第四章 アンタらもここの子!

第186話 アンタらもここの子!①

 全員無事に、トルトゥーガまで帰ってきた。

 もちろん手間かけさせたゴーブレも。あとは新たにうちの者になった元奴隷のチビたちもだ。


 解散して、ようやく我が家で寛げる。

 まずは風呂から、などと気ぃ抜く算段立ててたらゴーブレが訪ねてきた。


「旦那。少々、いいですかい?」


 コイツも疲れてるだろうに……。

 なにごとかと聞いてみれば、


「チビどもについてです」


 だと。


「それについちゃあ、後日でいいか? ベリルにもなんぞ腹案があるようだからよ。もちろんオメェの意思は尊重するが」


 どうせムチャ言うつもりだろ。たとえばチビたち育てるから傭兵仕事は引退してぇとか。んなもん却下だからな。

 っつうのを言外に伝えた。


「まだ小せぇんで……」

「そりゃあわかるがよ」


 ホントガキの面倒みるの好きだな、コイツ。


「あっ。ゴーブレじゃーん。いらっしゃーい」

「小悪魔殿、お邪魔しとりやす」

「麦茶でいーい? いーよね。つーか今回めちゃヤバかったねー。マジおしっこチビりそーだっもーん」

「その、このたびは山ほど迷惑をかけちまいやして——」

「そーゆーのいーって、ねー父ちゃん。はい、これ飲んで。おかわりはポットからご自由にどーぞっ。んで、なんの話してんのー?」


 スンゲェ勢いで、ベリルが話に割り込んできた。外せって言う間もねぇよ。


「実は、チビどもとワシの今後についてを……」

「ほーほー。みんな、あーしが教えたとーり呼んでくれた?」


 いったいなにを吹き込んだんだ?


「へい。じーじ、と」

「ひひっ。可愛いくなーい」

「そりゃあもう」


 おいコラ、その話の進め方だとゴーブレが引退しちまうだろうが。爺さんデレッとさせてる場合じゃねぇだろ。オメェもいろいろと困るんだぞ。


「あーあ、なーる。わかっちったかも。父ちゃん、ゴーブレのこと引き留めてたっしょー」


 わかってんならテメェもこっちに付けや。


「ゆーて傭兵のお仕事とかわかって事務してくれる人いたら、父ちゃん助かるんじゃね?」


 ……ふむ。言われてみれば確かに。

 それに、そろそろゴーブレより若ぇ脂が乗った世代に現場の指揮を任せてみるのも、ありな気がしてきたぞ。


「つうわけだ。大嫌ぇな机仕事ばっかしになるが、それでもやるかい?」

「じゃあ旦那っ」

「——おっと早とちりすんな。オメェの引退は認めねぇよ。だが、これまでみてぇに俺の代わりにあちこち出向くって立ち位置から、もうちょい上の、ソイツらを束ねるって役目にしてやろうってんだ。どうだ、くっそ怠そうだろ」

「旦那、小悪魔殿。ありがとうございやす!」


 礼を言うのは早ぇと思うぞ。

 ベリルがこう勧めてくるってこたぁ、


「んじゃゴーブレは校長センセーも兼任ねー」


 やっぱりテメェの都合を押しつけてきた。


「と、言いやすと」

「あの子たち、あーしが作る学校で勉強してもらうし。大っきくなったら自分でゴハン食べられるよーにー」

「そいつぁありがたい申し出ですが——」

「まーまー聞いてってー。うんうんわかるよー、あーしを差し置いて校長センセーは荷が重いって言いたいんでしょ。わかってるってー」


 たぶん違うと思うぞ。


「でもヘーキ。あーし理事長だし。もっとずっと偉いし」

「……あの、小悪魔殿。ワシが気にしてんのはチビどもの役目についてです」

「はあー? なに言ってんのさー。あんな小っちゃい子たち、なんにもできないに決まってんじゃーん」


 オメェが言うと、びっくりするくれぇ説得力がねぇけどな。まぁ間違っちゃいねぇよ。


「ちゃーんと残さずゴハン食べて、夜更かししないで寝て、起きたら元気いっぱい挨拶して、あとは興味持ったことから覚えてけばいーしー」

「いえ。ですがその、食い扶持は……」

「そんなん小悪魔財団の慈善事業部門から出すし。めっちゃ税金対策になっちゃうかんねー。ひひっ。お役人さんもイイことにおカネ使ってるって言われたら疑ったりできないっしょ」


 コイツはいちいち悪びれんと会話もでんのかねぇ。


「あとチャリティー大相撲大会とかもやっちゃうもんねー。スポンサーは王様っ。あと王妃さまとお姫さまっ。たぶんタイタニオどのとか将軍さまも乗ってくれるはずー」

「まてまて、待て。待てベリル待つんだ」

「なに父ちゃん、めっちゃ待て多いし。んで?」

「その話はもうしちまったんか? 俺ぁ初耳だぞ」

「まだあーしのなかで企画だんかーい」


 ならよし。


「手紙送ったりしてねぇんだな? ウソやゴマカしはなしだ」

「ウソなんかついたことねーしー」


 まずそれがウソだろ。


「てゆーかー、もー王様とはスモウ大会するって約束してんじゃーん。あとタイタニオどのには『一枚噛まなーい』って前に声かけたし。たぶんすぐオッケーしてくれると思うけど」

「頷いてくれるかもな。だが、その実務を誰に押しつけるつもりだ」


 俺が心配してんのは、それ!


「父ちゃん」


 ぃやっぱりか。


「だいじょぶだいじょぶ。ゴーブレも必死こくって言ってたじゃーん」


 言ってはねぇが、ここはそういうことにしておこう。悪ぃがゴーブレ、テメェも巻き添えだ。


「重ね重ね……小悪魔殿、恩にきやす」


 その必要はねぇと思うがな。ベリルはやりたいことをテキトーやってるだけだ。


「つーわけでー、明日っから授業すっから。あっ、正式なセンセーはこんど王都行ったとき募集すんねー。ほら、王様とかタイタニオどのがイイ人紹介してくれるかもだし」

「へい! ワシ、やりやすぜ!」

「おおーう。その意気そのいきー」


 …………まぁ、いいか。

 ずっと独り身のゴーブレに、大勢の家族ができたんだもんな。祝儀代わりに多少の面倒くれぇ被ってやるさ。


 それとベリルのワガママ聞いてやりたいってぇ一過性の気の迷いは、まだ治っとらんらしい。

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