ、俺今日凄く楽しみにしてきたのに。」

「ええ、私も楽しみにしておりました。でもこの話はお断りさせて下さい。」

「でも・・・・」

と俺が渋っていると

「千、これ以上四葉さんにワガママ言ってはいけません。」

とサクラに叱られた。

俺はショボンと落ち込んでいると

「でも誘ってくれたのは凄く嬉しかったですよ。ありがとうございます。」

とまだ青白い顔をしている四葉さんがニコッと笑いながら俺に言うが、俺は四葉さんが驚く顔はするだろうなと思っていたけれどもそこまで青白い顔で断られるとは思ってもいなかった。

「それではせっかく四葉さんが作ってくれたご飯をしっかり美味しく頂きましょう。」

とサクラは気持ちを切り替えるように言うが俺は断られたことに納得出来ていないのでここに来るまでのワクワクしていた気持ちが少し少なくなった気がした。

そこにガラガラガラという玄関のドアが開かれた。

「四葉さーん!!千が来てるって噂聞いて来たけど・・・」

と勢いよく入ってきたのは白と黄色のブレスレットを右手に付けた紫月だった。

「あれ?千ブレスレットは?」

と聞かれたので

「訓練中に壊れて今は修理中。」

「訓練中ならアクセサリー系は壊れるよな。それとこの空気何?」

「俺が四葉さんにワガママ言ったから。」

と言うと

「いえ、千は何も悪いことを言ってませんよ。私がせっかくのお誘いをお断りしてしまって。」

と二人で目も合わせずにそれぞれブツブツと言っているといつの間にか部屋にまで上がり込んで来た紫月が

「なんの話だか分からないんだけど。」

と言いながら話に入ってきた。俺は

「実は今度他国との交流を含めて王様達の前でダンスを披露しなくちゃいけなくて、そのパートナーを探さなくちゃいけないから四葉さんに頼んだんだよ。パートナーになって下さいって。」

「それで?」

「私は村の一人でしか無いので無理ですって言われた。」

「確かにな。」

「なんで?」

「おい、そんなに睨み付けるなよ。だって仕方ないだろ?この村だって奴隷から解放されて年月が経過している訳じゃ無い。少し前は敵国の奴隷だったんだ。その村の一人が来てそれも男性が来るなんて他国の王様の前で千が王様達に恥をかかせたと思ったら千が首を刎ねられるだろ?」

「俺恥なんてかかせないよ?」

「それは千の気持ちだろ?王様の考えでは無いじゃん。」

「確かにそれで四葉さんを巻き込みたくは無いな。」

「だろ?だから今回千は我慢するべきだと思うぞ。」

「はあ、そうか。でもパートナーは四葉さんが良いと思う人じゃ無いと嫌だ、隠れてこの人にしようって言うのは嫌だな。」

「それでしたら、私も協力が出来ます。」

と青白い顔が少しいつものようにピンク色に変わっていく。

「誰か良い人居ないかな~。出来ればダンスが出来る人で王様の前でも度胸がある人だよね・・・?」

と紫月が言う。

「後はそうですね、ハキハキとした方なら千を任せまられます。」

とサクラもすかさず意見を言う。

「そんな人だったらサクラが化けて女になれば良いじゃん。」

「無理です、私は男にしかなりません。」

「ケチッ」

「そうだ!俺良い人知っているよ!確か歩鞠雷夏(ほまり らいか)ていう女の子で俺達より少し年上なんだ。その子は政治を担う人の娘さんでこの前の祭りがきっかけに来てくれるようになって最近は一人で買い物にここに来たりするんだよ。変わった子で性格もさっぱりしていて四葉さんとも知り合いだから色々事情を話しても大丈夫だと思う。」

と紫月が名乗り出た。

「確かに雷夏さんならきっと良いお相手になりますよ!あの方でしたらダンスも出来ますでしょうし。」

「初めて聞いた名前だ、うんその人を探して会いに行って聞いてみるよ。」

「俺と四葉さんも一緒に行くよ。その方がきっと話も早く済むと思うし。」

「そうしましょう、皆さんで雷の国まで参りましょうか。」

「雷の国?」

「ええ、その雷夏さんがいらっしゃるお国が雷の国でよく雷が鳴るから雷の国と呼ばれているそうで。」

「雷夏によると他にも神に嫌われた国とも呼ばれているらしいぞ。」

「神に嫌われた国はどうして嫌われたの?何かしたの?」

「違う違う、雷って神が怒っているから雷が鳴るんだってその国では言い伝えがあるらしくずっと毎日どこかのタイミングで雷が鳴るからずっと神に怒られ続けられている国という事で嫌われた国って呼ぶようになったらしい。ただそれを言っているのは若い者だけでもっと上の世代は雷の国って言っているらしい。なんでも嫌われた国というのが縁起でも無いって言って怒られるからだって聞いたぞ。」

「それで、今回その雷夏さんの所に行くには一度希生王子の国を通らなくてはならないのですが大丈夫でしょうか?」

「何で?駄目なの?」

と聞くと

「いえ駄目では無いのですが、協定をまだ組んでいないお国なので行くには許可が必要なのです。また王子が直々に行くとなると希生王子のお国の王様にも許可が必要かと。」

と四葉さんが言う。

「え?そんなに大変な手続きをしないといけないの?大変だね~。」

「王子で無ければ通行証だけで済むのですが、王子になりますと安全性の為に許可をお取りした方が宜しいかと。」

「そっかー、明日希生に聞いて見るよ。多分きっと良いよって言ってくれるよ、皆の事も伝えて置くから心配しないでね。」

と俺が言うと紫月が

「千が今本物の王子に見えた。」

と言った。俺は

「何で今なんだよ、最初から王子なんだけど。」

と口を尖らす。するとサクラが

「そのような態度をされては王子に見えませんよ、王子らしくシャキッとしなさい。」

と小言を言う。俺はその言葉を聞いて背筋を伸ばすと四葉さんと紫月が笑った。

その笑顔を見て俺も笑った。

「えー!!!四葉さんダンスに参加しないって?嘘でしょ?」

と次の日の王子会議で希生に言うと希生は雑誌を見ながら大きな声を出した。

「何で出ないの?」

と聞いてくるので

「いや、やっぱりあの場所にはまだ参加できないというのと男性だからって気にしてて行けないって言われた。」

「男性だから何なの?男性でも着れるドレス風なパンツスタイルのを特別に作ろうと思ったのに。」

「それってどんなの?」

「女性ってスカートでしょ?でも四葉さんはスカートは嫌かなと思って上は長袖のフリルが付いたので下はズボンにしてヒールを履いて貰えたら凄く綺麗だと思うんだよね。それにスパンコールを付ければ可愛いと思うし。もう!!こっちは凄く昨日帰ってから色んな記事を見てそれに没頭してたのに!ここまで来たら着て貰えなくても作りたくなるじゃん!」

「ごめん、そこまで考えてくれているとは思ってなかった。それとさ、その新しいパートナー候補として雷の国の人にしようと思っているんだ。」

「雷の国?」

「そう、何でもそこに妖怪の村に積極的に出入りしている女性が居るらしくて四葉さんもその方ならって言ってくれて、その人に会いに行きたいんだ。」

「ふーん、それで?」

「うん、それで希生にその雷の国まで行く為の許可を王様に聞きたいんだけど良いかな?」

「許可?」

「うん、何でも雷の国はまだ協定を正式に交わしていないから王子の安全の為にも許可を取った方が良いって四葉さんと紫月が言うから。」

「そんなのお忍びで行けない良いのにわざわざ表だって言わなくても・・・・待てよ?・・・・・

やっぱ居るね、うん居るわ。うん許可必要だから兄さんの代わりに俺が取ってくるよ。」

とさっきまでごねてた希生が急に態度を変えて言うので俺は驚いたが

「兄さんがわざわざ来なくても俺この後どうせ王様に会いに行くからその時に話せば良いよね?その代わりさ・・・」

「ありがとう。・・・・・その代わり何?」

「その代わり1回四葉さんに個人的に会いに行っても良い?」

「へ?」

「個人的に会いに行くだけ!」

「それは良いけど、なんで?」

「それは内緒だけど、兄さんがダンスの特訓を受けている時に軽く会いに行くだけだから。安心して、兄さんの悪口は言わないから。」

「四葉さんの中での俺への評価が下がらなければ良いよ。」

と言うと

「っしゃーこれで作れる!!」

と何か意気込んでいたが俺は分からなかった。

新一兄さんが俺達の会話を聞いていたのか

「え?四葉さん参加してくれねーの?」

と聞いて来た。

「うん、昨日話して断られた。」

「そっかー、俺の父親である王様に先に言えれば四葉さんも来やすいけれど、言っていない今の状態での参加はまだ難しいか。」

「うん、新一兄さん協力してくれるって言ってくれたのにごめんね。」

「いや、お兄ちゃんはまだ何もしていないよ。ただこれからパートナーを見つけないとだろ?お兄ちゃんはそこが心配。だって千は女の子苦手だもんなー、兄ちゃんがそれなりの美女捕まえて紹介してあげようか?」

