貴方を今でも私はお慕いしております 第二章
凛道桜嵐
第二章
登場人物
主人公 千(せん)
背中に5の数字が入っている王子の一人として選ばれた男の子。化け狐一族で、妖力は水。周囲の湿度や酸素に含まれた水や周囲の水を操って攻撃が出来る。ただ、この能力をあまり使っていないからどんな技を使えるのかについて本人は分かっていない。
身長は178㎝の高身長だが心は少年で感じた事や思った事を顔にも態度にも出してしまう。最近の悩みは村と王子としての生活環境が違いすぎて村にいた時のような生活がしたいと願っているが王子の掟としては認めてくれない事。
化け狐 サクラ
198㎝弱の背丈を持つ人型の化け狐。千とは魂の繋がりで千を自分の器として認めた。魂の繋がりであり相棒である千と常に一緒に行動をしている。千を背中に乗せる時は獣化になり、大人二人は乗れるくらいの大きさになれるが本人曰く気安く乗られるのは好きでは無くプライドが高い。昔は暴れて沢山の国や村を崩壊しては恐れられる事に喜びを感じていたが3番の数字を持つ王子に封印されて洞窟の中で暮らしていた。千が器になってから千の行動に振り回されるが魂の契約があるからか千の事は一番信用していていつまでの幼い子供のような性格でいる千の世話をするのが最近は少し楽しかったりする。夢はサクラの名前で世の中に恐怖で震え上がらせる事。
龍神 好実四葉(このみ よつは)
千の家に繋がる道の門の所にある桜の木に惹かれ桜の花を見ていた所を千に見つかり、四葉が住む村の代表として王子達に挨拶をした。昼は村の妖怪達に評判の薬屋さんをして、夜は龍の姿になり迷える子供達の魂を天に返す仕事をしている。
見た目は174㎝で年齢は千よりは年上の男性。髪は白く千曰くとてもサラサラの風になびく姿は静かなせせらぎの川のようで美しいらしい。
最近の悩みは今まで奴隷のように扱われていた村が幸せな生活を送る為にはどうしたら良いのかという事である。またお漬物を最近始めたがなかなか納得がいく味にならないのも悩みの種である。
村の一族
千の両親
千が生まれた時に数字がある事に気が付いていたが数字がある者は化け狐に必ず殺されるという昔からの言い伝えがあった為本人には内緒にしていた。
村の中では爺様と実の兄の亜廉(あれん)が知っているが王子として正式になった日には他の村人も知り、今まで我が子の死ぬかもしれない儀式までよく耐えたと慰められて今も村で普通の暮らしをしている。
実の兄 亜廉(あれん)
千の実の兄。6個違いで亜廉にとっては千は可愛くて仕方が無い存在。しかし王子としての数字を持っている事とその数字がある者は化け狐に殺される言い伝えを聞いて千が器の儀式の時は気が気じゃ無かった。王子として頑張る千だが最近元気が無い事に薄々気付いている。兄としてどうにかしてあげたいと密かに思っている。
爺様
千の村に住む一番偉い爺様。そして化け狐のサクラの師匠でもある。千が生まれた時に数字がある事を千の両親から相談されて言い伝えを教えたのは爺様だった。両親が我が子の未来を知って嘆き悲しむ姿に心を傷め少しでも化け狐が千を殺さないようにと千が洞窟の中に入って居る時に爺様の化け狐と共にお祈りをしていた。ただ、その事については村人も含めて千も知らない。爺様は自分の事をあまり話さないので村人の間では年齢は幾つなのかという話が良く耳にする。
兄弟の盃を交わした王子達
1番 新一(しんいち)
鎖骨に1番の数字を持つ1番上の王子。能力は炎で弱点は水と炎を操るには力が必要なので疲れてなかなか能力の力を維持する事が出来ない。また性格上やる気がある人物では無く、なるようになれという性格なので戦の時も基本は「なるようになるさ」というスタイルで戦う。最近の悩みは盃を交わした兄弟達が冷たいこと。一人っ子なので兄弟が出来る事に1番楽しみにしていたのも新一だった。「おにいちゃんだぞ!」と言って兄弟に甘える事が最近の楽しみである。
2番 龍次(りゅうじ)
腕に2番の数字を持つ王子。能力は風使いだが力のコントロールが出来ず戦地となった場所を壊滅したり味方にも被害が出るので国の中では厄介者にされているが本人は気が付いていない。他者にヒソヒソと悪口を言われていても「俺が格好いいから噂をしているんだな!子猫ちゃん~」と言って近づくので皆からウザがられている。根っからの女好きだが女が好きというよりもチヤホヤされるのが好きなだけで本気でその人に恋をしている訳では無い。因みに千の事を馬鹿にしていたが龍次も初恋はまだである。
3番 鏡夜(きょうや)
舌に3番の数字を持つ王子。能力は千里眼である程度の距離であれば何が起きているのかを見ることが出来る。眼鏡はその距離を伸ばそうとしてわざと視力を上げているがそれで見える距離が伸びる事は無い。逆に千里眼を使う時は目を瞑ってしか出来ないので意味が無いことを本人は気が付いていない。鏡夜にも実の兄弟が居るが特に仲が良い訳でも無く会えば話すくらいのあっさりした関係の10個離れた兄が居る。
ただ、兄の影響を受けて和風な家を好むようになったが本人は「兄は関係ない、自分の好みだ。」と言い張っている。
4番 楓(かえで)
左足のふくらはぎに4番の数字を持つ王子。見た目は前髪が目を隠す程伸ばし背中を丸くしてのそのそと歩いている。能力が闇使いというのもあるからか常に闇のオーラを発しているが本人はその方が居心地が良いと思っているので気にしない。ただ新一と同じ能力は使い手で楓の場合も体力の消耗が大きく体力が新一より無いので疲れやすく戦ではあまり派手な活躍はしない。出来れば戦も帰りたいと思って影で終わるのを待ったりする事もある。姉が二人居るので良くおもちゃにされて扱き使われていたので弟が二人出来て兄という立場を手に入れて嬉しいからか弟達の事はとても大切な存在になって来ている。
ただ、恥ずかしいので本人達には絶対に言わない。
兄弟の中では龍次が性格が合わないので嫌い。よく率先して龍次を虐めるのも楓である。
そして極度の人見知りなので女性達を囲んで飲む時は千と一緒に端でお酒を飲むのが好き。女性が近づこう者ならシャーと威嚇する程苦手。(原因は姉達のせいで女性に対して夢を持っていない。)
6番 希生(きなり)
耳裏に6番の数字を持つ王子。いつも派手なメイクをしていて美容が大好きな男子。千よりは少し下の男の子でよく千の背後にくっ付いて隠れたりする。新一と龍次と違って女性が根っから好きというよりも女性達とメイクや最近流行なファッション、美容について話をするのが好きなだけでこの人が好きという感情は特にない。
国に仲の良い幼なじみ(男)が居てよく遊んだり毎日文通をする程の仲良しである。能力は氷使いの冬。その場がどんなに熱い環境でも冬の環境にする事が出来る。体力はそれなりにある為ある一定の距離であれば基本はそこまで体力を消耗せずとも冬にする事が出来る。
ただ戦いの時は相手を凍らせる事に夢中になって他に目を向けていないと自分の身体も一緒に氷になってしまう為不意打ちで攻撃された場合身体を傷つけられるというよりも壊されてしまい死に至る事がある。
1番年下で甘えん坊だが本当は結構腹黒くて計算高くどんな頼み方をすれば面倒な仕事をしなくても済むかを常に考え、兄達に仕事を押し付けてはマッサージに通ったりするのが好き。
花の都
王子達が住む場所。それぞれ王子達の家に続く道の入り口に門がありそこには個性溢れる様々な飾りがされている。その門の入り口にある中心部には城がありその建物の中に入っていくと通行証を持った商人や王子達に商品を渡して使用して貰うまたはそれにお墨付きをして貰う事で売り上げを伸ばそうとしている人達が出入りしている。中にはその人々の群れを利用して物乞いをする人達も居る。王子の間は基本は王子以外は立ち入り禁止されている。中には2階建ての部屋が広がっていて寝転がることが出来るソファとキッチン(料理が出来るのは新一、龍次、鏡夜、楓だけ)があり良く材料を買ってきては料理を自分達で作り兄弟達でご飯を食べる。またそれぞれに部屋が与えられているので一人になりたい時はその部屋に籠もる事も出来る。1階は兄達の部屋があり、2階に弟達の部屋がある。
花の都にある王子達の家に続く道の門の所は王子の家で働いている者や王子達以外は固く禁じられていて他の王子の所で働いている者が違う王子の家に行く事も固く禁じられている。これに反した者は死刑、または流刑されてしまう。
王子の掟と村の掟
王子と村の掟は厳しく守らないと王子であっても反逆者として死刑になることがある。
例えば王子が国や国民に対して殺しをした場合や王子の力を使って国中を混乱させた場合は特別な許可の元死刑にされる。実際に過去の王子達の中で王子の権力を使って好き放題にした事により同じ兄弟の盃を交わした兄弟に殺されるという事はあった。
また、王子の身の危険を守る為に厳重に警備を強化しており村人と深い関係を持つことや自分達の城に招き一緒に食事をする事は禁じられていて王子の家で働く者達との交流も控えめで無いといけない。
また王子は常に戦では戦闘を立たなくてはいけなく、それぞれの出身の国、村の軍隊の指揮を取るのも王子達の仕事である。
また戦での王様はそれぞれの出身の1番偉い人が戦の中心部に座らないといけない。
(例:千の村の1番偉い人は爺様なので爺様が戦の時は中心部に他の王様と一緒に戦が終わるまでは座って待機しておかないといけない。)
王子達は偉い人達(王様)を守りそして領土を拡大していく為に尽力しなくてはいけない。
「ここには赤色の食べ物を入れるので野菜はこのラインから入って来ないでください!」
と横でグチグチというサクラの横で俺はさい箸という長い箸を使用して大きな重箱にどんどん食べ物を詰めていく。
ここにある料理は、俺はキッチンに入れないのでメイドさん達が作ってくれた。俺はメイドさん達の作っている姿を部屋の入り口からジーと見ていたが無表情で作るメイドさん達に
「龍神様と一緒に食べるんだから笑顔で作ってよ!」
とお願いすると目を合わせずに下を向きながら少し口角を上げて頷いてくれるだけで誰も俺の話を聞いてくれなかった。俺があまりにも入り口で騒ぐものだからサクラが執事の仕事を終えて空の重箱を抱えて現れて俺がメイドさん達を困らせているのを見て頭を小突いたくらい俺は少しでも笑顔が詰まったお弁当にしたかったのだ。
そんな俺の気持ちを魂の繋がりで分かるのかおかずを詰めるならリビングでも出来ると言ってくれて俺は素直にリビングでおかずが出来るのを待ったのだ。
それなのに俺が好きなようにお弁当に詰めたいのにサクラがこうしないと見栄えが悪だのもっとここに色を加えましょうだのと色々言うので好きなようにお弁当を詰めることが出来ない。
「分かってるよ!もう、俺の好きなようにさせてくれよ!」
「駄目です。千の好きなようにしてはグチャグチャになってしまうでしょう。料理は見た目も大事なのです。」
「お腹に入れば皆同じだよ?」
「そういう事を言うんじゃありません!全く少しでも四葉さんに喜んで貰いたいなら話を聞いてください。」
と溜め息をつくサクラに俺はブーと口を尖らして文句を言う。
俺が住むこの家ではメイドの他の従者達は基本は俺と口を聞くことは禁じられているらしく声を掛けても挨拶どころか目も合わせずに礼をするだけだ。
同じ村の出身だから暖かい人達なのは知っているが俺は本当は村の時のように皆でご飯やお話がしたい。そんな時に出会ったのが好実四葉(このみ よつは)さんという龍神様だった。俺は四葉さんが桜の木を見ている姿があまりにも美しくて心臓がキュウとなったがこの感覚はまだよく分からない。ただ四葉さんの手は成長し続けている俺の手よりも小さくそして指が細く色白の綺麗な手をしていた。その手の感触や四葉さんの姿が忘れられなくて先日俺は四葉さんの家に遊びに行ったのだ。食卓を囲んでサクラと四葉さんとの食事は楽しくて四葉さんの手料理はどんな食べ物よりも美味しくて気が付いたら全部無くなってしまったのだ。なので今日はお詫びとしてお弁当を持って一緒にご飯を食べようという事にした。文で四葉さんに予定を聞いて俺の王子としての仕事を調節して今日はたまたま自由に行動が出来る時間が出来たので四葉さんの家に遊びに行くことになった。
