第112話 ガリッサダンジョン
ケニアのナイロビにおいてWDAの主導で世界中から集められたレッド以上のランカー六千名と、ケニア国内から集められた軍隊を中心としたメンバーに対して今回の作戦司令官であるアメリカDSFのマッケンジー長官が作戦の概要を説明している。
多国籍部隊の上に、ケニア国内では多数の部族ごとの言語も存在するので意思の疎通が一番大変なはずであるが、マッケンジー長官の言葉を同時通訳で説明するのはJDAから派遣されている大島杏が担当した。
どういう理屈かわからないが彼女の話す言葉は異なる言語を使うはずの、すべてのメンバーに対して、ネイティブな言葉として通じていた。
「今回
その言葉から始まったマッケンジー長官の言葉は要約すると以下の内容である。
スタンピード問題は今後世界中で発生する可能性がある。
今回、協力してくれた国で問題が起こった際にはWDAの主導により被害を最小限にとどめるための援助が受けれることを約束させてもらう。
今回ガリッサダンジョンのスタンピード発生からすでに三十六時間が経過しているためガリッサを中心に広範囲に魔物は広がっており、これを殲滅するのは非常に困難を極める。
今回参加しているアメリカのトップ二チームは実際に日本において金沢ダンジョンのスタンピードの鎮静化を経験している。
スタンピードの鎮静化に必要なアイテムはJDAの協力で準備してある。
その前提条件の上で作戦を発表する。
ケニア軍のメンバーは今回は首都ナイロビの防衛に専念してもらいたい。
レッドランカーの五千三百八十名はガリッサを取り囲んだ状態で、魔物の殲滅を担当。
ブロンズランカー五百六十名はダンジョン周辺の包囲を担当する。
シルバー以上のメンバー六十名はダンジョンの攻略を担当。
レッドランカー以上のメンバーとケニア軍所属のカラーズのメンバーには【リミットブレイク】のスキルオーブを支給。
ダンジョン突入を担当するシルバーランク以上のメンバーには一班六名の編成を行い各班に対して、パーティ作成とエスケープのスキルオーブが支給される。
そこまでの作戦概要が説明されると早速、作戦行動へと突入した。
「杏、言語理解の能力は凄いな。改めて思い知らされた。それと直接会う事は滅多に無いから紹介しておく。日本ダンジョン協会の常務理事になった轟さんだ」
「よろしくお願いします。博多支部の大島です」
「お初にお目にかかります、轟です。噂のSランク探索者の専任担当をなさっているんですよね? 彼女の存在は日本、いや、世界の探索者達にとって非常に重要な存在です。くれぐれも協会と不仲になるような事が無いようにお願いしておきます」
「おい、轟、お前そんな堅いキャラだったか?」
「冴羽、余計な事を言うな。俺のドストライクだから第一印象が大事なんだ」
「後ろに怖いシスコン兄貴が立って居るから、それ止めておいた方が良いぞ?」
「ん? 澤田の妹なのか? お前をお兄さんと呼ぶ日が来るとは、人生わからんもんだな」
「誰がお兄さんだ。轟、お前に杏はやらん。それに冴羽、お前も杏と呼び捨てにするな。呼び捨てが許されるのは俺と女友達だけだ」
「マジひでぇシスコンだな。お前も理事になったんだから妹離れしろよ?」
「私、今の所男性の方には興味持てませんから。専任担当のクライアントが楽しすぎて、そんな暇は無いです」
「そ、そうか、なら別に構わんが」
「轟、今回用意したスキルオーブの請求先はどこになるんだ?」
「ああ、D-CANに依頼したのはJDAだから、支払いはJDAが立て替える。勿論、後から
「そうか、了解だ。中国に渡した分も一緒に請求でいいのか?」
「一応請求書は別々にしてくれ、支払いはJDAから行う」
「金額だが今回はリミットブレイク一個に対して五百ドル、パーティ作成とエスケープは千ドルだ。リミットブレイクに関しては効果時間がまちまちだが、五百ドルは特別価格だから納得してくれ」
「助かる。しかし、どうやって準備しているんだ?」
「飯の種はばらさないさ」
「話は変わるが、大島さんは、その能力を本部で活かしてもらえる事は出来ないか?」
「あー、それは無理です。現在の私が専任で付いてるパーティーからのボーナスを本部に行ったら貰えないですよね?」
「澤田、いくらくらいになるんだっけ?」
「轟、絶対聞かない方が良かったと思うから忘れろ」
「……」
「しかし錚々たるメンバーだったな」