「ううん、要らないよ。だってもう候補が居るもん。」

「え?どんな子?」

「分かんない、これから会うから。」

「じゃあ断られるかもしれないよ?」

「大丈夫、だって四葉さん達も一緒に居てくれるから。」

「どこからそんな自信が来るんだよ。」

「兄さん、昨日言ってた女の子にもしかして断られたの?」

「ウグッお前そんな事に気が付いても聞くなよ。」

「だって、兄さんにしては必死に俺が断られて欲しいみたいな言い方するから。」

「断られて欲しいなんて思ってないよ、ただ仲間が欲しかっただけだよ。」

「新一兄さん、それ同じ事言ってるからね。」

と俺は冷たい目で兄さんを見ると

「うわーん!兄ちゃんの仲間になれよー!」

と駄々こねたので俺は新一兄さんから離れた。

俺は部屋の隅に居るサクラに

「サクラ、ダンスってどういうのなの?昨日それ所じゃなくて話を聞いてなかったから。ダンスとはタキシードとドレスを着た二人がリズムに合わせて足並みを揃え踊ることです。」

「ザックリしすぎな説明だよ、もっと分かりやすく言ってよ。」

「と言いましても、龍次王子と楓王子良い所に来てくれました。」

とサクラは言うと龍次兄さんの手を楓兄さんの腰に当ててもう片方の手を楓兄さんの手と繋げてみせた。

「ダンスとはまずこの形が基本です。」

と説明をしようとするが楓兄さんは嫌がって龍次兄さんを殴ると

「何で俺がこいつと手を繋がなきゃならないんだよ!」

と抵抗した。しかしサクラがすかさず

「文句を言わないで下さい、今千に教えないと分からない状態でダンスの誘いを女性にしたところでもしかしたら断られるかもしれないので。」

と怒ったので楓兄さんは殴るのを止めて

「分かったよ。協力すれば良いんだろ?」

と言った。

俺は兄さん二人の格好を頭に叩き付けて覚えるように

「このリズムはどうすれば良いの?」

「音楽に合わせて1 2 3、1 2 3 というリズムを刻むのです。ほらお兄様達がやってくれますよ。」

とサクラがリズム良く手を叩くと、楓兄さんと龍次兄さんがリズムを刻みながら回り始める。

「これがダンス・・・」

「そうです、まず男性側が女性をリードさせます。そのタイミングもきちんと合わせないとお互いの足を踏んでしまい転倒してしまいます。良いですか?この足が基本なのです。」

と言って転びそうになりそうながらも楓兄さんは龍次兄さんに必死に付いていくダンスを見て俺はこの転びそうな動きがダンスなのかと思った。

俺は相手が四葉さんじゃなくて本当に良かったと思った。あんなに華奢な四葉さんの足を俺が踏んでしまった日には骨折させてしまうかもしれない。そう思うとあの時に断って貰えて良かったと心の端で少しほんの少しだけど思った。

「よし!!この門を抜けたら雷の国だな!」

と紫月が元気に雷の国の門に向かって言う。雷の門に辿り着くまで希生の国を通ったが初めてこの国に思った事は希生は特別にお洒落と思っていたが国の人の殆どが服装も髪型も奇抜だった。希生の国の王様にも会ったことが勿論あるが他の王様達とさほど変わらなかったので希生だけこんなに服装やメイクに拘っているのだと思っていたのだ。

俺はあちらこちらでお店で新しい服を買っている人や髪型を変えている人を見ると俺の2番隊隊長である千賀(ちか)にここの国の事を教えたらきっと暇さえあれば通うだろうなと思った。

そんな寄り道を少ししつつも雷の門までなんとか辿り着いたのである。

雷の門はとても頑丈で俺の村にあるような鳥居の門とは違ってコンクリートと呼ばれる頑丈な建物で出来ていた。俺は許可証を門番に渡すと

「第5番目の王子様ですね。第6番目の王子様から報告を受けております。護衛が必要でしたら係の者を呼びますが如何致しますか?」

「いや、大丈夫。そんな護衛を付けて歩いたら皆に王子だってバレそうだからね。一応軽装で来てるしバレないようにしたいんだ。」

「畏まりました。王様は本日は多忙の為お会い出来ずに残念がっていましたが今度開かれるダンスパーティーを心より楽しみにしていると言伝を頼まれておりましたのでお伝えします。」

と言った。

「言伝を伝えてくれてありがとうございます。王様にも素敵な日を過ごせて貰えるように1王子として全力を尽くします。」

と答えると門番は俺の言葉に驚いたのか目を見開いて

「今まで門番をしてましたが、こんなに丁寧に対応されたのは初めてです。こんなお優しい王子が居るお国なら王様も国の民も皆が喜んで協定を平和に結ぶはずです。王子の探し人が無事に探せますように。」

と言って門番は門を開けてくれた。

俺は普通の対応だと思っていたので門が閉まってからコソッとサクラに

「俺、良くない事言ったかな?」

と聞くと

「いえ、千は正しい事をしました。歴史上の王子達は皆傲慢だったと言われています、皆が王子として人々を引っ張って行く以上は王子達がそれぞれ模索しながら人を導く方法を探し最終的には傲慢になっていったと以前新一王子の王様に仕える執事に伺った事があります。」

「何で傲慢になるの?」

「それは王子だからです。」

「王子だからって傲慢になるの?」

「何でも与えられる立場だからです。食べ物にも飲み物にも困らない、その生活が当たり前になると人はもっと次々と欲が出てきて欲しい物が見つからればそれを意地でも手に入れようとする方が多かったようです。」

「それ俺も若干そういう所あるよね。」

「千は皆と仲良しで居たいという気持ちを凄く大切にしています。それが誰かを傷つける内容でしたら私はとても怒っていますよ。」

「これからもそうならないように気を付けて行動するよ。」

「はい、王子としての自覚を持ちながら一人の人としての大切さも忘れないで下さいね。」

「うん、分かった。」


「おい!何サクラと千でコソコソ後ろで話して居るんだ!国の栄えた場所にそろそろ出るぞ。」

「うん、ごめんごめん。それにしても門からすぐは森ばかりなんだね、すぐに国に繋がると思ってた。」

「ああ、この国は少し奥のほうにあるんだよ。もう少ししたら音楽が聞こえてくるから分かると思うぞ。」

「音楽?」

「ああ、雷と共に音楽も聞こえてくるそれがこの国の特徴なんだよ。」

暫く歩くと空の雲行きが変な事に気が付いた。それまで青空だったのが線でも入っているようにいきなり灰色の空に変わり空の色よりも濃い灰色一色の雲がモクモクと広がっては不気味で怪しい雲行きに変わる。

(希生の国の方角はまだ青空でこの雲達はずっと動かずにそこに居るみたい、風が無いからなのか。不思議な空だ。)