俺はサクラの指示の元どんどん食べ物を詰めていきながら四葉さんはこのお弁当を見てどう思うだろうかと思いながら四葉さんの顔を思い浮かべてウキウキしながら詰めていく。
「なぁサクラ、四葉さん喜んでくれるかな?」
とサクラが違う重箱にどんどん詰めていくのを見ながら聞くと
「四葉さんなら喜んでくれると思いますよ。」
とこちらを見ずに集中して弁当を作っている。
「でもさ、俺料理を作る所からしたかったな~。」
「仕方ありません。家ではメイド達の領域ですので王子は入れません、また料理をなさるのであれば王子の間にあるキッチンなら使用可能ですが他の王子達に何か言われても私は知りませんよ。」
と今俺達二人しか居ない部屋なのに執事モード全開のサクラが冷たく俺をあしらう。
でもサクラが言っている事は事実でこの家で俺が出入りを許されているのは俺の部屋とリビングそしてそこを行き来するための廊下のみでサクラの部屋は勿論他の従者の部屋すらも見せて貰った事が無い。
また王子の間のキッチンで料理を作ると言う考えは良いのだが何しろ俺は料理が出来ない。兄弟の盃を交わした王子達もそれは知っていて、皆で順番に最初はお昼ご飯を作ろうという話合いが行われたが俺と希生だけは壊滅的に料理が出来ない。いや希生は包丁で手を切ったら困ると言って包丁を握らなかっただけだが、弟二人はキッチンに立つ事を許されなかった。今では1番上の兄の新一兄さんから始まり龍次兄さん、鏡夜兄さん、楓兄さんの4人が日毎に料理を作ってくれる。
俺はいつもその姿を見てお手伝いをして料理の仕方を学ぼうとするが皿出し以外の事はするなと言われて落ち込む日々だ。
「よし!出来た~!!」
と俺はサクラに言われた場所におかずを大量にギュウギュウに詰め込んで余白が全く無い詰め込みお弁当になったが何とか完成した。サクラも同じタイミングで詰め込みが終わったらしく見てみたら俺よりも沢山余白があってまだ入りそうだったので何か詰め込もうとしたら
「そんなに詰め込んだら綺麗さが失うから止めろ!」
と怒られた。
怒る時だけいつものサクラになるので普段の時からそうだったら良いのにと思ってしまう。
でも今日はこれから四葉さんと一緒にご飯を食べるのだ。俺は楽しみですぐに頭を切り替えてお弁当を風呂敷に丁寧に包み出かける用意をした。
自分の部屋に戻ってクローゼットを開ける。
いつもならサクラに着替えさせて貰うが今日は俺が考えたコーディネイトというやつをしてみようと思う。弟の希生(きなり)が持っていた本に『お洒落に今日もお出かけしちゃおう!!』という題で沢山服の写真が載っていたので希生に聞いたら
「お出かけするのにお洒落は鉄則。それにこれは特集だから全てを揃えなくてもいいの。ただ自分が持っている服と合わせて着ても良いんだよ。」
と教えてくれた。俺は洋服の入っているクローゼットから選ぶがなかなか決まらない。俺の一番のお気に入りは村で着ていた服である。ただこの服は戦いの時と村に帰る時に着るだけで今は普段に着るのは王子としてあまり良くないように思われているから着る機会がかなり減った。
俺は悩みながらどうしようかと考える。俺の一番のお気に入りを着ようかそれとも希生が持っていた本に載っていた服装をしようか悩む。俺がなかなか決まらないからかサクラが背後から
「今日の天気も含めて四葉さんへの印象を好印象にするにはこちらの水色はどうでしょうか?」
と水色のダボッとしたTシャツを渡して来た。その水色はあの夜に見た子供の魂を天に昇らす時に真っ黒な暗闇が光に灯されて明るくなった時の色に似ていた。
俺はすぐに気に入り
「うん!これにする!」
と言い俺はすぐに着替えた。
コーディネイトを自分で考えたかったが最後はやはりサクラの力を借りてしまった。とすぐに落ち込む
「なんでサクラってそんなに何でも出来るんだ?」
と聞くと
「これでも執事ですから、と言いたいが俺も勉強中だ。亜廉(あれん、実の兄)の化け狐達と交流しては最近の流行についてや若者の着る物を勉強しているんだよ。お前が希生みたいにそういうのが得意ならまだしも興味全然無かっただろ?お前がお洒落したいって思っているのが分かったから急遽洋服を買ったんだ。感謝しろよ!」
と言われた。
「何でお洒落したいって俺が思うんだ?」
「お前鈍感すぎるだろ。まあ、今はその方が幸せだと思うしそのままで良いと思うぞ。」
「おいバカにしているだろ。」
「してないよ、ただ千がどうしてそんな気持ちになるかは俺等は魂の繋がりで分かるから良いけれど四葉さんには千の気持ちは言わないと分からないから素直に伝える事だぞ!良いな!」
と俺の両肩にポンポンと軽く叩いてサクラは部屋の外に行ってしまった。
「四葉さんに素直な気持ちか~。何だろ~。」
と考えながら着替えた。
「凄く美味しそうですね!」
とお弁当箱を机一杯に並べたのを見てまるで宝石箱を開けて喜ぶ子供のような顔で見る四葉さんの顔は今日もとても美しくて綺麗だった。そしてそんな美しい人が子供のように喜ぶ姿は愛らしく俺はその顔が見たくて仕方なかったのだと気がつきその笑顔をずっと見ていた。そんな俺をサクラが小突いて咳払いをする。俺は顔が熱くなるのをフルフルと振りながら気持ちを切り替える。
「「「いただきます!!!」」」
とそれぞれ食べられる量のご飯とおかずをお皿に乗せ料理に向かって手を合わせながら言う。
俺は真っ先に掌を解放してお箸でご飯を食べる。朝炊きたてのご飯はふっくらしていて美味しくとても甘い、俺はバクバク食べているとサクラが
「最初は野菜から食べなさい。」
と怒る。俺は口に食べ物を含ませながら
「うん!わっわわー(うん!分かったー)」
と言うとサクラが口に物を入れながら話すなと言い出す。俺はその話を聞こえないという顔をして無視をする。そんな俺達を優しく見守りながら四葉さんも美味しいと言ってくれた。俺はその言葉が嬉しくてどんどん食べる。
するとガラガラと扉が開く音がした。
「ごめんくださーい。」
と男性の声が玄関口から聞こえる、なんだ?と思って俺達は玄関のある方を見ると包帯グルグル巻きの人が立っていた。俺はビックリしてお箸を落としそうになった。
「四葉さん!すまねぇ、痛みが取れなくて痛み止めとかってあるかー?」
と部屋の中を覗き込んで聞いて来る。
俺とサクラは初めて包帯グルグルの重傷者が普通に立って歩いているのにビックリしていたが四葉さんは何ともないように
「ありますよ~。」
と言って玄関口まで行って下駄を履くと壁一面にある引き出しの中から乾燥した草(薬草)を一掴み取りだして黒に近い灰色の臼の中に入れて行く。
何本か草を合わせるとまた部屋の床に座って両膝を臼が動かないように挟むとゴリゴリと何かを押しては引いてをしているので俺は手に持っていたお皿とお箸を机の上に置いて、四葉さんの近くに行くと何か両面の真ん中にハンドルが付いた丸い物を臼の中にある乾燥した草を細かく潰すようにゴリゴリと丸い円を転がしている。
「これは何?」
と聞くと四葉さんはまだ転がしながら
「こちらは薬研(やげん)と言う道具ですよ。これで薬を作るのです。」
と言って暫くゴリゴリとやっていると粉末に出来たのか四角い半紙のような物に粉を飛ばないようにソッと置いて包む。俺はその行動をずっと見ていた、四葉さんは粉を包み終わると俺の背後を通ってそろばんが置いてある所に行き
「いつもの頭痛薬です。」
と言って包帯男に渡す、その包帯男は
「ありがとう!ありがとう!やっぱ四葉さんの所の薬草じゃ無いと効果無いから急いで来たよー!」
「そうでしたか!きっとすぐに良くなりますよ。大丈夫です。」
と言うと包帯男はいくらかお金を渡して
「ご飯中にすまなかったなー!」
と言って俺達をチラッと見て言うとそのまま去って行った。
俺はその去って行く姿をただ呆然と見ていた。
「あの人あれだけの重傷なのに頭が痛いだけなの?」
とお金を片付けている四葉さんに聞くと
「あの方は包帯男さんですよ、見た目に新しい傷はございませんから大丈夫です。安心してください。」
と言った。
「包帯男?」
と聞くと
「えぇ、ここに住む妖怪さんですね。」
と何でも無いように答える。俺はへぇーと言いながらもう一個気になるのがあったのを思い出した。
「ねぇ!このゴリゴリは何?」
「薬研ですか?」
「そう!薬研って何?」
「薬研はこうやって乾いた草と言いますか、薬の材料になる草だけを使って薬を作る道具です。昔友人から貰いましてそれから使用しているんです。
この細長い舟形のこのV字の所に乾燥させた草を置きまして、エイヤーとこの持ち手が両面に付いた円形をゴリゴリと擦るんです。その時にポイントは左右の持ち手を前後にして草とは斜めに擦ると上手く出来ますよ。」
「へぇ~、ねぇ!後でもしお客さんが来たら俺がやっても良い?」
「調合は私がしますが、お手伝いで良ければ出来ますよ。」
「本当?じゃあ次にお客さんが来たら俺が手伝うね!」
と言うと四葉さんは微笑んでくれた。俺はすぐにお客さんが来ないかな~と思って玄関口で待っているが誰一人今はお買い物をするのに夢中なのかそれともお昼時だから寄らないのか分からないが来ない。すると家の奥からサクラが
「食事中ですよ!千、早く戻ってご飯を食べなさい。」
と叱ってきた。俺はそそくさと戻り四葉さんも
「食事を中断してしまいすみません。」
と謝ってきたので
「四葉さん何も悪いことしてないよ、俺が今聞きたかっただけだもん。それにサクラが口うるさく言う相手は決まって俺だけなんだ。」
「そうなのですか?」
「そう、何でも爺様に俺への世話をきちんとするようにって言われているから自分の役目だって言って家でも外でも口うるさく注意するんだよ。」
と軽く溜め息をつきながら食事を再開する。
「それでもお二人はとても仲良しさんなのですね。」
と微笑みながら言う四葉さんに俺はサクラの顔をチラッと見るとなんだ?と言わんばかりの顔をしていたが四葉さんの言葉が嬉しくて
「うん!俺達魂の繋がりだから!」
と言ってまた一口今度はおかずを口の中に放り込んだ。
ご飯を食べ終わりお腹がパンパンに膨れ上がったのを擦りながら
「沢山食べたー!!」
と叫ぶとサクラが
「そう言って横になっては牛さんになりますから絶対に駄目ですよ!」
と言って注意してくる。俺はまさに横になろうとしていたのを見透かされたので急いで身体を起こすと空になったお弁当をサクラが丁寧に片付けて風呂敷に包もうとしていた。
四葉さんはお茶のお代わりを出してくれて居て俺は何もする事が無くボーとしておこうと思ったのにと思った矢先に玄関の所に誰か立って居る。
俺は気になって膨れ上がったお腹を抱えるようにしてよいしょと言いながら立ち上がり玄関の所に立って居る人に声を掛けた。
「そこで何をしているの?」
と言うと小さい女の子が髪型はお団子にして着物は下がすす切れており顔も泥だらけの顔をしていたが愛らしいクリクリの目で俺に
「すみません、おっかさんがお腹が痛いって言っててお薬欲しくて。」
と言う。その声が部屋の中まで聞こえたのだろう四葉さんはすぐに玄関先に来て
「お母様がお腹が痛いのですか?」
と女の子に目線を合わせるように中腰になって聞く。女の子は俺の背が高くて怯えていたのか俺の腹が出ているのが怖かったのか分からないが、四葉さんが話掛けて顔を覗かせた時凄く顔がホッとした顔になったのが分かった。
「うん、今朝からお腹が痛いって言っててもしかしたら昨日飲んだ水が原因かもって思って昨日飲んだ水が少し味が変だったのを夜中に飲んだ時に気が付いて私が居ない時におっかさん飲んでたらそれが原因かなと思って。」
