17.ふたつの金色

 



「ねえ、リレイヌ」


 優しい声が降りかかる。


「一緒に居てあげられなくてごめんね? 産まれてきてくれてありがとう」


 声は穏やかに、されど悲しみを孕んだ様子で、そっと言葉をこぼしていく。


「どうか、幸せに……幸せになってね……?」


 懇願にも似たそれにそっと目を開けた時、目の前には二つの金色が存在していた。じっとこちらを見つめるそれにパチリと目を瞬けば、一瞬の間の後、金色が驚いたように見開かれる。


「うわぁ!!??」


 声を上げ、ソレは背後へ傾いた。そうしてドシン!、と尻もちをつく。盛大、とまではいかないものの、それでも打った箇所を痛めるレベルには派手に転んだ少年に、リレイヌは静かに寝転がっていたベンチの上で上体を起こした。不思議そうに見下ろすその視線の先には、癖のある茶髪の少年──リックがいる。

 リックは「いてて……」、と小さく零すと、すぐにハッとしたように己を見下ろすリレイヌを見た。リレイヌは心配そうに「大丈夫?」を零している。


「……だ、だいじょうぶ」


 カラカラの声で、彼は答えた。


「そっか。よかった」


 柔らかに笑う彼女に、彼は目を奪われていく。


「……キミ、さっき会った人だよね? また迷子になった?」


「……迷子になんてなってない」


「あれ、そうなの? ごめんなさい。勘違いしてた」


「……別に」


 フイッと顔を逸らしたリックに、ベンチを降りたリレイヌは片手を差し出す。「立てる?」と微笑む彼女に一度目を向け、彼は差し出された手は取らずに自力で立った。


「施しは受けない」


 告げる彼に、リレイヌは「ほどこし……?」と小首を傾げる。


「……それより、お前、シェレイザ家の養子かなにかか? それにしては能天気に眠っていたようだけど……」


「違う。私、ココに今住まわせてもらってるだけ。もう少ししたら母様たちの所に帰る……と思う……」


「……思う? ……ひょっとしてお前、捨て子かなにかか?」


「ちがう」


 即座に否定したリレイヌ。リックは「……あっそ」とそっぽを向いた。


 静寂が、ふたりの間に広がる。


「……キミ、名前は?」


 リレイヌは問うた。


「リック。リック・A・リピト」


 リックは静かに名乗ってみせる。


「リック! かっこいい名前だね」


「そう? 普通だと思うけど……」


「ううん、かっこいい! 私好きだ。リックって名前。綺麗なキミにピッタリだし、なんて言うんだろう……えーっと……ステキ! うん、とってもステキ!」


「……」


 むず痒いような、そうでないような。複雑な顔をしたリックは、そこで聞こえた足音にハッとし、急ぎ足でその場を離れた。残されたリレイヌが「ぁ」と小さく声を漏らすも、彼は止まらずそのまま歩き去っていく。


「……ん?」


 ふと、足元に何かを見つけた。しゃがみこみ手に取ってみたソレは小さなボタンで、表にはなにやら紋章のようなものが刻まれている。リレイヌは思わず首を傾げて、リックが去っていった方向を見つめた。


「コレ……」


 あの子のかな?


 呟いたリレイヌに、遠くでリオルが「おーい!」と声をかけていた。

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