と思っていると紫月が

「ほら!音楽が聞こえてきたぞ!」

という声がしたので耳を澄ますと

『雷の神様に伝えましょう 貴方を怒らせたくないのです

雷の神様に伝えましょう 貴方を笑顔にしたいのです

ああ今日もきっと雷ピカピカ ゴロゴロゴロ

貴方が怒る声がしてくるの 貴方を笑顔にする為に私は今日も歌います』

「なあに?この歌、童謡みたいな歌だね。」

「これは雷夏が言うにはこの歌は古くからあるまじないの歌らしいぞ。」

「まじないの歌?」

「うん、でも詳しいことは俺も分からないから後で雷夏に聞いてみなよ。もうこの歌が聞こえたって事は栄えた場所にもう出るから。」

と言って俺達は大きな木々達を潜るとそこには平たい屋根の建物がいっぱい並んでいてその頭上の雲は一層暗く今にも雷雨になりそうだ。

「どうしてこの雲はこの国に覆うようにしているの?」

と紫月に聞くと

「何で俺がそんな難しいこと知っているんだよ、雷夏にそれも聞いたら良いだろ。ほら段々音楽も大きくなってきた。」


『雷の神様に伝えましょう 私達の声が届くように

雷の神様に伝えましょう 私達の歌を通して

雷の神様に伝えましょう 貴方と共に笑顔で居たいことを

ああ今日も雷がピカピカ ゴロゴロゴロ

貴方が怒る声がする 貴方を笑顔する為に私は今日も歌います』


「本当だ!国中の人が歌っているのかって言うぐらい音楽と共に声が段々聞こえてきた!しかもさっきとは違う歌詞だね。」

「違う歌詞なの?」

と紫月がそれに反応した。

「うん!この歌さっきの歌詞とは違って宥めている感じの歌詞だよ。さっきは祈りだった。」

「さすが化け狐の一族だな、俺はそこまではっきり歌は聞こえなかった。音楽しか聞こえてなかったよ。」

「え?四葉さんは?」

「私も音楽しか聞こえてませんでした。千の耳はとても遠くまで聞こえるのですね、素敵ですね。」

と聴覚を褒められて嬉しくて俺はニコニコと笑いながらその音楽に合わせて鼻歌を歌った。

「それで?この私に何の用なの?」

とふんぞり返って椅子に座るのは目がクリッとして少しきつめの目が一層怒っているからかつり目がキツく見える。ただ紫月と四葉さんが言うようにとても美人で品がある顔立ちだ。ただ性格がキツいのか俺達が到着して挨拶をすると急に椅子に座りながら怒り口調で話してきた。俺はチラチラと皆を見たが俺が言わないと、という空気なのか皆が逆に俺が言うべきだという顔で見返してきた。

「あの、本日来たのは歩鞠雷夏(ほまり らいか)さんに今度ある王様の集まりで行われるダンスで俺のパートナーとして出席して欲しい。」

と言うと雷夏は整った顔を歪ませて

「はあ?この私があんたとダンスして何の得になるの?」

「ヒッ!ごめんなさい。」

と俺はすぐに謝ってしまった。

こんな強気の女性は生まれて初めてだ。

今まで村に居た女性達は確かに血の気が多かったが村の男達には優しくていつも励まし合いながら戦に参加して来れたし、王子になってからは王子という肩書きに寄ってくる女性か世話をしてくれる優しくて思いやりのある言い方しかしないメイドさん達しか出会っていない。街中でもお忍びで来ているからか俺の事を王子だと気付いていない者が殆どなので一緒に縄跳びをしたりあやとりをしたりと同い年の女の子と遊ぶ時は皆優しい言葉でしか話さなかったのでこんなキツイ言い方をされて俺は生まれて初めて女性が怖いと思った。


「千は情けないな。王子だろ?」

「こんな最初から怒ってる人初めて見たよ、怖いよ。」

と紫月とコソコソ話していると

「聞こえてるわよ。私怒っていないわ、この話し方が普通なの。」

「え?怒ってないの??」

と俺は大きな声で雷夏に聞く。

「急に大きな声を出さないでよ、全く。それで?私が貴方とダンスして何が得になるの?」

「得は分かんない。思いつかないけれど、協力をして欲しいんだ。」

「協力?何のよ、貴方がどこの女性達に振られてきてここに来たのかは知らないけれど私の所に来た理由をしっかり説明してよね。」

「じ、実は本当は四葉さんを誘いたかったの。」

とボソボソと言う。

「は?」

「だから本当は四葉さんと出席したかったの!!」

「・・・・待って?貴方王子でしょ?それに男同士だよね?」

「それは知ってる。でも王子でも関係なく今は俺のパートナーは四葉さんだから一緒に出席したかったの。」

「その話四葉さん本当なの?」

と先程まで吊り上がった目が大きく見開いて瞬きを忘れたかのような顔で俺の隣で立っていた四葉さんの顔をチラッと見る。

「ええ、本当ですよ。」

と四葉さんは少し顔を赤らめながら言う。俺はその表情を見てこの間ダンスのパートナーを断られて本当に気持ちが同じなのか不安だったけれども、この表情なら同じ気持ちなんだと思って嬉しくて少し口元が緩んだ。

「その表情からして本当の事なのね、へえー王子がね。実は男色家だったとは。」

「男色家って何?」

と俺はすぐに聞き返す。

「男色家って言うのは男性なのに男性が好きな人の事を言うわ。」

「じゃあ俺は別に男色家じゃないぞ。男性なら誰でも良いという考えじゃ無いもん。四葉さんだから好きなんだもん。」

「そう、それなのに四葉さんが断ったからってノコノコ次の候補を探しに来たの?」

「ウッ・・・ごめんなさい。」

「はあー・・・・・・そうね、良いわ。この話を受けてあげる、その代わりに私のダンスの練習中に本当は四葉さんが良かったとか言い出したらすぐに辞めるから。」

「本当に?良いの?」

「女に二言は無いの、良い?その代わり私に文で四葉さんとの思い出を書いてきなさい。良いわね?」

と言って何が嬉しいのか鼻歌を歌って部屋に行ってしまった。

俺達は呆気に取られて雷夏が不在なのに部屋で雷夏のお母さんが入れてくれた紅茶という飲み物を飲んだ。

するとゴロゴロゴロと大きな音がする。雷夏のお母さんは慌てて天井にぶら下がっていた灯を消して蝋燭の灯りに変えた。

「どうして、蝋燭の光に変えたの?」

と俺が聞くと

「それはここに雷様が怒って雷を落とさないようにする為ですよ。」

とお母さんは慣れた手つきなのか窓を閉めてカーテンを閉めた。

「どうして窓もカーテンも閉めるの?」

と俺が聞くと、部屋から出てきたのか

「それは窓から雷様が入って来ないようにする為よ。」

「あ、雷夏。もう大丈夫なのか?」

と紫月が言う。

「何が?急に歌い出して部屋に籠もったから。」

「大丈夫よ、もう気分を入れ替えられるわ。」

「気分悪かったの?」

と俺がすかさず聞くと

「そういう事じゃ無いの、女の心は大変なのよ。秋の空のように流れが早いのよ。」

「秋の空が雷夏の心の中にあるの?」

「もう!ある訳ないじゃない!例えよ!!・・・・ほら耳を澄まして、雷様が本当に怒ってきた。」

と言うとピカッと大きな光が家を包み、そしてすぐにゴロゴロゴロと鳴る。

「もう少ししたらきっとドンと言う音と共に光が放たれるわ。」

と言って雷夏と雷夏のお母さんは家中の窓を閉めたりカーテンをしたりと小走りで準備をする。

俺達は何をしていいのか分からなくて俺は怖くて隣に座る四葉さんの手をギュッと握った。

四葉さんは握り返して

「大丈夫ですよ、傍に居ますから。」

と言ってくれたから俺は少し安心した。しかし段々と大きくなる音に俺は怖くなった。どうしたら良いのか分からなかった、ただ大きくなる音とピカッという光の眩しさが近づきしまいにはドンという音が聞こえてきた。

「どうしたら良いの?」

と堪らず言うと雷夏が

「怖いの?仕方ないわね~。」

と言って歌を歌い始めた。

『雷の神様に伝えましょう 貴方を怒らせたくないのです

雷の神様に伝えましょう 貴方を笑顔にしたいのです

ああ今日もきっと雷ピカピカ ゴロゴロゴロ

貴方が怒る声がしてくるの 貴方を笑顔にする為に私は今日も歌います


雷の神様に伝えましょう 私達の声が届くように

雷の神様に伝えましょう 私達の歌を通して

雷の神様に伝えましょう 貴方と共に笑顔で居たいことを

ああ今日も雷がピカピカ ゴロゴロゴロ

貴方が怒る声がする 貴方を笑顔する為に私は今日も歌います


雷の神様に伝えましょう 貴方が探しているのはなあに?