「お医者様に診て貰えたり出来ました?」
「ううん、診て貰えて無いよ、だってそんなお金無いし。でもあんなに痛がっているからお腹痛い薬だけ欲しいんだ。ここしか買わせて貰えないから。」
俺はえ?と思ったがすぐに四葉さんが
「分かりました!それでは千。初めてのお手伝いですよ!この子のお母様の為にも良い薬を作りましょう!」
と言って家の中に入ってしまう。俺は女の子と薬草を探して取り出そうとしている四葉さんの二人を見比べて女の子に家の中にどうぞと言うと
「ありがとう、お兄ちゃん。なんだかお兄ちゃん格好いいから王子様みたい。」
と言われた。俺は王子だと言おうかと思ったがサクラとここに来る約束としてお忍びで来ているから自分の正体を明かさないと話していたので
「ありがとう。嬉しいよ。」
と棒読みで答えることしか出来なかった。俺はどうも嘘を吐くのが苦手なのだ、昔から俺の嘘はバレてしまうので嘘を吐くのは基本しない。女の子は俺の言い方が変だとは思わなかったようでそのまま玄関に入ると四葉さんの行動を見ていた。
「千、やってみますか?」
と言ってもう薬研の準備が整っている四葉さんに呼ばれて俺は二つ返事でさっきの真似をしてみた。
四葉さんがさっき作った粉状になるまで時間は掛かったがとても面白かった。だが力加減が難しく均等に粉状にするにはコツが居るように思える。ただゴリゴリとするだけでは無くて力加減も草に対してどれくらいの向きで綺麗に細かく出来るのかこれから練習出来るなら何度もやってみたいと思った。俺はそれを言って良いのか分からず勘定をしてさよならと言って去って行く女の子を見ることしか出来なかった。
(言って良いのだろうか・・・)
そう思っているとサクラが
「言わないと分からないぞ」
と布巾で机を拭きながら言うので俺は勇気を出してみて
「ねぇ、四葉さん!俺またお手伝いしても良い?四葉さんと違って時間も掛かるし最後は四葉さんが仕上げてくれたけれども俺も薬を作ってみたい!」
と言うと
「もちろんですよ!最初からあれだけ出来たら上出来です!きっと誰かを助ける薬が作れますよ!」
と四葉さんは笑顔で答えてくれた。俺は嬉しくてその場で飛び跳ねるとサクラに
「もう子供じゃ無いですし、そんなに大きな身体で飛び跳ねたら近所迷惑です。今すぐ止めなさい。」
と叱られた。俺は叱られてその場でションボリしていると四葉さんが初めて声を出して笑ってくれた。俺はその笑顔がどんな宝石よりも輝いて見えて、さっきよりももっと嬉しい気持ちになった。
俺達はお茶を飲みながら休憩することにした。
もう少しで家に帰らないといけない、そしたら家で残りの明日の戦会議についての発言も考えないといけない。現実が戻って来るのが凄く嫌だ、そう思っているとさっきの女の子の言っていた『ここしか買わせて貰えない』という言葉が俺の頭にふと蘇ってきた。
何であの子はここしか無理だと思ったのだろうか、この道は先程から見ても妖怪がばかりが歩いていて時々人の形をした人も居るが7割8割は妖怪だった。
俺はそんな中を歩いてきた女の子は何か特別な理由があるのではないかと考えた俺はそのまま思った事を四葉さんに聞くと
「そうですね、先程仰っていたのはきっとあの方は町外れかに住んでいる方だからだと思いますよ。お医者様に診て貰えるお金が無いのは町外れの方は診て貰うのに町中で住んでいる人よりも3倍はするので余程命に関わる事であってもなかなかそれでも診て貰えないのです。」
「町外れにはお医者さんは居ないの?」
「お医者様として診断が出来るのはお医者様になる為に勉強をして来た人のみなのです。一応以前街外れにお伺いした時に知識はあるという方も居ましたが、診る事は出来てもお薬までを出すことは出来ないのです。」
「じゃあ、お薬だけ街中の薬屋さんでは買えないの?」
「それもとても難しいお話できちんとしたお医者様の判断が無いとお薬を無闇に買うことが国の決まりで禁止されているのです。」
「どうして?」
「それは、そのお薬を買って悪用する、または他の人に高値で売りつける事が多々あったからです。」
「じゃあさっきの子達みたいなのはどうやってお薬を手に入れられるの?」
「私も色んなお国や村に行きまして王様達への挨拶も兼ねてお散歩させて頂きましたがそういう方達はジッとその痛みや苦しみを耐え抜くしかないと仰っていました。」
「そんな・・・」
「私も同じように思いまして私の村では掟がございませんから、そうしたら私の村にあるこの薬屋でしたら渡せますよとお話したのです。本当はお金無しでしたかったのですがそうなってしまうと他の利用者の方々に対して失礼ですのでお金は頂いております。ただ私の薬屋は他と違い自分で栽培した薬草ですので他と比較してもとても安く街外れの方達でも手が十分届く範囲だと思います。」
「へー俺そんな世界全然知らなかった。俺も何回か物乞いをする人達見た事があって俺の村にはそんな人達見た事が無かったから困っているならと思って鞄の中に入っていたリンゴをあげたら兄さん達に凄く怒られて。一人助けたらもっと助けなくてはならなくなる、俺らには全員を助ける程の力も無いし俺達がやらなくてはいけない事は領土拡大であって人助けじゃ無いぞって言われて俺もそれは分かっているんだけれど、どうしてもやっぱり困っている人が居たら助けてあげたいし人が笑顔で過ごしてる方が俺は好きだな。・・・・それに仮面みたいな貼り付けた笑顔じゃ無くてちゃんとした笑顔で生活して欲しいし俺もそういう生活がしたい。」
と言うと俺は喉が渇いたのでお茶を一気に飲んだ。俺は目の前にサクラを見て
「だから俺さサクラが思った事はそのまま言えって言ってきたからハッキリ言うけど家でもそう思っているから。サクラなら魂の繋がりで分かっていると思うけれども俺は家でもこうやって皆でご飯が食べたい。」
と言う。サクラは俺の発言が予想外だったらしく鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔で俺を見てきた。俺は(やっぱり言わない方が良かったかな)と思ってギュッと両手をズボンを掴みながらサクラを見ると
「はぁー仕方ないですね。分かりました。そうしましょう、実は千の実の兄の亜廉からも言われていたのです、従者として仕えている人々が口を揃えて千が挨拶してくれたり話掛けてくれるのにお話が出来ないのは辛いと嘆いていると聞いていたのでもうそろそろお互いが限界かと思っていましたがこんなタイミングで言われるとは。先程の話を聞いて駄目なんて言える訳ないじゃないですか。全く・・・私の方から爺様にお願いしてみましょう。」
と言ってくれた。俺は嬉しくて
「本当?皆でご飯一緒に食べられる?」
と聞いた。うんと頷くサクラに嬉しくて有り難う~と抱きつくと
「でかい子供は嫌いです。・・・・離れろ。」
と冷たく遇われた(あしらわれた)がそんな態度をされても傷つきもしなかった。四葉さんも「良かったですね」と言いながら小さく拍手をしてくれる。
俺はそうだ!と思って
「今度は四葉さんが家に遊びに来てよ!!それで俺の家に居る人達も含めて一緒にご飯を食べようよ!」
と言った。四葉さんは拍手をするのを止めると
「さすがにそれは出来ませんよ、せっかくのお誘いですが。」
と言う。俺は(何で?)という顔でサクラを見るとサクラは俺の顔を見ながら嫌な顔をして大きく溜め息を吐いて
「もう本当に何でこんなワガママな奴を器にしたんだろうか・・・・」
と頭を抱えて居た。そんな様子にアタフタとしながら
「私の事はお気になさらず・・・」
と言いかけたがサクラが手でそれ以上はと手の平を四葉さんに向けて
「大丈夫です。千は一度言ったら聞きませんし、そうなるだろうなとは何となく分かっていたので。」
と言った。俺は一人寂しい食事も生活ももう終わりかと思って嬉しいのと四葉さんに沢山の花が咲いたあの桜の木々達を見せる事が出来る事が嬉しかった。
そんな時にまたガラガラと扉が開いた。
「四葉さーん!喉が痛いから薬くれねーか!」
と今度は目玉が一個の頭をしたおじさんが急に現れて目の大きさにビックリして俺とサクラは悲鳴を上げた。
「おはよう!」
俺は家の中で忙しそうに動き回る同じ村出身の従者として今は俺の家で働いてくれている人達に挨拶をする。今までは目を合わせずに無言でお辞儀をしたかと思ったら小走りでその場を去ってしまう事がほぼだったが、サクラが爺様にお願いしてくれたお陰で今は
「千様!おはようございます!」
と笑顔で返してくれるようになった。
「ねぇ、どうして千様なの?同じ村で居る時は千だったし、昔のままの言い方で良いよ?」
「それは流石に爺様に怒られます・・・でも、もし千様がその方が良いのでしたらサクラさんみたいにコソッとそういう話し方は出来ます。」
と言われたのでニヒヒと笑いながら
「サクラにバレないようにして話さないとね。」
と言ってる所に
「私が何ですか?」
とサクラが背後にヌッと現れた。従者さんは「すみません!!」と言ってダッシュで逃げる。俺はサクラが真顔で上から圧をかけて見てくるので
「サクラ~。皆の話し方も許して貰えるように爺様にお願いしてくれよ~。」
と泣きついて頼むが
「それは無理だろ。流石に爺様にはそんな事を言えない、爺様だって暇じゃ無いんだ。分かるだろ?もうそろそろ器の儀式の時期だろ、きっと村では最後の別れかもしれない我が子との時間を今過ごさないといけないしそれと重なって王子の会議も千にはある。今は必死に王子としての仕事をしないと爺様も認めてくれないよ。」
と言うので
「確かにそうかも。俺甘えてたね、皆と会話できるし夕飯は皆と一緒に座って食べられるのが嬉しくて欲張りになってた。焦ったって良いことは無いのに気を付けなくちゃ。確か今日って今度領土拡大した所の視察に行くのは誰にするかって言う話し合いでしょ?」
と聞くとサクラは少し曇った表情で俺を見ながら
「千は今回の領土拡大の視察は行きたいと思う?」
と聞いて来る。俺は前回視察を鏡夜兄さんに仕事を取られてしまったので今回こそは行きたいと思っていた。戦はそんな頻繁に無くてある程度今は落ち着いてはいるものの前回の戦の時は弟だからという理由で後ろの方(王様達が居る安全な所)で待機させられたので皆がする戦がどんな物なのか見てみたかったのだ。今回は弟でも行っても良いと新一兄さんが許可してくれたから積極的に見に行きたいと思っている。
「俺は、今回は絶対見に行きたいかな。やっぱり戦う者として皆とは違う戦(いくさ)しかして来なかったからちゃんと戦場の跡地を見ないと戦場ではもっと大変だし前回の時も兄様達の部隊もかなり怪我をしただろ?俺達は救助しか出来なくて何も役に立たなかったし。特に俺達の村出身は戦は守る為にしかしていないから他の兄弟達から比較したらとてもじゃないけれども経験値が違いすぎてもしも前線に出るとなったら全滅もあるかもしれないじゃん。だから全員が気を引き締めるのにも視察から始めるのが良いかもと思うんだ。今は特に長い戦があるわけじゃないから。」
と言うとサクラは心配そうな顔をして
「戦場の跡地は相当な覚悟が無いと見れないけど大丈夫か?」
「それくらいは、頭では分かってる。」
「中には助けを求めてくる人や暴言を行ってきたり物を投げられるかもしれないぞ。その覚悟はあるのか?」
「っ・・・・それは俺だけなら良いけれども他の人達には止めて欲しいな、でもそれも含めて戦なんだよな。見たくない物も見ないといけないんだよな。」
「王子として選ばれて戦に先導を切って指揮を取るにはとても覚悟が必要だからな。それを望む望まない関係無しに千は選ばれた。今日発言するなら強い気持ちを持って言わないと兄様達は良くても現実は甘くない事を忘れるなよ。」
と言われたので俺は頷いた。
サクラの言いたい事は分かる。四葉さんの村も奴隷のように扱われてて今は復興している姿を見ると俺もそういう村を見つけて助けられるんじゃないのかと思う。
