Needy Satake Overdose
杉谷をぐちゃぐちゃにしたサタケは立ち上がり、血まみれの手でピースする。
「正義は勝つ! 二回目の配信は以上です!」
サタケ側の配信も終了する。最後まで同接数はゼロだった。
サタケは魔術で宙に浮いて上昇し、高速飛行に移る。もと来た浮島に戻って「東京ヘルゲート」へ繋がる連絡門に姿を消した。
浮島のひとつにて、キャンプを張る部隊があった。
見張りはゴツい体の迷彩服男であった。仲間はテントで睡眠中らしい。見張りの胸には「Dungeon Typhoon」のワッペンが見えた。
「ダンジョン・タイフーン」は、警察の「安全対策課」がカバーしづらいダンジョン警邏、マスメディアでは行えないダンジョン内報道を業務とする大規模
やる気以外の条件を求めず前科持ちですら受け入れるが、軍隊並みの訓練がある。その点でも有名である。
焚火にあたっていた見張りは空を急上昇する影を見た。地面に転がしてあった暗視ゴーグルを引っ掴んで確認する。
見張りは空を飛ぶサタケを暗視ゴーグルで追う。しばらくして、見失ったかのようにゴーグルを下ろした。
「全員、起きろ!」
見張りの大声に、テントから寝ぼけ顔の男女が駆け寄ってきた。
「しゅ、主任、どうしたんですか」
「……サタケだ。何かあったんだろう。確認しに行くぞ、支度しろ」
公式ポストの通り、ダンジョン警備員と揶揄されることもある「ダンジョン・タイフーン」はサタケを「要注意人物」と認識しており、警戒を厳にしていた。
◇◆◇◆◇
ボロアパートの一室に帰宅したサタケは、犯行のせいで精神が高揚しており寝付けなかった。
自分の配信を何度も何度も何十回もリロードし、視聴者数が増えないか、コメントが付かないかを確認しまくった。
夜が白んだころに成果が確定する。
視聴者数ゼロ。
アカウントBAN。
サタケが動画配信を始めた目的は「プレイヤーキル動画で悪名を馳せ、勇者の目を引き、討伐されること」だ。
この案には、沢山の人に見てもらわなければならないという問題がある。
視聴者ゼロでは目的が達成できそうにない。
視聴者ゼロ、それ自体は初心者にありがちなことだ。殆どの場合「タイトルがまずい」「ツカミが悪い」などのミスによる結果でしかない。
しかし「視聴者ゼロ」を「拒否」と思うものもいる。
ブチ切れたサタケはスマホを壁にぶん投げた。鈍い音がして壁に穴が開いた。
隣の部屋から壁ドンがあって「うるさいぞてめえ!」と怒声が飛んでくる。サタケの顔が憤怒となった。
サタケは台所へ行って包丁を掴み、壁にぶっ刺した。包丁が隣の部屋に飛びだす。
「文句あるなら掛かって来いや! ぶっ殺してやる!」
追撃で壁蹴りを入れる。隣からの怒声は止まった。
サタケはぶん投げたスマホを拾う。一応は動くものの、液晶が蜘蛛の巣状に割れ、音は出なくなっていた。
朝がきた。
バイト先が休業で暇なサタケは、暇がゆえに思いを別へ向けることもできず、ごろごろ寝転がり、脳内で世間への愚痴・文句・罵倒をタレ流し続けた。
昼となる。
サタケの気は晴れない。脳内で世間を罵倒するたび、仄暗い恨みが膨らむ。いくら罵倒しても気が収まることはない。
夕暮れ。
誰も見てくれない恨みに火が付く。
サタケの心中に怨念が燃え上がった。
もっと殺す。早く殺す。大量に殺す。配信しまくる。これでどうだ。
プレイヤーキルには名前を売るチャンスがあるはずなんだよ。
他のやつらのプレイヤーキル動画を見たことはある。突いて殺すだけ。それだけで万の視聴者数が出ていた。
俺ならもっと刺激的な配信ができる。みんな見る。お前らの悲鳴が待ち遠しいわ。
視聴者数は人を狂わせる。
ときに、本来の目的を見失わせる程度には。
寝ていないサタケは夕方ごろに脳のドーパミンが尽きて失神し、翌朝まで目を覚まさなかった。
◇◆◇◆◇
後日「ダンジョン・タイフーン」は公式ブログに「品川大絶海に於けるプレイヤーキル事案について」という記事をアップした。
記事に貼られた画像はモザイクだらけであった。杉谷の死体がグロすぎたせいだ。
「ダンジョン・タイフーン」のブログ記事により「チャンネル大義」は耳目を集め、最後のアーカイブ配信は視聴者数百万回を突破した。
メンバーが逮捕されたうえ、リーダーの杉谷が「サタケ」なるプレイヤーキラーに殺害される、そんな急展開があれば嫌でも騒ぎになる。
キッズ、ニワカ、ネットイキリ、暇人などが祭りに参加し始めた。
黙祷レス、ファン引退レス、お悔やみレス、三行要約を求めるレス、別配信者のURLを貼る宣伝レスがひっきりなしとなる。
「チャンネル大義」スレは半日で三スレが消費された。
杉谷信者と思わしき人物がサタケへの怒りから荒らしと化し、ダンジョン配信板の全スレに「サタケを殺せ!」というレス爆撃を開始する。荒らしスクリプトらしい。
行き場のないストレスの発散方法としては褒められたものではないが、荒らしとはそういうものだろう。
荒らし謹製のレス爆撃スクリプトは怪しげなアップローダーに置かれた。多数の「チャンネル大義」信者がスクリプトをダウンロードしてレス爆撃に加わる。サタケの名を聞きつけたユグドラ信者も参加した。
ダンジョン配信板を収容するサーバは、レス爆撃の過負荷でダウンに至る。
数日で祭りは終わり、殆どの人間は去った。だが少数のガチ勢はアンチサタケ板でネット闘争の構えを取る。
インターネットを監視し、サタケが居そうなスレッドを見つけたらレス爆撃を仕掛ける、これを業務とするニート警備員が見られるようになった。
彼らはサタケの配信活動を封殺する。彼らは確証がなくてもレス爆撃するため、無辜の犠牲も多数出たが、アンチとはそういうものだろう。
当のサタケだが、
SNSやブログはリア充がやるものだと思っていた。
「公衆便所」の異名を持つ大手掲示板なんてロクに見ない。
サタケは思った。
もっと殺さないと有名になれないぞ!
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