雷の神様に伝えましょう きっと何かを探してる

雷の神様に伝えましょう 貴方の捜し物はきっと手の中に

ああ今日も雷がピカピカ ゴロゴロゴロ

貴方が何かを探す声がする 貴方の捜し物が見つかりますように』

そう歌う声は美しく、優しい歌だった。その声に連れられてなのか先程よりも小さい音に雷が収まってきた。

「凄い!!雷がもう殆ど聞こえなくなってきたよ!!」

と俺は耳を澄ます。先程のお皿が割れたような音や何かを貫く光が収まってきたのだ。

「雷夏って魔法使いなの?」

と俺は嬉しくてカーテンを少し開けて窓を見る。雲はまだ灰色だけど光がもう雲の中だけで下に落ちてくる気配が無い。

「違うわよ、この国は毎日数分はこうやって雷が鳴り始めるの。それも何時間か置きにね、だからご先祖様が歌ってたこの歌を国中が歌うのよ。そうするとその数分が短く感じてすぐに収まったように感じるの。」

「それは夜中でもあるの?」

「あるわよ、だから子供のうちは雷が怖いからお母さんが教えるのよ。子守歌のようにして子供を慰めて寝かせるの。」

「へえー凄い歌なんだね。」

「そんな歌にコロッと騙されるあんたも相当だよ。大人になるとここの国の人達は慣れっこだから怖いとかそういう気持ちが無くなるのよ。ただ光が点らなくなったり、どこかの家に雷が落ちたら怖いけどこの何百年も雷が落ちたという事は無いから大丈夫よ。」

「それは平たい屋根が関係しているのですか?」

と四葉さんが聞いた。

「ええ、高い建物や煙突があるとそこに落ちる事が分かってから平たい屋根にしているの。そしてその屋根の高さは皆同じ高さなの。どこか一つでも高いとそこに雷が落ちてしまうから。」

「そうなのですね、このコンクリートと呼ばれる建物も何か意味があるので?」

「ええ、さすが四葉さん。そこのヘンテコ王子と比べたら百倍も観察眼が凄いわ。そうこのコンクリートにする事で火事を周囲の家に持ち込ませないようにしているの。昔は木で出来た家だったから雷が落ちると火事になって大変だったのよ。」

「そうだったのですか、コンクリートにする事で火事を小さくするというのは凄いですね。落雷に関しても対策があるのですか?」

「この屋根を通して壁の中に電気を通さないように工夫はされているし、落雷を最小限にする機械が投入されているわ。」

「それは凄い機械が発明されたのですね!!」

「ええ、この国は雷と共に生きてきたの。そんな中で色々と機械が発明され発展していったの。」

「それはとても凄いですね。」

「ええ、きっとヘンテコ王子の国もこの国の機械さえあればきっと戦にも役立つわよ。」

「機械って言うのが良く分からないから何とも言えない。それに俺は王様の指示しか聞けないからなー。俺が出来るのは軍隊にその命令に従って指揮を採るだけだもん。」

「そうなの?機械は要らないの?」

「俺に聞かれても分からないよ。」

「やっぱりヘンテコ王子だわ!本当に四葉さんこんな王子がパートナーで良いの?」

「さっきからヘンテコ、ヘンテコって言い過ぎだよ!酷いなー。」

と俺が怒ると四葉さんは、まあまあと言いながら宥めてきた。

「でも、まあ良いわ。そんなヘンテコ王子の方が私の相手にはピッタリよ、傲慢な王子や自信満々の王子が来たらひっぱ叩いて雷の中外に放り出してたわ!」

「そんな怖い事を考えてたのかよ。」

「当たり前じゃ無い!私には能力が無いんだもの。」

「え?雷夏は能力が無いの?」

「この国に生まれた者は能力が無いの。でも安全よ、だってこんな雷ばかりの国を欲しいと言う国は今まで無かったから。でも以前の王様がこのままでは駄目だって立ち上がって他国と取り引きをしたの。」

「そうなんだ。でも俺に言われてもなー。」

「それじゃあ貴方を通じて直接王様に言うわ、きっとこの国を気に入って貰えるようにしなくちゃ!そうよ、ヘンテコ王子の名前は何?」

「俺の名前は千だよ。第5番目の王子の千。」

「千ね、私は歩鞠雷夏(ほまり らいか)よ!ダンスパーティー一緒に頑張りましょうね!」

「うん!!」

「ちょっとー!!またあんた私の足を踏んだわね!!」

挨拶を交わしてから2週間余りが経過した。この日も千と雷夏はサクラの教育でダンスの練習をしている。しかし、雷夏の身長が小さいからか160㎝も満たないので高身長の千では足下が見えずらくて何度も雷夏の足を踏んでしまうのだ。

「ごめん!もう一回今の練習させて!」

と頼むが

「もう!!何回目よ!あんた一人で練習してからにしてよ!全く。」

と言っては雷夏は休憩を取り始めた。千は大人しくションボリしながら一人でサクラがとるリズムに合わせて一人でダンスの練習をする。

そんな光景を笑いながら一人の少年がやって来た。

「頑張ってる?」

と休憩している雷夏に声を掛けたのは紫月だった。

「あら、紫月じゃない。どうしたの?今日は新一兄さんと呼ばれている王様に会いに来たの?」

「そう。どうも赤鬼夫婦の旅館で出ている料理が食べたいけれど旅館の予約がいっぱいだったからせめて料理だけでもって言われて仕方ないからこの重箱に詰めて運びに来たのさ。」

「あら、凄い大きさの重箱ね。その旅館の紹介もあのヘンテコ王子事千がその場を作ったんでしょ?」

「そうだよ、あいつは凄いんだよ。俺達が路頭に迷いかけたのも俺が嘘吐いて傷つけたのに何も言わずに理解してくれてさ、俺両親が村の人に殺されて弟一人を養っていかないといけないって思った時にどうして良いのか分からなくて、それをあいつが道を作ってくれたんだ。」

「ふーん、それで好きになったの?」

「へ?」

「だから、それだから千の事が好きになったの?」

「ば!バカな事を言うなよ!!」

「私には分かるわよ、隠しても無駄よ。だって千がパートナーは四葉さんしか居ないって言った時に紫月凄く悲しい顔をしてたじゃない。」

「俺そんな顔・・・・」

「してたわ!私見たもの、それで?その気持ちは千はともかく四葉さんも知らないの?」

「・・・・・・知らない。」

「やっぱりね、変だと思ったのよ。紫月が女性を紹介するのも何かあるなと思ったけれど、私は王子とか肩書きに寄っていくタイプじゃ無いから安心したんでしょ?」

「それもある。」

「それしか無いわ、それに私は絶対に千を好きになる訳無いもの。」

「それも知ってる。」

「紫月、それでも貴方の気持ちはこのまま隠してたらきっと辛くなるわよ?」

「うん。」

「いつかは伝えたいとは思っていないの?」

「分からない。ただ今はあいつが無事に村に遊びに来てくれる事だけを願っているんだ。それだけで良いんだよ。俺は戦がどれだけ辛くて残酷かを見てきたら。」

「千もそれは分かっているんじゃない?」

「あいつは戦う側だよ。巻き込まれる気持ちは知らないさ。戦は何もかも奪っていくから、遠くで人が戦う姿が見えていたけど皆目が血走っていて遠くに居る俺らでもいつそいつらが隠れている場所まで来るのかと思うと怖かった。何日もそんな状態が続いて段々味方の所が攻められているのが見えた時に俺達の村を支配していた国に敵だった国の旗が立った。