それは甘い考えなのかもしれないが一人でも多くの人があの町外れに住む女の子みたいにお母さんが苦しんでいるのを助けられないと泣く子が減らせるように俺は俺で助け方を学びたいのだ。
「じゃあ、今回の視察は千で!」
と新一兄さんが兄弟達の前で言う。兄弟達はそれぞれ「いいよ~」と言いながら怠そうに拍手をする。
何か兄さん達から言われるかと思っていたから安心だが、何も言われなさ過ぎて逆に不安になる。
「じゃあ、次は訓練の話ね~。」
と新一兄さんがどんどん話を進めていくので俺は不満の気持ちを押し殺しながら話合いに参加する。
話合いが終わると丁度お昼の時間だったので今日は楓兄さんが料理する番なのでカウンターに皆が集まりそれぞれが出来る事をしていた。
俺は皿出しで、楓兄さんの隣でお皿に注ぐ手伝いが出来るように今か今かと待っていた。そんな時に鏡夜兄さんが
「千、少し来い。」
と言われて呼び出された。
「なに、鏡夜兄さん。」
と楓兄さんから離れて壁側に居る鏡夜兄さんの所にトボトボ歩いて行くと
「お前本当に視察大丈夫か?あの時の雰囲気ではそうか~で皆思って納得してたけれども、俺以外にもお前を心配してると思う。お前は戦を知らないからな、守る戦は知っていても攻める戦は皆無だろ?それにお前の隊である村出身の人達も攻める戦を知らないから戸惑うんじゃないか?戦場でもし戸惑った気持ちを持ったまま出撃した日には全滅になる可能性もある。だから生半可な気持ちでは行っては駄目だ。俺達でも戦う事を慣れていても跡地はとてもじゃないが帰って来てからもとても心が傷み跡地を思い出すだけで辛い気持ちになった。それをきちんと覚悟してお前だけじゃなくて隊の皆が納得出来るように説得出来るのか?」
「兄さんは俺が苦しむと思うの?」
「ああ、お前は感情豊かだからな。物乞いにも物を分ける事に対して疑問を抱かずに居られるだろう?俺達は住んでいた国が物乞いとの差別を小さい頃から見てきたからな俺達にとってはそれが普通だけれどもお前はそういう環境じゃなかったんだろ?」
「うん、そういう同じ人同士なのに線引きして生活環境が違うなんてした事も考えた事も無かった。ここに来てからそういうのを目にするようになったけれども、どうしてそういう人達と跡地に居る人達が関係あるの?」
「跡地に居る人達は全てを失った人達が多い。今生きている状況が奇跡に近い環境かもしれないし、それとも死にかけているかもしれない。また生きているにしても村や国が壊滅状態で復刻出来そうに無ければ奴隷達と同じく街の端で生きていかなきゃならない。その意味が分かるか?」
「助かっても良い生活は望めないって事?」
「そうだ。今まで俺達の他の兄弟が視察で見つけて連れて来た人達も今は奴隷として暮らしている。」
「どうして、普通の生活をしてあげられるように支援してあげられないの?」
「前にも言ったが一人でもそういう人を助けてしまうと他の人も同じように助けないといけない。領土を拡大していけばそういう人達が引っ越してその土地に住む事も出来るだろ?・・・まぁ現実は何も無い所に一人で住む事が出来ないから実際に移り住むなんて事をする人は見た事が無いけれどな。」
「無限にお金も無いから貸してあげられないから助けてあげられないという事なんだよね?」
「ん?ああ、王族や偉い人に対してのお金も国の人が納めているお金で生活しているからな。経済を回さないと全てが止まるし俺達が戦で使う武器も作れないし、買えない。今俺達が領土を拡大するのにも経済はギリギリなんだよ。」
「経済がよく分からないけれども、お金を回収してそれをまたお偉いさんや俺達みたいな王族が使って残りはどうなるの?」
「お前経済の勉強サボってたな。まぁお前に納税について詳しく話すのは止めとくから納税の中でも一部を教えるな。まず納税というお金を国に納める中でもお店や商売をするならこれだけのお金は納めてくれたら仕事を認めますよって言うのがあるのは知っているか?」
「知ってる。」
「その納められたお金の一部が国に使われるんだよ、戦で食べるご飯を買ったり武器を買ったりする。そしてその残りで王族に生活が出来るお金が支払われてそれでも残ったお金は何かが起きた時の為に貯金されている。分かる?」
「その貯金を困っている人達にも分けられないという事?」
「そう、よく分かったじゃないか。だから領土拡大してもその土地がまた発展していかないと経済が回らない訳で、でもその土地を発展させる為にはお金や労力が必要になる。壊滅状態が大きければそれは難しいんだ。」
「そこを田んぼにするのも大変なんだね。」
「そうだな、お前の村みたいな生活をするにもそれだけ時間と労力がかかるし時にはとてもお金が掛かるのと1から国を作るのは大変なんだよ。」
「それを今しているんだよね?」
「そうだ、領土拡大してこの国や俺達が生まれ育った国や村の領地を拡大する事で仕事を増やして経済をもっと回せる事で奴隷も含めて生活を楽にしてあげられるようしたい。その為に戦で勝って土地を広げて人を増やす、その繰り返しをする事でどんどん大きな国になればもっと沢山の事に挑戦する事や生活が楽になる物を手に入れることが出来たら今生活が困っている人達の生活を楽に出来るようにしてあげられるんだ。」
「凄く遠い未来だね、何も知らなかった。」
「それを考えて視察に行かないといけない。ただ、その場所に居る人達はとても辛い経験をしているから逆恨みをされるかもしれないし攻撃や残酷状態の村や国を見ることになる、その中で生存者を探して土地を拡大出来るか見てくるのは相当なんだ。新一兄さんは弟にももう視察行かせる事を認めたが俺はまだ反対しているんだ。」
「どうして?」
「俺の弟だからだよ、兄弟の盃を交わしただけかもしれないが俺にはもう大事な家族なんだ。そんな弟に辛い思いをさせたい兄は何処にも居ない。だから何度も兄3人で話し合ったけれども、新一兄さんは弟達にもそろそろ経験させないといけない、次の戦から前線に行ける奴が居たら弟でも前線で戦わせるって言うんだよ。」
と溜め息を吐く。
「鏡夜兄さんは前線で戦っただろ?俺達には無理なの?」
「俺は前回戦ったけれどもかなり苦戦したんだ。弟達が後ろに居るから兄だから守らなくてはいけないと思ったから頑張れた。まだ俺達の訓練も連携が出来てないからな、兄達でも連携が出来ていないのに弟達が混ざれば戦は混乱してしまうかもしれない。俺は新一兄さんにまずは兄達の連携が出来て弟達も連携が出来てからの方が良いと言っているがこの間の戦で死者も深い傷を負った者も沢山居るからここに違う国が攻めてきたら壊滅の恐れがあるから焦っているんだろうな。」
「んー途中から俺、鏡夜兄さんの言っている事は分かるけれども理解が出来なくなってきた。」
「まぁ、要はお前はこれから覚悟を持って視察に行けという事だ。無理になったら手紙を寄越せ、場所さえ分かれば俺の千里眼で見てやる。良いな?絶対に無理はするなよ?」
俺は頷いて答える。
楓兄さんが俺が近くに居ない事に気が付いて
「おい!千!サボるな!」
と怒ってきたので俺はすぐに楓兄さんの傍に行ってお皿に注ぐのを手伝った。
俺は家の者にも挨拶をして花の都から新一兄さんの国を通って今回拡大した領土を視察する為に門の前に化け狐の姿になったサクラの背中跨がって出発の準備をした。
「行ってくるね。」
と門の所まで送ってくれた兄弟達と新一兄さんの国の人達が門の所に集まって俺と俺の部隊を送ってくれた。
新一兄さんと龍次兄さんは
「胸を張って行って来い!」
と言い鏡夜兄さんと楓兄さんは
「何かあればいつでも言え」
と言って楓兄さんは手作りか木彫りで猫の形に彫って猫の頭の所に紐が通してある首輪を渡してくれた。
「この猫さんにはあれだから、何かあった時に守れるように祈りが込められている。俺の国ではこれをお守りって言うんだ、持っていけ。」
とお守りという物を渡してくれた。
「ありがとう!」
と言うと照れ臭そうに鏡夜兄さんの後ろに下がる。
一番下の希生には
「兄さん達の事を頼むな。」
と言うと今日は気合いが入った化粧をした弟が
「分かった、でも早く帰って来ないと俺兄弟会議出ないからね。怪我しないで早く帰ってきてね。」
「分かった!ありがとうな!」
と言って涙ぐむ弟の頭をポンポンと撫でた。
昨日俺は四葉さんの所にも挨拶に行った。
視察に行けば暫くは帰って来られない、ここに来るのは暫く月日が経過したからでは無いと行けないだろう。
俺とサクラは黙って行くのは良くないと話し合って二人で四葉さんの家に行った。
四葉さんは笑顔で出迎えてくれたけれども、俺達の様子がいつもより静かなのが変だったのか
「何かあったのですか?」
と聞いてきた。俺はこのタイミングで話しても良いのだろうかと思うと不安になってサクラの顔を見るとサクラは静かに頷いたので俺は四葉さんの目の黒くて優しい瞳をしっかり見ながら
「俺明日から戦地の跡地に視察に行くんだ。それで、暫くここに来れないというか多分行ったら2ヶ月いや3ヶ月くらいは帰れないと思う。だから俺とサクラが急に来られなくなっても・・・」
と話している途中で四葉さんが俺の手を両手で急に握ってきた。俺は小さくてヒンヤリとした手に急に触られたのと、四葉さんが手を握ってきた事に対してドキッとした。
四葉さんは俺の手を大事そうに握りしめるとハラハラと大粒の涙を流し俺の手を四葉さんの額の所まで持って行かれて何かを願うかのように
「視察に行かれるのですね。もう決められてしまった事なのですね、いつかは千は王子なので行く日もあるのではと考えていましたが、まさかこんなに早く行かれるとは思ってもいませんでした。正直許されるのであれば千をここに隠してしまって行かせないようにしたい。こんなことを思っても言ってはいけないのかも知れませんが、千にあの光景を見せたくないのです。」
と言う。俺は顔が暑くなって耳の奥まで熱があるように感じた、それと共に俺の心臓が一層うるさく鳴り響き俺の口から飛び出しそうな勢いだった。
でもハラハラと涙を流す四葉にそんな事をバレてはいけないし、俺の事を想って泣いてくれているのは分かるからこんな変な気持ちは持っては駄目だと思ってフルフルと左右に顔を振って気持ちを切り替える。
「もう決まった事というか俺が視察に行きたかったの。」
と言うと一層泣き始める四葉さんに俺はどうして良いのか分からなくてサクラを見るがサクラは声を出さずに(何か泣き止ませる言葉を掛けてやれ)と言うだけで手伝ってくれない。
俺はサクラに(お前も手伝えよ!)と思いながら四葉さんに優しく
「鏡夜兄さんも止めてくれたから四葉さんが言いたいことは何となく分かる気がするけれども、この先の未来を考えたら領土を拡大しないといけないし・・・」
「違います!そんな事を私は案じているのではありません!」
と急に顔を挙げて俺の顔を真っ直ぐ見る目には大粒の涙がこぼれ落ちてはまた溜まりの繰り返しをしていた。
「私が案じているのはそんな未来の事では無いのです。王子様達の行動、王様の考えは理解出来ますし私達も皆さんが命を懸けて戦ってくださったお陰で奴隷のような扱いから解放されて今は自由に商いをしたり生活が安全に誰かに壊される事無く過ごせています。ただ、戦地ではそんな生活を一変させたのが戦だったかもしれないのです。壊滅になった国が元々は繁栄していて戦があったから人々は巻き込まれて生活や家族を失ったという方々が多いはず、私達のような村はとても珍しい事なのです。それを千は分かっていますか?」
「何となくは・・・でもその人達を見つけたら国に連れて帰れば安全は保証されるよ。それに領土が拡大されれば仕事が貰えてお金が手に入ればこの間みたいな女の子のお母さんみたいにお金が無くてお医者さんに診て貰えないという事も無くなるかもしれない。」
「そうです。ただ、それはとても先の話で今の街外れに暮らしている方々は恩恵を受けずに死ぬかもしれませんよ?」
