人任せだったとしても

第392話 人任せだったとしても①

 昨日はたらふく生魚料理を堪能してやったぜ。


 しかし、トルトゥーガの者ら全員にしこたま振る舞ってもまだまだ余りがある。

 だもんで腐らせちまうのも勿体ねぇから、王都に持っていく状態のいいモンを除いて、あとは干物にしてお裾分けすることに。

 持ってく先はリリウム殿やパスカミーノ殿んところで、ゴーブレとバルコに手分けして届けるよう言いつけた。


 で、カンカンに凍らせた魚を満載にして俺らは王都へ向かうわけだが、今回はヒスイも同行させる。だってのに、


「私は残らなくてよろしいので?」


 わかりきったことを。


「オメェがいねぇのに凍結の魔法やらをポンポン使ってたら、ベリルが怪しまれちまうだろ」

「それもそうですね。ふふっ」


 半分は建前だ。前回、女房を長いこと放ったらかしにしたので懲りた。

 多少仕事を溜め込んじまうことにはなるが、んなことよりも女房の不機嫌を溜め込むことの方がよっぽどしんどい。

 もっと言やぁ、


「ひひっ。ママめっちゃ嬉しそーじゃーん」


 これに尽きる。


 ベリルが言ってた物見遊山を……、たしか『ツアー』だったか。イエーロに跡目を引き継いだあとなら、女房と娘を連れて出掛けられるのかもな。

 

「なーに父ちゃんニヤニヤしてんのー。なんかやらしーしー」

「よし決めた。オメェは連れてってやらん」

「はあ〜? いきなしなにさー。ママと二人っきりってこと? そんなん弟か妹できちゃうじゃー——んてっ」


 戯れはこんくれぇにして、さっさと王都へ出発だ。



 新聞に載せるレシピと、それを試食した王妃殿下と王女殿下の感想を記事にする。

 そのためには、食に詳しくまともな文章を書ける者の協力が欠かせねぇ。だが今回、国語教員のマニティは却下した。まだまだチビたちを優先してもらいてぇからな。


 つうわけで王都について早々、宮廷の料理人たちにスシの握り方を指導しようってぇ場を設けた。コイツらなら充分な教育もされているだろうと見込んで。


 だがよ……。


「ずいぶんなメンツですね」

「うむ。どうにもよい商いになりそうな勘が働いてな。妻も噂になっているスシに興味があると言うので、参加させてもらった」


 いま聞かされた理由で、うちの手掛ける商売とは切っても切り離せねぇタイタニオ殿と、その奥方であるオーパリア殿も席についてるんだ。

 ちなみに末娘のプレシア嬢はじめ三人の娘さんたちは、予定が合わず、だそうだ。

 こりゃあ土産に包んで持ってってもらわんとな。

 

 さらには、


「ワシも陛下からスシが美味だと聞き及んでのう」


 ポルタシオ将軍に、閣下のお孫さんでミネラリア王国軍人でもあるランシオとアルコまで席に。


「腹を空かせてやってまいりました」

「今日は珍しい料理を振る舞っていただけると聞きまして」


 んなこと言ってねぇよ。

 

 かなり余分に持ってきてるから魚も米も足りるだろうけどよ、もうこれ、どこの誰になにを請求していいのかわからねぇぞ。


「お魚に捨てる部分はねーし!」


 俺が勘定で頭ぁ悩ましてるのなんかどこ吹く風。さっそくベリルは小悪魔シェフ衣装に着替え、偉っそうに料理人たちへ訓示を垂れる。


 そしてもう一人、忘れちゃあならんのが、


「今日センセーしてもらう、モモタロさんだし」

「カッカッカ。面映いな」


 そう。東方の武人モモタ・タロウ殿だ。

 スモウ大会の試合前にスシを振る舞うって約束したからな。

 加えて魚の扱いにも慣れてるって話だった。あれだけの達人なら包丁の方も相応に違ぇねぇ。


 いちおう今日使う魚は、事前にベリルが『ポチィ』っと解凍済み。もちろんヒスイがやったことにしてある。


「んじゃ料理する人、手伝う人、メモる人、三人一組でドンドン作ってこーう。まずお魚を捌きまーす。はい、モモタロさんあとよろー」

「うむ」


 モモタ殿はベリルから手渡された魔導包丁を握ると、


 ジョリジョリリリリ……、ズザザザッ、ダン! シュバ、シュサササササ、シュルシュル、トン……トントントントントン……。


 一匹丸ごと瞬く間に刺身に変えちまった。


「ちょいちょいモモタロさーん。めちゃカド立ってキレイなお造りなってるけど、みんないまのじゃやり方わかんないってー」

「おっといかんいかん、そうであった。では各々方」


 以降のモモタ殿は、事細かに「鱗を取り」「頭をおとして」「わたをとりだす」などなど実践しながら説明していく。

 合間に骨を抜く際の注意点なんかも差し込みつつ、料理人全員が一匹はおろすところまで親切丁寧に指導してった。


 で、いったん柵や切り身は皿に移して氷を詰めた箱んなかへ。


 つづいてはシャリ作りだ。

 炊けたコメに調味料を混ぜてかき混ぜて、慣らす。


 見ているだけのタリターナ夫妻からは、


「思っていたより手間のかかる料理なのだな」

「ええ。細かい仕事が施されていますね」


 っつう感想が。


「もうこのまま盛りつけて食べてたい」

「ああ、絶対に美味いに決まっているぞ。お爺さま、先に切り分けたぶんだけでも試したいのですが」

「これこれ。出来上がりまで大人しくしておかんか」


 こっちはアルマース一族。


 いちおうこうした声も、新聞記事に携わる役人たちは逐一覚え書きに残してた。生真面目なこって。


 しっかし生のまんまは抵抗あるかと思ってたが、やっぱり都会モンは食にも開明的なんだな。好奇心旺盛でなりよりだ。

 この様子なら両殿下に出しても平気だろう。一つ肩の荷がおりたぜ。


 シャリを仕込んだら、いよいよ寿司を握る段に。

 まずはベリルが手本を見せてから——


「あーしは手ぇちっちゃいから丸っと握っちゃうけど、アンタらは二本指ぴーんってして、そこにネタを乗っけてー……、そーそー。んで薬味、シャリの順番で、キュッキュッてすんのっ」


 教えてるつもりかよ、それ。

 加減のあたりがまったく伝わらんぞ。


「とりあえず握ってみて、それ食べてみー。お口んなかでホロッと崩れたら正解だし」

「では私から失礼して………」


 料理長のコシネーロから試すも、


「——む」


 失敗ってツラだ。


「固かった感じー? もっとフワッと握んねーと。なんつーのー、外側はしっかりしてっけど中はホロホロ、みたいなー」


 他の連中もやってみるが、思うようにいかんようだ。

 宮廷料理人たちは己の舌と指先だけに意識を集中して、なんどもなんども試していく。

 料理に熱中しちまってるからか『大物貴族を待たせちゃマズい』なんてぇ気遣いはどっかへ放っちまってんな。


「……トルトゥーガ殿。いったいいつ試食となるのかね?」


 そりゃあ俺が聞きてぇよ。

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