第6話 『異次元の選択肢』

 私、全問正解ぜんもんせいかいは私立探偵だ。

 私には人には言えない特技がある。


 それは、数ある選択肢において、一度たりとも間違えたことがないのだ。


 私は今朝もヨイに膝枕をしてもらいながら、顔に夢と希望を乗せていた。


「あなた、本当におっぱいが好きね……」


 目をつむる私にヨイが半ば諦めた口調で話す。


「私はおっぱいが膨らんでるのは、夢と希望が詰まっているからだという定説を学会で発表しようと思う」


「うん、やめてね」


 あっさり否定されたが、ヨイは夢と希望の詰まったまるでサンタクロースの袋を私の顔に押しつけた。


「く、くるしい……」


 おっぱいが私の口を塞ぐ。


 完全に息をするすべを失った私だが、不思議と怖さはなかった。ここが私の人生の終着駅。私はたどり着いたのだ。それでは、みなさん……ごきげん……よ…………う。


「おっぱい星人から正解を救うのだ!」


 パジャマ姿のヤサシイが駆け寄り、ヨイの両肩を引くと夢と希望が死にかけの私の顔から離れる。


「ぶはぁ――!!ふぅ、また死にかけた」


 深く息を吸い、またも生還した私は、ヨイの顎をクイッと上げ、優しくキスをしているヤサシイを目撃する。


「んぅ――!?な、なにするのよあんた!!」


 ヤサシイの唇を無理やり離す。


「ん?巨乳刑事デカデカが私に惚れれば正解を一人占めできるかなと思って……てへぺろ」


 顔の斜め上にピースサインをして、ウィンクをして、ぺろっと舌を出したヤサシイ。


 まさか、この歳になって『生てへぺろ』を拝めるとは思わなかった。もう、失われた言葉だと思ってた。


「もう!相変わらずギャルの考えることはわからないわね……」


 少し照れながら自分の唇に手を当てるヨイ。


 そんな、いつもの何気ない日常を送っていた私だが、これからとんでもない事件に巻き込まれるなんて、この時はまだ知るよしもなかった。


 それは、ハズスが連れてきた、依頼人の少年がもたらした事件だった。


―――――――――――――――――――――――――――――


「ボクの名前はホームズ・リョーマ、ある組織に終われている。かくまってほしい。報酬はいくらでも構わない」


 その小学生2~3年生ぐらいの男の子は、まるでたくさんの人生を過ごしてきたかのような口調で話した。


 たまらず、ハズスが口を挟む。


「ぼく~?お母さんはどこにいるのかな~?連絡取れるかな~?」


「…………」


 完璧な無視を決め込む小学生。


「匿うとは、具体的にどうしたらいいの?」


 さすが、現役警察官。ヨイは依頼主の物差しにあった口調で対応する。


「ここに住まわせてほしい」


 いきなりの要望にヤサシイが席を立つ。


「それはダメよ。ここは私と正解の愛の巣箱なのよ!」


 それを言うなら『愛の巣』である。急に入り口が丸い家になってビックリした。


「誰があなたと正解の愛の巣よ!私のほうが先に好きになったのよ!」

 

 ヨイも立ち上がったが、すぐさまハズスが二人をなだめる。


「ほらほら、ふたりとも、子供の前でみっともないですよ」


 ふたりは顔を赤らめながらソファーに座り直した。私はノーコメントしか選べなかったので正直、かなり助かった。


「そうですか……はっ!!まずい!!見つかった!!隠れて!!」


 依頼主のホームズ・リョーマがいきなり叫んだ!!


私は……。


A 机の下に隠れる。


B ヨイの胸の谷間に隠れる。


―――――――――――――――――――――――――――――――


A 机の下に隠れる だ!!


 私の指示で全員、机の下に隠れた。


 バババババ――!!!!


 突然、窓ガラスが割れた!


 どうやら、80階にある私の事務所を何者かがヘリに搭載された重機関銃で狙撃したのだ!


「キャ――!!」


 女性陣の叫び声が部屋に響く。


 まずい!私は咄嗟にヨイの胸の谷間に手をいれる。


「あん!……ちょっと!正解、今、それどころじゃ……」


 私はヨイの胸の谷間から銀の弾丸を取り出し、ヨイに渡す。


「ちょっとあなた!どこになにを隠してるのよ――!!」


「ヨイ!これでヘリを撃ち落とせ!」


「へ!?も、もう!どうなっても知らないわよ!!」


 ヨイは携帯していた銃に銀の弾丸を詰め込むと、ヘリに向かってぶっぱなした!


