第117話 天津のお手伝いでレッドランカー

 ノドグロのお煮つけを食べて一息ついた時だった。

 私のラインにメッセージが入った。


『心愛ちゃん諸葛です。天津ダンジョンの碑文を送りますので解読をお願いします』

『はい、了解しました』


 早速、諸葛さんから送られた写真を解読した。


『『大いなる栗は報復の木、降伏を耐えた先に幸福はある。この試練を乗り越えた者に反撃の力を授ける』こんな内容だったんですけど、今一つ要領を得ないですね』


『確かに意味が解らないですね。中国軍でボス部屋に突入したメンバーは誰も生き残りが居ないので、実際中の様子がどうなのかも全くわかりませんから、一度突入してどんなボスなのかを確かめて、エスケープで脱出してきます』

『わかりました。くれぐれも無理はしないでくださいね』


『はい、ご心配していただいてありがとうございます』


 それから三十分ほどして再びラインに連絡が入った。


『心愛ちゃん……突入してみましたが全く歯が立ちませんでした……』

『どんな状態だったんですか?』


『巨大な栗の木が一本立っているだけでしたが……張少尉が幹を力任せに攻撃したところ、大量のいがぐりが降り注いで部屋を埋め尽くす勢いでした。そこで一度脱出して四人で話し合った結果、木なんだから燃やせばいいんじゃないか? という意見が出たので、私が覚えているファイヤーランスを使って燃やしてみました』

『それでどうでした?』


『大量のいがぐりが弾けて襲い掛かってきました。全員が酷い火傷を負って二度目の脱出をしたところです。ポーションで火傷の治療が出来ずに四人ともダンジョン協会の治療室に運び込まれているところです』

『えっ、それってめちゃ大変じゃないですか。フレイムヒールは持ってないんですか?』


『そのスキル名は初めて聞きました』

『重症なんですよね』


『はい、結構……』

『しょうがないですから、すぐに行きます』


 今回は海外だし色々問題もあるから私一人で行くしかないよね。

 バレたりしないかなぁ……

 でも行くって言っちゃったからしょうがないか。


 テレポを発動してソウル経由で天津ダンジョンに移動した。

 ダンジョンの周辺は魔物が溢れていた。


(酷い……天津って確か東京よりも人口多いんだよね北京までの距離も百二十キロメートルもなかったはずだし、北京には二千万人以上の人が住んでるって聞いてるからこれは結構大変かも……)


 恐らく劉さんからリミットブレイクのスキルオーブをもらった兵士の人たちが必死で戦っている姿を横目にダンジョンの入り口そばにあるダンジョン協会に駆け込んだ。


「すいません、劉大尉たちの所に案内してもらえますか?」

「あなたは?」


「えっと、友達です。火傷の治療が出来ますから急いでお願いします」


 納得いかない様子ながらも、火傷したことを知っていて治療ができるって言ったので、何とか案内してもらえた。


 治療室に入ると、そこには四体のミイラがベッドに転がっていた。


「諸葛さん、大丈夫なんですか?」

「ああ、心愛ちゃん早かったね。見ての通り大丈夫じゃないかな……」


「すぐに包帯を外してください。私が治療します」


 看護師の人が諸葛さんに巻かれた、ぐるぐる巻きの包帯をハサミで切り裂くと裸に油紙のようなものを張り付けただけの状態で諸葛さんが現れた。


(ちょっと、こんな状態だけど男の人の裸って……困るよぉ)


 でも、そうも言ってられないのでフレイムヒールを発動して火傷の治療をした。


「早く服着てください!」


 そう言いながら劉さん、関さん、張さんの三人も同じように治療した。


「心愛ちゃんすまん。助かった」

「それは、いいですからスタンピードを止めに行きましょう。もう三日近く経過していますから北京まで危険に晒されますよ」


「ああ、急ごう」


 劉さんと関さんはちゃんと服を着て出てきたけど、張さんは着替えがないって言って、ムッキムキのゴリマッチョボディにブーメランパンツ一枚で出てきた。


「張さん……それは無いでしょ?」

「大丈夫だ武器だけあれば平気だから」


「私が平気じゃないから!」


 だけど時間が惜しいので結局そのままダンジョンへと突入した。

 天津ダンジョンは、二十三層のDランクダンジョンだったのでマップが判明している状態では、高ランクの劉さん達と一緒であれば、十時間ほどで二十三層まで到達できた。


(今、日本だと朝の六時頃かぁ。学校間に合うかなぁ)


 ボス部屋に突入すると、聞いていた通りの大きな栗の木が生えていた。


「えーと、皆さん一切木に刺激を与えないように木の真下まで移動してください」

「了解だ。攻略法はわかったのかい?」


「まだわかりませんけど、刺激を与えたらきっとヤバイはずです」


 そう言って木の真下まで移動して幹の周りを回りながら上部を確認した。

 すると入り口側から見ると丁度真裏に当たる場所の上部がわずかに光って見えた。


(あれがボスのコアかも)


 しかし葉っぱが生い茂っていて魔法を使ったとしても直接コアだけを狙うのは難しそうだ。


(樹里さんのハンターボウか日向ちゃんのワイバーンジャベリンがあれば良かったな)

  

 そう思ったけど無いものは仕方がない、いがぐりかあの鋭くとがった葉っぱのどちらかが襲い掛かってくるのはしょうがない、と割り切ってコアを砕くしかなさそうだね。

 よし、それなら私は襲い掛かってくる葉っぱやいがぐりの対処に専念しよう。

 賢者のJOBで覚えた結界って使えそうだよね!

