28.零れたもの

 



 ひとまず皆、寝ろということで各々が部屋へと戻り就寝体制をとった。フカフカのベッドに寝転がり、掛け布団を被り目を閉じる。

 そうして意識を沈めていく彼らと同様、リレイヌも寝る準備を行って、布団を肩までかけてから寝の体制になっていた。


 しかし、眠れない。


 いくら目を閉じようとも、意識を手放そうとしても、なんとなく数字を数えてみても、眠れない。まるでそう、これからこの先、睡眠が必要ないとでもいうように、彼女の目は冴えていた。


「……かあさま……とうさま……」


 脳裏にこびりつく、大好きなふたりの変わり果てた姿。どうにかして助けられないかと考えるも、いい案は生憎と浮かんでこない。そもそも、このようなガキひとりに出来ることなどたかが知れている。下手に手を出そうとすれば捕まって終わり。呆気のない死が、またやってくることだろう。


 呆気のない死が、また……。


「……」


 もぞりとベッドの中で動いたリレイヌは、そのまま頭まですっぽりと布団を被る。そうして丸くなる彼女は、軽く呻いてから上体を起こした。


「寝れない……!」


 悲痛な声が発される。


「寝れない……寝れない時、どうしてたっけ……確か、トランプたちが騒いで……父様が笑いながらそれを止めて、それで、母様がベッドに私を寝かせて……」


 優しい手つきで頭を撫でてくれる母親を思い出す。穏やかに微笑みながら、慈愛溢れる瞳を向けてくれる母親を。


 ……そういえば、眠れない夜などに、母が歌ってくれていた気がする。

 とても静かで、優しい歌。でもどこか寂しくて、辛い歌。


『私の母様が教えてくれた歌なのよ』


 母はそう言って、眠りかけた自分を撫でてくれた。

 あの歌は、ああ、どんな歌だったっけ……。


 ぼんやりと考え、目を閉じる。そうすることにより頭に響くのは、大好きな母が歌う子守唄。その音色。

 それほど高くなく、されど低くもない声で奏でられる歌声は、とても、とても心地が良いものだ。


「か……さま……」


 一言告げて、くう、と寝息をたて、いつの間にか眠ってしまった小さな少女。

 その目尻から零れた一つの涙。それが含んだ意味を知る者は、きっと、この世にはいないと思う。

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