人をなぶり弄ぶ、悪魔のVRMMOゲームで危機一髪。果たして、俺は生きて帰れるかー?。

ミヤギリク

第1話 悪魔との邂逅 ①

世の中は、人を楽しませ喜ばせるゲームと、人を困惑させ混乱の渦に陥れるゲームがある。


大抵の人間は、ゲームとは前者を想像するだろうが…俺たちの、今やっているゲームは、後者である。


何で、こんな恐怖のデスゲームに参加することになったかというと…


俺の取り返しのつかない言動がきっかけである。




俺たちは、バーチャルの世界を重たい足取りで歩いていた。

全身からどっと汗が吹き出て、顔はすっかり青ざめていた。


目の前に、ベネチア風の奇妙な仮面を被りマントを着た男たちが立っており、俺たちは案内された。


広い庭園をしばらく進み目の前の白のドアを叩いた。


ドアを開けると、中から猫の着ぐるみを着たかのようなシャープな案内人が、姿を現した。


「皆さん、ようこそ、ここまでおいで頂きました。誠に光栄です。このステージまで辿り付けるのは…生きてこれるのは、実に稀なことなんですよ?」


こいつは、シルクハットにタキシードを身にまとい、直立二足歩行をしている。


まるで、「長靴を履いた猫」のような風貌をしている。


「申し遅れました。私は、このゲームの案内人。名前は、ケット・シーというものです。以下、お見知り置きを。」



ケット・シーは、シルクハットを外し丁寧にお辞儀をした。



俺たちは、ベルサイユ宮殿のような無駄に豪勢な廊下を歩いた。しばらく歩くと、右手側のとある広間へと案内された。


「では、皆さんに、すごろくゲームをして頂きます。」

ケット・シーは、扉を開きパンパン手を叩いた。


体育館のような広さの部屋の中には、床を覆うかのような巨大なすごろく板が配置されており、これまた、巨大なサイコロや、ルーレットが置かれていた。


「え…?すごろく…?」

「人生ゲームの事か…?」



「作用です。まず、そこに転がっているサイコロを振っていただきます。そして、出た目の数だけマスを進んでもらいます。非常にシンプルなゲームです。」


「どうせ、何か、カラクリとかあるんだろう?」

「そうだ、そうだ!」


「いえ、これはただの何の変哲もないすごろくゲームです。子供の頃、よくしてたでしょう。ただ、少しばかり趣向を凝らしてあります。何せ、このゲームそのものがバーチャルリアリティなもんで…あと、答えを教えるのは、自己責任とさせて頂きます。では、準備に取り掛かりましょう?」



10秒の沈黙が流れると、仮面の男達が、巨大なルーレットにボールを転がすした。


ボールは、勢いよくクルクル回り山田と書いてあるマスへ止まった。



「では、山田様…貴方から行きましょうか。」

ケット・シーは、手をパンパン叩くと無邪気な声で山田を案内した。



山田は、目をぎょつかせおどおどしながらすごろく板の方まで歩いてくる。


彼は、仮面の男から巨大なサイコロを渡された。



山田は、ガクガク震えながらサイコロを投げた。


サイコロの目は、四を上に止まった。


山田は、恐る恐る4マス進んだ。



「お、これは、これは、なぞなぞですね…」



「え…?」


「これは、ボーナスステージとなっています。正解したら、6マス進み、不正解なら…」



「ふ、不正解なら、どうなるってんだ?」




「こんな風に、バーン!」

ケット・シーは、近くにある風船をバンと、握りつぶした。


その光景に、全員ギョッと青ざめた。


「で、でも、そうなる前にログアウトすればいいだろ。それにバーチャルだから、死なない。」



「いや、これは、一度やり始めると、二度と戻れない。ログアウトした時点で殺される。しかも、このゲームは、実際の俺たちの身体とリンクしてらるんだ。」



「な、なんてこった…」



山田は、瞳孔を震わせ問題文を読み上げた。


「え…っと、土用丑の日は、1年で何回あるか…?」



「えっ…?1回じゃないのか…?なあ。」

「ああ、1回だろう。」

「いや、違うんだ…」



「4回、4回以上だ。」

山田は、自信ありげに堂々と回答した。


10秒程の重苦しい沈黙が流れた。


「正解です。6マスどうぞ。」

ケット・シーは、手をパンパン叩くと先のマスへと案内した。


山田は、大きくため息つくと、6マス歩いた。


「土用丑の日は、立春(2月4日ごろ)、立夏(5月5日ごろ)、立秋(8月7日ごろ)、立冬(11月7日ごろ)の前18日間のことをいいます。 土用は夏にしかないと思われがちですが、年に4回、各季節にあります。では…次は…」