俺はそれを見に行ったんだよ。城まで隠れながら。俺達の村からでは城が見えなかったから当時の長に頼まれて俺と父さんで見に行った。

敵に見つかったら殺されるかもしれない、そう思って二人で隠れながら見に行ったんだ。その時に見た光景は忘れもしない、沢山の兵士が地面に伏せていて中には身体がバラバラなのもあった。そんな光景を見ながら俺は城まで行ったんだよ。それから俺達は敵国が来るまでずっと待ってた、そこに来たのが千だった。」

「なるほどね、紫月は戦の跡地を見に行ったのね。」

「うん、きっと千も見たよ。口にはしないけれど地面に転がる沢山の死体を見たに違いない。俺はその日の事は忘れたくても忘れられなくてそんな戦に千が行っているのが怖いんだよ。いつか千もあの兵士達のように地面に転がって死んでしまうかと思うととても怖い。」

「そうね、それは分かるわ。千が死ぬ姿なんて私も想像したくないもの、紫月が好きになるのも分かるくらい彼は純粋よ。でも、必ず無事で居られる保証も無いわ。だから想いを伝えたい時は必ず伝えなきゃ駄目よ。伝えない気持ちを後悔するより伝えて後悔する方が時間が経てば楽になるわ!最初はどうして伝えたんだろうと思うかもしれないけれども、あの時伝えたらどうだったのかと希望を持ってクヨクヨ悩む事は無くなるもの。」

「ねえ、なんで俺が振られる前提なの?」

「あら!そんな風に感じた?でも千ならきっと考えて応えをくれるわよ。」

「そうかな。」

「そうよ、紫月が好きになった人でしょ?信じなさいよ。」

「ねえ!好きになったとか大きい声で言わないでよ!!聞こえたらどうするのさ!」

「全く意気地無し、しょうがない今度からお姉さんであるこの雷夏様に話してみなさい。そうしたら一人で抱え込まなくても済むようになってもっと笑顔で自信持って千と話せるわよ。」

「・・・・ありがとう。」

「さあ、私はあのヘンテコ王子のダンスの練習に付き合わないといけないから行くけど千に挨拶でもしていく?」

「いや、大丈夫。でも少しだけ見学してても良い?」

「勿論よ!見るだけならタダよ!じゃあね~」

と雷夏は千の所に行ってしまった。残された紫月は柱の陰にコソッと隠れながら千がダンスの練習をしているのを見ながら恋が叶うブレスレット触れた。

「この恋が叶うなんて思ってない、でももし可能性があるのなら願っても良いのだろうか。」

そう思いながらブレスレットを触る。

そのブレスレットの色が白と黄色から黒になっている事を知らずに。

「本日は遠い所からようこそおいでくださいました。我々はこれから複数の国と平和の協定を結びそれぞれの国の為に尽くし共に発展していけるように尽力を尽くして参りましょうぞ!」

と新一兄さんの父である王様の一言から披露宴が始まった。

俺は緊張しながら服をタキシードに着替えて待機する。他の兄弟達も同じなのか一人を皆が静かにソファの所に座りながら待機していた。

そんな沈黙を破ったのが希生で

「ねえ、本当に四葉さん来ないの?」

と聞いて来た。

「なんでこのタイミングで四葉さんが出てくるのさ。」

「だって、千兄さんのダンスのパートナー見てないから分からないけれど四葉さん本当に来ないのかなと思って。」

「昨日会ったけれど、少しだけ体調悪いのか顔色が悪かったからすぐに帰って来たくらいしか会ってないよ。」

「そうなの?」

「うん、何でも少し悩み事がって言ってたような。」

「ふーん、それで今日は女の子とダンスするんだ。兄さんの浮気者」

「人聞きの悪い事を言うなよ、その女の子は俺と四葉さんの関係を知った上で協力してくれたんだ。」

「どうせ、お金目的でしょ?」

「いや、お金なんて渡してないよ?」

「「「「「なに?」」」」」

と俺以外の兄弟がソファから立ち上がってソファに座っている俺を見下ろす。

「どういう事だよ。」

と新一兄さんが問う。

「何で?お金皆渡したの?」

「いや、俺は長男だからそんなお金なんか渡さなくても女の子が来てくれたけれど。なあ?龍次?」

「俺か?俺は鏡を持って踊ろうと最終的に思ったが俺の国の王様がそれを見かねて村で一番の美女を用意してくれたって言ってたぞ。」

「え?龍次兄さんもしかして誰が来るとか会ってないの?」

とすかさず鏡夜兄さんが言う。

「ああ、何でも料理上手の女性らしい。もう始まる前に一度この部屋に訪れるって・・・・・」

コンコンコン

「ほら、タイミングが良いじゃ無いか!どうぞ、入ってくれたまえ!」

と姿勢を正しながらドアの方を向くとドアがゆっくりと開いて一人の女性が入ってきた。

「この度は龍次王子のダンスの相手をさせて頂きます、律(りつ)と申します。」

と入ってきたのは少し小太りのお母さんくらいの女性だった。

「俺のダンスの相手?」

と固まる龍次兄さんに俺達は軽く気にするなと言う意味で肘打ちをする。

「はい、この度王様から命じられました。何でも王子はご飯がお好きな方だと伺っておりまして、私の子供達もご飯が好きで王様と意気投合しまして。」

「子供・・・」

とソファに力無く座り込む龍次兄さんにそれを気にしないと言わんばかりの律さんは

「それじゃあパートナーの待機場所に行かないといけませんので挨拶だけとさせて頂きますが失礼致します。」

と言ってそのままドアを閉めて行ってしまった。

「龍次兄さん、俺龍次兄さんの事自分が大好きのナルシストだと思って嫌いだったけど、今だけは同情してやるよ。」

といつもは喧嘩ばかりの楓兄さんが珍しく龍次兄さんの肩を慰めるように軽く叩いた。

「鏡夜兄さんとかは会った人だよね?」

と俺が聞くと

「俺は実の兄の紹介で出会った女性だよ。今回特別にと言ってお金を渡して雇ったんだ。」

「え?お金を渡したの?」

「そうじゃなきゃこんな披露宴に出席しようなんて思わないさ。楓もそうだろ?」

「俺は女性が嫌いだから黙って付いてくるというのを約束してくれる人を探したら、一人見つかったからその人と参加する。」

「楓兄さんが女性をエスコートするのは珍しいから楽しみ!ね?千兄さん!」

と希生が言うので俺は興味津々で頷いた。

「もう少ししたらパートナーと合流しないといけないからその時に楓兄さんのパートナー教えてよ。」

と俺が言うと

「いいよ。」

と楓兄さんが答えてくれた。

コンコンコン

とドアが叩かれる音が聞こえた。

「はい。」

と新一兄さんが答えるとドアがゆっくり開き

「そろそろお時間でございますのでご準備をお願いいたします。」

と執事が部屋に入って来て俺達を呼んだ。

俺達は身なりを綺麗に整えて準備をすると部屋から出てパートナーが待つ所に行った。



「楓兄さんそれ本気?」

と希生が聞く。

楓兄さんの相手はなんとご高齢の女性だった。フゴフゴと歯が無いからか口を動かすその人は腰が曲がっていて杖を持つのもやっとの状態だった。

「この人は凄い人でさ、この歳でダンサーなんだよ。プロだから、本当にこの見た目なのに凄いんだよ。それに何より俺のチヨを可愛がって青いお皿でご飯を与えてくれる人なんだ。」

