第123話 ザ・シーカー&フルーツババロア

 最高到達階層が更新されている事が気になり博多ダンジョンへと戻った。

 すぐにダンジョンリフトを使い二十五層に降り立つと、二十六層への階段に向かう。


(居る……)


 二十五層を進んでいると、明らかに魔物ではない人の気配を感じた。

 

「誰ですか?」


 思い切ってそう声を出してみた。


「一人で歩き回るのは感心できないな」


 男の人の声でちょっと渋めの感じだ。

 発音的にネイティブな日本語だし外人ではないかな? って思った。


「あの、声だけだと不安なんで姿を見せてもらえませんか?」


 そう伝えると、私の真後ろそれも一メートルも離れていないところに、いきなり人が現れた気配を感じた。


(今の私がこんなに近づかれるまで気づけないって……相当強い人だよね……)


「初めましてだな、俺は『アンリ豊臣』お嬢ちゃんのお父さんの友達だ」


 そう声をかけられて振り返るとちょっとだけ焦った。

 そこに立っていた人は見た目がコワモテで反社会的な商売の人かも? と思えるような人だったから……

 ただ、恰好はアーミールックだったので、軍人と言われれば信じるしか無い感じかな?


「えっ、お父さんの知り合いなんですか? もしかして、お父さんって元気なんですか?」

「今、お嬢ちゃんのお父さんは、この世界にはいない。だが死んでるわけでもない。俺は、五郎に頼まれてお嬢ちゃんの様子を時々見させてもらってた。お嬢、あんまり危ない事に深入りするな。一人で中国へ飛んだりするのは、許容範囲を超えてる。もう少し大人しく行動しろ」


「あの……お嬢って呼ばれると、凄くこそばゆいんで『心愛』って呼び捨てで呼んでもらっていいですか?」

「ああ、わかった心愛」


「もしかしてアンリさんって『ザ・シーカー』さんですか?」

「そう呼ばれてるみたいだな。別に俺がそう名乗ったわけじゃないぞ」


「じゃあアンリさんってお呼びしてもいいですか?」

「それで構わない」


「あの……なんで私が中国へ行った事とか知ってるんですか?」

「俺には仲間がいるからな。世界中の主だった所に潜り込ませている。例えば心愛が天津に行った時にダンジョン協会で話しかけた職員、彼女も俺の仲間だ。あの時なんかは他の職員に話しかけていたりすれば心愛が中国で拘束されていても不思議はなかった」


「そんなに危険だったんですか?」

「そうだな。お嬢がテレポを使える事は知っていたから、そこまで心配はなかったが、拘束を受ければ色々と面倒ごとに巻き込まれていただろう」


「気を付けます」

「お嬢の敵は、中国政府よりもむしろ日本の反体制派にいる。弱みを握られないように気をつけろ」


「あの……さっきからまたお嬢って呼んでます……」

「あー、心愛って呼んでみてしっくりいかなかったんでな。お嬢でいいだろ」


「話は戻りますけど、お父さんが生きてるのは間違いないんですね? 会えるんですか??」

「今は無理だが、お嬢がもっと強くなれば会いに行けるかもしれない」


「それは本当なんですね? どれくらい強くなればいいんですか」

「そうだな、最低でもダンジョンの二百層を突破できるくらいの強さは必要だろう」


「アンリさんは、そこに辿り着けるんですか?」

「今はまだ無理だ。だがお嬢と力を合わせれば無理じゃなくなると思ってる」


「一緒に行動するって事なんでしょうか?」

「いや、俺たちが一緒だと逆に動きにくいだろ。必要な時には顔を出すさ」


「お父さんと連絡が取れるんですか?」

「向こうから一方的にだから、こちらからは連絡が取れないな」


「そうなんだ……お父さんと連絡が取れたら心愛が会いたがっているって伝えてください」

「ああ、伝えておく。それとな、ロマノフスキーが手が付けられない事態になったら、俺の名前を出してみろ。少しは態度が変わると思う」


「そうなんですか? まだ会った事は無いんですけど、結構大変そうな人だな? って思ってたから助かります」

「それじゃあな」


 そう言ったかと思うと、アンリさんは忽然と姿を消した。

 

「あ、連絡先、聞いてないです」


 そう叫んだら、メモ紙が一枚ヒラヒラと私の目の前に落ちてきた。

 当然のようにアンリさんの連絡先が書いてあった。


 メッチャ見た目怖いけど、きっといい人だよね?

