幼なじみがパパ活してたから絶望して超高難易度ダンジョンに人生RTA配信しに行ったんだけど、大人気配信者パーティを助けたせいで伝説の冒険者としてネットで話題になってます。幼なじみは退学になったそうです

にこん

第1話 すまん、八つ当たりの時間だ

「なぁ、聞いた?平山のやつパパ活してるってよ。例の場所で立ちんぼしてるの見たやついるってよ」

「うっわ、まじで?引くわ」


そんな男子たちの会話を廊下で聞いて俺は立ち止まった。


そんな俺に気付いたのか、バツの悪そうな顔をしている男は近寄ってきた。


「よ、よう。白銀。いい天気だな」


なんとか誤魔化そうとしているが俺は聞こえてしまった。


「お前言っていいことと言ってダメなことの違いも分からないわけ?」

「すまん。聞かれると思ってなくてさ」


そう言っている男に一応聞くことにする。


「誰から聞いたの?その噂」


話題に上がったのは平山 美智子みちこ


俺の幼なじみで人生で初めてできた彼女だった。

名前をもじってビチ子とかって一部では呼ばれてるが俺は最低で下劣な名前だなと思う。


「今みんな噂してるよ」


そう言ってくる男。


「いつ立ってるのかは知ってるのか?」

「ほぼ毎日立ってるってよ。場所も噂んなってるけど連れていこうか?」


俺は男の言葉に頷いた。


「すまん、お願いできるか?確認したい」



放課後俺は男に件の場所まで案内してもらった。


案内役の男は動画を撮影していた。


「お、あの子かわいいなー。立ちんぼいくらで買えんの?俺も買ってみてー」


立ちんぼしてる女の子を盗撮しながらそんなこと言ってた。


そうしていろんなところを撮影してた男が呟いた。


「あれじゃね?平山って」


すっ。

1人の立ちんぼ女を指さした男。


「ちょっと確認してくる」


俺はその場を離れて歩いていく。


一歩一歩歩く度に例の女との距離は縮まる。


一歩歩く度に俺は願ってた。


(どうか違っててくれって)


ピタッ。


女の前で立ち止まってその顔をじっと見た。


スマホの画面から目を逸らして俺と目が合う女。


その顔は見間違えるわけもない。


「お前何してんのこんなところで」


ばばばっ!


スマホを慌てて隠す平山。


「しゅ、しゅうや?!」


驚いたように聞いてくる平山に頷いた。


「そうだよ」


俺の心を支配したのは悲しみと失望だった。


まさかこいつがこんなことしてるわけないって、思ってたぶんダメージが重い。


「……はぁ」


ため息を吐いて心情を顔で表すことにした。


これでもう分かるだろう。


「俺にもう関わんなよお前。俺もお前にはもう関わらんから」


歩き出そうとしたそのとき。


「おーい。美智子ー」


チャラそうなオレンジ髪のヤンキーみたいな男が声をかけていた。


これで確定したようだ。


(こんな奴……もう無理だわ)


ヤンキー男は俺を見てすれ違いざまに聞いてきた。


「あれ?彼氏くん?」

「違うよ。知らないあんなやつ」

「そか。君が彼氏くんならぶん殴ってたところだ。つまんないこと聞いて悪かった」


誰をぶん殴るのかが気になったけど。

些細なことだしどうでもいいか。


「ちょ、ちょっと!待ってよ」


呼び止めてくる平山の手を払って俺は黙って告げる。


「もう俺に触んなよ。そんなやつと思わなかったよ」


そう言ってそれ以上会話することなく通りを歩いていくことにした。


そのとき後ろから平山が叫んでた。


「あっそ。レベル2の雑魚冒険者に私も用なんてないもんねー。そのへんのゴキブリでもレベル5くらいあるのにwww」


俺にそう言ってからヤンキー男に声をかけた。


「ほらっ行こ!」

「揉めてんじゃないの?そこの子と、いいのか?」

「ただの言いがかりだよ」


ヤンキーとそう会話して歩いていった。


あんなのが幼なじみだとは思わなかった。


ほんとに


「最悪だ」


これまでに無いほど俺の心は落ちていた。


歩いてると俺を案内した男が近寄ってきた。


「ご愁傷様、だな。お前どこ行くつもり?」

「どこだっていいだろ。もうなにも考えたくないんだよ」


そうして歩いていた俺。


しばらくすると、ピタッ。


とある建造物の前で足を止めていた。


それは


【地下大迷宮入口】


と書かれた建物だった。


なにかに誘われるように俺はここにきていた。


「お、おい。ここ超高難易度ダンジョンの地下大迷宮じゃん。お前自殺でもするつもりかよ?」


男を横目に見て俺はそのままその入口に入っていった。


もうどうでもよかった。


とにかく、現実から目を逸らしたかった。


たぶん俺は死ぬと思う。

ロクに準備もせずに高難易度ダンジョンにくるのは自殺志願者のようなものだから。


(それに久しぶりだもんなダンジョン。何年ぶりだろう)


でもそれでいい。

その代わり俺の死は無駄にしない。

配信しよう。



【持ち込み無し装備無しソロで大迷宮】



タイトルはこういう風に設定しておいた。


俺がこのダンジョンで死ねばこの配信はあらゆるところに転載されるだろう。

そしてそのうち平山ビチ子の目に入るかもしれない。


そうなればあいつに人の心が残っているなら多少は胸も痛くなるだろう。


そういう考えで配信をする。

俺の死は無駄にしない。


さっそくコメントがついた。


"自殺配信か?やめとけ"

"無謀すぎる"

"持ち込みなしソロとか何考えてんの?ほんとに死ぬようなもんじゃん"


そんなコメントには何も答えずに俺は歩いていった。


途中で一応現状確認をするためにも【簡易ステータスチェッカー】を使った。



名前:白銀 修也

レベル:002



"レベル2て"

"最低限ここに入るためにはレベル100は必要なんだろ?"

"全然足りてねぇじゃん"



なにも答えずに俺は歩いていく。


やがて障害物なんかが増えてきた。


そして、ヌッ。


障害物の陰から一匹のゴブリンが出てきた。


「ギィィィィィィィィィ!!!!!!」


スパン!!!!


右拳でのストレートを放った。

ゴブリンはこなごなになった。


【ゴブリンを討伐しました】


(最低限は攻略する意思を見せないと通報されかねない。通報されたらギルドは即救援にくるだろう)


"まま、最初だからな"

"それでも殴りワンパンはやべぇけどwww"

"てか引き返すから今のうちだぞ"

"「お、いけんじゃん」って思ってても通用するの最初だけだからな"

"ガチでやめとけ。このダンジョンのやばさは俺が逃げ帰るレベルだぞ"

"↑お前は誰だよwww"


同時接続を見た。


同時接続:100人


"通報した方がいいんじゃないの?これ"

"なんて通報するんだよ"

"自殺しようとしてるんだぞこれ"


そんなコメントがどんどん更新されていく。


"準備無しに入ったら死にますって言われてるダンジョンになんの準備もないからな自殺と捉えられてもおかしくない"

"てかなんでダンジョンに入れてんの?ダンジョンに入るのに許可がいるだろ?機械が出す許可だけど、壊れてたのか?"

"分かんね。一応通報しとくわ。一応攻略してるからギルドは動かないだろうけど"

"俺も"


そんなコメントが増えていく中俺は足を早めた。

通報を受けて万が一ギルド職員やらがきてもめんどうくさいからな。


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