「ああ、アメリカ、ロシア、フランス、イギリス、ドイツ、インド、韓国、スペイン、トルコはトップチームがそのまま参加してきてたな」
「ええ、もしかしてロシアチームはランキング一位のロマノフスキーさんもいたんですか?」
「ああ、いたはずだ」
「顔写真も見た事無いですから、わかりませんよ」
「まぁロマノフスキー大尉は存在が希薄だというからな……」
「希薄って影が薄いとかそんな感じですか? スキルの効果とかかな」
「違うと思うけどよくわからんな」
「今回はゴールドランカーでは中国の二人と日本の君川一尉、ザ・シーカー以外の五名は参加しているそうだ」
「ボス部屋への突入メンバーとかどうするんでしょうね?」
「どうするのかな? エスケープスキルも用意してあるからランキング順で二パーティーくらいが妥当な判断だと言えるな」
「となると、ロジャー達がロマノフスキーと一緒に突入するという事か?」
「恐らくだがな。一応現場の判断はランキング上位のロマノフスキー大尉が執ることになるはずだ。断言はできないが、ダンジョンクリアを経験しているロジャーたちを外す判断はしないだろう?」
「でもロジャーとグレッグが大人しくロマノフスキーの言葉に従うのかしら?」
「どうだろうな? 無駄に張り合いそうな気もするが……」
◆◇◆◇
ガリッサダンジョン前に集結したシルバーランク以上の六〇名の内訳はアメリカ十八名、インド十二名、ロシア十名、イギリスが六名、フランス四名、ドイツ三名、韓国三名、スペイン二名、トルコ二名の構成である。
一応ランキング一位のロマノフスキーが班員の振り分け指示を出すことなる。
白人で金髪碧眼の東ヨーロッパで多く見かける特徴を備えているが、背は百七十センチメートル程度でここに集まった各国の軍人の中では小柄な印象だ。
「俺がロマノフスキーだ。フランスのアンリが参加してないようだから国外のメンバーはみんな初めてだな。早急にスタンピードを止めるためには、十班に分けたパーティでの早い者勝ちということでどうだ? 最終層のボス部屋に到着した順に三班が突入、残りがバックアップって事にしよう」
「アメリカのロジャーだ。ロマノフスキーはダンジョンの最終層に辿り着いたことはあるのか?」
「ああ、突入はしなかったがな」
「そうか、それなら一応、聞いてくれ。入り口付近に碑文があるはずだ。そこに大まかなヒントが隠されている。突入前に必ず確認をしてくれ」
「あー確かに読めない文字で何か彫り込んであるな、ロシアでも学者に解析させたが意味不明ということだった。アメリカはあれの解読が出来るのか?」
「アメリカは出来ない。だが読める友達がいるんでな。写真に撮って送ればOKだ」
「そうか、その件は了解だ。班分けだが六名ずつだからアメリカで三班、インドで二班、ロシアとトルコで二班、イギリスで一班、フランスとスペインで一班、ドイツと韓国で一班でいいか? 連携を考えると出来るだけ同じ国で固まるのがいいだろ?」
反対意見も出なかったので、そのまま班が決定し早速突入していった。
「ロジャー、ちょっといいか?」
「どうしたグレッグ?」
「なんかロマノフスキーのイメージが思ったのと違うな。もっと熊のような大男を想像してたぜ」
「ああ、俺もそれは思った。だが俺が金沢を攻略しても順位の変動が無かったくらいだからな。どれくらいの実力があるのか全く想像ができない」
「ロマノフスキーが言ってたフランスのアンリって言うのは誰の事だ?」
「恐らくだが、ザ・シーカーの事じゃないのか? 確か元はレジオンに所属してたはずだからな」
「するとロマノフスキーとザ・シーカーは顔見知りって事か?」
「あの感じじゃそうだな。さあ、あいつらに負けたら面目が立たねぇから飛ばすぞ」
「っておい、杏に言われてただろ? 入り口の写真を送れって」
「あ、忘れてた。てか、覚えてたならてめえがやれよ」
「頼まれたのはロジャーだろ! 俺は先に進んでおくぞ」
「くそっ」
他の班は先に進み、ロジャーの班だけが取り残された。
ロジャーはスマホで入り口を撮影すると杏に送信し鑑定結果を待った。
『【NO695】ガリッサダンジョン 階層数21 Dクラスダンジョン 現在到達階数5』
やはり浅いか。
すでにスタンピードを起こしてるから魔物どもの流れがきついな。
金沢の時のように心愛が魔法で吹き飛ばしてくれるわけじゃないし、ちょっと大変だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます