第206話 久しぶりの休日

 目が覚めると日曜日の午前十時だった。

 流石に結構疲れてたのかな?


 食堂に顔を出すと、杏さんがテレビを見ていた。

 テレビのニュースでは、イタリアにダンジョンシティが作られた話題をしていたよ。

 クリスマスホーリーによるダンジョンシティの構築は結構大きな話題になっていた。


「おはようございます杏さん」

「おはよう心愛ちゃん」


「希と日向ちゃんは起きてきましたか?」

「二人ともまだだよ。ゆっくり寝かしてあげた方がいいかもね」


「そうですよね。久しぶりに何の予定もない休日だなぁ。杏さん、一緒に美味しい物でも食べに行きませんか?」

「たまにはいいわね。どこへ行くの?」


「そうですねぇ、お父さんの師匠がやってるお店が京都にあるんですけど、そこなんかどうですか? 天ぷら屋さんなんですけど」

「京都で天ぷらとかなんとなく豪勢に感じるわね。行きましょうか」


 二人でお出かけ用の服に着替えて電話で予約をすると京都駅のそばにテレポした。

 直接お店の前にテレポしたんじゃ、折角京都まで行った感が無いので、駅からは二人で鴨川沿いを歩きながら目的地の祇園へと向かった。


 六月の京都は少し蒸し暑くて汗をかいたけど鴨川沿いの眺めは中々風情があって、博多や東京とは違った雰囲気だよね。


 目的のお店は、明治時代に建てられた建物だよ。

 お父さんが二十代の前半の頃に修業をしたお店で、とてもこだわりのある天ぷら会席を出してくれる。


 私が小学校の三年生の頃に一度家族三人で、食事をしに来たことがあるんだけど、その時の記憶でも天ぷらの美味しさに感動した覚えがある。


「予約した、柊です」と告げると、カウンターのお席に案内された。

結構、高級なお店だから日曜日のお昼時だけど、そんなに込み合ってるわけではなく、職人さんが天ぷらを揚げる姿を見ながら、杏さんと二人で天ぷら会席に舌鼓を打った。


 でも職人さんが目の前で真剣な表情で天ぷらを揚げている姿を見ながらだと、食事中に会話が弾むっていう感じでは無くて、粛々とお料理をいただく、っていう感じだったよ。

 一通りのお料理をいただいた後で職人さんも手が空いたようだったので、話しかけてみた。


「今日は大将はいらっしゃらないんですか?」

「おや? 先代のお知り合いですか?」


「先代っていう事は引退されたんですか?」

「今年になって私が後を継いだんです。先代の長男で雅和といいます」


「そうだったんですね、お父さんもまだ引退されるには若いですよね?」

「はい、最近ダンジョンって出来たじゃないですか。そこで取れる極上の食材には天ぷらの未来がある! とか言い出してね、今は大阪ダンジョンに行って探索者として過ごしてるんですよ。でもお客様は随分お若いように見えますが、親父とはどこで知り合われたんですか?」


「私の父が、昔、ここで修業をさせていただいたご縁で、一度まだ小学生の頃に来ただけなんですけど、その時いただいた天ぷらで凄く感動したので、今日寄らせていただきました」

「えーと、ご予約のお名前が柊さんでしたよね。もしかして五郎兄さんの娘さんですか?」


「あ、はい。そうです。心愛って言います」

「そうなんだー、あの熊みたいな五郎兄さんの娘さんとは思えないですね。お父さんに似なくて良かったね。私はね、五郎兄さんがここで働いてた時に中学校を卒業して、すぐにここで働き始めたんですよ。仕事にはとても厳しい先輩でした。今でも尊敬してますよ」


「そうだったんですね。今度、父が戻ってきたら一緒に来ますね」

「えっ……確か、五郎兄さんはダンジョンの事故で行方不明だと聞いてましたが……」


「あ、それがですね。まだ戻っては来れないんですけど、生きてはいる事が解ったので必ず連れて戻ります」

「そうだったんだね。親父が聞いたら絶対喜びますよ。親父の奴、五郎が求めた極上のダンジョン素材を極めて『俺が死んだら、向こうでダンジョン素材の料理でもお前には負けられねぇ』って言ってやるんだ。っていつも言ってますからね」


「そうなんですね。絶対、伝えます。今日はごちそうさまでした」

「親父に伝えておきます。ありがとうございました」


 お店を後にして、杏さんとカフェに入った。


「素敵なお店だったね」

「はい、今の大将も凄くいい職人さんだなぁって思いました」


「岩ガキの天ぷらが私は一番気に入ったわ」

「美味しかったですよねぇ。でも、トウモロコシとかマッシュルームにトリュフを挟んであった天ぷらも素敵でした。それこそダンジョン素材で作ったら、どれだけ美味しく出来るんだろう? って思ったらワクワクして来ました」


「マッシュルームとトリュフは昨日のトリノダンジョンでもドロップしてたわよね?」

「はい、トウモロコシも博多ダンジョンでドロップしてますし、大阪ダンジョンは食材も豊富だって聞いてますから、今度食材狙いで行ってみたいと思います」


「心愛ちゃんは本当にお料理が好きなんだね。私も頑張ってお料理習おうかな?」

「それって彼氏さんとかに食べさせてあげるためですか?」


「今は居ないけど、そういう機会があった時にガッチリ胃袋を掴んで逃げられないようにするためだよ」

「杏さんの彼氏になれたら、料理なんて出来なくても絶対大事にしてもらえますよ」


「それってどういう理由で?」

「おっぱいとか?」


「もう、心愛ちゃんまで希ちゃんみたいな事言い出したよー」

「ごめんなさい」


 その後は、京都の街で二人でショッピングを楽しんでから帰ったよ。

 家に戻ると、希が「先輩ー、置いていくなんて酷いですぅ」って言ってたけど、希は日向ちゃんと二人で博多でショッピングしてたらしいよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る