第230話 対策会議

 急いで博多へ戻った私は、冴羽社長に連絡を入れて杏さんと希と共に来るのを待った。


 十五分ほどの時間で冴羽社長が到着した。

 ラスベガスのダンジョンで起こった事を説明すると、すぐに社長と杏さんと共にジャフナへ向かいアンリさんと協議する事になった。


「しかし、お嬢の話が本当だったらダンジョンはハーデスが支配する空間と言う事になる。それなら何故、スキルなどのこちらに有利になる現象を与えてくるんだ?」

「その辺りも、まったくわかりませんけど一方的に自分の都合で支配する事の出来ない制約の様なものがあるとしか考えられないですね」


「アンリさん、心愛ちゃん。どちらにしてもこのまま俺たちだけがその事実を知っている状況というのは、あらゆる面で都合が悪い。少なくともアメリカのロジャーがマッケンジー長官に伝えた以上、大統領も事実を知る立場になるだろう。こちら側も島大臣と藤堂総理にはこの情報を共有する必要がある」

「ダンジョン協会はどうしますか?」


「勿論、知らせなければならないだろうな」

「杏、澤田に連絡を取ってくれ。俺は島大臣に連絡を入れる」


 すぐに島大臣と澤田さんに連絡を入れてみんなでダンジョン省の庁舎に移動する事になった。


 転移ゲートを使った移動で金沢を経由して東京に移動するんだけど、金沢の転移ゲートに到着した時に、美咲さんと君川さんが姿を現した。


「心愛ちゃん……私、順位が下がっちゃったんだけど、もしかして心愛ちゃんかな?」

「あ、美咲さん。ま、まぁそうなんですけど今はちょっと、それどころじゃない事件が起きて……」


 冴羽社長が間に入る。


「君川三佐、葛城将補はどちらにいらっしゃいますか?」

「将補は現在金沢駐屯地に滞在していらっしゃいます」


「すぐに呼んでいただけますか? ダンジョン省の島長官に面会に行きます」

「わかりました。連絡を入れます」


 金沢駐屯地は少し距離が離れているので私が君川さんと美咲さんを連れて金沢駐屯地までテレポで迎えに行く事になった。

 葛城将補を加えてダンジョン協会に戻った時には、澤田さんも合流していた。


 協会の会議室で概要を説明すると澤田さんが「ダンジョン協会からの参加が私だけという訳にはいかない事案です。東京の結城と轟、森協会長も参加していただきます」と言って連絡を入れた。

 ダンジョン省の庁舎は渋谷のJDA本部に隣接しているので、協会の三人は現地で合流する事になった。


 金沢からダンジョン省直通の転移ゲートを使用して到着すると早速、島大臣に概要を伝える。

 すると島大臣も「私だけが把握するという訳にはいかない事案です。総理に連絡を取ります」そう言うと連絡を始めた。


 連絡が終わるころにはダンジョン協会のメンバーも到着していた。


「今から総理と斎藤防衛大臣、土方警察庁長官の三名がこちらに見えられますので、それまでお待ちください」


 そう伝えられて用意されたコーヒーを飲みながら待つ事になった。

 すべてのメンバーが揃い会談が始まった。


 まずラスベガスダンジョンで実際に立ち会った私が事件の概要を説明した。

 総理とか協会長とかがいる中で私が一人で説明するのって、なんの罰ゲームなんだろ……とは思ったけど、そんな事を言っても居られないので、出来るだけ丁寧に起きた事象を説明したよ。


 説明を終えると、島大臣が代表して私に質問してきた。


「神様を名乗る人たちが現れたっていう事は事実なんですよね」

「はい、ただそう本人が名乗っているだけですので、現時点でそれが本当にギリシャ神話の神様なのかどうかは私には判断が出来ません」


「そうですか……ラスベガスダンジョンで攫われたのはアメリカのグレッグ少佐とクリスマスホーリーのニコール中尉なんですよね? 何故その二人だったんでしょうか」

「それも、正確には解らないんですけど、ダンジョンの神様を名乗っている人たちには肉体が無いんじゃないかと思うんです。それでペルセポネ様はニコールさんを、グレッグはハーデス様の依り代に選ばれたんじゃないのかな? って思います」


「なるほど……現時点では心愛ちゃんの仮説を信じるしかありませんね。緊急の問題として後665日後には世界中のダンジョンから一斉に魔物が襲ってくる状態になるという事ですね。これは抑止することが出来るんでしょうか?」

「現在、クリスマスホーリーを中心にしてダンジョンの攻略を始めましたが、これを世界中で同時進行的に進めるしか手段はないのではと思います」


「しかし、世界の足並みをそろえるのは現実問題として難しいですよね。現時点でわかっているのは、攻略出来れば問題ありませんが最終層まで進んで攻略出来なかった場合、666日を待たずして次の新月の日にスタンピードを起こしてしまうという事実が待ち受けています。事実を知る我々日本とアメリカとの間で協議を重ね、対処方法を決めなければなりません。しかし、心愛ちゃん、もしゼウス様の存在が実際に居るとした場合、ゼウス様をハーデス様に引き渡した場合、そのスタンピードは止まるのでしょうか?」


「わかりません、でも神様を名乗る人だから、ゼウス様の引き渡しが行われれば、人質の二人は解放されるのではないかと思っています。神様は流石に嘘はつかないかな? って思うので」

「なるほど……でも、ゼウス様に心当たりはありますか?」


「いえ、まったく。ヒントはゼウス様につながりのありそうな私と杏さんの守護神くらいしかなさそうです」

「守護神とは? 対話が出来たりするのですか?」


「今の所、そんな気配はないです。ただ、クリスマスホーリーの王さんなら、なにか手段を知っているのかもしれません」


 島大臣がアンリさんに対して質問する。


「アンリさん、王さんからヒントを貰えるか確認をお願いします。それが解れば対処方法も考える事が出来ると思います」


 土方長官が問題点を提起してきた。


「私の立場としては最悪の事態を想定した上で国民を守らなければなりません。日本の国民一億二千万人を守り抜くための案を、ダンジョン協会とD-CANに対して提出していただきたい。それを素案にして国としての取り組みを総理に決めていただくしか手段はありません。よろしくお願いします」


 最後に総理が当面の方針を言葉にした。


「問題は日本だけでは無く、世界中が同じ危機に瀕していると言う事です。この国だけを守ってそれでいいという意見を出すわけにもいきません。世界を救いその中心で日本国が大きな役割を果たす事が出来れば良いのですが、私はアメリカとの意見の調整に専念させていただきます。ダンジョンの攻略に関しては斎藤防衛大臣と島官房長官が力を合わせて担当してください。最悪の場面を想定した危機管理対策に関しては土方警察庁長官にお願いします。ダンジョン協会と自衛隊、そしてD-CANの皆さんには、何が起ころうとこの世界を守っていけるように協力をよろしくお願いします」

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