第二十一話 大乱戦
「こりゃずいぶんと賑やかだ」
押し寄せてくるモンスターの数を見て、呆れたように呟く樹さん。
アリに蜘蛛に大蛇、そしてこれまで姿を見せていなかった巨人のようなモンスターまで。
洞窟中のモンスターが、片っ端から押し寄せて来ているようだ。
……おいおい、どうしてこうなった?
地獄のような光景に、俺はたまらず顔をしかめた。
すると七夜さんが、落ち着いた様子で言う。
「大規模な討伐作戦だとたまに起きる現象。特に閉鎖系は音に反応するようなのも多いから」
「ああ、さっきから凄い音出してますもんね」
小さな地鳴りのような音を響かせながら、岩盤を掘り進む掘削リグ。
そりゃ、一か所であれだけの騒音をずーっと発生させていたらモンスターも集まるか。
この事態は神南さんもある程度は予想していたようで、すぐに休憩を切り上げて指示を発する。
「全員、戦闘態勢! ここを死守するわよ!」
「おう!!」
「土嚢があります! これを上手くつこうたってください!」
先ほど、葛籠から掘削リグを取り出して見せた男。
それが今度は、葛籠から土嚢の山を取り出した。
討伐者たちはそれを次々と運搬すると、手際よく簡易的な防壁を築く。
「よっし! ここは俺が一発かましてやる、安全な場所まで下がっとけ!」
壁ができるとすぐに、討伐者たちの中でもひときわ大柄な男が前に出てきた。
先ほどまでの戦闘では、主にメリケンサックで戦っていた人物である。
てっきり、身体強化系のイデアなのかと思っていたが……そうではないらしい。
彼はこぶしを突き上げると、思い切り叫ぶ。
「龍人降臨!!」
もともと大柄だった男の身体が、さらに一回りほど膨れ上がった。
さらに顔の骨格が変化し、肌が紅い鱗に覆われていく。
その姿はさながら、ドラゴンと人間が混ざり合ったかのよう。
彼は腰に手を当てて背中をそらせると、大きく息を吸い込み――。
「
男の口から青白いブレスが放たれた。
光り輝くエネルギーの奔流が、たちまちモンスターの大群を薙ぎ払う。
凄いな、今のでかなりの数を持って行ったぞ!
本物のドラゴンにも匹敵するかもしれない大火力である。
「おぉ……!」
「流石は竜ケ崎。Sランクに最も近いとか自称するだけはあるな!」
「おーおー、大した暴れっぷりだ!」
「敵が崩れた! 突撃!!」
敵の陣営に穴が開いたのを見て、すかさず神南さんが指示を飛ばす。
そして自ら、炎の剣を手に後方に陣取る巨人たちを目掛けて飛び込んでいった。
彼女に続けとばかりに、近接戦に長けた討伐者たちが駆けだしていく。
その中には、七夜さんの姿もあった。
「十倍パンチ!」
先日、見事に大岩を割った十倍パンチ。
それが今度は巨人の腹に炸裂した。
――ドォン!!
腹の底に響く地響きのような音。
それと同時に、分厚い脂肪と筋肉に覆われた巨人の腹が大きく凹む。
「グオァ!!」
巨人の身体が浮き上がり、背中から地面に向かって落ちた。
俺はすかさず、土魔法を発動する。
「ギャオオッ!?」
地面が変形し、岩の槍が生えた。
空中で身動きの取れなかった巨人は、なすすべもなく串刺しとなる。
――ズシャ!!
穂先が肉を突き破り、血が舞った。
巨人は一瞬悲鳴を上げたものの、すぐに息絶える。
心臓をぶち抜かれては、強大なモンスターであろうとひとたまりもなかったらしい。
「助かった」
「いえ、七夜先輩こそ流石ですよ」
互いにアイコンタクトをとる俺と七夜先輩。
そうしている間にも、討伐者たちの猛攻は続く。
「巨人の剣!!」
「大水葬!!」
ある者は巨大化させた剣を振るい、またある者は濁流でまとめてモンスターを押し流し。
初めは絶望的な数に思えたモンスターが、見る見るうちに減っていく。
流石は、各カンパニーから集められた精鋭の集まりだけのことはある。
カテゴリー2には過剰な戦力と言われていたわけが、俺にもはっきりと理解できた。
これだけのメンバーが揃っていれば、迷宮主さえも数で圧倒できるに違いない。
「よし! 戦闘終了!」
ほとんどのモンスターがいなくなったところで、神南さんが戦いの終わりを告げた。
討伐者たちは武器を納めると、土嚢の壁を超えて陣地の中へと戻っていく。
ふと時刻を見れば、午後二時過ぎ。
掘削作業は三時に終わる予定なので、あと一時間ほどは休む時間があるな。
「ったく、せっかくの休憩が台無しだったな」
「けど、数の割にはそこまで大したことなかった」
「メンバーがメンバーだからな、よっぽど大丈夫だろうよ」
「それもそうね」
一仕事終えて、軽口を叩き合いながらスポドリを呑む樹先輩と七夜先輩。
ここで、神南さんがパンパンと手を叩いて言う。
「怪我をした人がいたらすぐに申し出て。あと、武器を破損した場合も持ってきてちょうだい!」
あ、ここで破損したミスリルナイフを渡せば補償で買い取ってもらえるのか。
俺はすぐさまザックからナイフを出すと、こっそり岩にぶつけて欠けさせようとした。
だがここで――。
「なに!?」
「おいおいおい……!!」
「嘘だろ……!」
重さ数トンはある巨大な掘削リグ。
小屋のような大きさのそれが、下から突き上げられたようにひしゃげて宙を舞った――。
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