第241話 河合先輩のお裁縫②

 劉たちは心愛と別れた後で、四人で話をしていた。


「諸葛、アンリは何故、超国家のダンジョンフォースに意味が無いと言ったんだ?」

「張、少し考えればわかるだろう。間に合わないんだ」


「間に合わないとは?」

「世界中にあるダンジョンは七百か所だ。毎日一つ攻略しても666日では間に合わない。それに、実際にはAクラスやSクラスのダンジョンだってある。そのクラスだと一つのダンジョンを攻略するのに、一月以上はかかる。戦力を集中するより各国が戦力を育て上げ、同時進行で攻略していかなければ、とてもじゃないが666日の間にすべてのダンジョンを攻略するのは難しいという事だろう」


「劉大兄はどう考える」

「関、そうだな、考える事は諸葛に任せるさ。俺は諸葛の決めた方針に乗っかる神輿である事の方が万事うまくいくとわかっているからな」


「そう言うと思ったが、曹主席にはどう報告するんだ?」

「そのままだ。中国は中国で攻略を進めるから、各国は各国で進めるように進言するべきだ。自力でどうにもならない国は、アンリが手伝いに行くだろう」


「なるほどな。アンリはそういう立ち位置か」


 劉が諸葛に問う。


「諸葛は、アンリの正体は見当がついたのか?」

「まあ、大体の所はわかりました」


「ほう、流石だな。それで誰だ?」

「恐らく、ポセイドン。ゼウスの兄ですね。本人なのか加護を貰った存在なのかはわかりませんが、ハーデスを良くは思って無く、あわよくばその立場を奪い取ろうとすら考えている奴です」


「神様って、そんなドロドロしたもんなのか?」

「恐らく、名を語ってロールプレイをしているだけでしょうけど」


「ダンジョンを作り出すほどの存在が神では無い?」

「ええ。地球の人類たちにもっともらしく話を伝えるために、神の名を語っているのでしょう。恐らく地球外生命体か、未来の地球人。多分後者です。地球の文化や歴史を知りすぎていますし」


「とりあえずはアンリの口車に乗ってダンジョンの攻略を進めるしかないか」


 こうして劉たちは中国国内百三十五か所にも上る、ダンジョンの制覇に向けて行動を開始する事になる。


◆◇◆◇


 河合先輩はシルクスパイダーの糸を手に取ると、裁縫士のJOBスキルを発動して絹織物を作り出した。


(へー……結構、ファンタジーな織物だよね)


 そう思いながら眺めていると、河合先輩が声をかけてきた。


「まだ、私のJOBスキルだと布に柄がつけられないんだよね。色は自由につけれるから、ワインレッドでいいかな?」

「はい、大丈夫です。でもJOBスキルが成長すると柄も自由にできるんですか?」


「そうだね、見本があれば転写が出来るって感じかな?」


 それを聞いた希が突っ込んできた。


「それって、ブランド物のコピー商品なんかが自由にできるって事ですか?」

「そう言われると、なんかちょっと悲しい感じがするけど、実際にはそうだね。そんな感じかも」


「儲かりそうですね」

「いや、それは駄目でしょ。でも……良心との戦いにはなっちゃうよね」


 河合先輩がマジックバッグから小型のミシンを取り出すと、手際よく布を裁断してミシンでリボンタイを仕上げた。


「こんな感じだよ」

「わーもう出来ちゃったんだ。裁縫士、恐るべきですね」


「魔物素材で作ったのは初めてだけど、効果はどんな感じなんだろうね」

「ちょっと、見せてもらえますか?」


 そう言って出来上がったリボンタイを【心眼】で見てみた。


~~~~

 スパイダーシルクのリボンタイ


魔防力  プラス5パーセント

敏捷   プラス3パーセント

知能   プラス3パーセント

~~~~


「河合先輩、これ……結構凄いですよ。売りに出したら百万円どころじゃない値段になりそうな性能です」

「えっ? 本当なの、性能教えてもらってもいいかな?」


 リボンタイの性能を河合先輩に教えると、大喜びしてくれた。


「私がこんな凄い防具作れるなんて、めっちゃ嬉しいよー。って心愛ちゃん。私スパイダーシルクなんて、協会のショップでも見た事無いし、この糸ってどの魔物から出たの?」

「えーと……確か天津ダンジョンの十八層の守護者だったかな? クイーンタランチュラって名前でした」


「なんで天津ダンジョンとか行ってるのよ……もっと、手に入れやすい所で出ないの?」

「蜘蛛系統は今の所、見かけてないですね。札幌ダンジョンが虫系の魔物よく出てた印象があるから、札幌で狩りしてたら出て来そうですけど」


「えー、それは遠いね、気軽に取りに行けないじゃん」

「えっと、今月中に金沢ダンジョンシティーに国内すべてのダンジョンへの直通転移ゲートが設置されるってうちの社長が言ってましたよ」


「本当なの? それってもしかして国外ダンジョンとかにも行けるのかな?」

「今の所はスリランカだけですけど、スリランカからアメリカとイタリアには転移ゲートが設置されてますね。まだ一般の人には解放されてないと思いますけど」


「凄いなー、世界中に簡単に旅行に行けちゃうようになるんだね」

「そう遠い未来では無いと思います。でも、国内も含めて無料では無くなるみたいですけど」


「そっかー、それでも時間の節約が出来るし十分価値はあると思うよ」

「ですよね。それよりも先輩、色々な素材で作った防具の性能を知りたいから、このマンションの一部屋を先輩の工房で使いませんか? 素材は今だしてあるのなら自由に使ってもらって構いませんし、使ってみたい素材があればダンジョン協会のデータベースで調べて指定してもらったら、用意しておきますから」


「えーマジでいいの? それ、めっちゃ嬉しいんだけど」

「その代わり出来たアイテムは必ず一度、私に見せて欲しいです」


「えっ? それって見せた後は売ってもいいって事? 素材代とかはどうやって払ったらいいの?」

「あ、どうしましょう。売却金額の7・3とかでどうですか? 勿論先輩が7で」


「ダメダメ、そんなの貰いすぎだよ。半々でも私が貰いすぎだと思う」

「じゃぁ半々と言う事で」


「本当にいいの?」

「全然いいですよ。鍛冶のJOBを持った先輩にも同じ条件でお願いしてもいいかな?」


「それ、きっと大喜びで来ると思うよ?」

「それじゃ、先輩に使ってもらう部屋決めちゃいましょう。最上階とその下の階は使ってますから、十階より下の部屋ならどこでもいいですよ」


「まじで? もしかしてそこに住んじゃっても構わない感じ?」

「仕事部屋と住居が同じでもいいなら構いませんけど」


「全然、構わないって言うかむしろ超嬉しいんだけど。早速荷物纏めてくるね」


 そう言って、河合先輩は部屋を決める前に慌ただしく出ていった。


「先輩、サオリンさんのライブ始まってますよ」

「あ、今行くね」


 今日はどんな演出で楽しませてくれるのかな?

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