53 彼だけが気付く事


 その場にいた女子たち全員が息を呑む様相でさりあちゃんに注目していたと思う。そんな中……。


「ぴーぴゅる~」


 室内に気の抜けた音が鳴った。さりあちゃんが部屋の奥へ視線を向けている。私も音のした方を見た。口笛を吹いていたのは……。


「ぴゅーぅ」


「犯人は姫莉ね」


「何で分かったのっ?」


 姫莉ちゃんが目を剥いてさりあちゃんに尋ねた。さりあちゃんは渋い顔で聞き返した。


「逆に何で今、口笛を吹いたの?」


「漫画に描いてあったもん。誤魔化す時の定番でしょ?」


 さりあちゃんが額を押さえ口の端をピクピクさせている。姫莉ちゃんがニコッと笑った。


「ごめんね皆。姫莉どうしても聡に見せたかったの! トナカイになった姫莉の、この可愛さを!」


 彼女は芝居がかった身振り手振りで動機を自白した。


「それならこの場に呼ばなくても、後から二人だけで会えばよかったでしょ?」


 頭の痛そうな仕草だったさりあちゃんが言い及んだ。姫莉ちゃんは少し口を開けた表情でさりあちゃんを見つめた後、言った。


「そっか。そうだね!」


 明るく笑っている姫莉ちゃんに釣られて笑った。一時はどうなる事かと思ったけど、秘密が漏れるのも無きにしも非ずだと思っていたし咎める程の事でもない気がする。


 ほかの子たちもホッとしたように笑っている。


「皆、うちの姫莉がごめんね」


 さりあちゃんがよろよろと肩を落としながら言った。


「大丈夫だよ! ちょっと恥ずかしいけど、そんな怒るような事でもないし」


 佳耶さんが顔を横に向けてフォローした。このメンバーの中で一番うろたえている様子なのが彼女だった。今も出入り口近くに立つ理お兄さんの視線から必死に逃げようとしているように見える。


「う、うん大丈夫……大丈夫。ははは。それよりそろそろ退室の時刻じゃない? 彼氏いる人は羨ましいな。お迎えに来てもらえたって事でしょ?」


 ありすちゃんがぎこちなく教えてくれる。彼女も恥ずかしそうに苦笑いしていた。


「じゃあ、今日はこの辺でお開きだね。皆ありがとう! すっごく楽しかったよ!」


 晴菜ちゃんが明るい笑顔でクリスマスパーティーを締めくくった。皆も今日の楽しかった事を口々に振り返る。


「歌合戦笑ったね!」


「佳耶さん強過ぎ!」


「ほとりちゃん可愛い衣装を作ってくれてありがとう!」


「皆凄く似合ってたよ~!」


 それぞれ帰り支度を始めた。



「聡、見て見て~! 姫莉トナカイ~! 可愛いでしょ?」


 姫莉ちゃんが岸谷君の方へ近付きクルッと回って笑った。


「あ、ああそうだな」


「えへへ~」


 岸谷君は姫莉ちゃんが手に持っていたコートを彼女へ着せ掛けた。そして彼女の頭を撫でた。優しい眼差しで。


「行こう」


「うんっ!」


 二人が帰った後、ほかのメンバーも続々と部屋を出て行った。


「お先~!」


「またね~!」


「佳耶。何で俺に黙ってたの?」


「だって……恥ずかしいし」


「ほとり、ありす。私たちは二次会よ!」


「待ってました! これからが本番だよぉ~!」


「えっ? 私もいいの?」




 最後に残った。ドアの前に立ったままの春夜君から視線を送られている。見つめ返していた。

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