「え?」
「その未来を考えて行動するのは立派ですが、今居る方々がそんな生活を送れるようになるには何年かかるか分かりません。病気さえならなければ生きていけるから大丈夫とお思いでしょうが、空腹でも饑餓というお腹が空きすぎて栄養が足らなくなる状態が続いて死に至る事は沢山ありますし、実際多くの奴隷達は食べ物が無くて空腹で死に至っています。」
「そうなの?俺知らなかった。だから皆必死に物乞いをするの?」
「王子達が知らないのも仕方ないのかもしれません。特に千はそういう環境の元に居なかったと話してましたでしょう?他のご兄弟も話は知っていても実際に饑餓で亡くなる人達の現場を見ていないと思いますが、王様の命令で奴隷の死体は集団で火葬されて墓を作るお金が無いのでそのまま土に埋められるのです。誰がどの骨なのかについても明かさせて貰えずどの辺に埋められたのかも家族の者でも教えて貰えないのが街外れの人達の現実なのです。最近では街の食べ物が買えないという理由から私達の村に買い物に来てくれる方がとても増えまして、中にはそれでもお金が無いという理由から盗みをする人も居ます。」
「そういう人が出たらどうなるの?」
「門に警備員がおりますでしょう?店の者がその人達に特徴を含めて話せばその方々が見つけ次第死刑にします。」
「物を盗ったら死刑になるの?」
「それが奴隷です。奴隷の犯罪は厳しく処分されます。私達も例外ではありませんでした。今でこそそれぞれのお国の方々が協力して復興させてくれたので生活や商いが潤っていますが以前はそうでした。」
「奴隷の盗人を許す事は出来ないの?」
「そうしてあげたいのですが、私達も生活があります。一人許してしまうと他の人達にも許さなくてはいけないのです。特別扱いは返って相手の首を絞めることにも自分の首を絞める事にもなります。」
「そっか・・・でもさそれと視察の何が関係するの?」
「視察で見つけた方々をどうしろとお兄様達は仰っていましたか?」
「国に連れて来て街外れに住ませる・・・て・・・待って?そんな事をしたらその人達助かった喜びよりもこれからの生活とても厳しい物になるじゃん。俺そこまで考えてなかった。」
「良いのです、今気付けたではありませんか。私はそんな判断を千にはさせたくないのです。ただ明日発つのでしょう?気を付けなければならないのは一時の感情で意見を言ってはいけないという事と相手の事を考えつつもどうしたらその人が少しでも幸せになれるかを見てくることです。今の千にはその考えをするには知識をもっと増やし人との交流を持っていかないといけません。そうする事で人々は繋がり助け合う事が出来るのです。」
「俺、役立たずなのに視察なんて行きたいなんて言って兄さん達も四葉さんも呆れたよね。」「そんな事あるわけ無いです。視察は皆それぞれ行きたがらない事だと思います。それでも行きたいと外の世界について見てみたいと思った気持ちはとても立派です。ただ国に連れてくるかという判断をするのには相当の覚悟が必要なのです。分かりますね?」
「うん、俺怖いけれど視察して色んな跡地を見て戦という事を自分達の目でしっかり見てくる。」
「その気持ちさえあればきっと大丈夫です。私も混乱していたとは言え怖い話をしてしまってすみません。」
「なんで四葉さんが謝るの?俺行く前に知らない事が知れて良かったよ?それに知らないで行っていたら見つけた人達を人助けだと勘違いして国に連れて帰って自己満になっていたかもしれないし。うん、知れて良かった。」
「そうですか?」
とまだ涙を流しながら言うので俺は手を握られていない手でソッと涙を拭いて
「俺は大丈夫だから泣かないで?四葉さんの泣いているのを見ていたら心配で行けなくなるよ。」
と言うと顔を真っ赤にした四葉さんが
「そうですよね!なんと恥ずかしい姿をお見せしてすみません!」
と言う。俺は顔が真っ赤になった四葉さんが面白くて笑いながら
「顔が真っ赤だよ?」
と言って四葉さんの頬を両手で包むようにすると一層また顔が赤くなるので面白くて何度もそうやって遊んだ。
「よし、行こう!」
と俺は隊の者に声を掛ける。皆が俺の合図にウオーと声を挙げてその声に声援を送るように国の人達が拍手をしてくれる。
俺は昨日の話を思い出して怖い、不安という気持ちもあるがそれと同時に戦の跡地ってどんな感じなんだろうかと少し見てみたいという気持ちもあって不謹慎だと思いながらもワクワクする冒険みたいな感覚で居た。
サクラに合図を出して門を出る。俺の後ろに何人もの人達がそれぞれの契約をした化け狐の背中に乗って出発する。
俺の真後ろには実の兄の亜廉も居るから少し安心だった。サクラが言うには爺様に直接亜廉は頼み込んで視察の部隊に加わったらしい。いつも亜廉は村を守る方の部隊に居るが今日は俺の部隊に加わると言い俺も急に知らされて驚いた。
俺達は太陽の光を見ながら傾きによって時が分かるので休憩を入れつつ今回の視察場所である国を目指して歩いた。
化け狐なので普通に歩くのと比較するととても早いがサクラは俺と同じで体力はかなりある方だが中には体力が無い化け狐も居るので全員の体力を見ながら歩くのはとても大変だった。あまりにも時間を掛けて視察場所に行っては生き残りが助からずに死んでしまうかもしれないし、場所的に化け狐の足で1ヶ月は掛かる。
俺は亜廉と一時的に同じ部隊の1番隊長のはじめと2番隊長の千賀(ちか)に相談しながら部隊を進めていく。今俺と一緒に歩いているのは1番隊と2番隊の合わせて40人、戦の時は5番隊まで居るので100人の人数で戦に出る。
兄が居るのは3番の部隊で4番隊の女性と子供が居る部隊と一緒に村を守るのが決まりだ、また5番隊は爺様を守る部隊で大人の手練れの者が多い。
俺はそんな部隊の中でも1番隊と2番隊しか会ったこと無いから分からないが、若くて頼もしい人達しか居ないし隊を乱すような人も居ない。
俺は1番隊の隊長のはじめに
「このスピードで大丈夫?」
と聞くと
「はい、このスピードでしたら皆も体力を温存しつつ目的の地まで予定通りの日に付けるかと。」
と固く返事をする。俺はそんな緊張感が部全体に伝わっているのが肌で感じていたので、はじめと千賀に
「ねえ、俺に敬語を無しで話して。」
と言った。亜廉はそれを聞いて
「何を言っているんですか!王子に敬語無しで話掛けるなど。」
と怒るが無視をして顔を後ろに傾けて見るようにしながら
「ねえはじめ、俺に対して怖いとか思う?」
「ええ、まぁ王族ですし。粗相がありましたら私の首が刎ねられるかもしれませんから。」
「え?刎ねられるの?」
「ええ、今まで王族が村には居りませんでしたので私達も知りませんでしたが村の掟で王族に恥をかかせたり、無礼な行動を取る者は首を刎ねると決まっているようで・・・」
「何それ!変なの!俺は王子でも村の1人だよ?何でそんなに線引きするの?爺様に今度言うから今は俺の命令を聞いて全員部隊の人達は俺を呼び捨てに敬語無しね!」
と言ったら部隊がざわめき始めたのでサクラを止めて俺の後ろに2列になって繋がって着いて来る人達全員が聞こえるように後ろに完全に振り返り大きな声で
「今の緊張感がずっとあったら保てる体力も疲れて無くなっちゃう!だから緊張を解す為にも俺には敬語無し!それに呼び捨てで良いから!皆聞いて!良い?」
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
と後ろから声が聞こえる。
「大丈夫!なんか爺様が怖い掟を言ってたらしいけれども、俺が責任取る!なんかあったら俺の命令のせいだと言えば良いよ!俺は皆と仲良くしたいし皆の事を知りたい。だからちゃんと疲れた時にはちゃんと自分の意見を言って欲しいんだ!」
と言うと先程までの不安が入り交じったザワザワが少し明るいザワザワに変わったので
「よし!これからまた歩くけど疲れたら化け狐達も遠慮無しで言って!俺達は仲間だから!」
と言って俺はまたサクラに跨がって歩くように命じた。
亜廉は後ろで
「おい、千!本当に大丈夫なんだろうな?」
と聞くので
「大丈夫~大丈夫~。」
と言って俺は先を歩いた。
それから何日経過したのだろう、俺達は野宿をしながら目的地まで歩いた。
野宿の時は見張りを交代でして食事も計画通りに食べながら先を急ぐ。
俺達が今まで歩いてきた道は何も無く、この辺は俺達が戦の時に居た場所かそうじゃないのかと言いながら前線で戦った場所まで行くと沢山の死体が転がっていた。
この死体は敵の死体で、確か全滅したとか聞いていたがあまりにも腐った臭いが凄くて部隊の何人かは化け狐から降りて吐いていたり、化け狐もこれ以上は進みたくないと言い出す者も居た。俺は死体を避けながら進路を変更することにして予定していた道を変更して遠回りをする事にした。
その決まりはすぐに文で鏡夜兄さんに伝え、兄さんからその日の夜に返事が来て
「その近くに村があるから見に行け」
と来た。俺は地図を見てはじめと千賀と亜廉で話をしながらどこの村かと探して目的地をそこにするかと相談した。ただ鏡夜兄さんが言うのならきっと何かが見えたのだろう、俺はそう思ってその村に行くと決めて部隊の皆に寝ている者関係無しに伝えた。
皆は驚いていたが、予定よりも早く視察が終わることに歓喜していた。
俺はその歓喜にビックリして亜廉に
「そんなに皆視察嫌だったのかな?」
と聞くと
「いや~あの死体を見たら早く帰りたくなるだろ。」
と笑われた。
鏡夜兄さんの言っていた村には鳥居のような門がありその門に何とか辿り着いた。
その門の頭上には2人の大人が首に縄が付いた状態でぶら下がっていた。
俺はその遺体を見て驚きで言葉が出なかった。
「何これ。」
と呆然とする俺に亜廉が
「おい、千。これは戦の時にする事なのか?」
と後ろから聞いてくる、俺は亜廉の方に振り向くことが出来ないくらい身体が硬直してしまったので死体を凝視しながら
「違う、こんな事を新一兄さんも龍次兄さんもする訳が無い。それにここはもう敵国が居た区域だから今は領土を拡大して俺達の国の物であってもこれはさすがに戦の時に出来る事じゃないよ。」
と言うので精一杯だった。俺は深呼吸をして気持ちを整えると門にぶら下がる2人の死体に近づく。
下から見るとほぼもう骸骨状態なのか顔の判別も性別も分からない。ただこの死体は誰なのかどうしてここにぶら下がっているのかと考えて見ていると、小石が何個か俺の頭や身体に当たってきた。なんだ?と思って投げて来た方に見てみると俺より幾つか下位に見える少年と3歳くらいの小さい子が村の建物の中から睨み付けて石を投げてきた。
はじめと千賀はその石を攻撃と考えたのか武器を構えようとしたので
「構えるな!待て!」
と言うと俺は死体を避けながら門を通って家の中に居る子供達に近づくと子供達は俺が近づくのが嫌なのかどんどん石を投げてくる。しまいには拳くらいの大きさの石を投げてきたが俺は俺の年齢にしては背が高く体格も同い年の奴らから比較したら恵まれている方なのでぶつけられても痛くても我慢も出来る位の痛さだった。
俺はぶつけられる石に抵抗しない、避けないように真っ正面からその少年と子供の目の前に立つと
「どうして石をぶつけるの?」
と聞くと
「お前等また来たのか?」
と睨みながら聞いてくる。
「俺らは今初めて来た。」
「嘘だ、俺達の村を壊しにまた来たんだろ。」
「村を壊す?ここは戦でこうなったんだろ?」
「違う、この村は戦には巻き込まれたけれども全員逃げて村の端で固まって居たから皆無事だったんだ。でも二日ほど前に戦の勝者だと言う奴らが現れてこの村は俺達の物だって言って来た集団が居たんだ。でもそいつらの言っている事は滅茶苦茶で国に納める他にもそいつらにもお金と食べ物を納めろと言い始めて変だと思った長が反抗したら反逆罪だって言われて殺された。すぐに村の者でそいつらと戦ったが俺達は戦なんて出来る武器も無いし戦に手慣れている訳でもない。今までずっと近くの国に金を納めることで生活を守られていたからそんな人を殺す事に慣れてなかった。だから皆殺された、そこの門に居るのは俺の母さんと父さんだ。最後の最後まで父さんは戦い、母さんは俺達を守ってくれてた。」
