第5話
「今ソナのことを考えてるんだね」
「どうしてわかったの」
「黄色い花はソナとの大切な思い出だって言っていたじゃないか。僕はあなたが何を思い出しているか、いつも大体当てられるよ。一緒にいる時間が長いせいかもしれないな」
「大切な思い出だったんだ。いつまでも、何よりも」
目の先に、小さな家が見えた。木の階段を二、三段登り、ノックをする。内側のドアノブにかけられている鈴が鳴る。
「入っていい」
濁声が聞こえて安否確認がとれた。
「ばあちゃん、元気だった?」
ばあちゃんの部屋は雑然としている。ちゃぶ台と座布団と湯呑だけ。
「みなを味方だと思いなさい。敵だと思う相手は大定、的だ。的にお前の矢を当てなさい。それ、敵を自ずから作って、相手を貶めるのは辞めにしなさい」
ばあちゃんは言い終えると、お茶を飲んだ。
「へっ?」
脈絡のないことをどうして、言っているんだろうか、ばあちゃんは。ばあちゃんは少々ボケがきている。
「左の人差し指を胸下、右の人差し指をこめかみあたりに持ってくると一つの線ができる。下が過去で、上が未来。今、は、この線上にある。下から順に見ると、過去があって今があって未来がある。右手を上下に動かす。過去から未来を繋ぐのが今。過去と未来はこうやって繋がっている。過去と未来を結ぶのが今だ」
ばあちゃんはそう言うと、もう一度お茶を飲んだ。口の中に残った微量のお茶で、乾ききった唇を舐める。ばあちゃんは大きく咳払いをして目を閉じた。がーがーと、小枝を砂利道で引き摺っているような音がする。
「え、ばあちゃん寝ちゃったの?」
「寝ていない。お前の方は帰れ」
鼻をずずっと啜ったばあちゃんは、わたしの目を見つめる。確信めいたように、力強くうなずくと、シワシワの手でわたしの両手を包み込んだ。
「やっと二人きりになれたな……よく聞いてくれ。母と父は、逃れるため、悪魔にお前を捧げた。生みの親は悪魔崇拝者だ。熊や狼が涎をたらたら流しながら彷徨う森の奥でお前は見つかった。悪魔崇拝者から一度逃れた赤子だ。災いを避ける力を持っている若者よ、この国の災いを収めるために神に奉れ」
ばあちゃんは何かを間違えている。そう思う。汗が頬に線を引いていた。
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