ハジ

@Deficit17

"ハジ"めての経験

 それは、中間テストが返却された日の夜だっただろうか。あまり思い出したくない出来事なので、しっかりとは覚えていない。いきなり、精神科医をしている父親に食卓へ来い、と言われた。どうせゲーム、スマホ云々の話だろうと、渋々それに応じ、席に座った。しかし、父親の口から出た言葉は、自らの想像とはかけ離れたものだった。 

 「お前、ADHDじゃないのか。」僕の景色は暗転した。何を言われたのか分からなかった。父は泣きそうな顔をしていた。たまらなくなり、部屋に逃げ帰った。そして大泣きした。自分の人生は順調満帆だと思っていた。しかしそれは、突然打ち砕かれたのだ、あんなに泣いたのは、初めてだったかもしれない。

 僕は、とても頭が良かった。小学生の時、勉強で苦労したことはなかった。それでも慢心することはなく、無限のモチベーションで毎日毎日塾へ通い、授業を何時間も受け、家に帰り、その日の復習をして…。そんな生活を、何年も続けた。頭が悪くなるわけがなかった。志望校判定も常に合格圏。そして無事に、県下有数の進学校に合格した。手応えも上々で、落ちた気はしなかった。今振り返ってみると、それが僕の人生のピークだったのかもしれない。中学に入り、初めは成績も、クラスの上位三分の一をキープし、それほど苦労もせずに中学二年へと学年が上がったが、自分はある疑念を感じていた。

 それは、小学生の時よりも、格段に忘れ物、落とし物が多くなっていたことだった。だがその時は、中学生になって、初めて自分で物事を整理し始めたので、考えすぎかな、と思っていた。しかし、急にどんどん成績が下がっていった。一年で二十位も順位が下がった。ここら辺で僕が自分の異変に気付けていれば、今のようにはならなかったのかもしれない。

そして勉強モチベーションもゼロへと刻々と下がってきていた。それからの記憶はあまり無い。怠惰にただ過ごしていたからだと思う(勉強しなくても上の学年には行けるので。)しかし中三になって僕には最も大きな問題が降りかかった。それが"単位"だ。これは今の今まで自分を苦しめるものとなる。「別に勉強せんでも進学ぐらいできるやろwww」そんな甘い考えが通用しないほど、成績は悲惨なものとなっていた。しかし僕は誰かに頼ることもせず、なんとか乗り切ろうとしたが、唯一数Aの単位を落としてしまった。そして僕には大量の欠点課題が課せられた。

 これが、悪夢の始まりだった。

殆どの子が一週間でそれを出す中、それに僕は一切集中することができず、時は流れ、春休みも過ぎ、いつのまにか高校生へとなった。が、課題は全く進んでおらず、単位の重要性にも気づいていなかったためにそれはほぼ放置状態となっていた。

 しかしこの頃から、僕はおかしくなった。まず授業で寝てしまうようになっていた。しかもそのほとんどで。また、英単語などを覚える作業もできなくなっていた。まして明らかに、集中する力が落ちた。勉強だけではなく、ゲームでも飽き性になって、物事を継続するのが困難となっていた。部屋もぐちゃぐちゃで、テキストがどこにあるかわからない、プリントがどっかいった、ペンを無くした...。そんな状態で勉強がまともにできるわけがなく、中間テストは最下位だった。そんなこんなで僕は呼び出されたわけだ。

 父からそれを言われた後、当たり前かもしれないがすごく落ち込んだ。ADHDのこともほとんど知らないし、発達障害というものには良いイメージはなかったため、「僕は障がい者なのかな。」とどんどん負の感情が溜まっていった。

 そして父の勤める病院に通院することとなった。親の職場に行くのは"ハジ"めてでは無いが、診察を受けるのは'ハジ"めてだった。憂鬱な気分だったが自分の主治医さんはとても優しい人で、久々に晴れたような気持ちになった。そこで次に自分は、WAISと呼ばれるいわゆるIQテストのようなものを受けることになった。受けるのはもちろん初めてだったので、どんなものなのかなーと久々にテストにワクワクしていた。また、携帯で調べた所、発達障害を持つ人々には天才型の傾向が強い、と言うことがわかり、自分もそうなのかも?と考えて(お花畑的発想ですが)自分が陰鬱な気分から抜け出せるのでは無いかと期待していた。流石に一般人よりかはいい結果が出るだろう。まさか110以上もあるかも?

 そんな希望は、瞬く間に打ち砕かれた。


 

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