私立探偵 全問正解の選択肢

@tamago-x-gohan

第1話 『虚ろな主人』

 私、全問正解ぜんもんせいかいは私立探偵だ。


 私には人には言えない特技がある。


 それは、数ある選択肢において、一度たりとも間違えたことがないのだ。


 テストの選択問題、彼女からの「これとこれ、どっちが似合う?」という答えのない質問、職業に至っても『公務員』か『探偵』か悩んだが、この暮らしぶりを考えると『探偵』を選んだことに間違いはないだろう。


 私は80階建ての高層マンションの80階『全問探偵事務所』の豪華絢爛な椅子に座りながら、昨日、私が解決した事件が載った新聞を読んでいた。


「先生!昨日は大活躍でしたね!あの推理!勉強になります!」


 隣でセーラー服を着た美少女が騒いでいる。


 彼女の名前は解答ハズス。探偵になりたいと押しかけ、そのまま居座る強引な性格を持っている。


 おっぱいが大きくなかったら、すぐに追い出していたところだ。……まったく。


 ピンポーン。


 事務所の扉のインターホンが鳴った。


「ハズス、依頼人だ。通しなさい」


「はい、先生」


 ハズスが短いスカートをヒラヒラさせながら玄関へ急ぐ。


 その様子を眺めながら、私は自分のした選択肢に間違いがないことを確信する。


「全問先生。はじめまして。私は人妻つまみと言います。今日、お伺いしたのはこちらの私の主人のことで……」


「うへうへ!げへへ!」


 開けられた扉から入ってきたのは容姿端麗な美人妻と、それに似つかわしくない髪の毛ボサボサ、目も虚ろな男。美人妻に手を引っ張られながら「げへげへ」叫んでいた。


「うわっ!気持ち悪ぅ!」


 ハズスが思ったことを口にする。


「数日前からこの様子で!!先生!主人を元に戻してください!!治していただけるのであれば、私はなんでもします!!」


 よしエッチなことをして貰おう。


 私は決して口に出さずに心に決めた。


「なるほど。これは……」


 私の頭の中で二つの選択肢が浮かぶ。


 私はこの『頭に浮かぶ選択肢』を外したことがない!これは何かの能力か。たぶん、私が神様からいただいた特別な力なのだろう!


 私が選んだ選択肢は……。


A 主人に鏡を見せる。


B いきなり主人をぶん殴る。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


A 主人に鏡を見せる。 だ!!


「この鏡を見てください!」


 私は主人の顔に鏡を置く。


「うわぁ!か、鏡!!やめろ!やめてくれ!」


 突然、主人が暴れだす。


 主人の症状、これはゲシュタルト崩壊に違いない。鏡に向かって「お前は誰だ?」と問い続けると自我を亡くしてしまうのだ。


「人妻さん。ご主人の名前は?」


「ネトラレです!あなた!しっかりして!」


 美人妻が暴れる主人にしがみつきながら叫ぶ。


「ネトラレさん!あなたはネトラレです!」 


 私は鏡の中の主人に言い聞かせる。


「ネトラレ……私は……いったい」


 主人が元に戻った。


「あなた!私……私……」


 美人妻が涙を流し喜ぶ。


「解決ですな。ハズス、ご主人を家まで送ってきなさい」


「はい先生!あの、奥様は一緒に帰らないのですか?」


「彼女は事後報告書やらなんやら手続きがいっぱいあるんだよ!ね……つまみさん」


「え……ええ」


「ふ~ん、じゃネトラレさん行きましょう!」


「え?つまみ?え?」


 主人はハズスに無理やり連れられて部屋を後にした。


「では、報酬を……いただいちゃおうかな!」


「は……はい」


 彼女は恥ずかしそうにブラウスのボタンを外していった……解決!


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私が選んだ選択肢は……。


B いきなり主人をぶん殴る。 だ!


 バチ――ン!!


「ぎゃ!」


 倒れる主人!


 あまりの衝撃で主人の口から折れた歯が吐き出される。


「あなた!!探偵さん!なんてことを……」


 倒れた主人に寄り添う美人人妻。


「先生!いきなり殴って!?どうしたの?」


 ハズスが心配そうな顔をこちらへ向ける。


「あれを見ろ!」


 俺は主人を指差す。


「あ、あれ?俺はいったい……」


 主人に正気が戻る。


 俺は主人の顔が少し腫れているのを見逃さなかった。


 あれば親不知が腫れて噛み合わせが悪くなり、極度のストレスから起こる歯科心身症だ!


「ちゃんと帰って歯を磨いてくださいね。これで解決ですな。ハズス、ご主人を家まで送ってきなさい」


「はい先生!あの、奥様は一緒に帰らないのですか?」


「彼女は事後報告書やらなんやら手続きがいっぱいあるんだよ!ね……つまみさん」


「え……ええ」


「ふ~ん、じゃネトラレさん行きましょう!」


「え?つまみ?え?」


 主人はハズスに無理やり連れられて部屋を後にした。


「では、報酬を……いただいちゃおうかな!」


「は……はい」


 彼女は恥ずかしそうにブラウスのボタンを外していった……解決!


 私は選択肢を外さない。


 探偵、全問正解!


「つまみさん。手をどけてくれないと、せっかくの美肌が拝めませんよ……」


「……はい」


 私は……外さない!!

 


 

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