「チヨ?」

「俺の猫。」

「兄さん猫なんて飼ってたの?」

と希生が聞くと

「最近飼い始めた。キジトラの猫。」

と答えた。

「キジトラ?」

と龍次兄さんが何かを考える仕草をする。

「キジトラの首輪にチヨって書いてある猫か?」

と龍次兄さんが聞くと

「ああ、何で龍次兄さんが知ってるんだよ。」

と話掛けられて不機嫌になったのか少し苛立ちながら言う楓兄さんに龍次兄さんは気付かないのか

「その猫に青いお皿でご飯をあげていたのは俺だぞ。」

とダンス本番前にとんでもない告白をした。俺達は今では無いだろと思ったが龍次兄さんは俺達の視線に気付いていないのか

「うん、あの猫だな。よく俺の家に来て懐いてくれたから花の都の入り口に居るから、青いお皿を買ってご飯をあげているのは俺だぞ。」

「嘘だろ・・・・。」

と相当ショックだったのか楓兄さんはパートナーの女性に聞くが歯が無い彼女はただフゴフゴと言うだけで何も分からなかった。その光景を見た俺のダンスパートナーである雷夏が

「千のお兄さん達キャラ濃いね。」

と言ってきたので

「キャラって何?」

と聞くと

「性格ていうか性格の色みたいな感じ。」

「性格の色?時々雷夏の言っている事が分からない時があるな~。」

「千にはまだ難しい言葉かもね。そういえば今日従者とかであればダンスに参加出来るって知ってた?」

「「「「「「そうなの?」」」」」」

と兄弟全員が雷夏の言葉に食いつく

「何でもそれぞれの国以外の人も何人か参加出来るから最初のダンスは決まったパートナーだけれどその後は気に入った人とダンスをしてもしなくても良いらしいですよ。」

そう聞いて皆の目が変わり俺以外の兄弟が

「「「「「絶対可愛い子見つけるぞ!おう!!」」」」」

と円陣を組んだ。俺と雷夏は苦笑いをしながらそれを見届けた。

「そろそろお時間ですので広場にお集まり下さい。」

と言われるまで俺達はずっとそれぞれのパートナー選びを聞いてみたが、俺以外の全員お金お握らせてこの日の為に雇ったのが分かった。

俺はそんな方法があった事を考えも付かなかったので結果紫月と四葉さんが紹介してくれた雷夏が誘いを受け入れてくれて良かったと思った。

「そういえばさ、今日ね千にサプライズがあるの。」

と二列に並んでドアが開くのを待っている時に雷夏がコソッと俺の耳元で言った。

「サプライズって何?」

「驚くようなプレゼントよ!」

「プレゼント?」

「ええ、きっと驚くわ。でも一つは千に協力して貰わないといけないの。」

「何を協力するの?」

「サクラを少しだけ貸して頂戴!」

「サクラ?」

「ええ、サクラにはもう話は済んでるわ。」

「それでどうするの?」

「それは後でのお楽しみよ!フフッ」

と何かワクワクしているような様子で答えた。

ドアが開く、執事の格好をした人が中へと案内してくれる。

俺達は新一兄さんを始めに音楽が鳴る間に入って行った。

「楽しかったわね~!!」

と興奮しながら雷夏が俺の腕にしがみついて来た。俺は全体重を掛けられたので受け止めながらうんうんと頷く事しか出来ないくらいに楽しいと言うよりは練習したダンスの成果を間違えないようにと雷夏の足を踏まないように必死でそこまで周りを見たり音楽に浸れるくらい余裕は無かった。

そんな俺よりも雷夏はダンスを見ている王様達の様子を見ていたらしく、

「あれだけ練習したんだもの私達のダンスが一番きっと綺麗だったわよ!」

と言っては喉が渇いたと言って俺に飲み物を持ってくるように言ってきた。

俺は

「人使いが荒いなー。」

と言いながら飲み物を持っている人に声を掛けると

「ダンス上手かったじゃん。」

と声を掛けられてた。俺は驚いて目の前に居る飲み物を配っている人を見るとそこに立っていたのは執事の格好をした紫月だった。

「おま!!」

と言いかけると、口を手で塞がれて

「静かにしろよ!!」

と言われて周りに気付かれて居ないか確認すると皆は王子以外の人達のダンスを見ていたので俺の様子に気づいた者は居なかった。

俺はホッとしたが慌てて小声で

「どうしてここにいるの?見つかったら摘まみ出されるかもしれないじゃん。」

と聞くと紫月はニヤリと笑いながら

「大丈夫、実は新一王子の王様に頼んで一時的に旅館の空いた時間ここで働かせて貰えるように頼んだ。」

「いつそんなの頼んだんだよ。」

「お前が雷夏とダンスしているのを見ててこれは見守らないといけないと思って。たまたま王様に重箱を届けるように赤鬼の奥さんに言われて行った時に頼んだんだよ。」

「よく王様のお許しが出たな。」

「おう、何でも他にも頼んできた人達が居るからって言ってたぞ。」

「他に?」

「うん、あそこの机に居る女性居るだろ?」

「え?どこ?」

と俺はキョロキョロと部屋の中を見る。すると水色のドレスを着た細身の女性が片手に飲み物を持ちながらダンスを王様達から離れた場所で見ていた。

「あの女性がどうしたの?」

「お前・・・そんなに愛が無いなら俺がお前の横に居座るぞ。」

「どういう事だよ、今一緒に居るじゃん。」

「そういう事じゃ無くて、あーもういいや。早くあの女性に話しかけてやれよ。」

「そんな事を言われても俺雷夏に飲み物を持って来るように頼まれているから。」

「あんなの口実にしかないよ。俺に会わせる為のな、それに雷夏お嬢様は見てみろ。王様達の前に出る為の準備を始めてるぞ。」

「なんかするの?」

「サプライズがあるって言われなかったか?」

「言ってた。」

「それだよ、主催側の王様達には許可を得ているから大丈夫らしい。それよりあの女の人に声かけてみな、そろそろ恥ずかしくて帰るかもしれないぞ。」

「・・・・・分かったよ。そんなに急かさなくたって良いのに、全く行ってくるよ。」

と言って飲み物を一つだけ持って少し飲んで気持ちを整えてダンスを見ている女性の傍に行った。俺はその人に気付かれないようにソッと近づいてチラチラと見るとその女性は気付かないのかずっと音楽に合わせて踊るダンスを見ていた。

俺は女性に近づくとチラッと顔を見た。

するとその人の顔に見覚えがあった。

「・・・・・・・・・四葉さん?」

「え?」

とその女性が俺の方に向く。その人は遠くからでは全く分からなかったが四葉さんだった。

「何でここに居るの?それにどうしたの?」

と俺は頭の中が真っ白になる。

どうして四葉さんが水色のドレスを着ているのかも分からないし、ここに居るのかも分からない。四葉さんもどう説明をしたら良いのか分からないのかその場でアタフタしながら

「あの、それは・・・」

と言う。そんな俺達はどう言って良いのか分からないので二人で黙り込んでいると

「俺が誘ったの。」

と希生が近づいて来て言った。

「え?どういう事?」

「だって、せっかく四葉さん用のドレスを作ろうと思ってたのに四葉さんが参加しないって言うから無理にでも参加させようと思ったの。ただダンスは無理だよ、四葉さん高さがある靴が履けないから低い高さの靴しか履いてないから違和感を周りに感じさせちゃうから。下手したらバレちゃうし。」

「そんなリスクあるのに四葉さんを誘ったの?」

「そんなに怒らないでよ、だって変じゃん。兄さん達パートナー同士なら堂々として欲しかったんだもん。」

「怒ってないよ、ただ驚いただけ。でもそんな事をしてもし四葉さんの正体がバレたらどうするの?」

と俺が少し声を大きめに言うとさっきまでダンスのパートナーにもう一曲踊りましょうと言われてた新一兄さんがパートナーから解放されたのか傍に来て

「その時は俺達がどうにかしてやるって言っただろ?」

ニヤニヤしながら言ってきた。

「何で兄さんがそこまで・・・・・」

「だって俺はお前のお兄ちゃんだもん。お前がどれだけ四葉さんが好きかも知っている、ただ四葉さんはきっと迷惑を掛けられないって言って来ないだろうなと思っていたから別のダンスのパートナーを探すだろうなとは想定済みだったから希生が俺に四葉さんを呼びたいって言った時もすぐに許可したんだよ。」

