第36話 作戦会議

「柊、真田、大島さん。ありがとうございます。お陰でダンジョンの現状がどういう状況なのか大体の把握が出来ました」

「やだ先生、そんな堅苦しい言い方しないで下さいよ。役に立てたなら良かったです。でも結構ポーション持ってない子も多かったでしょ? 先生たちも今日は落ち着いて対処出来たから良かったけど、余裕が無いと簡単に大けがしたりするから、その辺りをもっと認識を高めて欲しいです」


「柊さん、学校でそういう活動をする予定は無いの? 随分高ランクな探索者なんでしょ? 柊さんは」

「私は自分と希の事で精一杯ですから、そういうのは無理ですー。きっともっと適任な人が居るので、サークル活動でも立ち上げさせたらどうですか?」


「そっかぁ。また何か聞く事も有ると思いますから、その時はよろしくお願いしますね。あ、そう言えば今日使わせて貰ったこの武器、凄いわね。学生時代に来た時は普通のスコップとかで来てたんですけど、こんな簡単に倒せたりとかは、絶対無かったですから。野中先生のナイフも初心者が一撃でコア破壊とか普通絶対あり得ないですものね」


「そうですね、ちなみに今日の野中先生の武器で二百万円で、橋本先生の武器は八百万円だそうですよ」

「ええええぇ!! そんな高級品を使わせて貰ったのもびっくりだが、高校生の柊と真田がそれを持っている事の方がもっとびっくりだ」


 私がそう伝えると杏さんが補足した。


「心愛ちゃん、その槍は納品価格で八百万円ですから、買うとなればその倍ですよ」


 その言葉に一瞬場がシーンとなった。


「まぁ……私は運が良かっただけですから」

「そうなのか? それじゃぁ先生たちはこれで帰るが、今日はありがとうな。大島さんもありがとうございます」


「いいえ、私も貴重なデータを直接見れたので、大変勉強になりました。ありがとうございます」


 先生を見送ると、希の方を振り返った。


「希、随分静かだね、体調でも悪いの?」


「いえ、この後の事を考えるとちょっとだけ緊張してます」

「そっか、ポーションⅢ二人分だから、もう一本渡しておくね」


「あ、ありがとうございます」

「希が悔いの無い様にしないとね」


「熊谷先生が十三時に来ることになってるから、それまでにお昼ご飯食べちゃおうよ」

「「はい」」


 杏さんの提案で、お昼ご飯は西新の定食屋さんに行った。

 お昼ご飯の後で協会に戻ると、熊谷先生も来ていたので再びミーティングルームへと向かった。

 すると今度は澤田課長が顔をのぞかせた。


「ちょっとだけお邪魔させて貰っても大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ」


「柊心愛さんは、本日付でS級探索者に認定されましたので、後でカードを更新させて頂きます。それと今回の情報提供報奨金ですが、正式に一千二百万USドル、日本円で十六億八千万円となりました。本来は世界中から褒賞が五千万USドル、日本からも二百万USドルの予算で支給があり、五千二百万USドル全額を渡す事も検討されたのですが、今回ダンジョン探索者の事故を減らすための基金とさせていただいて、探索者養成学校の設立資金へと流用させて頂いた事を、お伝えしておこうと思いまして」


「あ、そんな、十六億円とかあっても使いきれないし、有意義に協会で使って頂けるならそれで全然構わなかったです」

「先輩……発言が太っ腹すぎます……」


「心愛ちゃんにそう言って頂けて助かったわ。熊谷先生に言わせると全額下さいと心愛ちゃんが言えば、そうせざるを得ないと言う見解だったので」

「今からもっと稼いじゃいますから大丈夫ですよ。杏さんが一緒だから心強いですし」


「そう言えば大島から伺いましたが、会社設立をされるそうですね、おめでとうございます。顧問弁護士に熊谷先生をお勧めしますよ。恐らく柊さんは高額なお金を今後も扱う事になるでしょうから、その辺りは事前に準備しておくことをお勧めします」

「はい、熊谷先生、是非お願いしたいですけど、よろしいでしょうか?」


「喜んで担当させて頂きます。契約内容などは大島さんと打ち合わせをさせて頂く形でよろしいでしょうか?」

「はい、全面的に杏さんに任せますのでよろしくお願いします」


「それでは私は失礼させて頂きます。あ、それと朝ご挨拶をしたと思いますが、冴羽課長は相当の切れ者で、何を企んでいるか解らない部分がありますから、お気を付けください。今の話はオフレコでお願いしますね」


 そう言って退室して行った。


「柊さん、ご安心ください。全ての協会からの接触は、私か大島さんを通じてしか行わない様にする要請を協会に出しておきますので、それ以外の話は全部『熊谷か大島を通してください』と言えば大丈夫ですので」

「解りました。熊谷先生、杏さんよろしくお願いします。希も解った?」

「はい、解りました」


「それで今日の事ですが、真田さんが被害者の方との面会を十六時に予定してらっしゃるとの事ですので、その後十七時に私が被害者の方のご両親に一言お伝えして今後の真田さんや、柊さんへの接触を一切行わない様に、お伝えしておきます」


 と、にこやかに言ってたけど、なんか絶対敵に回すのは嫌だ、と思わすような笑顔だったよ……


 ミーティングを終え、Sランクの探索者カードを個人とパーティで発行して貰った。

 杏さんと希は私の家に来て、十五時半には希が出かけて行った。

 熊谷先生は一度事務所で書類を作成して直接現地に向かうという事だった。


「大丈夫かな? 希」

「きっと大丈夫ですよ、希ちゃんは友達の為に一生懸命だから」


「あ、そう言えば杏さん。ちょっと召し上がって頂きたい物があるんですけど」

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