第208話 先生から相談

 家でゆっくりしていたら、野中先生から電話がかかってきた。


『柊、今は家か?』

『はい、どうかされたんですか?』


『今、橋本先生や天野先生と一緒に話していたんだが、ちょっと顔を出してもらえるかな?』

『えーと、どこに行けばいいんですか?』


『先生たちはまだ学校に居るんだが、これるか?』


 野中先生は私が転移を使える事も知っているので、行けると返事をしたよ。

 転移をする場所は、職員用のトイレを使わせてもらう事にしてテレポを発動した。


「こんばんは、なんのお話ですか?」

「わざわざ、すまんな。柊の様な実力者から見て今のこの学校の状況はどうなんだろう? と思って意見を聞きたくなったんだ」


「そうなんですね、私としては、この学校では気楽に過ごせてると思います。みんな高レベルの探索者なので、レベルが上がったりスキルを獲得したりで出来る事が普通の人とは変わってくる事をちゃんと認識してるから……」

「そうだな、前の学校だとどうしても探索者とそれ以外の生徒で差が付きすぎてしまう部分はあったからな。特に柊たちはリミットブレイクの影響で普段の生活でも、運動能力だけではなく学力でも明確に差がつきはじめてたしな」


「九月の正式な開校時にはどれくらいの生徒数になるんですか?」

「ああ、三年生に関しては来年開校予定のダンジョン技術情報大学に進学する意思のある生徒に限定されるから実力重視とはまた別の基準になるが。三年生五クラス、二年生と一年生で各十五クラスの予定だ」


「へー、結構多いんですね。一クラス四十人として一学年六百人もいるんですね。クラス分けとかどうなるんですか? 実力順でとかですか?」

「いや、それも検討されたんだが、結局は全てのクラスが均等な実力になる形に決定されたよ。実力順だと変なカースト制度が出来上がったりするからな」


「ですよね、私もその方がいいと思います。下のクラスに振り分けられると最初からやる気なくなっちゃいますもんね」

「幅広くダンジョン資源を獲得して、それを活用した医療やエネルギー政策を推し進めるためには、やる気を失わせない事が先生達の一番大事な仕事だからな」


「そう言えば、ダンジョン技術をより専門的に学ぶ大学は、ここに併設されるんですか?」

「ああ、そうだ。ダンジョン省の研究機関も一緒にここに出来るから、研究施設としては世界トップクラスとなる予定だ」


「でも学校がそんなに大きな規模になっちゃうと、先生たちも凄い人数が必要になりますよね?」

「そうだな、今はほぼ公立校からの転勤者だけだが、元々公立高校では公務員の兼業禁止に抵触されてたからほとんど探索者資格を持つ教師はいなかったし、ましてやこの金沢で、身を守れるほどのレベルの職員なんかは今、ここに居る先生方以外ではいないんだ。だから追加の教員はほとんどが私立高校からの移動になるね」


「教職員だけで五十人以上は必要になりますよね」

「まー実技に関しては自衛隊の特務隊が全面協力してくれるから、教科担当者と進路指導が主な業務だけどな。部活なんかも普通の高校の様なスポーツ競技を行う事は無いから、意外に仕事は少ないんだ」


「そうなんですね、先生たちも放課後はダンジョンに潜られてるんですか?」

「ああ、この学校ではダンジョンで探索する事は推奨されているからな。特に生徒たちも放課後は多く活動しているから、その様子を見る事も大事だし」


「へー、それじゃぁ先生たちも今までよりは結構ガッポリ稼げる感じですか?」

「柊ほどじゃないがな。柊は協会のSランクに認定されたんだろ? 公式発表の無いランクだが、一体どれだけの納品をしたらSランクになれるんだ」


「それは……流石によくわかんないです。私の場合は偶然ダンジョンリフト見つけちゃって、その報酬がSランク認定だったんです」


 それを言うと、橋本先生や天野先生もびっくりしていた。


「あれは柊さんだったんですね……確かあの件では協会から報奨金が千二百万ドル出たとかいう記事を読みましたよ」

「あ……それは発表されてたんだ……確かに、はい、それくらいでした」


「そいつはSランクにもなるはずだな」


 天野先生が結構勘の鋭い人で、その事実から推測をして話を振ってくる。


「柊さんは、D-CANに所属しているそうですね? もしかして、D-CANが次々に発表する新技術や、スキルオーブの取引なんかも深くかかわっているんですか?」

「先生たちに隠しても失礼だから言いますけど他の人たちには基本内緒でお願いしますね。天野先生のおっしゃる通りに商取引以外の部分では大きく関わっています。でも私個人の持つ技術なんかは、勝手に売ったりする事は出来ないんです。島大臣や総理に直接言われてるから……」


「総理からですか……柊さんって先生たちが思うよりずっと重要人物だったんですね」

「あ、でも気にしないで下さいね。私は普通に過ごしたいんですから」


「柊、それは俺でもわかるが多分無理だぞ」

「えー……ところで先生たちが私を呼んだのはそれだけじゃないですよね?」


「あ、ああ。七月の後半になるとさっき話してた新しい教職員たちが配属されてくるんだが、この金沢で安全に過ごせるレベルの人は圧倒的に少ないのが実情なんだ。勿論俺たちも協力はするが柊にも先生たちの実力アップの手伝いを頼みたくてな」

「あー、そういう事なんですね。時間が取れれば構わないですけど、会社関係で出回っている事も多いので、いつもという訳にはいかないですよ?」


「勿論、出来る時だけで構わないからよろしく頼むな」

「わかりました」


 その後は学食から職員室には出前サービスがあるらしくて、夕ご飯をご馳走になってから帰ったよ。

 料金は凄く安いけど、奢ってもらえるとなんだか嬉しいよね。

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