その少年は父と母の事を思い出したのか涙を浮かべて幼い弟の手を握って下を向いていた。
俺はその少年の話を聞いてまずこの村に来てやるべき事が何かが分かったので、すぐに少年達から離れて門の所まで歩いて行き門によじ登った。
「何してるんだ!千!」
と下から亜廉が叫ぶが俺はこの方法をしないとこの村に入って良いとは思えなくてどんどん大きな木の門をよじ登ると柱に括られた縄を持っていた小刀で切っていく。
太くて丈夫な縄を切るのは一苦労だが子供を守ろうと最後まで勇敢に戦った人達の最後がこんなのはあまりにも残酷すぎる。俺は縄を切り終わると大人2人の遺体を片手に抱えて門からゆっくりと降りた。
門から降りて死体を地面に並べると下からでは分からなかったが髪はボサボサだったが長い人と短く刈られている人で着物もボロボロではあったがほんのり絵柄が描かれているのが分かる。俺はその死体に手を合わせているとはじめと千賀と亜廉が近くに寄って来た。
「この死体は誰なんだ?」
と聞く亜廉に俺は
「そこの家に隠れている子供達のお父さんとお母さんだって。俺達が来る前に俺達の名を語ってこの村に先に来た奴らが居る。そいつらが村を襲ってこんな酷い事をしたって言ってた。」
「その話は本当か?」
と今度は千賀が聞くので
「どういう事?」
と聞くと
「もしかしたら俺達を罠にはめようとかしているんじゃ無いの?」
「罠にはめる?」
「攻撃する機会を伺ってるとか。」
と言う千賀に対してはじめも
「確かに、人が沢山殺されたにしては村の家が壊されていないし燃やされても居ない。それに子供達だけ生き残ってこの2日間隠れていたのも何か変だな。」
と言い出す。
「でも、さっきの子供達が嘘を言っているようには思えなかったけど。」
と言うと亜廉が
「何か訳があるかもしれないって事だ。もしかしたらその村を襲ったという話が嘘なのかもしれないな。俺も変だと思うのは誰一人他に死体が転がっていないだろ?もしかして村人の死体を子供達で埋める訳でも無いし。」
と言うので俺は何でそんな嘘を吐くのか分からなくなりまた少年達の近づいて話を聞こうとした。
その時ガサッと何かが少年達が居る家とは違う家から物音がした。俺はゆっくりとその家に近づくと人の匂いする。村なのだから使っていた物から人の匂いがするのは当たり前なのだがどうも生きている人間の匂いがするのだ。
俺はその家に背を向けないように少年達に近づいて小声で
「おい、どういう事だ?」
と聞いた。すると少年がいきなり斧を持って襲ってきた。
俺はヒョイッと交わし少年と距離を取ったが、その攻撃が合図だったのか家からどんどん大人と子供が現れて皆包丁や槍と言った武器を構えている。
何事かと俺達の部隊も俺の後ろで武器を構える。
サクラがソッと忍び足で俺の傍に来たので俺は大丈夫だとサクラの頭を撫でた。
そこには俺らはどちらからも攻撃をしないという、時がまるで止まり呼吸をする音だけが聞こえるような空間が出来ていた。
そんな空気を壊したのは一人の老人だった。村人だと思われる人達の奥の方から杖をついて歩いてくる老人は白い髭を伸ばし髪はボサボサで着ている服もボロボロだった。
「ここまで来られるのは大変じゃっただろう。」
と髭を右手で撫でながら話掛けてくる老人に
「あんた誰?」
と低い声で聞く、その声に怯える仕草もせずにどんどん近づいてきて村人の前に立つと
「ワシはここの長をしている、お前等が来るのを待っていた。」
「長が俺達になんの用なの?」
「簡単な話じゃ。取り引きをしたい。」
「取り引き?」
「ああ、今この村は壊滅的だそれはこの間の戦が原因だ。ワシらが取り引きしていた国が破れてワシらには何処にも行く所が無い、まして村一つで暮らしていくのは難しい。そこでお前等の国に取り引きをしてこの村の安全を保証して欲しいのだ。」
「内容は?どんな取り引きがしたいの?」
「ワシ等を国に連れて帰ったとしても奴隷にはせずに一つの村として認めて欲しい。」
「な!そんな事を聞ける訳無いだろ!!」
と亜廉を筆頭に攻撃体勢になるので
「止めろ!構えるな!!」
と俺は隊に向かって声を掛けた。村人達も攻撃されると思ったのか武器を構えてきたが俺は気にせず
「奴隷にしなかった場合あんたらは国の人達と同じくらいのお金を納める事が出来るの?」
と聞くと
「ワシ等はこの間まで戦に巻き込まれて居た。正直お金は無いし食べる物ももう少ししか無い。」
と答える。俺は何も無しで取り引きは無いだろうと思って
「何も無いけれども取り引きしてお前等の望む方に動くなんて誰が引き受けるの?」
と聞いた。長は言葉に詰まったのか暫く言葉を失った、そんな長を見てか先程の少年が
「だって、戦なんて俺達はしたくなかったんだ!」
と叫ぶ。俺はその少年を見ながら
「その台詞はお前達が取り引きしていた国に言うべきじゃない?俺達は国同士で戦ったけどそれが嫌だったら国から手を引けば良かったでしょ。どうせ、自分達の身可愛さに国の後ろに隠れていただけだろ?それでどうして俺達が助けなくてはいけないの?このままこの村を無かった事にして他の生き残りを助ける事だって出来るんだ。こんなくだらない事に時間を裂いている時間は無いんだ。分かる?」
と俺は話ながら怒りなのか分からないが冷たくて冷えた物が心臓を満たしていくような気がした。
「それは・・・」
と言う少年に俺は溜め息を吐いて長に向き合うと
「悪いけどその話には乗れない、そんなに誰かの力を借りたかったら違う国に頼みなよ。ここにはもう何も無いんでしょ?村を捨てて移動するなら俺達だって見逃すことはしてあげる。」
と言うと先程の少年が俺に向かって石を投げながら
「この人でなし!!人殺し!!」
とぶつけて来た、さすがにこれはと思って亜廉が止めに入ってくれた。
俺は亜廉に捕まって押さえられている少年を見ながら
「人殺しがどうしたの?正直自分達は甘い考えで甘い蜜を吸っているだけだよね?これだけ人数が居てて中には戦に行けそうな男も居る。俺の村では女子供も関係なく戦に狩り出される。それなのに自分達は何?戦は嫌いだし、死にたくないから隠れてて自分達が生活出来なくなったら他の人に取り引きという名のワガママを言うの?ねえ、長として村を纏める人がそんなんで恥ずかしくないの?俺なら王子として村の者にそんな態度は恥ずかしくて出来ないけど。」
と言うと長がゆっくりと口をパクパクしながら
「仕方ないじゃろ、そうしないと生きていけないんじゃから。」
と言う。
「違うでしょ、自分の力が及ばないからそんなやり方しか思いつかないんじゃ無いの?それであの少年の両親を殺して死体を門に吊すなんてどうかと思うんだけど。」
と言った時に亜廉を蹴飛ばして少年が村の隣にある森の中に走って行ってしまった。
亜廉は追おうとしたので俺は制止させると長に向き合って長が何を言うのか待った。
しかし長は何も言わないので
「はぁー分かった、それが答えなんだ。じゃあ申し訳ないけれど今すぐに村から出て俺達の国から居なくなってくれないかな?ここに滞在するなら不法滞在だし奴隷と同じ扱いになるから。俺もそんな対応したくないんだよね、出来れば今すぐ消えてよ。」
と言うと長は何人か男共を連れて何処かに去って行くが女と子供達は立ち尽くして武器をガシャガシャと落としては泣き始めた。
俺もこんなキツイ言い方をしたくなかったけど、さっきの死体の縄から村人の長の近くに居た男達の匂いがしたのとさっきの少年の態度からして長のやり方に反抗したのか詳しくは分からないがきっとそれが原因で酷い殺され方をしたのだ。
俺はサクラと共に門の所まで戻ると亜廉にくっ付いて少年の弟が寄って来た。
その弟は死体の着物にそっと紅葉のような手で触れて
「おっかさん・・・おっかさん?」
と言って着物をグイグイと引っ張るが死体は話さない、その様子をただ見守るしか俺には出来なかった。
「ここに居た~。」
と俺は森の中をある人物を捜し回っていた。そして匂いを追ってやっと辿り着いたのが、森のかなり奥深くに行った所にある下は草で生い茂っているが寝転がって空が見える所に一人先程の少年が寝転がって空を見上げていた。
俺が見つけた事に気が付いたのか
「何で来たんだ。」
と言われた。
「いや、あんな態度されたら誰でも追いかけるでしょー。」
「お前みたいな大人には分からないだろう。」
「俺?」
「ああ、どうせ長みたいに人なんて道具のように扱って自分の意見に反したら殺すやり方をしてきた奴なんだろ?」
「俺は大人じゃ無いぞ!」
「は?」
「悪いけど、こんな見た目だから大人と勘違いされるけどまだ16歳だぞ!」
「え?」
「だーかーら!俺はまだ16だ!」
「そうなのか?てっきり20は超えてると思ってた。」
「見た目がこうだからな、背丈とかで勘違いされるんだ。」
「お前同い年かよ。」
「お前も16歳なの?」
「そうだよ、ていうか俺の名前は紫月(しづき)だ。」
「紫月か、俺は千。宜しくな!紫月!」
「何も仲良くはしようなんて思っていない、ただお前呼びが嫌いなだけだ。」
「そうなのかー仲良くなれると思うけどなー。」
「なんでそんな自信があるんだよ、普通にさっき石投げてる時点で俺が攻撃してたの分かるだろ?」
「分かってるよ、ただあの石で怪我してないし俺は平気だし。そういうので怒るのは違うし、なんだろ?こうさ分かるだろ?」
「今会ったばかりなのに分かる訳無いだろ?」
「何でだよ、分かれよ!」
「あー!もう分かった分かった!俺が殺気出していないのが分かったとかだろ?」
「そうそう!本気だったらもっとキツく投げてくるじゃん、お前優しい投げ方したから気付いて欲しかったのかなと思って。」
「いや、弟の手前だったからもしお前が非情な奴だったら攻撃されたら困るだろう?」
「まあ、あれくらいの小さい子が居たら攻撃は出来ないよな。」
「お前兄弟は?」
「実の兄が1人と盃を交わした兄弟が上に4人と1人下に弟が居る。」
「実の兄と盃?」
「ああ、実の兄はさっき紫月を押さえ込んだ人な、盃を交わした兄弟は今国に居るよ。」
「さっきのが実の兄だったか・・・もしかしてお前王子って奴か?」
「そうだけど。」
「そっかーそんな人に俺は石を投げたのか。それで王子様~俺を殺すのか?」
「なんで殺すんだよ。」
「だって、普通に考えろよ。王子に石を投げつけるなんて無礼にも程があるだろ?普通俺達みたいな小さい村出身なら王子と顔を合わす事も無いし、同じ空気なんて吸えるもんじゃないからな。」
「今お前空気吸ってないの?息してないのか?」
「してるわ!!例えだよ!例え!!お前本当に王子か?」
「そうなのか!息止めてるのかと思った。うん、王子だけどなんで?」
「いや王子らしく無いから・・・じゃあさ数字とかあるの?」
「あるぞー」
と言って俺は背中にある数字を見せた。
「おい!バカ!!」
と服を捲ったのにその服を勢いよく下げられた。
「何するんだよ!!」
とムッとなって怒ると
「お前バカじゃないのか?数字は王族の者か家族の者以外は見せちゃ駄目なんだぞ!」
と顔を真っ赤にして紫月が怒る
「そうなのか?」
「そういうのを勉強はしないのか?」
「なあ、紫月勉強ってお前好きか?」
と言うと紫月は何かを言おうとしたが止めたらしく大きな溜め息を吐くと項垂れた。
暫く二人で空を寝転がりながら見た。
紫月の親は俺が思った通りにあの長の命令で殺された。
理由は紫月の親がこのままここに居ては作物も何も無いのに食い繋いでいくのは難しいから勝った国に挨拶がてらそこに住まわせて貰わないかと聞いた事がきっかけだったらしい。
長は自分の立場が危うくなるのが怖かったのか他の村人に対して同じ考えの者は絞首刑だと言わんばかりに見せしめで殺したという事だった。
