第215話 朝から騒がしくて困るぅ

 昨日の夜はサオリンもうちに泊まってもらって、翌朝四人で学校へ向った。

 金沢のマンションから協会前のバス停に行くと、なんだか人がいっぱいいた。


 私たちが姿を現すといきなり大勢の人に取り囲まれてしまった。

 そのほとんどがテレビや新聞社の関係者の様で、それぞれにカメラを構えて私たちを取り囲む。


「鮎川さん、昨日の配信中の事故の事で一言お願いします」

「木下さん、昨日サオリンさんに使われた魔法はどんな魔法なんですか」

「真田さん、あの飛竜はどうやって手に入れられたんですか? 我々にとって危険な生物ではないんですか?」

「柊さん、オーガキングを滅多打ちにした実力は、どうやって身につけられたのですか? あの映像を国内の有名探索者に見ていただいても、あんな事は不可能だと言われていますが」


 思い思いに勝手な質問をぶつけてくる。

 このままじゃどう考えても収拾がつかないと思った私は、サオリンを担ぎ上げると「希、走るよ!」と言ってダッシュしてマンションに戻り入り口のオートロックを閉じた。


「ヤバいね、この状況……どうしようか?」

「とりあえず、先生に連絡した方がいいかも?」


 日向ちゃんに言われて野中先生に連絡を取る。


『先生、柊です。今協会前のバス停に行ったら、大勢の報道陣っぽい人たちに取り囲まれて身動きが取れなくなりそうだったから、マンションに避難してきました。ああ、報道陣の人たちがマンションの前にみんな移動してきてるー。どうしたらいいでしょうか?』

『あー、昨日の配信が今、世界中でバズってしまってるからな。先生も柊たちが来たら事情を聴こうと思ってたし……』


『どうしましょう……テレポで学校に行ったらまずいですか?』

『いや、しょうがないだろ。四人一緒なのか?』


『はい』

『鮎川も柊の実力は理解してるのか? というかバレても問題ないのか?』


『鮎川さんは、もうほぼうちの身内になったようなもんですから、大丈夫です』

『そうか、それなら職員室横の会議室にテレポをしてくれ。そこなら目立つ事も無いから』


『わかりました』


 電話を切ると四人で学校の会議室にテレポした。


「ちょっ心愛、こんな事も出来ちゃうの?」

「うん、出来ちゃうね。他の子たちには内緒ね」


「う、うん。わかった」


 会議室から出ると職員室に顔を出した。


「先生、おはようございます」

「お、流石に早いな。おはよう。ホームルームまでまだ三十分以上あるから少し話を聞かせてもらえるか?」


「はい」


 橋本先生と天野先生も合流して会議室に戻ると、先生たちがコーヒーを用意してくれて会議室の椅子に腰かけた。

 

「先生、とりあえず社長と杏さんに連絡入れていいですか?」

「ああ、構わないぞ」


 スマホを取り出して杏さんに電話をかけ、今朝の状況を伝えると「私から社長と兄貴に連絡して対応を考えるわ」と返事を貰った。

 

「それで鮎川たちは昨日の事故で怪我とかしてないのか?」

「あ、はい。心配かけてすいません。怪我はしたんですけど日向ちゃんの魔法で、すぐに治療してもらったので大丈夫です」


「木下もそんな実力を身につけていたんだな。その魔法ってどれくらいの怪我が治せるんだ?」


 その質問に対して心愛が返事をする。


「先生、昨日日向ちゃんが使った魔法は聖魔法のレベル50で覚える魔法で【パーフェクトヒール】という魔法です。私と希も使えるんですけど、赤ポーションと青ポーションのランク5の両方の効果を持ってます。再生の必要な症状でなければほぼ治療は可能ですね」

「そいつは凄いな。それだけでも世界中の医療機関が注目を集めそうだ」


「でも、治療効果をダンジョンの外で求めようとすると【リミットブレイク】も取得していないと使えないし、制限も多いんですよ」

「そうか……でも三人ともリミットブレイクも持ってるよな?」


「まあ、そうですけど……」

「あのオーガキングを倒した映像は、昨日の夜からネットだけでなく切り抜かれた映像が地上波でも流され始めてたから、騒ぎになるのはしょうがないなぁ」


「地上波でも流れてるんですか?」

「ああ、そうだな」


「サオリン、私ちょっと勉強不足で詳しくないけど、あの動画の著作権とか肖像権ってあるんだよね?」

「うん、勿論あるよ。咲さんやマネージャーがその辺りは詳しいから、勝手に放送した地上波のテレビ局はかなりの金額を請求されちゃうと思うよ」


「だよね、サオリンのチャンネルだもんね。でも、そうなったら、昨日一日でサオリンの収入ってヤバい額になってる?」

「だね、恐らく昨日だけで切り抜き分の手数料とか地上波分の放映権料なんか合わせたら億越え?」


 その額を聞いて先生たちの顔もちょっと引き攣った。


「なんか、この学校に居ると生徒たちの収入が凄すぎて、先生達の立場がないな」

「気にしちゃだめですよ野中先生。ファイトです」


 会議室で話し始めて十五分ほどたったころに杏さんから連絡が入ってきた。


『心愛ちゃん、ダンジョン協会周辺の報道陣たちはとりあえず解散してもらったよ。公安の青木さんと遠藤さんが協力してくれたから、今度顔を合わせたら、お礼言っといてね』

『ありがとうございます。了解しました』


 先生たちにとりあえず問題が片付いたことを伝えた。


「そうか、まあ良かったな。だが、そうは言ってもこれからも、なんとか付き纏おうとしてくるところが出てくるだろうから気を付けておいてくれよ」

「はい、気を付けます」


 天野先生が聞いてきた。


「さっきの聖魔法でしたっけ。それは柊さんたち以外にも使える人はいるの?」

「えーと、私の知っている範囲でなら、相川教官も使えますね。聖魔法所持者でレベル五十以上じゃないと使えませんから、他で習得者がいるかはわかんないです」


「そうなの……先生たちも覚える事は出来るの?」

「できない訳じゃないですけど、私からは返事は出来ないです。うちの社長とかダンジョン省の島大臣とかに相談すれば、方法は考えれるかと思いますけど」


「そうなのね、その能力があれば助かる命がたくさんあるのならば、できれば広まって欲しいわね」


 ホームルームの時間も近づいてきたので、みんなそれぞれの教室に向かった。

 教室でも昨日の配信が凄く話題になっていて、みんなに囲まれて大変だったよ。


 でも、なんだかクラスのみんなが私に対して敬語を使う子が増えて、ちょっと困っちゃった。

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