第11話 さようなら金属バットちゃん
七層に降りてくると、やっぱり敵がアンデット中心と言うだけあって墓地の様な光景が広がっている。
日本風のお墓や西洋風なお墓が区画ごとに広がってる感じだ。
私は金属バットを握りしめて慎重に進んだ。
敵が現れる。
日本風な白装束を着た幽霊っぽい敵だけど透けてないし、しっかり足で歩いてる。
和風ゾンビだよね……
私は近づくと思いっきりバットでジャストミートした。
すると私が中学校時代からずっと愛用して来た金属バットが、ぽっきりと折れてしまった。
でも同時に敵の和風ゾンビも消えて行った。
(やっぱり、この階層の敵には厳しかったのかな? さっきのボス戦でもレベル十のオークリーダーだったからもう限界だったのかもね。今までありがとう私の相棒ちゃん)
そこで私は金属バットのグリップに巻いてあったテープを丁寧にはがし、さっき獲得した金棒のグリップ部分に巻き付けた。
ちょっと構えて振ってみる。
風斬り音はならなかった。
やっぱり重さが金属バットの五倍くらいはあるから今の私の体力じゃパワー不足なのかな?
でも、重いけど振れない程じゃない。
インパクト時の敵へのダメージは絶対バットより高いはずだ。
徐々に慣れていくしか無いよね。
あ、私何で魔法使わなかったんだろう。
今日の趣旨と違うじゃん。
それから三時間近く七層の敵を聖魔法で狩りまくったよ。
やっぱり属性の優位は凄いと思った。
ほぼ一撃で倒せるし、団体さんでお越しいただいてもシャワーで一掃出来た。
MP消費も思ったほどでも無く、これならほかの魔法を覚えて、どんどん下層へ進んでも良さそうだね。
ドロップも宝箱こそ出なかったけどポーションⅢも出現したので、今日も高額収入になっちゃうね!
七層のボス戦をやってから帰ろうかな? と思ったけど結構いい時間だし登り階段の場所の方が近かったので、登り階段横のダンジョンリフトを使って一層へと戻った。
一層へ戻ると何だか奥の方が騒がしかった。
気になって見に行くと希が泣いていた……
「昭君、
「どうしたの? 希」
「あ、先輩ー。ごめんなさい。少し手を貸してください。お願いします」
「いきなり謝られても意味わからないし、ちゃんと説明して。手は貸すから」
「いつもの三層で狩ってたら人が多くなってきたから四層に行こうって話になって、三層の守護者と戦いに行ったら、レアボスが出てきちゃって、ミノタウロスだったんです」
「ミノタウロスだと通常十層の守護者だよね?」
「そうなんですか? それは知らなかったんですけど、もう全然無理で昭君と日向ちゃんが腕と足折られちゃって、必死で悟君と私で連れ出して脱出したんです。先輩から預かってたポーション振りかけても治らなくて、ようやく一層まで戻ったんですぅう、悔しいし、悲しいし、涙が止まんないんです」
「ちょっと二人の容態見せて、あぁ確かにぽっきり折れちゃってるわね、これだとポーションⅢ以上じゃないと治らないわよ? ポーションⅠ振りかけたおかげで止血は出来てるみたいだけど、これやられちゃった時には、骨が皮膚突き破る様な折れ方だったでしょ? 私はポーションⅢ持ってるけど無料でって訳にはいかないわ、探索はあくまでも自己責任なんだからね、どうする? 流石に協会価格とは言わないけど、使うなら納品価格で使ってあげるよ?」
「あ、俺達ポーションⅢとかそんなお金とてもじゃないけど無理ですから……上まで戻ったら親に連絡して迎えに来てもらいます……」
「そう、それならそれで別に構わないわ。私は三層のボス確認に行くね。じゃぁ気を付けてね」
「先輩、ごめんなさい。ダンジョン舐めてました。もう絶対無理な事とかしません。ごめんなさい」
「希、それが判っただけ良かったじゃない、二人とも命に別条がある様な怪我じゃ無いから、早く上まで連れて行ってあげなさい。早くお医者さんに見せないと後遺症が残ったりするかもしれないし」
「先輩、一人でミノタウロスと戦うつもりなんですか?」
「そうだね、大丈夫だと思うけど、一応様子だけ見て無理そうだったらダンジョン協会に頼むよ」
「気を付けて下さいね」
五層までのボス部屋はボス戦が始まっても、扉が閉まったりしないし、ボス部屋の外には追っかけて来ないから、良かったけど六層以降のボス部屋で同じ事が起こってたなら、間違いなく全員死んでいた筈だ。
私が希に対して言った事は決して厳しい事でもなんでもなく、死が身近にある探索者という仕事を、もっと怖がって欲しいと思ったんだよ。
そして人目が有ったので、二層には普通に降りて、二層から三層へはショートカットで向かった。
そしてボス部屋へ向かうと、そこは地獄絵図になっていた。
希たちの後に入ったパーティもことごとく敗れ、十二人の探索者が倒れていた。
ボス部屋の外で震えている恐らく倒れている子のパーティメンバーであろう人が三人いた。
恐らく……部屋の中に居る人達は全員ダメだろうな……
「貴方達は、この中の人のパーティメンバーなの?」
「あ、はい、そうですけど、みんなやられちゃって、助けたくても怖くて無理で、俺どうしたらいいんですか……」
「あとは任せなさい。このボスをどうにかしないとどっちにしても、どうしようも出来ないんだし。貴方達は動けるんでしょ? すぐにダンジョン協会に知らせてきて、レスキューを頼まないと、この人達が魔物の餌になって、死体も残らない状態になっちゃうよ?」
三人がよろけながらも上階層へ向かったのを見て私は、ボス部屋の奥に居るミノタウロスを見つめ鑑定を掛けた。
ミノタウロス レベル十三か……
何故ここに現れたんだろ。
今なら人目はいないから魔法で片付けよう。
私はレベル五十一相当のホーリーアロウをミノタウロスに放って、一撃でとどめを刺した。
その場には極上霜降り牛肉と宝箱が落ちていた。
宝箱を開けると、ポーションⅥが入って居た。
Ⅵっていくらだったかな? 杏さんから貰った価格表を見てちょっと吹いた……
一千五百六十二万五千円ってまじなの?
下層へと向かう階段部屋への扉が開いた事により、五層から下へ降りる探索者のランクチェック担当の協会職員が駆け込んで来た。
「もう二時間も扉が開かずに、心配してました。この惨状は一体……何が起こったんでしょうか?」
私は見たままの事を伝えた。
理由は解らないけど十層ボスのミノタウロスがこの階層に現れて、この惨事を巻き起こした事。
ミノタウロスは自分が倒したことを伝えた。
協会職員がボス部屋で倒れていた人たちを、全員確認してたけど……言われなくても解っちゃうよ。
全員亡くなっていた。
男性八名、女性四名みんなまだ若い。
高校生や大学生ばかりだろう。
この事実を聞かされる親はどんな気持ちになるんだろう。
でも、私は解っている。
ダンジョン探索は自己責任だ。
一獲千金の夢もある替りに保険も出ない。
納得いかないなら潜らなければいい。
そういう厳しい場所なんだよダンジョンは……
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