「もし戦が無かったら父さんも母さんも生きてたんだよな。」
「うん。でも長が最初からちゃんと長としての役割をしていたらこんな事にはならなかったと思うぞ。」
「確かにな、父さんも言ってけど長は自分の事しか考えていないって言ってた。」
「俺も爺様が俺の村を纏めてくれているけれどもあんな人を自分の思い通りにさせるのは見た事が無いし、今王子として皆の前で指揮を取ったりしてるけれどもあんな事を思いついたり考えたりする事はしないよ。」
「お前結構ハッキリと物事を言うんだな。」
「そりゃね、これは昔からだよ。兄弟達からは俺の普通は少し変だって言われるけれども、人の前に立つ以上はやっぱり皆の信頼を得た上で立たないといけないし、そうしないと皆着いて来てくれないでしょ?」
「まあな、ただ王子がそんな考えをしているとは思わなかった。俺の中の王子のイメージってこう偉そうにしているとか父さん達に聞いた事があるのは血の気が多くて戦好きのイメージがあったから。」
「イメージって何?」
「想像だよ、こんな感じかな?て思う事!お前もっと勉強しろよ!!」
「俺の村ではそんな変な言葉は使わないんだよ!!」
「他の兄弟達から教えて貰えよ!」
「いつも沢山教えて貰うけど覚えられないんだよ!」
「・・・俺お前が王子とか不安でしか無い。」
「なんでだよ!!」
俺が大きな声で言うと紫月はガハハと笑った。俺も連れられて笑った。
「それで、俺達はどうなるのさ。」
とひとしきり笑った後に呼吸を整えながら紫月が俺に聞いてきた。
「何が?」
「いやだからこれからどうなるのか俺は分からないから。」
「あーさっき長と他の男共は一緒に村を出てもっと奥地の俺達の領土の向こう側に行くって言って歩き出して、女と子供はさすがにそんな距離は行けないとの事で村に残って居るぞ。」
「なるほどな、それで俺達は奴隷になるのか?」
「なんで?」
「だって住むと言ってもこんな村だろ?何も無いからな俺達の村もそっちの国からは離れているし、村を捨てて行くしか無いって事だろ?」
「その事で相談があるんだけど、今手に地図を持っていないから村に戻ってその話を村に残った人達と俺達とで相談しない?」
「何を相談するんだよ。」
「奴隷にならない方法さ!」
俺はニヤリと笑って紫月を見ると紫月は不気味な笑顔を見たという顔をした。
俺達は村まで戻ると村には灯が灯されていた。
紫月に聞くと悪者が来ないようにする為にわざと光を付けているのだと言う。
俺はその話をしながら紫月と一緒に門の所で胡座を掻いたりして座っている俺の部隊を見つけると
「なあ、皆に話があるんだけど一度村人達と話を一緒に話をしない?」
と聞いた。亜廉は俺を見て
「何の話合いをするんだ?」
と聞いてくる。
「それは内緒だよ。」
と言うと亜廉は溜め息を吐いて何かに気が付き人型になったサクラも俺の考えが分かったのか溜め息を吐いた。
俺達は村人に声を掛けて全員が入れる広くて大きな家に案内して貰った、ただ俺の部隊全員が入りきれなかったのではじめと千賀と亜廉だけ中に入って他は見張りと仮眠を取って貰う事にした。
村の人に案内されたのは元長の家である。かなり立派な家で他の家よりも広くて天井も高い、さっき見た紫月の家は台所が床の上では無くて地面の上にあって床は大人が3人寝られるかと言うくらいに狭かったが長の家は床が広く村人の数が20人居たが全員入っても俺達3人余裕で入れるほどだった。
「それで私達にどうしろって言うのさ。」
と小太りのおばさんが言う。
「俺は皆さんを奴隷にしたいとか思っていません。」
と言うと女性と子供達はそれぞれ顔を見合わせてザワザワと話始める。
「なにを甘い事を言っているんだ!こっちはもう何も無いんだ!男達も皆長に付いて行っちまって金も無いのにどうやって生きて行けってここで暮らせって言うのさ!」
という声に同調するように、そうだ!そうだ!とあちらこちらで声が聞こえた。
「甘い事なんて何も言ってないよ。ただちょっと待って?はじめ地図見せて。」
と言うとはじめは懐に入っていた地図を俺に渡して来た。
俺は地図を見て
「やっぱりだ!」
と声を挙げた、俺の声に皆が注目する。
「ここさ、真っ直ぐ俺達は新一兄さんの国から出発したけれども四葉さんの村から結構近いんだよね。ここに確か赤鬼さんが経営する旅館があるからそこで働いて稼ぐのはどう?」
と言うとはじめが
「本気で言ってるのか?」
「何で?」
「だって、お前をさっき罠にはめようとしてきた奴らだぞ?本来ならコイツら全員死刑だぞ?それを助けるだけじゃなくて仕事を20人分の見つけるだなんて無茶だろ、それに赤鬼の旅館がそんなに人数を雇うのか?」
「ああ、その事なら大丈夫じゃ無いかな。だって赤鬼さん最近旅館の部屋を増やしたけれども人手が全然足りないって言ってたし、皆が妖怪が嫌じゃ無ければ野菜もお店も薬屋さんも国の値段から比べたらとても安いからよく街外れに住んでいる人達が来るくらいだから行けるでしょ。」
「そんな簡単に言わないでくれないかい?私は妖怪なんてもんは嫌だね。」
とさっきのおばさんが俺に言う。俺は冷静に
「じゃあ今すぐ奴隷になる?」
と聞くとウッと言ってそれ以上は何も言わなくなった。
「俺別に皆に強制はしていないよ、ていうかしないよ。だって紹介するお店の人も俺の知り合いだしそんな所を紹介するのに妖怪は嫌だとか失礼な事を言う人達を連れて行けないから後は兄さん達の国で奴隷になって物乞いするしか方法は無いと思うけど、他に道があるならその道でも良いよ。俺はただ提案しているだけだから。」
俺は少しキツイ言い方かもしれないと思ったが四葉さんの村を紹介する以上は変な人達を村に招きたくないし、赤鬼さんもそんな人が来たら困るに決まってる。それにもしこの人達が村で物を盗んだりしたらこの人達は確実に死刑にされる。
そして俺はきっとこの人達を死刑にしない方法が無かったのかときっと悩むに違いない。ただそれが戦前とかだったら指揮を取らないといけないのに集中できなくて周囲が見れていなければ俺の村の出身だけじゃなくて他の兄弟の部隊にも影響が出て死人が増えてしまうかもしれないのだ。俺はそんな悩みの種を増やす訳にはいかないと思った。
このおばさんが何を言おうが村人が反対をするならば俺はそれ以上は何も出来ないから領土から元長達と同じように出て行って貰うしか方法は無い。
俺は黙って村人達が相談し合っているのを聞いていると一人の人が手を挙げて
「俺は弟の翼(つばさ)と一緒にこの村に住みながらその妖怪の所で見習いとして働かせて貰う。俺が両親に代わって翼を育てないといけないからな、どんな目に遭っても絶対守らなくちゃいけない家族が居るから俺はこの意見に乗った!!!」
と紫月が大きな声で宣言した、その声を筆頭に皆が「私も!私も!」と声を揃えて言い出す。
俺は紫月と目が合うと頷いた。
俺達はここに来るまでに森の中である程度紫月にこの案を話していた。
紫月は最初こそは妖怪と共に暮らす事に嫌がっていたが、最終的には俺の案に賛成してくれた。妖怪の人達は元々人が好きだから食われたりしないと話すと仕方ないと折れてくれたのだ。ただ紫月でも話を納得してくれるのに時間が掛かった為村人の女性達はもっとだろうと考えて俺は紫月に芝居を打って貰ったのだ。
この作戦は上手くいったらしく村人達は今度は子供達と一緒にどんな妖怪が居るのかと話始めていた。
この光景を見ていた亜廉は
「俺さ、お前が始めて視察なんて行くから心配で爺様に頼んでこの部隊に来させて貰ったけれども俺が居ない間王子としての立場を理解してよくここまで物事を考えて言えるようになったな、俺あの長にちゃんと意見を言っているお前を見て父さんと母さんが居たら涙を流して喜んでいたんだろうなってそれだけ立派な姿になったなと思った。俺が視察に同行しなくてもお前はきっと立派に出来ていたんだろうな、心配する必要なかったな。」
と物寂しげに言うので
「兄さんが来てくれて本当に心強かったよ。俺さ視察行く前に色んな人から覚悟を持って行けって言われて結構緊張しててさそれこそ不安だったんだよ。石を投げられたのはあったけれどももっと酷い暴言やキツイ事を言われてそれこそ人に武器を構えて戦わなくてはいけないくらいのね。そうなったらどうしようと思っていたけれど、兄さんがあの時に紫月を止めてくれたから暴力をしなくても済んだんだ。あの時に兄さんが止めてくれなかったらきっと紫月に武器を使って攻撃しないといけなかっただろうし、村人の皆にも傷つけないといけなかったかもしれない。だから兄さんには感謝している。付いてきてくれてありがとう。」
と言うと亜廉はいつの間に泣いていたのか涙を拭いて
「お前が王子に選ばれた時に弟は6歳になったら化け狐の器になる時に死ぬもんだと思って最初は情を持ちたくなかったから離れていたのに兄ちゃん、兄ちゃんってくっ付いて来るから俺の中で段々と情を持ち始めてお前が洞窟に行った日実は俺も傍で3日間待っていたんだぞ。爺様に見つからないようにコソって影から見ていて洞窟から地響きは聞こえるし悲鳴は聞こえるで怖かったけれども弟の為だと思って俺の化け狐と一緒に祈っていたんだ。だからお前がサクラと一緒に出てきた時は本当に安心したんだ。あー俺の弟は死なずに済んだってな、ただ今は王子として役割を果たすお前の生活は見えないから分からない。この間までは孤独で辛そうにしていたから爺様に頼んでどうにかしてあげてくれと頼めたけれども、俺も千の事を全て分かってあげるには限界がある。だから約束をして欲しい、俺には全部思った事を言う事を必ず約束して欲しい。良いな?」
と真剣な顔で言うから俺も涙が出来てきて
「分かった。」
と言った。俺は孤独で居たような気がしたが鏡夜兄さんが忠告してくれたのも四葉さんが涙を流しながら心配してくれたのも亜廉がこうやって来てくれたのもサクラがいざという時は人型になって守ってくれるのも。それに視察に行く時に兄弟達だけでは無くて国の皆が見送ってくれたのも俺は一人だと勘違いしていたけれども皆俺の事を認めて見てくれていたんだと思ったら皆に会いたくなって来て涙が止まらなかった。
亜廉はそんな俺を元気づけるようにして背中を擦ってくれた。
はじめと千賀は俺の気持ちに薄々気付いていたのか黙って俺を見守ってくれた。
俺は鼻をズビズビと言わせながら涙を服で拭くと紫月が
「ごめん、あのさ感動の涙の所申し訳ないんだけど。」
と言って俺に近づいてきた。俺は泣いているのが急に恥ずかしくなって目を強く擦って何でも無いという顔で紫月を見ると
「ここからその妖怪達がいる所までどうやって行くの?歩いてだと子供達が行けないんだけど、門が出来るまでは安全じゃないから代表の誰かが行った方が良いのか?」
と聞いてきた。俺はそこまで考えていなかった、今の時刻は夕刻を迫ってきていた。
今出発しても夜がすぐに来て子供達にはあの道は酷だし、ただここに残してしまうのも男達が居ないので危険でしか無い。俺はどうしたものかと考えたがなかなか良い案が浮かびそうに無かった、なので紫月と一緒に外に出ないか?と言って家から出て門の方に歩きながら相談した。
ただ紫月も良い案が無いらしく、どうしようかと話しながら歩いていると門に着いてしまった。門の近くにある紫月の家の隣には2つの大きな土が盛り上げられていた。
「この土・・・」
と言ってその盛り上げられた土の傍に紫月は行くと手を合わせた。
俺も一緒に傍に行って手を合わせる、もしかしたら俺達が早く来ていれば殺さずに済んだかもしれないと思い心の中で間に合わなかった事に対してごめんなさいと一言呟いた。
「父さんと母さんの墓作ってくれてありがとう。」
とまだ両親の墓に手を合わせる紫月が言う。
「俺が作ったわけでは無いよ、部隊の人達が作ってくれたから礼を言うならそいつらに言ってやってよ。」
「いや、そんなのあれだけ沢山の人が居るんだから探せないだろ?だから千が代表として受け取ってくれよ。」
