38.繋いだ手

 



「リレイヌ!」


「リオル! 睦月にアジェラも!」


 シアナと待つ滝の前。やってきた馬車から降りてきた三人の少年に、リレイヌはにこやかに手を振った。そんな彼女に、少年たちはこぞって駆け寄っていく。


「わー! リレイヌさまっ! お久しぶりですー!」


「まー、言うほど時間経ってないけどな」


「なに冷静に言ってんだよ。『リレイヌ大丈夫かな』って毎日ソワソワしてた癖に」


「ばっ! それは言うなよばかリオル!」


 わちゃわちゃする三人ににこにこしていると、二台目の馬車が近くに止まり、そこから無表情のリックが降りてきた。リレイヌが驚き彼を見れば、彼はフイッと顔を逸らしてから皆の元へと近づいていく。


「……久しぶり」


「あ、うん。久しぶり……リック、なんでシェレイザ家のみんなと……?」


「シェレイザの当主から連絡があってね。シアナ・セラフィーユが魔導の扱い方を教えてくれると言うから来てみた」


「ほう……」


 素っ気ないリックの様子に首を傾げ、リレイヌは視線を背後のシアナへ。シアナはそんなリレイヌを片手で撫でると、「来てくれて嬉しいわ、みんな」と柔らかにそう言った。一斉に、その場にいる者が頭を下げる。


「この度は魔導習得に対しお招き頂き感謝致します、シアナ様」


「いいのよ。そんなに固くならないで。貴方たちはリレイヌのお友達だしね。ぜひ私とも仲良くしてちょうだい。……それより、屋敷の方は空けても大丈夫だった?」


「もちろんです。魔導は人智を超えた超常的な神の力。その力を得るためならば長期の不在もやむ無しと、両家判断致しました」


 言ってのけたリオルに、「固いわねぇ」とシアナ。依然頭を下げたままの子供らを視界、彼女は馬車の操手であるリピト家の男とシェレイザ家のメイド長を見てから、「ここからは私がこの子達を預かります」と口にする。


「送迎ありがとうございました。帰りの際はまた連絡しますね」


「かしこまりました。シアナ様、リレイヌお嬢様も……どうか無理はなさらぬように……」


「ええ、もちろん」


「坊ちゃんが強くなって帰ってくること、リピト家のモノ全員が望んでますんで。どうぞ坊ちゃんをよろしくお願いします」


「ええ、わかっています」


 使用人二人は各家の者に一言二言告げると、これ以上は邪魔になるからと、さっさと馬車を操り帰っていく。それを見送り、両家の子供たちはシアナ、それからリレイヌを交互に見た。これからどうするのか。隠そうとしても隠せぬ期待を感じ取り、彼女らは自然と笑ってしまう。


「とりあえず、龍の墓場へ入りましょうか。リオルくん、アジェラくん。私と手を繋いでもらえる? 睦月くんとリックくんはリレイヌと手を繋いでちょうだい」


「「えっ」」


 驚いたような睦月とリックに、シアナと手を繋いだリオルが「なぁにぃ? 恥ずかしいのぉ?」とわざとらしくニヤニヤする。それに「は、恥ずかしくないっ!」と吠えたてたふたりが一斉にリレイヌの目の前に手を差し出した。


「「さっさと繋げ!」」


「あ、うん……」


 そっと重ねられた手。柔らかく小さなそれに呻くふたりを、リオルはゲラゲラと笑った。


「さ、行くわよ。リレイヌ、着いてきてね?」


「はぁい」


 頷く娘を視界、滝に向かって歩くシアナ。それにギョッとするふたりの手の力が僅かに強まったのを感じ、リレイヌは両者に笑いかける。


「大丈夫だよ。怖くない」


 ふんわりと告げた彼女に、見惚れるふたり。

 そんな彼女が足を動かし、滝の方へ。自然とついて行くふたりの子供は、滝にぶつかる直前で強く、つよく目を閉じる。


「ほら、目を開けて」


 優しい声にそっと瞼を押しあげれば、視界の先には真っ白な神域。思わずと絶句するリオルたちの背後、現実とは思えぬ景色に目を輝かせるリックと睦月。四者四様の様子にクスリと笑うシアナは、「ひとまずご飯にしましょうか」と一言。即座に「私つくる!」と告げたリレイヌに、「あらそう?」とシアナは目を瞬くのであった。

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