 でもモヤっとした感じがしてたのが誰だったのかわかったからまぁいいか。


 アンリさんと別れて食堂へ戻ると、希が声をかけてきた。


「先輩、なんだか表情が晴れやかっていうか、すっきりした感じですね」

「え、そう? まぁちょっと気分的にすっきりしたかな? でも、それに気づくって凄いね希」


「そりゃぁ先輩の事ならちょっとした変化でも見逃しませんよ! 愛を感じるでしょ?」

「怖いし……」


「希も今日はもう少し付き合えるかな?」

「先輩のリクエストとあれば、このまま一生そばにいても構わないです」


「だから重いし……」


 時間を確認するとペットボトルに牛乳を容れて二十四時間が経過していたのでデザートを作り始めよう。

 いつもの様に日向ちゃんが手早く撮影準備を整えてくれ、その間に何を作るか決めた。


「今日は希と日向ちゃんが沢山持って帰ってくれたフルーツを使って『フルーツババロア』を作るよ!」

「わー聞いただけで美味しそうです」


「超楽しみです!」


 お父さんから習ったのは、ババロアってドイツ語で『バイエルンの』って言う意味のあるフランス語の形容詞なんだって。


 元々のババロアはアングレーズソースを(カスタードクリームだよね)をゼラチンで固めた感じの物で既製品のプリンとほぼ同じと思って良いかな。

 今は卵を使わない上品な味のものが主流だけどね。


 早速作り始めるよ。


 フルーツバロアは素材の色をどれだけ綺麗に見せるかが大事だから、使う調味料も色の付かない物を使う事が大事なんだよ!


 まずはフルーツから準備するよ。


 コアントローと言うオレンジリキュールを火にかけてアルコールを飛ばした中に、ダンジョンピーチ、ダンジョンアップル、ダンジョンストロベリーを五ミリメートル角のダイスカットにして浸ける。

 ダンジョンシャインマスカットも皮をむいて、一緒に浸けておくよ。



 (八個分)

 デリシャスミルクポーション200g

 生クリーム200g


 バニラビーンズ1/4本

 グラニュー糖 60g

 粉ゼラチン 5g

 水 25cc

 白ワイン 25cc

 飾り用イチゴ 8個


 材料はこれだけだよ。


 デリシャスミルクポーションにグラニュー糖とバニラビーンズのビーンズだけを入れて沸騰直前まで熱して火を止める。

 水と白ワインを合わせたものに、ゼラチンを入れてふやかして置く。

 粗熱を取った牛乳にふやかしたゼラチンを加える。


 大きめのボールに氷水を張っておく

 一回り小さめのボールにゼラチンを溶かした牛乳、コアントローに漬け込んだフルーツ、生クリームの順に入れて、とろみが付くまでゴムベラでよく混ぜる。


 器に流し入れて冷蔵庫で固めたら出来上がりだよ。

 上にカットフルーツやミントの葉を飾って、綺麗にデコレートしようね!


 うん、我ながら超綺麗な出来上がりだな。

 カットフルーツたちが、真っ白なババロアの中に綺麗に散らばって宝石箱みたいだよ。


 いつもの様に普通の牛乳を使ったバージョンも用意してテーブルに並べる。

 さぁ実食!


「マジ幸せ。もう何にもしたくないぃずっと余韻に浸って居たいよ」

「うーん、控えめに言って最高ですぅ」

「先輩の撮影スタッフでいられる事を神様に感謝したいくらいです!」


「ちょっと大げさすぎるよ……でも、デザートのレシピは結構たくさんあるから期待しててね!」

「「はい!」」


「今日は遅くなっちゃってごめんね、試験も近いから明日から試験が終わるまではダンジョン探索はお休みにするからね。希は放課後はここに来て日向ちゃんと一緒に勉強しなさい」

「えー……ダンジョンがいいなぁ」


「ダメだよ、明日は私も杏さん達が帰ってくるし色々忙しいからね」

「先輩は試験勉強しないんですか?」


「私は日頃からやってるから、焦らなくても大丈夫だし」

「いいなぁ」


「いいと思うなら希も日頃から頑張りなよ」

「それは……無理かも」


 希が家に帰って日向ちゃんも部屋に戻ったので、スキルボードを確認した。


『セレクトスキルの選択権を取得しました』

 

【スキル消去】

【テレパシー】

【大結界】

【気配感知】


 今回の新しいスキルは気配感知か、なんとなくは今でも感じ取れてるけど、スキルだときっと、もっと正確な情報がわかるようになるかもね。


 でも今回は大結界かな。

 金沢とか天津できっと必要になりそうだしね。


 スキルを取得すると、眠くなるまでは錬金の作業を頑張った。

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