聖女専属侍女になったら、聖女様がまさかの美少年だったんですが

紫陽花

第1話 聖女様付き侍女の採用面接1

「聖女様付きの侍女の採用面接にまいりました……!」


「ああ、面接ね。ふむ……あなたの順番は最後だね。ここでしばらく待っていてくれるかな」


 老齢の神官に案内されて待合室のような部屋に通された私は、硬い木の椅子に腰掛ける。


 緊張でガチガチになっている身体をほぐすため大きく深呼吸すると、パシンと両頬を叩いて気合いを入れ直した。


 私、レティシア・オルトンは今、百年ぶりに現れたという聖女様にお仕えする専属侍女の採用面接を受けるため、アルテシア大神殿を訪れている。


 一週間ほど前に履歴書を提出し、そこで無事に一次審査を通過したため、本日最終面接に招かれたのだ。


 応募者は数十人に及んだと聞くが、採用されるのは一名のみ。狭き門ではあるが、私は絶対に採用を勝ち取らなければならない。


 私が今回応募した理由。それは、神の御使いとも言われる汚れなき聖女様に身を捧げてお仕えしたい……というような崇高なものではなく、非常に俗で打算にまみれた理由だった。


 私の実家であるオルトン伯爵家は、建国からの長い歴史を誇る名家なのだが、一つ、大きな問題を抱えている。そう、ド貧乏であるのだ。


 過去に何度か不作が続いたことで財政が逼迫し、私が生まれるずっと前から我が家は厳しい節約生活が課されていた。もはや屋敷の使用人を雇う余裕もないので、家事や身の回りのことはすべて各自でこなしている。


 衣装は何十年も前のアンティーク級に古いドレス、食事は朝と夜の一日二食──ひどい時は一食で、食べるものはカチカチのパンに野菜クズや豆のスープ。たまに、庭に生えた食べられる野草を採って入れることもあった。


 「愛情は惜しみなく、金は出し惜しめ」。これが我が家のモットーだった。


 生まれた時からこんな暮らしで、家族仲が悪い訳でもなかったので、それほど苦には思っていなかったが、このままでいい訳もない。私はなんとかして出費を抑え、少しでも収入を得る方法を考えた。


 そして、思いついた作戦は二つ。


 一つは、私が持参金のいらない裕福な家に嫁ぐこと。


 そうすれば、実家から私一人分の出費がなくなり、嫁ぎ先から援助もしてもらえるかもしれない。我が家は、爵位持ちの由緒正しい家柄ではあるので、地位や名誉に野心のある商家や、子爵家、男爵家などには魅力のある話かもしれない。


 ただ、いくら年頃の十六歳とはいえ、ダサいドレスを着て化粧っ気もなく、貴族令嬢らしさの欠片もない私に、そんな簡単に縁談が舞い込むこともなく、お金がなく社交界にも出ていないので、自ら売り込むことも難しい。


 正直、机上の空論も同然で、もはや「ある日、天から大金が降ってこないかなあ」という浅ましい願いと同じレベルの妄想でしかなかった。


 そして残るもう一つの作戦は、住み込みで働くこと。


 これも、実家の金銭的負担が丸々一人分なくなり、しかも私が働いて得た給金から少しだけでも仕送りすることができる。実家の人手が減るのは少し痛いかもしれないが、仕送りをもらえるほうが助かるはずなので問題ない。


 そういう訳で、より現実的な住み込みの仕事を得るという目的のために、私は知人の伝手を使い、王都に持ち家のある方のところで、しばらく間借りさせてもらっていた。


 そして毎日いい仕事はないかと目を光らせていたところ、つい一週間前に、まさにドンピシャの求人を見つけたのだ。


 それが、「聖女専属侍女」の仕事だ。


 神殿に住み込み、聖女様のお側を離れることなく、身の回りのお世話や、聖女としてのお仕事をサポートする職務。名誉あるお仕事だけあって、お給金もかなり高い。


 住み込みで高給。そして仕事内容は身の回りのお世話。これは、貧乏で家事が得意な私のためにあるとしか思えない仕事だった。


 私は速攻で履歴書を書いて神殿に提出した。神官に書類を手渡しする際、いかにも淑やかで心の清らかそうな微笑みを浮かべながら。


 そして数日後に書類審査通過の知らせが届き、面接の日を指定され、今に至るという訳だ。


 これまでの苦労を思い返しながら、面接へのやる気を高めていると、先程の老齢の神官が姿を現した。


「レティシア・オルトン伯爵令嬢、聖女様との面接です。こちらへどうぞ」

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