第16話たかしの雑魚狩り日記①
──……裂け目の怪物たち
”毒を吐く裂け目” からこの世界に現れ、害をなす ”裂け目の怪物” はガンドライドにとっての最大の脅威である。
裂け目の怪物たちの生態や特性は個体差が激しく、
形質も形状も多種多様でほぼ無限に種類があるため、裂け目の怪物の分類はいまだに未解明であり確定されていない。
しかし、決して網羅的ではないものの、
裂け目の怪物の特徴には次のようなものがある。
まず、現実(こちら)の世界の生物に
近い外見を持つものほど『弱い』傾向にある。
特に昆虫などの節足動物に酷似したものは脆いため、
銃火器などで容易に仕留めることが出来る。
また、それらの怪物は総じて知能も低く、遭遇した生物の血肉を貪り食うといった単純な捕食以外の行動を取ることはない。
これはおそらく、彼らの持つ力が裂け目の中においても下位に位置し、その存在が非常に希薄で不安定なことに起因するものだとされる。
すなわち、その不安定な肉体を維持するためにこちらを世界の物質を取り込む過程において、自らの姿を現実世界の構造物に近づけようと、
あるいは近づけざるをえなかったのだろうとガンドライドでは考えられている。
「……というわけだ。わかったか?」
たかしは怪物に関して二人に大雑把に説明してみせる。
ちなみにたかしは毒を吐く裂け目にも裂け目の怪物にもまったく興味がない。
彼が欲しているものは実戦の経験と活躍のチャンスのみだからだ。そのため、この程度の知識があれば十分だと考えていた。
「うっす!それよりさっきからいい匂いがするっす!!」
「……ああ」
あたけは思う。君の方がいい匂いだよ、と。
「いい匂い……?」
満面の笑みで鼻をひくつかせてみせるありちゃんに対し、
あたけは上の空だ。
あたけはともかく、人狼の優れた嗅覚を有するありちゃんは別だ。
先ほどから血の匂いしか嗅ぎ取っていなかったたかしは
疑問を抱かずにはいられなかった。
彼女は何か見つけたのかもしれない!
「ありちゃん、どんないい匂いがするんだ?」
「先輩から花のような激いい匂いがするっす!すっげえ好みっす!あたしと相撲取ってください!」
「……相撲はまた今度だ」
ありちゃんはたかしの薄笑いを前に、楽しそうに両手を振り回しながら突っぱりの練習をしている。
一方、あたけはあたけで、彼女がそうやってはしゃぐ度にぷるぷると揺れる大迫力やワイシャツとブラだけではもはや抑えきれないド迫力に目を奪われていたが、幸いなことにありちゃんには何とも思われてはいないようだった。
大丈夫かこいつら。
たかしは心の中で大きなため息をつく。
(……やはり俺がこいつらを導いてやるしかないようだ)
「あたけ、ありちゃん、俺が先導する。離れるなよ」
「ああ……」
「うっす!!」
二人は返事を返すと、それぞれ武器を握り締めて警戒態勢に入る。
あたけは拳銃、ありちゃんは金属バットだ。
たかしたち三人は郊外にある廃墟に足を踏み入れ、
周囲を警戒しながら奥へ進んでいく。
廃墟はもともとは工場か何かだったようで、なんの機械かはわからないがおそらくハトせんべいでも作っていたのだろう。
機械はいまだに撤去されていないようで何台かは破壊され倒されている。
ベルトコンベアのゴムのベルトは引き裂かれ、火が点けられた跡も見えた。
足元にはガラス片や錆びついたローラーが転がっており、血のついた何かを引きずったようなものもある。
まるで巨大な生き物が傷付いた人間の体をくわえて暴れたような形跡だ。しかし、周囲にそれらしきものの姿は見えなかった。
「いるな」
「うっす!」
「ああ……」
だが、間違いなく、ここには何かがいる。
とはいえ、たかしはその優れた嗅覚と聴覚によりすでにその居場所と潜んでいる数を把握していた。
(さてと……)
後はその場所まで歩けばよいだけだ。
おそらくありちゃんも怪物の気配には気づいているだろう。
たかしは平然と歩を進める。
やがてありちゃんが肩に担いでいた金属バットを両手で握りしめて殴りかかる姿勢を取ると、あたけも緊張した面持ちで銃を構えつつ、ありちゃんに寄り添うように背後を歩き出す。
そして、ついにそれは暗闇の中からゆっくりと姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます