第197話 打ち上げ!

 博多の街に着くと、サオリンが中洲の街を見てみたいと言い出したので、中洲の焼肉屋さんに行く事になった。


 ライブの後なので今現在で十八時半くらいの時間だ。

 平日にもかかわらずこの街はとても多くの人が行きかっている。


「名古屋の繁華街も人は多いけど、中洲はまた別の雰囲気だね」

「そうなんだ。名古屋の街を夜歩いた事無いから、イメージがわかないなー」


 中洲を歩いていると結構人の視線を感じる。


「今日は伊藤マネージャーがいるからいいけど、女子高生だけでこんな時間に来るとこじゃない事は確かだけどね」

「心愛たちは中洲にはあまり来ないの?」


「そうだねぇ。私たちの世代だと中洲は来ないかな? 天神の方が若い人たちが集まるからね」

「そっかぁ、銀座と渋谷の違いみたいな感じなのかな?」


「うーん……規模は違うけど、まぁそんな感じかな? でも東京と違って博多の街って中洲と天神も隣りあわせだから全然歩いて行ける範囲だし、ちょっと感覚が違うんだよね」

「そうなんだぁ」


 そんな話をしながら五人で歩いていると希が小声で話しかけてきた。


「先輩、気づいてますか?」

「うん、大丈夫。青木さんと遠藤さんだよ」


「なーんだ。逆に安心ですね」

「変なお店に行くわけじゃないから、堂々としてたらいいよ」


「はぁい」


 警護がついてくれるのを一々気にしてたらキリがないので、気にしないようにしなきゃね。

 でも、昨日の今日だから青木さん達も心配なんでしょうね。

 私の場合は、即死するような攻撃を受けない限りまず大丈夫なんだけどね……


 中洲の街を一通り見て目的の焼肉屋さんに入ったよ。

 注文はサオリンに任せたけど結構ガンガン頼んで、みんなおなか一杯になっちゃった。


 このお店でこんなに頼むとお会計十万円は楽に超えそうだよ……

 

「心愛、希、日向、今日はコラボしてくれてありがとうね。今度は一度心愛たちのチャンネルにも呼んでね」

「うん、ぜひ来てね」


「サオリン先輩が来てくれたら、一気に私たちのチャンネルも人が増えそうです」


 マネージャーの伊藤さんが改まって声をかけてきた。


「心愛ちゃん、うちの社長がね、一度、心愛ちゃんのとこの社長とお話が出来ないか聞いてみてくれないか? って言ってるけど頼まれてもらえないかな?」

「えーと別に話を振るくらいならいいですけど、どんなお話なんですか?」


「ダンチューバーの所属事務所としては、うちのDライバー社ってそれなりに大きいんです。現状で業界二位って所ですね」

「凄いですね」


「でも、業界トップの会社とは結構差が大きくて、その差を無くして逆転するために今、一生懸命色々な取り組みをしてるんですけど、その辺りをダンジョン業界でぶっちぎりの実績を持つD-CANとつながりを持てたら、起死回生の一撃を放てるんじゃないか? って社長が言い出して、一度会うだけでも会ってもらえないかっていう話なんです」

「そうなんですね……会社の経営とかは私じゃよくわからないですけど、社長ってどんな方なんですか?」


「うちの社長は、私の幼馴染で同じ年の女性なんです。社長業もありますけど現役のダンチューバーとしても活動してますよ。一度見ておいてもらえますか?」


 伊藤マネージャーがそう言うと日向ちゃんが「あ、私知ってるかも。咲さんですよね? 麗奈さんと一緒にやってる」と言った。


「そうそう! 麗奈も私の同級生なんですよ。一応麗奈がカメラマンって事になってるけど、二人ともアクティブカメラつけてるからどっちも主役なのかな?」

「へー咲さんが社長なんだ。咲さんと麗奈さん二人ともメチャ美人ですよね。私の憧れのチューバーさんですー」


「そんなに有名な人だったんだ」

「凄いんですよ先輩、咲さんのチャンネルは登録者五百万人くらいいるはずです」


「スゴッ! でもそんなにファンがいるならそれだけでも十分やっていけるんじゃないですか?」

「今はね……でも、私たちってやっぱり女性チューバーじゃないですか。今はまだかろうじて若さや見た目でやっていけるけど会社として長い目で見たらサオリンのような、新しい世代をどんどんデビューさせていかないと、頭打ちになっちゃうから、そこが悩みなんです。それこそ心愛ちゃんたちの様にシーカーとしての実力が優れてて実力重視のチャンネルだったら、問題は無いかもしれないけど、まだまだ咲もサオリンもアイドル枠の人気だから、先行きに不安を感じるんです」


「そうなんですね……でもサオリンも探索者養成学校を卒業するころには、シーカーとしては民間トップクラスになれると思うし、そんなに心配しなくても大丈夫なんじゃないですか?」

「うーん。民間トップって言っても精々グリーンランカーくらいになれればいいかな? っていうレベルじゃないですか」


「確かに、それはそうですよね」

「グリーンランカーっていう事は十万位以内ですよ? 例えばボクシングなんかで世界十万位! なんて言ってお客さん呼べますか?」


「それは……無理かも」

「だから、咲も麗奈もサオリンだって出来ればシルバーランカーくらいになって欲しいんです。その為にはD-CANとの交流は大変意義があるんじゃないかと言う話なんですよ」


「凄い、熱いですね」

「はい、私と咲と麗奈は本気でダンチューブ界のトップを狙っています」


 さすがに伊藤マネージャーが熱く語りすぎてきたのでサオリンからストップがかかった。


「マネージャー、初対面であんまり熱く語りすぎちゃうと心愛たちも引いちゃうよ?   でも心愛、私は少なくとも社長のそんな所が大好きで、今のDライバー社に居るのも確かなんだよ」

「そっか、一応うちの社長にも話はしてみるね」


 伊藤マネージャーのとっても熱い話をおなか一杯に聞いて今日の焼肉パーティーはお開きになった。

 サオリンと伊藤マネージャーを金沢に送り届けて食堂に戻ったよ。


 食堂に戻ると、杏さんがコーヒーを淹れてくれた。

 勿論、ホノルルダンジョンのダンジョン・コナ・コーヒーだよ。


「杏さん、ありがとう。このコーヒーは本当に美味しいですよね」

「そうね、私ももう他のコーヒーじゃ物足りなくて飲めなくなっちゃったわ」


 その後で、今日の出来事を二人で色々話してから一緒にお風呂に入って寝たよ。

 杏さんもDライバー社の話には少し興味が湧いたみたいだった。

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