深い縁/断てぬ縁
ラジオを聞き始めたのは小学生。
今みたいに立派なラジオで聞いていたのではなく、押し入れの中にあった小さなポケットラジオを見つけたのがきっかけ。母が死に父が夜勤で出かけて、眠れない一人の夜になんとなく聞き始めたのだが。
聞いた番組が悪かった。
いわゆる深夜の芸人ラジオ。小学生の僕の情操教育には非常によろしくない下品でゲスな笑いのオンパレードだった。
いい大人がこんな事で笑い合っている事に呆れて、笑ってしまった。よくわからない笑いもあったけれど、それでも。
当時の僕は救われた。
以来、ラジオを聞き続け、中学生の受験シーズンにストレス発散を兼ねてラジオにメールを送り始めた。いわゆるはがき職人というやつ。もちろんそう容易く送ったメールが読んでもらえるわけもない。
結果。
メールが読まれるかドキドキしながら深夜まで勉強を続けたので僕の学力は結構上がり、思ったよりも良い高校に入学する事が出来た。
これはラジオを聞いていて良かった事の一つ。
反対に良くなかった事と言えば。
ほんの少ーし意地悪になった。
人間こんだけ毒を吐いて世間を斜めに見ても良いのだと学んでしまった。もしかしたら元々の性分だったのかもしれない。それに、こんな闇を抱えた人間が社会であくせく働いているのだなと世知辛さも感じた。
だから。
僕は基本的に自分の暗黒面を出さず、斜に構えず、ラジオの中でだけ、そういった面を発散させる事にした。
これで外面、というか上っ面のコミュニケーションには自信がある。もしかしたら偶に意地の悪い性格が漏れるかもしれないけど。
それでも。人間、こうやってうまくやっていくのだろうと思い至った。
それに、人と関わるのも嫌だった。あまり他人に深入りしたくない。特に母が事故で亡くなった直後。父の再婚前。エリーゼが家に来る前。つまり小学校低学年の頃はその思いが顕著だったけれど――。
まったく、実のところ妹にあれこれ言う資格は僕には無い。
だが、幸いな事に僕には『適度に人と付き合う才能』があった。あってしまった。
だから上手くは出来る。内心では、イヤだなとか、思いながら。
それがどういうイヤなのかは、分かりたくない。
・・・
『続きましてラジオネーム ふぐり。
先日プロゲーマー田中を見つけたので石を投げつけました。彼は驚いた表情を浮かべていました。それはそうです。だって彼は今回に限っては何も悪い事をしていないのですから。僕は更に何度も石を投げつけました。すると田中は怒りながら近寄って来たので、その様子をSNSにアップロードしたところ何故か田中が炎上してしまいました。田中、ごめんね』
『謝ってすむか!』
『これは我々も気を付けねばなりませんねぇ。こういうふぐりみたいなヤツが有名人を炎上させようと虎視眈々としていますから』
『ゲーマー関係ないし! で、どうします?』
『まぁステッカーあげましょうかね』
『あげるんかい!』
ゲットだぜ!
『にしてもこのふぐりは昔からほんと意地が悪い。これはもう一度マリリちゃんに来てもらってメール破ってもらいましょうか』
『はっはっはっ、いいですねー。我々のラジオは紳士のラジオですから。という事で次』
マリリか。
つい先日の事を思い出す。
やはり少し言い過ぎたかもしれない。
正直なところ、反省してる。
マリリ、ごめんね☆ と思うくらいには、思う所がある。
もし傷つけていたら僕も傷つくので出来ればこの間の事は気にしないでもらいたい。
人を殴ったら自分の拳が痛い、みたいな。
マリリは僕に近寄り過ぎたのだ。マリリが悪いよマリリが。
もちろん言ってやったという気持ちの方が大きいけれど。少しだけ、いやけっこう、罪悪感。
実際、あの人、僕にこだわりすぎじゃないかと振り返ってみても思う。会社に呼び出して、実際に会いに来て、ラジオでも名前だして。
「……」
でも。
やっぱりチクチク言葉を使ってしまったなという後悔が心の何処かにある。
だから、これから行うのは紛れもなく愚行だ。
マリリのアカウントをブロック解除。ダイレクトメッセージにテキストを入力。
『この間は少し言い過ぎました。謝ります。これに懲りたらもう近づいてこないで下さい』
よし! 終わり!
ピコン。わずか五秒で返信が届く。
『はいはい。でたでた。ほんとにそう思ってる人はわざわざ連絡とってきませんので。この構ってちゃんがよぉ。ったく、仕方ない奴だよキミは。まーここは? マリリちゃんが? 折れてあげて仲直りしてあげますよ。じゃーね、お、や、す、み、ま、た、ね!』
「……やってられん」
やっても後悔、やらんでも後悔。人生って後悔だらけだ。
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