 早速、結界を張ってみた。

 淡い光のベールみたいな壁に包まれているような感じだ。


 でもこれって……中から攻撃は出来るのかな?


「劉さん、あの光っている部分を狙い撃つ事ってできますか?」

「ああ、やってみようか。ああ見えて張のやつは射撃の名手なんだ」


(えっ? 筋肉だるまなのに?)


 そう思ったけど、口には出さなかったよ。

 張さんがマジックバッグからスナイパーライフルのような武器を取り出して、コアを狙い撃った。


 だけどその銃弾は光のベールを突き抜けることが出来なくて下に転がった。

 あー、中からの攻撃は出来ないんだね……


 結界を解除してもう一度狙ってもらう。

 今度は無事にコアに命中した。

 しかし、コアを破壊するには威力が足らなかったようだ。


 それと同時に、栗の木から葉っぱが大量に降り注いでくる。

 どうやら、弾丸の発する振動波でも駄目だったみたいだね。

 私はアイテムボックスを発動して『収納』と念じた。

 部屋一面を覆いつくすほどに降り注いできた鋭敏なカミソリのような葉っぱをすべて収納すると、さっきと違ってコアがはっきりと見えていた。


 これなら大丈夫かな?

 

「心愛……今のは一体どうやったんだ?」

「アイテムボックスに収納しただけですよ?」


「アイテムボックス……それは俺たちも覚えれるのか?」

「どうでしょう? 頑張ればなんとかなるんじゃないですか? それより諸葛さんはフレイムランスが使えるんですよね?」


「はい」

「あのコアを狙ってください」


 諸葛さんが発動したフレイムランスは今度こそコアを砕いた。

 巨大な栗の木が黒い霧に包まれて消えていく。


 その場には台座と水晶が現れていた。


「劉さん、無事に攻略出来たようです。水晶に触れてください」


 劉さんが水晶に触れると三度目となる声が聞こえた。


『NO600天津ダンジョンの攻略を確認しました』


「なんのスキルがもらえましたか?」

「うん【カウンター】だね」


「私も取得しますね」


 私が水晶に触れると『NO600ダンジョンの通信環境が解放されました』と声が聞こえた。


「あれ? 心愛ちゃんが水晶に触れると通信環境が解放されるって事なのかい?」

「はい。そうですね。でも一応内緒でお願いします」


「ああ、わかったよ」


 諸葛さん、関さん、張さんもそれぞれカウンターのスキルを取得して、入り口の反対側に現れた扉を開けた。

 そこにはいつも通りに宝箱が三つ並んでいた。


「劉さん、三つのうち一つだけ選んで開けてください」

「わかった。男は迷わずど真ん中だな」


 宝箱の中から現れたのは青龍偃月刀という種類の柄の長い刀だった。

 刀というよりは薙刀の方が近いかな?


 一応鑑定をかけてみると『冷艶鋸れいえんきょ』という名前で剣豪のJOBがついていた。


「これって三国志の物語で関羽さんが使ってた刀の事ですよね?」

「あ、ああ、そうだな」


 そう返事をした関さんの目がその武器にくぎ付けになってた。


「折角だから関さんが使えばいいじゃないですか。JOBも覚えれるし」

「い、いいのか? 劉兄者」


「俺は心愛にあげようと思ってたから、心愛がいいなら構わないぞ」

「ありがとう心愛。大事にするな」


「さぁ私、学校に遅刻しそうだからもう帰りますね。スタンピードの魔物の討伐、頑張ってくださいね!」

「色々ありがとう心愛、落ち着いたら必ずお礼に行くからな」


「来る時は前もって連絡してくださいね。いきなり来られるといろんな誤解が起こりそうだから、張さんも風邪ひく前に服着なきゃだめだよ?」

「あ、ああ。ありがとう心愛」


「それと劉さん達にお願いがあります」

「なんだい心愛ちゃん」


「私、転移魔法で来ちゃったからバレると色々問題あるので、私が天津に来たことは内緒でお願いします」

「ああ、そのことか。心愛ちゃんが内緒にしてくれと言うなら誰にも言わないよ」


「絶対ですよ? 約束ですからねー」


 無事に天津スタンピードを終結させて博多に戻ると、眠い目をこすりながら学校に行く準備をした。


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