第217話 咲さん達とお食事
金沢に戻り、サオリンのマンションを訪ねると、百合さんがドアを開けてくれた。
「こんにちは、百合さん。サオリンは出かけてるんですか?」
「こんにちは、沙織は咲と麗奈と一緒にダンジョンに行ってるわ。昨日宝箱から出たマジカルチェーンの性能チェックがしたいって言いだしてね。昨日の今日だからダメって言ったんだけど、咲と麗奈が『私たちが付いて行くから大丈夫だよ』って言いだしたから、渋々認めた感じかな」
「そうなんですね、百合さんともお話ししたいと思ってたから、ここで待ってても大丈夫ですか?」
「うん、もちろん大丈夫だよ。私と話したいってどんな事かな? まあ、大体見当はつくけど……」
応接セットのソファーをすすめられて、希と日向ちゃんと三人で並んで座ると百合さんが紅茶を淹れてくれた。
紅茶ポットを見ると、日向ちゃんがそわそわしてるのが少しおかしかったよ。
「日向ちゃん。お客さんの時はじっとしてる!」と希に突っ込まれてた。
百合さんもソファーの向かい側に腰かけて紅茶を一口すすると話し始めた。
「私が戦闘に積極的じゃなかった話だよね?」
「えっ、ええ。そうです。咲さんの話だと剣道の全国大会優勝チームのレギュラーだったって聞いたからなんでなのかな? って思ってました」
「私ね、体質的って言っていいのかわかんないんだけど、生き物に好かれやすいんだよね」
「それって動物とかですか?」
「うん、ワンちゃんや猫ちゃんもそうなんだけど、蛇やカエルみたいな爬虫類や蝶々やバッタの様な昆虫でも、なんだかすぐに懐いちゃうの。魔物は別だって頭ではわかってるんだけど、この子たちとも実は仲よくなれるんじゃないかな? って考えちゃって、殺す事に戸惑いを感じてたんだよね。剣道はスポーツだから相手を殺すなんて事はあり得ないしね」
「そうなんですね」
「でも、昨日、沙織が襲われたのを見て、ふっきれちゃったかも」
希がその言葉に反応した。
「昨日の百合さん凄かったですよね。オーガキングをグッサグサに突き刺しまくってたし、最後の股間攻撃なんて私でもまだ恥じらいが邪魔して出来なかったかもです」
「もうあそこくらいしか刺して無い所なかったからね……」
「でも、百合さんその話が本当なら、テイマーとしての才能が天性で備わってるのかもしれませんね」
「テイマーかー、それは少し魅力的かもね。そう言えば心愛ちゃんや希ちゃんのテイムペットたちは意思の疎通は出来るの?」
「はい、もちろんです」
そう言いながらTBを胸ポケットから出して、肩の上に乗せた。
希もモンスターカプセルから桃ちゃんを出して頭の上に乗せる。
「へー、大きさって自由自在なの?」
「最近はTPOに合わせて自動でサイズを調整してくれます」
「かわいいわね。私もモンスターをテイムしてみようかな?」
「百合さんならきっと凄いのをテイム出来そうですね」
「千葉ダンジョンかジャフナダンジョンの二十層だよね?」
「ジャフナなら確実にテイムのスキルが手に入りますけど、千葉だとなんのスキルが身につくかは運次第なところがありますね。でも……きっと百合さんは千葉ダンジョンの方がよさそうです」
「なんで?」
「希に【竜騎士】が出たように、その人に才能がある場合はそれに応じたJOBが出ると思うんですよね。それこそ昨日のサオリンもそうです。JOB付き武器で【ロープマスター】なんてJOBが出るとか偶然ではありえませんから」
「私の、ミスリルトレイも【メイド】JOB付きでしたよ」
「へー、興味深いわね。最近までパーティも組めなかったから、ほとんどレベル上がってないし、時間はかかるかもしれないけど千葉の二十層を目指してみるわ」
「頑張ってください。応援してます」
そんな話をしてると、サオリンが咲さん達と一緒に戻ってきた。
「お邪魔してまーす」と挨拶をすると「待たせちゃったみたいでゴメンね」と言われた。
「そう言えば心愛ちゃんって、転移の魔法が使えるんだって?」
いきなり咲さんに聞かれた。
「ゴメン心愛、今朝の騒動の事を説明してたら、転移魔法で乗り切った事を説明しないと話が行き詰まっちゃって……」
