第172話 ジャフナ攻略戦

 早速、スタンピードの波をかき分けながら下層階へ向けて出発した。


「希、桃ちゃんに乗って! 上からの攻撃の方が無駄な戦闘を避けられるよ」


 希にそう声をかけると、私もマジックブルームにまたがり、TBを肩に乗せて上空からの範囲魔法攻撃で敵を一掃していく。


 私と希のうち漏らしを、他のメンバーで処理しながら進むので、ほとんど速度の低下無く攻略階層を下げていく。


 中ボス戦ではアンリさんの独壇場だった。


契約アコード動くな」


 その言葉で階層守護者は動きを止め、アンリの持つ漆黒の刀によって首をはねられる。


「アンリ……お前のギフト反則じゃねぇか? 実はアンリが最強だったりするんじゃないのか?」

「フン、そう都合よくは無いもんさ。クールタイムもあるし敵とのレベル差で成功確率に補正も入る。まぁこのダンジョンのように二十二層程度であれば、なんとかなるがな」


「そう言えば、アンリはロマノフスキーのギフトに付いては知っているのか? 俺たちがどんなに頑張っても、一度も追いつけないっておかしいよな?」

「ヤンキー共じゃ俺様の足元に近づこうとしても、無駄だって事だよ。今となればアンリが相手であっても恐れるに足りん」


 ロマノフスキーがロジャーたちを煽るような口調で口をはさむ。


「くっ、まぁ抜いてみればわかるって事だな。その時になって吠え面をかくのを楽しみにしてるぜ」

「お前らごときに秘密は解けんさ」


 その会話の様子を見ながら、私はイージャさんの秘密を見てみたいと思った。

 鑑定を強化すれば見れるようになるのかな?

 よーし、ここが終わったらお料理頑張って鑑定の強化してみようっと。


 このダンジョンでは十層以下に降りた辺りから、セイロン島の生態系に応じた魔物が頻出するようになった。

 目立つのはセイロン象、セイロン豹、それに水辺の地形では巨大なシロナガスクジラや、マグロ型の魔物も現れる。

 

「これって……高級食材の宝庫だよー。日向ちゃん! ドロップの回収を忘れないでね」

「はい先輩、回収しまくりますからジャンジャン倒してくださいねー」


 メイドスタイルの日向ちゃんは、流石にこのメンバーの中では戦闘力では劣っちゃうけど、撮影とポーターとしての能力では、十分に最強格なんだよね。

 ミスリルトレイのお陰で防御能力は十分に高いし、メイドJOBのスキルでとても美味しい紅茶を淹れることが出来る。


 JOBレベルが高まると淹れる紅茶に各種の回復やバフ効果を乗せる事も出来るんだって。

 実はもう一つのJOBであるアサシン系のスキルで即死系のスキルも所持してたりするし、メチャ有能だよね。


 象さんのお肉と鯨さんのお肉が結構ドロップしてるから、このお肉を使った料理を考えるのが楽しみだなぁ。


 突入から約十二時間を経過して、ようやく二十二層に到着した。

 その最奥にある巨大な扉を前にして全員で集まる。

 そして扉に刻まれた碑文の解読をする。


『この奥に潜む者、幻影の能力を宿す使徒である。打ち破りし者、使役の力を手にするであろう』


 使役の力かぁ、テイマー系の能力かもしれないね。


「幻影の能力っていう事は見かけに騙されないようにして下さいね」

「よし、それじゃぁ突入するか。今回のとどめはお嬢に任せていいか?」


「はい、大丈夫です。ソフィアさんにお願いがあるんですけど」

「なーに? 心愛ちゃん」


「このダンジョンのマスターにはアンリさんになってもらいますから、イージャが横から手を出さないように、しっかりと見張っておいてくださいね」

「任せて! イージャ、ダンジョンコア壊したら二度と私の前に顔を見せないでね?」


「な、ソフィア……そんな事を言わないでくれよ……」

「余計な事をしなきゃいいだけだから、ちゃんと大人しくしてなさいよ?」


「わ、わかった」


 アンリさんが扉に手をかけて開け放つと次々にメンバーが進入していく。

 部屋の奥に黒い霧が立ち込めると、上方からキラキラした巨大な孔雀がその姿を現した。

 早速【鑑定】を発動する。


~~~~

スカンダピーコック LV44


 HP 220000

 MP 2200


攻撃力   440

防御力   440 

敏捷性   880

魔法攻撃  440

魔法防御  440

知能    440

運       0


スキル

 幻影


弱点

 火属性

