第39話ちょっとかわいいと思ってしまったたかし

「え?ちょ、ちょっと待って!た、たかし……それ、大丈夫なのか!?」


「ありちゃんは人狼だからな、肉に関しては俺たちよりも強いはずだ」

「うっす!」

「いや、レバーのことじゃなくて!血を飲んだって話!」

「うっす!」


「まあ……初めはちょっと怖かったな。五感が異常なまでに研ぎ澄まされて、これまで捉えることが出来なかったものが見えたり聞こえたりした。音だけで地下の構造を把握できたりな。でも、これくらいならあたけやありちゃんも出来るんじゃないか?」


「いや、俺はそこまでは……」

「あたしは嗅覚には自信あるっす!匂いだけで感情なんかもある程度読み取れるっす!うっす!」


「す、すごいな……でも……」

「でも?」


たかしはあたけを見つめる。


「その、お前が飲んだ吸血鬼の血って……そんな普通に存在するものなのか?どこか特別な奴だったりするのか?」

「ん?まあ、それは俺も気になったが、伯父さんには聞かなかったな」


「な、なあ、たかし、もし俺がその吸血鬼の血を飲んだらどう……いや、お、お前みたいに強くなれるのか?」


「それはわからない。でもあたけ、お前は本物の吸血鬼なんだからこんなことわざわざしなくてもいいと思うぞ」

「…………」

「半吸血鬼の俺は、ほとんどの時間を無能な人間として過ごしていたから、伯父さんもショック療法のつもりで提案してくれたんだろう」


「え……ああ……ごめん、変な質問して、でも、その……なんだ……やっぱり、たかしみたいに強くなりたくってさ」


「……あたけ、俺とお前は違う。お前にはお前の強さがあるんだ」

「そうっす!あたけ先輩にはあたけ先輩なりのやり方があるはずっす!」


「うん、ありがとう……」


あたけは動揺を隠し切れないようだった。


(たかしが飲んだその血を飲めば自分もたかしのようになれるかも知れない)


そんな思いがあたけの頭の中を過る。


俺がたかしのように強くなりたいのはありちゃんに好きになってもらいたいからだ。

ありちゃんに見向きもされない強さなんて何の意味もない。


(たかし、お前はいいよな。強くてかっこいいくせに伯父さんみたいなすごい親戚がいて……俺には何もないのに……)


その一方でたかしもあたけについて知りたくて仕方ないことがあった。


(あたけって……そもそも血を飲んだことはあるのか?)


あたけの妹や弟はあたけが吸血鬼だと知っているのか?

いや自分が吸血鬼だと知っているのか?


「うっす!先輩、お肉がなくなったっす!お腹空いたっす~!」

「ああ、すまない……ぼーっとしていた」


どうしよう、この際聞いてみるか?


おいあたけよ、お前の妹は週に何回くらい血を吸ってるんだ?

いや流石にこんな聞き方はないな……。


そうだ、こういう時はフェイントを交えて攻めるべきだ。

たかしはハラミを網の上に乗せながら、話しの流れを少しだけ変えることにした。


「あたけ、お前、妹とは……どうなんだ?」

「……う~ん?いや、まあ、普通……?」


あたけはなんとも言えない微妙な表情を浮かべると、ぽりぽりと頰を掻く。


「あたしあたけ先輩の妹さんの顔、めちゃ見てみたいっす!うっす!」

「そ、そう?ありちゃんが言うなら……」


あたけは懐からスマホを取り出し、ささっと操作すると二人に見せる。


「こいつ……名前はみうめ」


そこにはあたけを幼くしたような中学生くらいの子供が、バレーボールを持って恥ずかしそうにはにかんでいる写真があった。


「みうめちゃんか……かわいい子だな……」

「うっす!あたけ先輩そっくりでめちゃかわいいっす!ボールを持ち歩くのが好きだったんすか?」


「え、え?あれ?ちょっと待って……わ、わりい、これ俺の写真だった」

「おい」


あたけは慌ててスマホを操作し、再び写真を見せる。

髪の毛を三つ編みにしただけのあたけそっくりの女が現れて、たかしは吹き出しそうになってしまう。


「ふっ……かっ、かわいい子だな」


「うっす!あたけ先輩によく似てるっす!」

「そんな似てるかなー……でもこれ、3年くらい前の写真だから今は大分違うぞ」


「かか、確実に、今も、そっくりだろ」


「違うって!見ろよ、ほらこっちの写真なんか似ても似つかないだろ?」

「うう……ぐ、くっ、う、そそ、そっくり……」


「どうしたんだよたかし!」

「い、いや、その、すす、すごくか、かわいいなって……」

「やめろよ!怖いよ!」


あたけは不満気にスマホを触ると、もう一枚の写真を見せる。


あたけや彼の妹のみうめとは少し顔立ちの異なるほっそりとした少年の写真だ。日焼けしたその少年はバルコニーのような場所で花に水をやっていた。

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