「まぁ咲さん達ならいいけど、他の子たちには黙っててよマジで」
「うん、それは絶対守るから」
「ねー心愛ちゃん、その転移魔法ってどこまで行けるの?」
「今なら、世界中大丈夫です」
「ええぇええ……それって超凄くない?」
「だと思います。実際便利ですし」
「今日のお食事なんだけど名古屋とかでもいいかな? 転移を体験してみたいから」
「それは別に構わないですよ。同一パーティじゃないと一緒に転移できないですから二度に分けて行く事になりますけど」
「じゃぁ早速だけど私たちの会社の事務所に一度行ってもらえるかな?」
最初に咲さん、麗奈さん、百合さんの三人とパーティを組んで名古屋のDライバー社の事務所へ転移した。
有名チューバーをたくさん抱える事務所だけあって、とてもお洒落な事務所で配信用のスタジオなんかもあって、いいなぁって思った。
「それじゃぁ今度はサオリン達を連れて来ますから、少しお待ちください」
そう伝えると、サオリンと希と日向ちゃんを連れて再びDライバー社の事務所に転移する。
「本当に便利だね。羨ましいなー」
「でも、これを使える事がバレてからは、基本警察庁の人の護衛が付いてたりするから、いい事ばっかりでもないんですよ」
「えー、そうなんだ。それも少し窮屈なのかもね。でも、今日みたいな時は護衛の人ってどうしてるの?」
「わざわざ伝えたりはしませんから、博多で待機だと思います。ただ、その時間帯は所在不明という記録は残りますから、何かあったら疑われるかもしれませんね」
「そうなんだぁ、心愛ちゃんの実力とかはD-CAN以外にも把握してる人は居るのかな?」
「そうですね、特務隊の人や、ダンジョン省関係の人と、後はゴールドランカーの人たちは基本、知り合いですからその人たちは知っていますね」
「もしかして心愛ちゃんって、世界のVIPなの?」
「そんな事は無いですけど、知り合いは多いかな?」
「なんか凄いね……冴羽社長が登録者十億人を目指すとか言う訳だね。でも、昨日のサオリンを助けてくれた件で、私も麗奈も絶対に十億人達成は無理じゃないって確信したから協力させてね」
「はい、よろしくお願いします」
「心愛ちゃんたちって、普段の狩りはどうしてるの?」
「そうですね、今はレベルがある程度上がっちゃったので、普段は食材採集が中心なんです。レベル上げは主にダンジョンの攻略の時ですね」
「攻略って……やっぱり、クリスマスホーリーがダンジョンを攻略する時って一緒に行ってるの?」
「はい、そうですね。攻略に付いて行けば確実にそのダンジョンの攻略報酬スキルなんかも手に入りますし、出来るだけ行きたいと思ってます」
「そうなんだぁ、私たちもダンジョン攻略とかやってみたいなぁ」
「そう言えば咲さん達って今のレベルはどれくらいなんですか?」
「うん。今はレベル49だねカラーズまで、後十万人くらいって所だよ、麗奈はレベル47で百合は……昨日まで5だったんだけど、昨日オーガキング倒しちゃったから30まで上がってたね」
「ああ、そうでしたね……そのレベルならもう、千葉ダンジョンの二十層でJOBの獲得を狙っても全然大丈夫そうですね」
「そう言えば咲さん達の持ってる刀はお揃いなんですか?」
「うんそうだよ、私たちが初めて登録者百万人突破した時に記念で打ってもらったの。日本刀の刀鍛冶の職人さんに頼んだんだよ。ミスリルはこっちで用意して渡したんだけど、それでも一振り一億円かかったんだよね。でも、この刀を作ったからこそ、チューバーとして日本一を目指そうっていうやる気も起きたから、後悔はしてないけどね」
「そうだったんですね。ちょっといい話を聞かせてもらった気がします」
「気がするだけじゃなくていい話なんだけどなぁ」
話はそこまでにして、咲さんおすすめの名古屋の美味しいお店を梯子した。
味噌カツ、手羽先、味噌煮込みうどん、ひつまぶしに台湾ラーメンとそれぞれの有名店を巡って楽しんだよ、お腹もパンパンに膨れ上がったけどね!
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