~~~~


「火属性の使えるメンバーは一斉に狙ってください。それ以外のメンバーは防御優先でお願いします」


 相手が鳥なら、こっちも空中戦だよね。

 

「希、桃ちゃんと一緒に援護よろしく」

「了解です、先輩」


 私と希が飛び立つとスカンダピーコックが孔雀の羽を広げながら対峙した。

 その綺麗な羽を部屋全体にまき散らす。


「うわー……綺麗だねぇ」


 みんなが幻想的な美しさに一瞬、動きが止まると次の瞬間にその羽が襲い掛かってきた。


「ロジャー、樹里さん、焼き払って」


 上空から指示を出すと、ロジャーがナパームボムを発動して、樹里さんがファイアーウオールで壁を築き上げた。


 希が桃ちゃんの上からファイアーランスで孔雀を狙うと、桃ちゃんも口からブレスを吐き出す。


 私は並列魔法でトルネードとボルテックスファイアを発動して炎の竜巻で、孔雀を包みこんだ。


 「これで終わり?」


 そう思った瞬間に、燃え上がる孔雀の中から吹雪が起こり、瞬く間に全ての火を消された。

 そこに立っていたには、六つの顔に十二本の手を持った人物だった。

 なにかヤバい雰囲気を放っている。


 「この程度か? まだまだ足りぬ。精進しろ」


 その言葉を発すると、姿を消していった。

 そして台座が現れる。


『NO677ジャフナダンジョンが攻略されました』


 全員の脳裏に聞こえたようだ。


「えっと……最後の人? 神様っぽい感じだったけど何しに来たのかな?」

「どうだろ……演出? の一環とか?」


 とりあえず攻略報酬を手にしようと、台座のクリスタルに触れる。


『【テイム】スキルを獲得しました』

『NO677ダンジョンの通信環境が解放されました』


 次々に突入メンバーがスキルを獲得していく。

 ロマノフスキーだけは触らせてもらえない。


「おい、俺にも触らせろよ」

「まだ信用できないから、イージャは再設置が終わってからにして」


「再設置ってアンリのLVの階層になるんじゃねぇのかよ」

「何言ってるの? 金沢でJOB取ったでしょ? 二つ目のダンジョンマスターになれば二十層以下なら自由に取得階層は設定できるから、クリアメンバーのイージャならダンジョンリフトですぐだよ」


「そうなのか……アンリ、このダンジョンはどこに再設置するんだ?」

「勿論この場所だ。このジャフナ半島は今後クリスマスホーリーの拠点として、世界中のダンジョン攻略の中心地としていく予定だからな」


「そいつは……凄いな。おい、俺の持ってるガリッサをここに設置したらこれからも攻略の時に声をかけてくれるか?」

「ほう、クリスマスホーリーに協力するって事か?」


「ソフィアの母親が煩いから全面協力が出来るかは、わからないがロシア国外の攻略に関しては、できる限り協力しよう。そんな事よりだ……そこの女子高生たちは一体何なんだ。まさか……本物のウイッチか?」

「お前も会った事くらいあるだろ? 『グランシェフ』の娘とその仲間だ」


「あの髭親父の娘? イヤそれにしたっておかしいだろ、グランシェフは精々ポーションを生み出す程度の能力だったはずだ」

「ああ、五郎が今居るのは、神域と呼ばれる場所らしい。そこに辿り着けば半神デミゴッドとなって能力が覚醒するらしいぞ」


「なんだと、グランシェフは一体どうやって神域に辿り着いたんだ」

「事故だがな、俺たちの目的はそこに辿り着いて五郎を連れ戻す事だ。そしてうまい料理をたらふく食わせてもらう。まぁ協力すればお前にもおこぼれくらいは回ってくるだろう」


「俺もたどり着いて、そのデミゴッドとやらに成ってやるさ。いや、半神なんて存在があるなら神にだって成れるはずだ」

「まぁ精々頑張れ」


 最後にアンリがギフトを発動してジャフナダンジョンを消し去ると、ジャフナ攻略戦は終了した。


「あ、アンリさん! まだ宝箱開けてないんだから早いよ!!!」


 しかし、時すでに遅しでダンジョンの外に放り出されて「済まん、お嬢……」

 と心愛に謝るアンリの姿があった。

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