「そうなのか?そういうものなのか?」
「うん!もうそういう事で良いから!!」
と怒るので何に腹が立つのかと思いながら見ていると
「なあ、妖怪ってどんなのが居るんだ?」
と聞いてきた。
「もしかして妖怪が怖いのか?」
と聞くと顔を真っ赤にして
「こ・・・・こわ・・・怖いわけ無いだろ?全然平気だ!」
と大きな声を言うからこれは怖いんだなと思って
「サクラも妖怪だぞ。」
と言うと元長の家の前で中に入れなかった部隊の人達と一緒に待機しているサクラの姿をバッと勢いよく見て凝視した。
「サクラは化け狐の妖怪だからな、皆が乗ってきた狐も化け狐だから妖怪だぞ。」
「え・・・俺さっきフワフワで大人しそうな狐触ったけれどあれもしかして凄く危険だったんじゃないか?」
と真っ青になりながら言うのでコロコロ変わる表情が面白くて笑いながら
「大丈夫、化け狐は器を見つけたら大人しくなるから触っても何もして来ないよ。ただプライドが高いサクラには触らない方が良いぞ、あいつは容赦なく怒るから。」
「喰われるのか?」
「喰われはしないさ、俺が器だから大丈夫さ。」
「そっか、安心した。それで赤鬼さんはどんな感じなの?」
「んー四葉さんの店に1回来たから見た事ある程度だけれども結構大柄だけれども同じ赤鬼の奥さんには頭が上がらなくて夫婦喧嘩して離婚させられるかもしれないって言って泣きながら来てたよ。」
「妖怪でも離婚とかあるのか?」
「あるみたい、俺は何も考えなかったけれどもとにかく泣いて泣いて大変だったんだ。」
「そんなに怖い人じゃないんだな。」
「全然怖くないよ、むしろ人が大好きだから村が繁栄しかけている今だから旅館を改築して拡大するって言ったからね、だから大丈夫でしょ。」
「そっか、それなら安心だな。そういや四葉さんて誰?」
「龍神様だよ、俺がいつも妖怪の村に行くのも四葉さんに会いに行くから色んな人達に出会った訳だし。」
「その人って千の好きな人?」
俺はポカンと時が止まった。
「好きじゃ無かったら会いに行かないよ?紫月は嫌いな人の家に行く趣味があるの?」
「いやそういう好きじゃ無くて恋愛って事だよ。」
「恋愛?」
「そう、恋愛・・・・・もしかして王子様、恋をした事がないのですか?」
とわざと王子という名前を出して馬鹿にしたように話してくるので
「そういう感情ってどういうのなんだ?」
「え?あーまあそりゃ、あれだよ心臓がドキドキしたり一目見た時にその人の事が忘れられなくて気が付いたらその人の姿を探したり、後はその人に会いたくなったり手なんて握られた日には緊張とときめきで心臓が痛くなるほどドキドキして顔が赤くなることじゃないのか?」
「具体的に分からないんだけれど、四葉さんを見た時に確かにあんなに美しい人は初めて見たから驚いて声を掛けたし手を振ってくれた時は暫くその場から動けなくなったけど、トキメキが俺には分からない。ただ少しでも一緒に居たいから時間見つけてはサクラと一緒に遊びに行ったりご飯を一緒に食べると他の人達と食べるより何倍も美味しいんだ。後は顔が赤くなるのは分からない、自分の顔なんて興味がないから赤いかどうかなんて分からないよ。」
「千って鏡とか見ないの?」
「そういえば俺以外の兄弟はいつも手鏡って言う小さい鏡を持ち歩いているけれど俺には刀の刃があるからもし何か顔に付いた場合はそれで確認出来るし・・・」
「ちょっと待って?お前もしかして自分の顔とかあまり興味ないのか?」
「無い。」
「はあー、俺もそんな顔で生まれてきて言ってみてー。」
「何を?」
「お前どう見ても鼻が高くて目がクリッとしていて整った顔をしてるじゃん。」
「そうなの?」
「村の女達もさっきまでお前の事を格好いいとか言っていたの聞こえてなかったのか?」
「全然聞こえなかった。」
「こりゃ、きっと四葉さんも心配だろうよ。両思いになっても相手は王子、自分は妖怪だもんな。」
「なんで四葉さんが心配するんだよ。」
「だって、王子に想われて嫌な気持ちになる人なんて居ないだろ?それに王子なんて女は選び放題じゃないか!」
「俺は選んでないぞ!第一四葉さんは男だ!」
「・・・・・お前男が好きなのか?」
「だからそういう事じゃないって。」
「じゃあ何なんだよ。じゃあこれから四葉さんの所に誰か居座ったらどう思う?」
「居座る?」
「そう!四葉さんの事が好きな人が居てその人がずっと四葉さんの傍に居たらどう思う?」
「・・・・・・それは嫌だ。四葉さんと話せなくなるしサクラ以外の奴がそこに居るのは嫌だ。」
「それが好きって事だろ?」
「好きは好きだけれど紫月が言う恋愛かどうかは分からない。」
「まあ俺達16歳だからその辺は追々で良いんじゃない?」
と言われて頷いた。俺は四葉さんの事が恋愛として好きなのだろうか、その好きに他の意味があるなんて初めて知った。
「そういやさ、その首から下げている紐は何?」
「え?」
「これだよこれ!」
と言って俺の首に掛かっている紐を紫月は引っ張る。その紐を引っ張ると猫の形に彫られた木彫りが俺の服から顔を出した。
「この変な物は何?」
「あー楓兄さんがお守りっていうのでくれたんだよ。」
「お守りって何?」
「俺もそれが分からなくてさとにかく持って行けって言うから持って来たんだけれど、何か意味があるのかな。」
「それは分からないけれど何か守って貰えるならお祈りでもしてみたら?この村の人達が無事に帰れますようにとかさ。」
「確かに!そうだね!!じゃあ俺達と村の人達が安全に四葉さんの村に行けますように!!」
と祈って何も起こらない事に笑っていると紫月の家の奥にある森の方からダダダダダダッと足音が聞こえて来た。俺達は急いで家から離れて反対側に建っている家の影に入りながら様子を見た。元長の家の中に居た人達も気が付いたらしく皆が家から出てきた。
俺と紫月はこっそり森の方を見るが誰も降りてくる気配は無いし、敵の匂いもしない。なんなんだ?と思いながら2人で顔を合わせると背後から
「頑張っているか?」
と声が急に聞こえて俺達は悲鳴を上げて一目散にサクラ達が居る所に逃げ込んだ。俺と紫月はサクラを見つけては背後に隠れてガタガタと震えていた。
「幽霊だよ!亡霊!きっとそれだよ!!」
と紫月が言うが
「亡霊って何?幽霊って?でも紫月今声が聞こえたのよね?」
と震えながら言う姿を村人も黙って見守っているとまた近くで
「何で逃げるんだ?」
と声が先程の声が聞こえて来たのでビックリして紫月と2人でサクラにガッシリと捕まって隠れていたがサクラが
「千、千、楓兄様がいらっしゃいましたよ。」
と言って俺の手を優しく解こうとした。俺は楓兄さんの名前が聞いてそういえばさっきの声ってと思って顔を恐る恐る上げると真っ黒の楓兄さんが立っていた。
「何で兄さん真っ黒なの?」
と聞くと隣で紫月が
「え?兄さん?千の?」
と言ってパニックになっていた。俺は紫月のことは放っておいて今サクラ越しに居る楓兄さんの姿をまじまじと見た。
「だって俺の能力は闇使いだろ?お前に何かあった時の為にお守りの中に一部まじないを入れてお前が困った時に出て来ようと思ってたわけ。」
「楓兄さん優しい、でも声かける前に兄さんだよとか言って欲しかった。」
「ごめん、あんなに驚くとは思ってなかったから。」
「そういえば俺が困った時に出てきてくれたんでしょ?俺何か困っているの?」
「いや祈ってたじゃん。俺達と村の人達が安全に四葉さんの村に行けますように!!って。」
あ!と俺と紫月は2人で顔を見合わせた、そういえばさっきそんなお願い事をしたなと。
「楓兄さん俺達村に行けるの?」
「行けるよ。」
「どうやって?」
「俺の闇で影として皆を纏めて運ぶ方法ならすぐに村に行ける。」
「本当?」
「ああ、もう夜になるし闇の力は一層強くなるからな。連れて帰る人全員が纏まってくれたらその人達の大きさの影になって運んでやる。」
と言われて俺達は急いで外に集まって妖怪の村に行く者、国に返る者で円になった。
「これで全員?」
と楓兄さんに聞かれたので俺は周りを確認して全員が揃ったのを見てから
「全員揃ったよ。」
と言うと俺達の影がどんどん広がっていって楓兄さんの真っ黒な身体も地面に吸い込まれ家の影がゆっくりと動き出したと思ったら俺達の目の前にゆっくりと影が昇っていくのが見えて四方八方が塞がれたようにまるで風船の中に居るような円形に段々影が俺達の周りを囲んだ。暫くすると影の風船が出来上がったのか頭上から
「じゃあこれから飛ぶから騒がずに静かにして、俺騒がれたりする環境好きじゃ無いから。」
と言ってその球体はゆっくりと浮かんでいって空を飛んだ。
俺達は歓声を上げながら下を見るとどんどん球体は空に上がっていって村全体が見えた。
そして俺達は村まで楓兄さんの闇使いの能力で安全に移動する事が出来た。
「やっと着いたー!!!」
と俺は影の風船から出ると真っ先に門の下で両手を挙げて背中を反らして身体を解した。
「ここが妖怪の村?」
と紫月が弟の翼と一緒に聞いてきた。妖怪の村の正門を使うのは初めてでいつも花の都からの門しか使っていなかったからいつもの村なのに全く違う景色に見えたが正門近くにある赤鬼夫婦が経営している旅館から大きな声で
「あんたなんか知らないわ!!出て行きな!!」
と奥さんの声がするから間違い無くここは四葉さんが居る村だと思った。
「そう、ここが妖怪の村。距離も思っていた位の距離だったから後は門が出来たら安全に村まで行き来出来るよ。」
と答えると赤鬼夫婦の旅館から赤鬼のおじさんが出てきて
「千くーん!!助けてくれ!!妻に殺される!」
と言われて泣きつかれた。俺は何が起きたのか分からなかったが
「昨日まで雇って居た子達が皆急に辞めちゃったんだよー。もう人手が足りないのにもっと足りなくなるなんて・・・なのに妻ったら俺に八つ当たりしてくるから助けてくれよー!」
とオイオイと涙を流して泣き叫ぶ。その声が煩かったのか楓兄さんの影が
「俺先に本体に戻って他の兄弟達にお前の帰ってきた報告しとく。」
と言って消えてしまった。俺はどうしたものかと考えていたら紫月が
「赤鬼さん、もしかして働いてくれる人を探してるの?」
と聞いた。赤鬼のおじさんは俺に抱きつきながらチラッと紫月を見ると
「人の子だ~え?うん探しているけれどもどうしたの?」
と聞く。
「俺と俺の村に住む女子供合わせて20人居るけれどここに暫く住み込みで働かせて貰えないかな?もちろん門が開通したら通いにするから!!」
と紫月が頼むと赤鬼さんは俺から離れて紫月の顔をまじまじと見て
「ふーん・・・」
と何かを考えていると思ったら
「かあちゃーん!!働きたいって言う子見つけたよー!!」
と大きな声で旅館に言うと3階建ての旅館の玄関がガラガラと開いたと思ったら中から美人な赤鬼さんの奥さんが出てきて
「人数は?」
「20人!!!!」
「よし!!その人達連れて来て!!今度こそは逃がさないよ!!」
と言って村の女性も子供も紫月達も赤鬼さんのおじさんに連れられて中に入ってしまった。俺は赤鬼夫婦のこの決断力が凄く羨ましくもあったがいつも台風のような夫婦だなと思った。その時カサッと何か旅館の中から出てきた人が居て俺は驚いた。
「千?」
と呼ぶその声は今日も透き通っていて優しく暖かく包み込んでくれそうな音をしている。
その声の方を見ると今日は深緑の着物を着た白髪で身体の線は細くその姿も美しくてジッと見つめてしまいそうな程の輝きを発したその人に俺は走って飛びつき強く抱きしめた。
「四葉さん!ただいま!!」
四葉さんは俺の力がきっと痛いはずなのにそれよりも俺が無事に帰ってきたという事に、良かった良かったと言って抱きしめ返してくれた。
長い時間会えなかった四葉さんにやっと逢えた。
俺は暫くその時間を埋めるように四葉さんを強く抱きしめた。
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