「希生が言ってくれんだ。」

「そうだよ、希生もダンスの練習があるのに四葉さんの所に行ってサイズ測ってドレスを隠れて作ってたんだから感謝しろよ。良い弟が居て良かったな、千。」

「うん、ありがとう希生、兄さん。」

俺は二人に心から感謝した。心の中ではここに四葉さんを呼びたかったのだ。俺はそんな気持ちをくみ取ってくれた兄弟達と紫月に感謝した。

「四葉さんも来てくれて凄く嬉しいよ、ありがとう。」

「いえ、あれだけ頼まれては私も断る訳にはいきませんしそれに千のダンスも見たかったのです。お断りをした日から考えていたのです、もしあの時断らなかったら千と踊るのは雷夏さんでは無くて私だったのではと思ってしまったのです。そんな良くない感情でここに来てしまって本当に良かったのか、雷夏さんを紹介したのは私ですのにそれを否定してしまってあわよくば雷夏さんの場所に居たかったと思うのは神として許される事では無いと何度も希生王子にもお話ししたのです。しかし希生王子がそれがどうしたの?当たり前じゃ無いかと言って下さって勇気を出して来ました。千、ご迷惑でしたよね?」

「迷惑じゃないよ、俺も雷夏と練習している時に何度も四葉さんだったらなと思ったよ。でも俺もそんな事を言ったら雷夏に失礼だし、四葉さんや紫月が紹介してくれたのに俺だけワガママ言うのは違うって思ったんだ。だから俺も同じ気持ちだから、迷惑だなんて言わないで、思わないで。」

と俺は少し緊張が解れたからか泣きそうになるのを必死に堪えた。

俺が泣きそうなのが伝わったのか四葉さんはヨシヨシと頭を撫でて

「私は思いませんよ。とても素敵なダンスでした、よく練習しましたね。」

と言ってくれた。

「千はこのままだと尻に引かれるタイプだな。」

と何か新一兄さんが言っていたが俺は聞き流した。

そんな部屋の隅で俺達が話しているのを余所に音楽が止まりダンスが終わった。

「皆さん!」

とダンスが終わってまだ間もないのに余韻に浸らす事無く雷夏が前に出て大きな声で呼び掛けた。

「これから皆さんに贈り物をしたいと思います。平和に協定を結んだこの日を記念して1国民として感謝の言葉を歌にしました。どうか聞いて下さい。」

と言うと少し緊張気味の雷夏が礼をしてピアノの方を向いた。そこにはサクラが座っていて雷夏に指示を出していた。

「サクラが何で?」

と俺は独り言を言いながら見守っていると綺麗なピアノの伴奏が始まった。

「戦で失う友よ 君はどこに行ってしまったの 先程まで話してた皆も居ない

ここは戦場 皆が消えた

怒り狂う武器が人を刺す 刺した人はその場で倒れる その人と私は 何が違うのでしょうか

たまたまここに居ただけなのに 運命は時には厳しく 人を傷つけそして人を消す

私の友はどこに行った


戦が終わり平和が来た だけど友はここには居ない あの時言葉を交わした者は 全て皆散った 私だけは残ったのに 他の者は泣いて喜ぶ 私は喜びの感情は持てない

私の友が消えたから

たまたま生き残った者なのに 運命は時には厳しく 私だけを残して皆が消えた

私はどこに行けば良いの


孫が生まれひ孫が生まれた 私の後を命が繋ぐ 私は人の命を奪って ここに居るのは許されるのか 笑顔で抱きつく我が孫達 抱きしめる手が震える

私の手は血に濡れてる

たまたま生きた私に 生きててくれて有り難うと 言ってくれる孫達に 私は強く抱きしめた」


「ご静聴有り難うございました。」

と礼をすると皆がそれぞれ涙を流しながら拍手を送った。

この歌は戦で生き残った人の歌なのだ。俺も俺自身の事を重ねて聴いた、俺は戦で戦うときに他の者の死を考えただろうか。

そんな事を考えずに戦っているのではないかと、平和が訪れる為に領土を拡大する為に俺は必死に戦に出ては人を殺す考えしかしなかったのではと。

雷夏の歌が俺の頭にこびり付く、この平和をわざわざ壊しまで戦に行くべきなのかと。

俺以外の者にも家族が居て友も居る、なのに俺が指揮を取って良いのかと。

俺の迷いが伝わったのか新一兄さんは

「千、迷うな。平和で条約を結べるのはとても良い事だ、ただそれだけの国だけじゃない。中には妖怪の村のように奴隷のようにして扱われて助けを求めている国もある。その国を助ける為にはその国を支配している人達と戦わなくてはいけない。時にはそれが強行突破だとしてもやらないといけない時がある。

いいか、千が迷えば皆が迷う。そうすると千も含めて全体が指揮が採れなくなって皆が全滅する可能性があるんだ。俺達王子は指揮を採る者として隊全員の命を預かっているんだ。それだけは忘れるな。」

といつもふざけてばかりの兄さんが真剣な顔で言う。

俺は命を預かっているという言葉と雷夏の歌が頭に張り付いて背中に重い荷物を背負った気がした。

「はあ、千格好良かったな。」

俺は一時的な仕事が終わって外の空気を吸いながら休憩していた。

この後は急いで帰って旅館の仕事が待っている。

「疲れた。眠い」

と俺は手の甲で目を擦ると目の前にブレスレットが見えた。

あの祭りの日に買ったブレスレット、千の弟王子の出店で少ない手持ちで買ったブレスレット。値段はそれなりに安かっただろうが俺は買うのに最初はためらった。

恋は叶えたいという気持ちと生活の事を考えると貯めて置いた方が良いのかと思うとなかなか決意が出来なかった。しかし弟の翼(つばさ)があるブレスレットを見つけて俺に差し出した、それが白と黄色のブレスレットだった。

白はあいつの純粋さに黄色は狐の一族の尻尾の色。

俺は見てすぐにそれを買った。色を見てから迷いは無かった、ただそれを付けてアイツに会ったときに後悔した。

千も同じブレスレットを付けていたのだ、しかも水色の。

水色が誰を指しているのかはすぐに分かった。と言っても水色だけじゃなくて今まで千を見ていて千が誰を好きなのかは知ってた。

でも千は気付かなかったから、自分の気持ちに気付いていなかったから俺にも希望があると思っていた。

どうかこのまま気付かないでくれと何度も見えない神にお願いしていたのだ。

なのにあの時会った千はいつもと違って何かに気付いていた。

そう、千が好きな人が龍神の四葉さんだとういう事に気が付いたのだ。

俺は早く千に気持ちを伝えたら良かったのかもしれない、そうしたら千は四葉さんじゃなくて俺を見てくれたかもしれない。

でも、居ない神は俺の願いを聞いてくれなかった。

千と四葉さんが丘の向こうから戻ってきた時、手を繋いでいるのを見て心臓が潰れそうになる程痛かった。笑顔で迎えたけれども、千の隣はこれから四葉さんが居るのだと思うと心が潰されそうだった。