ケット・シーは、無駄丁寧な解説をした。



ルーレットの玉はクルクルまわり、藤原と書いてあるマスへ玉は止まった。



「藤原様!」



藤原は、両ポケットに手を入れ堂々と歩いた。


「へっ…所詮、ゲームだろ。こんなの楽勝だよ。俺は、すごろくでもパズルでも、ドラゴンでも何でもやってる。最後に生き残るのは、この俺様だ。」


藤原は、自信満々で悪態つきながらすごろく板の方まで歩くと、力強くサイコロを転がした。


サイコロの目は、6と出た。


「よっしゃー」

藤原は、ガッツポーズでマスに書かれた文字を読んだ。


「何、何?父であるクロノスから王座を奪い神々の王となった、天候を司るギリシャ神話の最高神は誰?正解したら、6マス進み、ボーナスチャンスだと…?」


藤原が読み上げると、ゼウス、

ポセイドン、ヘラの神々のVRが浮き出した。

3メートル程の巨大なバーチャルのキャラクターに、一同驚愕した。



「簡単、簡単、ゼウスでしょ?俺、よくファイナルファンタジーやってるから、知ってんだよ。」


藤原は、気怠げな態度を見せる。


再び、10秒程の重苦しい沈黙が流れた。


「正解。ゼウスの父クロノスは自らの王権が子供に奪われることを恐れていたため、生まれた子供たちを飲みこんでいました。そこで、母親がそれを恐れ息子を隠しました。やがて、大きく育ったゼウスは、クロノスを殺め神々の王となったのです。」

ケット・シーは、手をパンパン叩いた。

こいつの顔は相変わらず能面みたいで、考えていることが掴めない。

そして、無邪気な女のような声と対比し不気味さを引き立てている。



藤原は、不敵な笑みで6マス進む。


「ええと…ゼウスが洪水で人類を滅ぼそうとしたとき、箱舟を建造して難を逃れ、新たな人類の祖となった夫妻の名前は何?

A デウカリオンとピュラ

B アンフィオンとニオベ

C ケフェウスとカシオペア」


藤原が問題文を読み上げると、マスの上に、巨大な3組の夫婦のVRが浮かび上がった。

夫婦ら、笑顔で手を取り合っている。


「は…?何それ?聞いてないぞ…。」


藤原は、眉を八の字に寄せ首を傾げた。


「考える時間は、3分までとさせていただきます。尚、不回答の場合は、バーン!」

ケット・シーは手をぐーからいきなりパーの字にすると、ストップウォッチのボタンを押した。


「なあ、お前、知ってるか?」

木村は、すぐ隣にいる俺に向かって首を傾げて尋ねてきた。


「いや、俺も、分からないんだ…」

幾ら、ファイナルファンタジーやり込めてきた俺でも、こういうマニアックな問題はさっぱり分からない…


一体、誰が知っているというんだ…?


「A…Aだ…Aですよ、藤原さん!」

山田が、か細い声で藤原に話しかけた。


「ええい、うるさい、黙れ!この陰キャ風情が…お前なんかの助け舟は、不要だ。Bだ。」


藤原は、悪態つき足踏みすると山田を睨みつけた。軽く、イラついているようだ。こういう、余裕ぶってる唯我独尊風の人程、後から自滅するパターンだ。


藤原は、丸くなり

「で、でも…」

と、首を激しく横に振りガクガク震えた。


「え…?Aなのか?ホントなんだな…?」

木村は、山田の方を向いた。

山田は、ぶるぶる大きく震えながら頷いた。


10秒程の重い沈黙が流れた。


「藤原さん…Bは、違います!Aです!」

山田は、しきりに首を大きく横に振る。


「藤原、チャンスは一度きりなんだそ!」

木村も、外野から話しかけた。



「いいや、Bだ。お前らなんかの意見に耳は貸さない。」

藤原は、俺たちの方を向かず堂々と両腕を組んでいる。


「ぶっぶー、残念、不正解。答えは、Aでした。」


「は?だって…」

藤原は、首を傾げケット・シーを睨みつけた。



山田は、激しくわなわな震え両手を耳に当てた。


ーと、その瞬間、目の前に3メートルはある巨大なゼウスがマス目から出現し、杖を大きく振った。


ゼウスは、一瞬で雷を出現させると、逃げだそうとし藤原目がけて雷を落とした。


膨大な雷のシャワーが、藤原を包み込んだ。あまりの眩しさに、俺たちは顔を覆った。


藤原は、一瞬で黒焦げになり身体はバンと大きな音を立て爆発した。


俺たちは、戦慄しながらその光景をまじまじと見た。




「正解はAのデウカリオンとピュラです。

大洪水の話といえば、旧約聖書『創世記』に登場する「ノアの箱舟」が有名ですが、ギリシャ神話にも同様の話があります。

人類の素行が悪くなり、ゼウスが人類を洪水で滅ぼそうとしたとき、夫デウカリオンと妻ピュラの夫妻は行いが正しかったため、プロメテウスの助けで箱舟を建造し難を逃れます。

水が引いた後、彼らは神に人類回復の祈りをささげます。「母の骨を歩きながら背後に投げよ」とお告げを受けます。

これを「母なる大地の骨、すなわち石を後ろに投げる」と解釈した彼らが、それに従うと、デウカリオンが投げた石からは男性が、ピュラが投げた石からは女性が生じ、人類はめでたく復活を果たしました。

人類が骨の折れる仕事に耐える強い精神と、優しさを持たない残忍で冷たい心を持ち合わせているのは、冷たく硬い石から生じた人間の子孫であるためといわれているそうです。」


ケット・シーは、顔色や態度一つ変えずに、無邪気な声で解説した。この、ニヤついたような口元が、どうしても癪に障る。


その様は、如何にも不自然で俺たちの不安をより一層掻き立てた。







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