第14話「親の責務」

―――ロパンド市庁舎 治安部


「ん~っ、今噂の傭兵セバスですかぁ。一方で、カルネラに現れた死神の名前がセバコタローと。……で、その傭兵は一体どういった容姿なんですか?」


 丸眼鏡をかけた如何にも役人面の男が部下に問いかける。


「はい、治安部長。ホシは、黒髪、目元にクマのある不愛想な顔、長身で手足は鎌のように長く、普段は黒のローブを身にまとっております。」


「なるほどぉ。すんごい匂いますねぇ、プンプンと。」


 上官の男は眼鏡のテンプルをつまんで上下させると、休めの姿勢を取る部下に対して、すかさず指示を出す。


「至急、密偵班に連絡して、2名、この男の素性調査に当たらせて下さい。」


「はい、承知しました。」




―――孤児院の裏庭


カンカンッ、カカンカンカン、カンカンカンッ……


 少し離れたところでは、タンガスのアニキが煙草をふかしながら、自分たちの稽古の様子を眺めている。


カンカンカンッ、カカン、カンカンッ、カンカカンッ……


「今朝はなんかいつも以上に気合入ってるね。」


「はい、来週末はナーガ討伐の遠征ですから。」


「まぁ、そんな気負い過ぎなくても大丈夫だよ。ヒーラーとしてはもう十分過ぎるくらい戦闘スキルは身についてると思うし。」


「はい、でもやっぱり、もう少し戦闘でもお役に立ちたいので。」


「そっか、とりあえずは、まず三日後のクエストだね。」


「はいっ!」


 来週は、東の洞窟に最近棲みつきはじめたというナーガの討伐へ向かう。クエストの難易度は“B+”なので、オーガに次ぐ強敵だ。そして、今回のクエストでは、エレナも前衛を務める予定になっている。……正直にいうと、こちらの方がドキドキだ。ナーガ自体は恐らく、自分にとっては脅威になり得ないだろう。ただ、彼女の身に何かあったらと考えると心配になる。今のモチベーションに満ち溢れたエレナに対して、『敵は全部オレがやっつけとくからさぁ。エレナはまぁ後ろで見ててよ。』などとは、とてもじゃないが云える雰囲気ではない。『お父さん、将来ね、僕、プロ野球選手になるんだぁ~。』と夢を語り、少年野球の練習に明け暮れる我が子に向かって、『お前さんのセンスじゃ、正直厳しいと思うよ。』などと云える親がどこにいようか?まぁ、これも親の責務。こちらはバックアップすることしか出来ないのだ。


「……じゃあ、まぁ今朝はこのくらいにしておこっか。」


「はい、ありがとうございます。」


『お兄ちゃんまた明日ね~!』


 子供たちにも、すっかりお馴染みの存在となってしまった。


「うん、また明日!」


 みんなに手を振りながら、孤児院を後にする。そして、そのまま、一人、カフェへと向かう。


 こちらの世界にも、コーヒーや紅茶に緑茶、それに何故か“和菓子”が存在する。串団子を頬張りながら、緑茶をすする。これが最近のちょっとした朝のルーティンになりつつある。今日は、この幸せなひと時を考え事の時間に充てることにした。

 昨晩はお酒の力もあり、割と普通に寝付けたのだが、今朝からずっと、昨日の支部長との話の件が頭の中をグルグルと回っている。支部長の口ぶりからすると、“まだ”ギルドは、王国から死神の討伐依頼を受けていない。ということは、今のところ、ロパンドとしても、死神の正体を掴みきれていないということだ。


(自分で、“死神の正体”とか云ってる時点で、虚しくなってくるけど……。)


 ただ、現にこうして、死神の正体に感づいている人間もいる。遅かれ早かれ、何者かが死神の正体を突き止め、市長が報告のため、王都へと使者を遣わすことだろう。


(さて、どうする??)


 王国に情報が届く前にバックレるか?正体がバレないように、ひっそりと息を潜めながら、ロパンドで生活するか?……いや、そもそも、ロパンドになっちゃんはいそうにない。近い将来、ロパンドを出るのは確定だ。でも、エレナはどうする?


(流石に、連れてはいけないよなぁ……。)


 スネイルと別れるのも少し寂しい。


(あぁ、色々と考えがごちゃごちゃしてきた……。)


「よしっ!」


 自分が適切だと思うタイミングで、前もってエレナとスネイルには、ロパンドを出る旨伝えよう。街を出る時は、孤児院に沢山寄付をするのだ。受けた恩はしっかりと返す。瀬葉家の家訓だ。そして、なっちゃん探しの旅に出る!これで決まりだ!




―――ナーガ討伐クエスト当日


 ……前回のクエストあたりからだ。最近は何だか誰かに見られている、付けられている、そんな感覚に陥る。支部長の話以降、疑心暗鬼になり過ぎているだけだろうか?気のせいだと思いたいが、もし本当にいるのだとしたら、この司祭アンテナをも搔い潜っているということになる。相当に訓練を積んだ手練れだ。

 ……そもそもの話、跡を付けられているのは本当に自分なのだろうか?エレナが付きまとわれている可能性だってある。相当に訓練を積んだストーカー??エレナの身が危ないではないか!?兄代理としては、全く看過できない事態だ。




―――東の洞窟への道中


 昨晩はナーガ討伐のため、近隣の町で一泊した。今日は早朝から、ナーガが棲まうという東の洞窟を目指し、森の中の獣道を突き進む。


「ねぇ、エレナ。最近、身の回りで何か変わったことって起きてない?」


「う~ん、特にはないと思いますけど。」


「本当に?下着が盗まれたりとか、リコーダーが消えたりとかは?」


「はい、特に何も盗られてはいないですけど、リコーダーって何ですか?」


「やぁ~、ロパンドにはないのかなぁ。ヘヘッ。男子生徒にとっての崇拝物というか。」


「はい??」


 エレナは不思議そうな表情を浮かべながら、首を傾げる。


「まぁとりあえず、身の危険を感じるようなことはないみたいで安心したよ。」


 更に歩みを進める。


「……そう云えば、セバスさん、最近、ボトムス変わりましたよね。」


「うん、あのスウェット、すっかりくたびれちゃってたからさぁ。こないだ、たまたま見かけた黒のパンツを買ったんだ。」


「前のはちょっと丈が短かった気もしますしね。今のボトムスの方がお似合いですよー。」


「ありがとう。身体が急成長しちゃったから、確かに短かったよね。」


「身体が急成長ですか?」


「あっ、いや、何でもない。こっちの話……。」


 出発から2時間ほどが経過し……、


「やっと、見えてきましたね。」


 ようやく、東の洞窟へ到着する。


(……よしっ、いよいよ、例の作戦を実行する時だ。)





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


次話は、ナーガ討伐クエストです。

斜め上に物語が進行するので、ご期待下さい笑


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