悪役令嬢なら今、私の隣で寝ている~破滅回避に失敗し、私に捕えられた貴女~

れとると

貴女を捕えた日【ティナ視点】

の望み>



 薄い掛け布から覗くその肌を、三本の指の腹でなぞる。


 触られる側を悦ばせるソフトタッチ、ではなく。


 そのみずみずしく、泡のような肌を味わう手つき。



 私の手はそろそろ渇きを覚えつつあり。


 また、潤いを求めているが。


 しっとりとした、汗の感触に先に辿り着いた。



 荒く濡れた息。


 蒸気すら感じる火照り。


 屈辱に濡れた、瞳。



 彼女の、情欲の痕。



 ……たまらない。


 腰から昇る背筋の震えが、おさまらない。



 これは屈服を促す儀式、ではない。


 ただ私が、満足したかっただけ。


 あるいは、待ちきれなかっただけ。



 どのくらい、だったか。


 合計すると…………ずいぶん、長くなったように思う。


 、年齢を揶揄されることはあったかもしれない。



 その未来は、もうなくなったけれど。


 私たちは、国からは追放されたようなもの、だ。



 彼女の肌を味わっていた手を、名残惜しく離し。


 指を、鳴らす。


 手のひらを叩いた中指が、彼女の呼吸より僅かに大きな音を立てた。



 彼女――――ラフィーネの手足の、拘束魔法が解け。


 僅かに驚きを宿したその瞳は、すぐに私を見上げ、睨みつけた。


 切れ長で、険の強く、意思の輝きが宿るような、目。



 ああ……見られている。



 歓喜を覚え、思わずじっと覗き込むと。


 力なく振るわれた彼女の手のひらに、頬を叩かれた。


 乾いた、あるいは少し濡れたような、小さな音がした。



 痛みは、ほとんどない。


 身を起こしたラフィーネは、体を支えるのがやっとの様子で。


 心はともかく、体はついていかなようだった。



 そもそも、この子はあまり体を鍛えているほうでもないし。


 ここで私が押し倒したら、簡単に押さえ込まれてしまうだろう。


 けど、それとこれとは、別。



「…………痛いです」


「やってくれたわね、ティナ!!」



 私の訴えは、思いのほかしっかりとした声で、押し返された。



「どれのことです?」


「全部よ!


 今のも!


 私を破滅させ――――この国から追いやったのも!!」



 人聞きの悪い。


 その通りだけれど。


 王国のアングレイド侯爵令嬢、ラフィーネ・セレプトは破滅した。



 約束された自らの破滅を、懸命に回避しようと動いたラフィーネ。


 その計画をずたずたに引き裂いたのは。



 この私だ。



 少し目を伏せ……ここしばらくのことに、思いを馳せる。

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