だけど俺は一番の友人だから、千の幸せを祝わないのは友人として駄目だと思って俺は祝った。だからこのブレスレットには一番の願いを毎日祈る。

『千が戦や視察に行っても無事に帰って来ますように』

俺はいつも触りながら願う。そんなに触っているからなのかブレスレットが最近黒くなってきた。

「俺触りすぎだよな。」

と独り言を言うと

「願いを叶えたいのか?」

と何処からか声がした。

「誰?」

と答えるとまたどこからか

「お前の願いを叶えてやろうか?」

と聞こえる、その声は手首に付いているブレスレットから聞こえた。

「なに、どういう事?」

「俺はお前の願いを叶えてやる。アイツが欲しいんだろ?その願い叶えてやるぞ。」

「欲しいって、アイツは物じゃないぞ。」

「何を甘いことを、戦の神はいつでも千の命を狙っている。そんな千を守りたくないのか?」

「守りたい、守りたいよ!!でも俺は隊には入れないから。」

「そんな事をせずともお前にしか出来ない事がある。」

「それは何?」

「龍神の血を飲め。」

「龍神の血を?」

「そうだ、龍神の心臓の血を飲め。そうすればお前の願いが叶う。」

「そんな事をしたら四葉さん死んじゃうじゃないか!!」

「龍神は心臓を刺されても死にはしない。神は特別だからな。」

「じゃあ血を貰えば良いの?」

「いや、手からの血よりも心臓に近い方が良い。そうすれば願いが叶う。千を助けたい時その時にお前は龍神を刺すのだ。」

「俺にはそんな事なんて出来ないよ、無理だ。四葉さんの事も大好きなんだ。傷つけるなんて出来ないよ。」

「そうか。今は出来なくても良い、いざと言う時その事を思い出せ。きっとお前の役に立つ。」

そう言ってブレスレットから声が聞こえなくなった。

俺は黒くなったブレスレットを眺める。夕日が沈みかけて紺色の空と共に月が顔を見せて来た。

俺はその沈みかける夕日を見ながら今の出来事がどうか幻であるようにと嘘でも四葉さんを傷つける事が無いようにと願いブレスレットを外してポケットにしまった。

「雷夏今日は有り難う。」

俺は雷夏を雷の国の門まで送るとお礼を言った。

雷夏は少し恥ずかしそうにしていたけれども

「良いの、これは政治を担う者の娘としてやれる事を考えただけだから。」

と言ってプイっと他の所に視線を持って行って目を合わせてくれない。

「俺雷夏の歌凄く良かった、でも俺は戦に皆を連れて行く側だから心を傷めたよ。俺の指示一つで人は死ぬんだって事を考えさせられた。」

「そうよ、それが戦だもの。」

「どうして雷夏はあの歌を歌ったの?」

「簡単じゃ無い、戦が嫌いだからよ。」

「戦が嫌い?」

「そう、言ったでしょ?私には能力が無いって。」

「うん。」

「能力が無い者は能力がある者に奴隷にされるのだって簡単な事なの。能力で縛れば私達は解けずに従うしか出来ないから。」

「そうだけど、俺達はそんな事をしたくないよ。」

「千はそう考えるけれども、今まで私達の雷を利用として国に来た者達は居たわ。ただ雷は起こそうとして起こしている訳じゃ無いから意味は無かったんだけど。それでも機械がある分それを狙ってくる国も村もあるわ、だから誰か攻めてきた時は私達も武器を使って対抗するの。能力者に負けると知りながらも私達が出来る事をするの。まああの国を口から手が出る程欲しいって言った人達は居ないけど。でもいざとなったらそうしか出来ない。

あの歌は元々私の知り合いのお爺さんの歌なのよ。お爺さんは違う国の出身で戦争に巻き込まれて兵士として戦地に行って何もかも無くしてしまったっていつも泣いてた。それで迷い迷いながら私の国に来たの。

今は幸せに生きているけれども、それは見た目だけかもね。本当は心はまだ寂しくて辛い思いをしているのかもしれない。それは私には分からない。

でもね、千。一つだけ覚えてて欲しいのは戦でどんな事があっても諦めて死を選んでは駄目よ。千が居なくなったら皆が悲しむし四葉さんも紫月も悲しむわ、もちろん私もね。

それだけは忘れないで。」

「分かった。次の戦がいつあるのか俺には分からない、でもその時もきっと雷夏の言葉を忘れないよ。」

「きっとよ、死んだりなんかしたら私、ひっぱ叩きに行くからね。」

「それは怖いな、気を付けるよ。」

「フフッその意気よ。それじゃあ私は私の国の王様と一緒に国に帰るわ!文をちゃんと寄越しなさいよ!」

と言って手を大きく振って雷夏は国に帰って行った。

俺は家に帰ると桜の木の下で寝転がった。

「お風邪引きますよ。」

とサクラが俺に話掛けてくる。俺は桜の木を見ながら

「サクラは俺が死んだらどうなるの?」

「はい?」

「どうなるの?」

「私も死にます。」

「え?」

「私は千と魂の繋がりをしたのです、千の魂が無くなれば私も死ぬに決まっているでしょう。」

「初めて聞いた。」

「村に居た頃に授業で習いましたよ。」

「そうだっけ。」

「はあ、それで何が言いたいのです?」

「俺は戦で死ぬ事があってもサクラは巻き込みたくないなって思ったの。」

「何を言い出すかと思ったら。私だって何もせずに死ぬつもりはありませんし、器にする時に千と共に生きる事は覚悟していました。得に王子の数字を持つ者の器になるのは普通の生活は送れない事は分かっていましたし。」

「そうなの?」

「ええ、私の事を封印した王子が仰っていましたよ。お前の死はとても残酷になるだろうと。」

「どうして?」

「王子は戦に狩り出されるもの。器になった者が弱ければ私の声明を広げること無く死に至る。そう言いたかったのでしょうね。」

「なるほどね。」

「でも、今はそうじゃないと千が証明してくれているでしょう。千が恐怖だけじゃ無くても第五番目の王子こと千とその専属執事の化け狐のサクラとして最近では街中では有名だそうですよ。」

「そうなの?なんで?」

「さあ、それは今度街に行った時に聞いてみたらどうですか?」

少し意地悪そうな顔をする化け狐のサクラを見て俺は絶対にサクラは死なせないと心に誓った。


俺は次の日久しぶりに一人で村に帰った。サクラは仕事があるらしく残るとの事だった。

村の人達はいつも優しく俺が帰ると皆が俺に

「おかえりー!!」

と言って子供達は俺に飛びついて来る。それが可愛くて俺は少し一緒に遊ぶ。

俺が村に帰った目的は一つだった。それは化け狐の群れに行くこと。

化け狐は家の中で一緒に過ごす奴も居るが殆どの者が化け狐同士で固まって器とは違う建物で暮らしている。俺は子供達と遊んだ後真っ直ぐ化け狐の建物に向かった。

入り口を通ると沢山お化け狐が昼寝をしていた。その中で俺は一匹の化け狐を見つけた。

「千賀(ちか)の化け狐―!!」

と呼ぶと毛繕いをしていた化け狐がチラッとこっちを見て作業を止めてこっちに近づいてきた。

「どうしたのですか?王子。」

と言う千賀の化け狐に目線が合うようにしゃがみながら

「ねえ、化け狐の魂の解放の仕方教えて。」

と聞く。驚いた顔をした化け狐は、

「それは一体何故ですか?サクラが何かしたのですか?」

と聞いて来た。

「いや、何もしていないよ。ただ今後戦で俺が死ぬとなった時にサクラを生かしてやりたいんだ。何か方法は無いかな。」

「それは・・・ただサクラはそんな事は望んでいないと思いますよ。」

「それでも知りたいんだ。俺も死にに戦は行かないよ、何が何でも生きるよ。雷夏と、友達と約束したからね。」

「そうですか・・・ただ私から聞いたとは言わないで下さいよ?」

「分かった、言わない。」

「化け狐が器から解放される為には頭と切り離すと良いと聞いた事があります。ただこれに成功した者は今まで居らず、歴史でも成功した者がいるとかいないとかでほぼ伝説なのです。」

「伝説。」

「はい、好きでも無い人の器になって解放されたがった化け狐の世迷い言と言われている位ですから。なので本気にはしないで下さい。」

「分かった。その言葉を覚えておくだけにしたらもしバレてもサクラに怒られる事は無いよね?」

「ええ、それ位でしたら怒られないと思いますが絶対に命を粗末にしたりしてはいけませんよ。」

「分かった。教えてくれて有り難う。」

俺はそのまま化け狐の建物から出て空を見た。

今日の空も広く青々とした色が広がっている。俺は一つサクラに秘密が出来た。

でもそれはきっとサクラを守る為の秘密になるだろう。

俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。この選択が来ない事を願いながら。

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