第162話 クリスマスホーリー始動

『アンリさん、そろそろ準備は整いましたか?』

『ああ、もういつでも動ける』


『近日中に一度お会いしたいのですが、ご予定はいかがでしょうか?』

『いつでもOKだ』


『他のメンバーの方たちも一度お会いしておきたいのですが、皆さんが集まっていただけますか?』

『そうだな、今から招集をかけて明後日の午前中ならフルメンバーで揃うことが出来る』


『場所は博多で構いませんか?』

『ああ、構わない』


『それでは、明後日の午前十時に百道浜のレジデンシャルスイートで会議室をリザーブしておきます』

『了解した』


 二度目のスタンピードまで一週間を切ったこの状況で、各国の攻略状況など不透明な部分が多い。

 もしWDAが公表通りに、攻略状況未発表の各国に対してはケニアの時の様な国際協力部隊の招集をかけない事態になった時に、どうするのかさえわからない。


 だが、俺はD-CANとしてケニアのスタンピード対策を行った際に参加各国の攻略部隊のトップとコネクションを作っており、その中でスタンピードの対処を請け負う可能性に関しても言及していた。


 もしこれをビジネスとして成り立たせることに成功すればD-CANの存在は世界のトップ企業となりうる可能性すらある。


 その後新たに発覚した、攻略済みダンジョンの消失問題や再設置に関しても、アンリ豊臣氏の協力によりD-CANが手を付けられる見通しも出来た。

 だが私の言葉の真実性を果たして各国がどこまで信用してくれているのかは、まだ疑問でもある。


 信用を勝ち取るためには実績を示すしかないだろう。

 現時点では拠点が用意できていないために、まだ別会社での立ち上げが行えていない事が、いささかグレーな部分ではあるが、国際貢献的な見方から乗り切る事は可能だろう。


 俺がしなければならないのは実働部隊である、アンリ氏への徹底的なバックアップだ。

 言葉数の少ないアンリ氏が求めるものを滞りなく用意するためにも、アンリ氏以外のメンバーに一度会っておくことが重要だと感じたために先程の要請を行った。


 後は実際に会ってから動くしかないな。

 俺一人では業務が膨大になるが、協会所属の杏に協力を求めるのは、もし問題が起こった時には対処が難しくなるので、ここは俺が頑張るしかない。


 もっとも一番大変なのは心愛ちゃんである事は間違いなんだけどな。


◆◇◆◇


 二日後、レジデンシャルスイートの会議室にアンリ氏を筆頭に二十名のメンバーが勢ぞろいした。

 いかにも軍人らしい体躯に優れた十二名のメンバーから、アンリ氏が紹介する。


 アンリ・豊臣         大佐 フランス

 ニコライ・ヴォルコフ     少佐 ウクライナ

 カールハインツ・シュナイダー 大尉 ドイツ


 ヴィンセント・レイン     中尉 アメリカ 

 サミュエル・サヌミ      少尉 ナイジェリア

 ステファン・ジュノー     少尉 フランス


 ラファエル・リュカ      曹長 フランス

 パウル・アルバート      軍曹 カナダ

 アツォー・ドセビイ      軍曹 トーゴ


 モーガン・ターラント     伍長 アメリカ

 ウインストン・カークランド  伍長 イギリス

 カルメーロ・アルベリーニ   伍長 イタリア


「階級はレジオン在籍時の物をそのまま使用している。続いて諜報班の八名を紹介しよう」


 グランデ喬       大尉 フランス

 ペティーテ喬      少尉 フランス

 孫尚香         曹長 中国

 王昭君         伍長 中国


 ニコール・グラナダ   中尉 アメリカ

 アンジョリーナ・ケイジ 軍曹 カナダ

 アイリーン・アーサー  伍長 イギリス

 ワリス・デイリー    伍長 エチオピア


「以上だ。戦闘班のメンバーは全員がブロンズ以上で諜報班のメンバーでもイエロー以上のランカーだ」

「D-CANの冴羽です。皆さんよろしくお願いします。本日、お集まりいただいたのは、来週にも起こると予想される二回目のスタンピードに関してですが、おそらく今回はWDA主導の形での対策は行われないでしょう。その場合は各国が独自に対応できるのか? と言われれば不可能に近いと考えます。そこでスタンピードの鎮圧をビジネスとして成り立たせ、皆さんに対応していただくために必要な物資の確認でお集まりいただきました。現在、D-CANとして用意できるのは必要に応じた魔道具類と、スキルオーブです。内容はアンリさんに書面で渡してありますので、この後実働班としてミーティングを行っていただければと思います。このホテルで一か月間それぞれに部屋をリザーブしてありますので、作戦行動以外ではご自由に過ごされてください」


「冴羽社長、一応伝えておくが俺たちのチームは、あくまでもお嬢のために存在する。お嬢の意思に反する命令には一切協力できない」

「勿論それで問題ありません。形式上、私が社長をしていますが、この会社は心愛ちゃんがオーナーであり、その意思を最優先に行動している事に違いはありませんから」


「了解した。チーム名なんだが『クリスマスホーリー』でどうだ?」

「西洋柊ですね。いいじゃないですか。早速そのイメージで軍旗や肩章、階級章などを用意しておきます。対外的に各国の軍との共同作戦になる事が多くなるので、その辺りは軍と揃える事が妥当と考えます」


 こうしてその後、世界を席巻する事になる対ダンジョン私設軍隊クリスマスホーリーが始動した。




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心愛の苗字でもある柊について:日本の柊はギザギザの葉を鬼が嫌うとされて退魔の象徴であるのに対して、西洋柊は常緑の葉が永遠を赤い実がキリストの血を象徴するとされてクリスマスのシンボルとなっている。

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