第103話 長い夜の始まり

「葛城一佐大変です。金沢ダンジョンから魔物がダンジョンの外に溢れだしたと連絡が入りました」

「なんだと……それは金沢だけなのか? ほかのダンジョンは大丈夫ということで間違いないのか?」


「現時点では少なくとも国内においては金沢だけしか報告は上がっておりません」

「そうか、国外の状況も含めて詳しい情報を至急集めてくれ。こちらは特務班を中心に戦力を総動員して対処を行う」


 その日深夜0時に突然起こったダンジョンスタンピードの情報は、国内を駆け巡った。

 金沢ダンジョン攻略のために駐留していたチームシルバーを中心としたダンジョン特務隊とアメリカDSFのチームが即時で対応に当たることになる。


◆◇◆◇


「ロジャー、グレッグ。ダンジョンスタンピードが発生した。グレッグのチームは自衛隊に協力して対応を行ってくれ。ロジャーのチームは待機だ」

「ちょっなんでだボス、俺のチームは待機っておかしくないか?」


「今情報を集めているが、日本国内ではとりあえず金沢だけらしいが、ステイツの状況や他国の情報がまだ出そろってない。場合によっては即時で本国に戻らなければならないから、2チームとも出すことはできない」

「あーわかったぜボス。早く状況を教えてくれ。グレッグ、とりあえずは任せるがダンジョンの外だと、能力が低くなっちまうから気を付けるんだぞ」


「そんなことはロジャーに言われなくてもわかってる。ラッキーな事にダンジョン攻略で戦闘の前に脱出したおかげで弾薬は十分に在庫があるからステータスが影響する直接武器攻撃は避けて戦うぜ」


◆◇◆◇


「君川一尉、至急特務隊全部隊をもってダンジョンからの魔物の流出を食い止めるんだ。近隣の陸自と警察にも応援要請を出し、近隣の住民の避難と街への魔物の進出を徹底的に抑えるぞ」

「了解いたしました。直ちに任務に向かいます」


 さいわいにも金沢ダンジョンは立地的に周辺の民家や商業施設なども少なく避難に関しては比較的容易であった。


◆◇◆◇


『心愛ちゃん、大変、金沢ダンジョンから魔物が溢れだしたそうよ』

『えっ……杏さんそれ本当ですか? それって金沢だけなんですか』


『今のところ情報で入ってるのは金沢だけね。冴羽さんにもすぐに連絡してD-CANとしてできる対応を考えるので、真夜中だけど心愛ちゃんにも待機してほしいの』

『わかりました。着替えて待ってます』


 なんでいきなりこんな事になったんだろう。

 国外とかはどうなんだろう? 今は情報がほしいよ。


 着替えながらテレビを点けると緊急ニュースで金沢ダンジョンのことを報じていた。

 テレビでは警察と自衛隊による避難誘導の状況を映し出している。

 溢れだした魔物への対処に関しては、テレビ局のクルーも近づくことができないために、ヘリコプターによる上空からの映像だけとなっていて、真夜中で暗いために恐らく特務隊であろうメンバーが魔物に対して銃撃による攻撃をしているであろう閃光が見えるだけだ。


『心愛ちゃん。冴羽さんにも連絡はついたわ。私もすぐに食堂に向かうわね』

『待っています、杏さん』


 電話を切るとすぐに食堂側の入り口から美穂さんと樹里さんがやってきた。


「心愛ちゃん、状況は聞いてる?」

「はい、今杏さんから連絡が入って待機してるとこです」


「とりあえず私たちは心愛ちゃんと一緒にいるように指示を受けたからここにいるね」

「わかりました。あ、コーヒー淹れますね」


 そんな話をしていると、日向ちゃんも騒ぎに気付いたようで食堂に顔を出した。


「先輩、なんだか大変なことになったようですね。大丈夫なんですか?」

「今はまだ何とも言えないかな。一応、希にも連絡してこっちに来るように伝えて」


「わかりました。すぐに電話します」


「樹里さん、金沢以外の状況とかわかりますか?」

「現時点では異変が起きているのは国内では金沢だけね。国外に関してはまだ正確な情報とは言えないけど、中国で異変が起きてるみたいだよ」


「中国ですか? それって、もしかして最終層のボス戦に失敗したダンジョンですか?」

「うん、場所は海沿いの都市『天津』のダンジョンだね」


 天津か……金沢と天津の共通事項は、ボスに挑んで攻略に失敗してるところか。

 おそらくスタンピードの原因はそれで間違いないよね。


 スタンピードを止める方法は……攻略した下関では起きていないことを考えれば、ほぼダンジョンボスを倒すことで間違いないかもね。

 だとすれば私にできることはなに?


 すぐに金沢へ行って君川さんやロジャーたちに協力してボスを撃破すれば止められるはず。

 そんなことを考えていると食堂に杏さんが来て、それと前後するように希も現れた。


「先輩、こんな時間に呼び出しだなんて、ついに私との熱い夜を過ごす気になりましたか?」

「馬鹿なこと言ってないで、とりあえずテレビ見なさい」


「あーなんなんですかこれ? 魔物がダンジョンの外に出てきてるとか超大変じゃないですか」

「うん、ダンジョンの外だとステータスもダンジョンの十分の一だし、これの対処は私たちが行ってもあまり役に立てそうにないわね。私たちはもっと根本的な問題、ダンジョンスタンピードを止める方法を考える事が重要だと思う」


「それって方法はわかってるんですか?」

「まだおそらくだけどね。天津と金沢の共通点を考えればボスにチャレンジして攻略できてないってことだからボスを倒すしか止める方法は無いんじゃないかな? 下関がスタンピードを起こして無いことから考えてもほぼ間違いないと思うんだよね」


「なるほどぉ、さすが先輩です。じゃぁ今から金沢ダンジョンのボスを倒しに行くってことですか?」

「私たちが金沢ダンジョンに入れてもらえるかどうかもわからないし、葛城一佐に連絡が取れてからになるけどね」


「心愛ちゃん、うちの兄貴と冴羽さんがダンジョン協会で待ってるからすぐに来てほしいって言ってるよ」

「わかりました。樹里さんと美穂さんも大丈夫ですか? テレポで西陣の拠点に移動してから向かいましょう」


 とっても長い夜が始まっちゃった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る