 ドォ――ン!!


 ドガァァ――ン!!


 ヘリは墜落した。


「私のせいで……すいません」


「説明……してもらおうか」


 ひどく落ち込む少年に私はため息をひとつついたあと、襲われた訳を聞いた。


「実は、ボクは体は子供ですが、頭脳は30歳の大人です。ある組織の実験で子供の姿にされたのです。逃げ出したボクは『レインボーの組織』に追われていたのです」


 すごい!漫画の主人公みたいな依頼人だ!


 本当にこんな人、いるんだ!


「……正解先生」


 ひどく落ち込む少年を気の毒に思ったハズスが私に悲しい顔を見せる。


「わかった。しばらくうちに置いてやる」


「あ……ありがとうございます!」


「正解……あんた、男だね」


 ヤサシイが私の腕におっぱいを押しつけながら「でも、22時以降は寝室へ入ってきちゃダメよ」とリョーマに告げた。


―――――――――――――――――――――――――――――――

B ヨイの胸の谷間に隠れる。


 私は勢いよくヨイの胸の谷間に顔を沈めた。


「きゃぁ――!!ちょっと!!正解!!なにをふざけて……」


 ヨイが叫び声を上げた瞬間、80階の事務所の窓ガラスが割れ、光のレーザーが飛んできた。


 ピカァ――!!


「おりゃぁ――!!」


 私はヨイの胸の谷間に隠しておいた手鏡を口に加え、光のレーザーを跳ね返す!


「きゃぁ――!!」

「ギャァ――!!」


 ヨイのおっぱいがポロリした叫びと、窓の外の何者かの叫び声がハモった。



「さて、どういうことか説明してくれ」


 私は頬にヨイにビンタされた手形を残しながら真面目に依頼主を問い詰める。


「すいませんでした。実はボクは一度、異世界に転生して魔王を倒したあと、再び転生して地球に戻った者です。倒したはずの魔王軍四天王が生きていて、わざわざ私を追って地球に来たのです」


 え――!?すごい人、来た――!!


 転生って……えぇ――!?


 本当かな?そんな漫画の主人公みたいな人、来るかな?どんなチートスキル持ってるのかな?


「探偵さん、あなたを道端で発見した時は、そのスキルの高さに驚きました。まさかLUXの値が……いや、あのスキルの意味は……」


 え!?何?何?私もチートスキル持ちなの?


 これから、私は魔王討伐に出なきゃだめなの?


「しかし、これ以上、迷惑をかけれません。ボクはここを離れます!」


 悲しそうな顔をして席を立つリョーマ。


「……正解先生」


 ひどく落ち込む少年を気の毒に思ったハズスが私に悲しい顔を見せる。


「……わかった。しばらくうちに置いてやる」


「え!?あ、ありがとうございます!」


「正解……あんた、男だね」


 ヤサシイが私の腕におっぱいを押しつけながら「でも、22時以降は寝室へ入ってきちゃダメよ」とリョーマに告げた。


―――――――――――――――――――――――――――――――


 こうして、新しく事務所に住むことになったホームズ・リョーマ。さっそく生活必需品を揃えるためにハズスと買い物へ出掛けていった。


 残された私にヨイが詰め寄る。


「あなた、いつの間に私の胸の谷間にあんなのの隠したの!?」


「今朝だよ……。言っただろ、夢と希望が詰まってるって」


「本当に詰めるバカがどこにいるのよ――!!」


 すいません……ここにいます。


「私も爪切りぐらいは挟めるよ。使うとき言ってね」


 ヤサシイが胸の谷間に爪切りを挟んで私に見せる。


「あなたは胸に羞恥心を詰めなさい――!!」


「まぁ~まぁ~」


 取っ組み合う二人をなだめるフリをして、私はヨイの胸の谷間にさらに隠し入れていた部屋の合鍵をこっそり取り出した。


 あとでいい雰囲気になった時に取り出して「合鍵、渡しとくね」「もぉ~正解ったら~。ここはあなたと私の秘密のポケット」なんて会話を妄想をしていたが、見つかったら殺されそうだと悟ったからだ。


 ともあれ、今回も私は選択肢を外さなかった!


 私は、外さない!


 名探偵、全問正解!!


 次回予告『だから22時以降は部屋に入っちゃダメって言ったでしょうが!!』


 乞う、ご期待!


 「こら――!!変な予告出すな――!!嘘だからね――!!」


 元カノ、気月ヨイの叫び声が割れた窓ガラスから夜の闇に向かって放たれた……。つづく。

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