第5話:いや待てよ笑川! なんでわざわざ?
***
一日の授業が終わり、下校時間がやってきた。
今日は約束どおり笑川と一緒に帰る。
とは言え。教室から学校の最寄り駅までは、別々に帰った方がいいだろう。
相手は学年一の人気女子なのである。
モブな俺が、大勢の生徒の目に触れる中で一緒に下校するなんてのは不自然極まりない。
俺は目立ちたくないのである。
ふわり先生も言ってたとおり、自宅の最寄り駅から家まで一緒に帰ればいいだろう。
そう考えて『先に行くよ』という意味で、笑川にアイコンタクトを送った。
そしてさり気なく、先に教室を出る……
「ねえねえホムホム! 一緒に帰ろーよ!」
教室から廊下に出る直前で、
思わず足が止まり、恐る恐る振り返る。
笑川瑠々の満面の笑みが、目に飛び込んできた。
そしてその後方には、びっくり顔で俺と笑川を何度も見比べているクラスメイトが多数。
教室内は思いっきりざわついている。
いや待てよ笑川!
なんでわざわざ呼び止めるんだよぉ!?
**
校門を出て駅まで一緒に歩きながら、笑川にさっきのことを質問した。
つまり、なぜわざわざ声をかけてきたのかってことだ。
「だってホムホムは『一緒に帰ろう!』ってあたしにアイコンタクトしたよね? なのに自分だけ教室を出ようとしたからだよ」
「あれは『一緒に帰ろう』じゃない。『先に駅まで行くわ』って意味のアイコンタクトだ」
「そんなのわかんないって! まだホムホムとあたしは、目で会話できるほどの間柄じゃないし」
「それはそうか」
「まあでも明日くらいには、きっとそんな間柄になってるよね?」
「なっとらんわ」
「ええぇぇ……なろーよ」
どんだけ距離近づくの早いんだよ。
インスタント友人かよ?
いや、俺だって接客業してるし、なろうと思えば初対面から一気に仲良くなれるけどさ。
「そんなに早く以心伝心な間柄になる意味がわからん」
どうよ、この突き放した態度は。
コミュニケーション苦手な男らしい完璧な返答だ。
「でもまあ、こうやって二人で仲良く駅まで歩いてるんだからさ」
それはわかってる。さっきから周りの他の生徒達の視線が痛い。
黒ぶち眼鏡でぼさぼさ頭の地味キャラ男子が、華やかな女子と二人で下校してたら、そりゃ目立つわ。
だからそれを避けるために、別行動するつもりだったのに……
「肉体的に近いんだから、精神的にもすぐに以心伝心の間柄になるよね?」
「いや、肉体的に近いって言い方! 単に横を歩いてるだけなのにエロいぞ」
やば。笑川のボケが鋭すぎて、また反射的にツッコんでしまった。
それにしても、いきなりここまで距離を詰めてくるとは。
これ以上深く関わるとヤバい。学校では隠してる俺の本質が、色々と暴かれそうな気がしてきた。
隣を歩いてはいるが、このままできるだけ会話をせずに駅まで行くことにしよう。
視線も合わさず、とにかくまっすぐ前を見て歩く。
うん、それがいい。そうしよう。
「実はさ。あたし前から穂村君には興味があってね。だから一緒に下校できるのって、実は結構嬉しいんだよねぇ」
「……は?」
──いや、思わず横を向いて笑川の顔を見てしもたやん!
まさかの発言!
笑川って、常に予想の斜め上を突いてくるな。
コミュ障でモブな男子を捕まえて、興味があるとか一緒の下校が嬉しいとか、いったいどこにそんな要素があるんだよ?
キミは学校一の美人で人気女子なんですぞ?
「んもうっ、ホムホム! そんなにじっと見つめないでよ。顔に穴開くし」
「顔に穴は開かない」
冷たく突き放してみた。
「開いてるよ。鼻の穴」
「ぶふぉっ!」
笑川が鼻の穴を指でグイっと広げたりするもんだからワロてしもた。
美人のくせになにすんだよコイツ。かえって可愛くてヤバい。
「ホムホム、そんなにじっと見ないでよ……照れるじゃん!」
待て笑川。そんな恥ずかしそうに顔を真っ赤にすんな。
マジで恥ずかしがってるように見えるぞ。
いやこれ、演技だよな?
だって学校イチのモテ女だぞ。
モブキャラの俺に見つめられたからって、そんなウブな反応はあり得ないだろ。
でもあざとい演技をしているようにも見えない。
うーむ……
──いやマジで、わからんくなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます