第151話 編入試験の準備と真夜中の飛行訓練

 明日は、探索者養成学校の編入試験の書類提出しなきゃね……って、保護者の署名がいるんだった。

 お母さんまだ起きてるかな? と思って電話をした。


『お母さん、まだ起きてた?』

『寝てたら電話でないし』


『まぁそうだろうけど……あのね、最近のニュースで話題になってる探索者養成学校って知ってるよね? そこに転校しようと思ってるから、書類にサインだけしてもらってもいいかな?』

『えっ? それって金沢じゃなかった? 家からじゃ通えないじゃないの』


『あのね、お母さんにはまだ言ってなかったけど、家から通う方法があるんだよね』

『あら、そうなの? それなら構わないんじゃないの。書類は郵便で送るの?』


『今から持ってくね』


 一度電話を切ってテレポでおばあちゃんの家に転移した。


「お祖母ちゃんこんばんはー、具合いはどう?」

「心愛、よー来たね、もうぴんぴんしとーけん、なーんも心配せんでよかばい」


「よかった。体大事にしてね。お母さんは?」

「牛の餌ば、やりにいっとーよ」


「えー、今から行くって電話で言ったのにー」


 牛小屋の方に行くと、お母さんが他の女性二人と一緒に牛の餌を与えていた。


「こんばんはー、心愛ですー、母とお祖母ちゃんがお世話になってます」


 アンリさんには確認していたが会うのは初めてなので二人の女性に挨拶をした。


「こんばんは、心愛ちゃん。聞いてた通りに可愛いね」

「そんな事ないです、お二人の方が全然奇麗でかわいくて素敵だと思います」


 そこにいた二人は身長こそ百五十センチ前後だけど、めちゃくちゃ奇麗で可愛い女の人だった。

 テレビで見るアイドルより全然かわいいよー。


「私が『孫』でもう一人が『王』ちゃんね。あと二人いるけど、交代で来てるからまた顔を合わせた時にでも挨拶したらいいよ」


 私は念話を発動して孫さんに聞いてみた。


『あのアンリさんの事とかは、お母さんたち知ってるんですか?』


 孫さんは、ちょっとピクッとしたけど、軽く横に首を振ったので孫さん達との話はそこで止めておいた。


「お母さん、書類のサインお願い」

「あれ、心愛もう来たの? さっき電話切ったばっかりだから、もっと遅くなると思ってたわよ」


「もっと遅くって、もう夜の九時だよ? 明日は学校なんだから、そんな遅くに来るわけないじゃん。っていうかなんでこんな時間に餌あげてるの?」

「なんか、お祖母ちゃんが言うには寝る前にたくさん食べさせる方が、よく太るんだって」


「へーそうなんだね、金沢へ通うのも今ここに来たのとと同じ感じですぐ行ける方法があるから安心してね」

「そーなんだ便利になったんだねー」


 お母さんがあまり深く考える人じゃなくて良かった……

 書類にサインをもらうと、お祖母ちゃんに挨拶してすぐ家に戻った。


 日向ちゃんは……雌熊弁護士せんせいのサインでいいはずだから連絡しておこう。


 家に戻ると学校の屋上へテレポで移動した。

 そう! マジカルブルームの試験飛行だよ!

 箒にまたがるとそのままふんわりと空へ浮かんだ。

 街中だと空が明るくて見つかっちゃう可能性が高いけど、このあたりだと目立たないから大丈夫なはず……

 筥崎宮から海へ向って飛び立ち、博多の街の明かりを上空から楽しみながら飛び回ったよ。

 まさに気分爽快! って感じだった。

 ダンジョンの中だと天井のせいで、思うが儘に飛び回るのは無理があったけど、海の上なら気にせずに飛び回ることも出来て、とっても楽しかった。


 希が言ってたけど、これはTBを肩の上にのせて飛び回りたいよね。

 まさにアニメの主人公気分になれちゃうよ。

 TBがもう少し大きくなったらテイムしてみよう。


 翌朝、学校へ行くと由香が話しかけてくる。


「心愛、私もう願書だしたよ。倍率が凄い事になりそうだから記念受験になるかもしれないけどね」

「私も出したけど落ちたら恥ずかしいから内緒にしてね」


「うん、でもね、うちの学校だけで言えばランキングカード持ってる子はほぼ全員願書だすみたいだよ。寮費もタダだし親もここで反対するくらいなら、そもそもランキングカード取らせたりしないだろうしね」

「そうなんだー、それってめちゃくちゃ倍率凄い事になりそうだね」


「全国で考えたら、ダンジョンが近くにない学校も多いから、ここと同じ状況じゃないでしょうけど、大都市の周りにはほとんどダンジョンあるからね」

「なるほどねー、試験って何が重視されるのかな?」


「それ気になるよね。スレッドで言われてるのは学力は二の次でランキングカードのランクが高い順から定員の七割くらいまで埋めて、残りが期待枠? っていう感じになるって噂されてるよ」

「期待枠って?」


「武道とかスポーツで優秀な成績を収めてるとか、そんな感じかな?」

「そうなんだー、由香は詳しいねー」


「だって、この話題が出だしてからずっとネットにかじりつきで情報集めてるからね。もしくは少しでもランキングあげるのに博多ダンジョンに通い詰めてるよ」

「そうだったんだね、他の子たちもそんな感じなの?」


「ガチで編入したい子は、似たような行動してると思うよ」


 一次試験が終わったら面接もあるから、由香くらい真剣なら思いを伝えれば受かるのかもね?

 放課後に野中先生に呼ばれて職員室へ行くと、先生から転勤が決まってる事は他の生徒達には正式な発表があるまで内緒にしてくれと頼まれた。

 編入試験の関係でお願いが殺到しそうだからしょうがないよね。


 先生たちも六月に転勤するまでは博多ダンジョンで、もう少し鍛えるって言ってたよ。

 先生はもうレベルもある程度高いし、生徒と階層が被る心配はないしね。


 学校から帰ると杏さんから君川さんに連絡を入れてほしいと伝えられた。


『心愛です、どうかされましたか?』

『ああ、心愛ちゃん連絡ありがとう。葛城将補に確認を取って千葉ダンジョンは予定通りに金沢へ移設する事になったんだ。もう千葉支部ではダンジョン内に通達が出されて、今日の夕方六時にダンジョンの消失が起こる事が発表されてる。冴羽社長に連絡を取ったら転移ゲートの在庫が無いって言われたから、金沢への移設日時の発表が出来なくて心愛ちゃんに確認したかったんだ』


『そうだったんですね。冴羽社長に連絡して十八時には一緒に千葉支部へ行っておくようにしますね。転移ゲートもちゃんと用意しておきます』

『ありがとう。助かるよ』


 電話を切ると、すぐに冴羽社長に連絡をして杏さんと三人で千葉へ出かける事にした。

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