ダンジョン絶対プレイヤーキル動画配信宣言!

@pty029

Satake Kombat

モンスター退治はもう飽きた!

 配信ライブ、スタート。


 場所はダンジョン「豊洲エンカウント」。廃都市型ダンジョンで、東京の豊洲地区をまるっと廃墟にしたようなところだ。


 ラスボスのサタケはオッサンの死体をゴミのように蹴っ飛ばす。空中にある透明な魔術カメラが死体蹴りを配信に乗せた。

 身バレ対策か、サタケはハッカー集団が好んで使う微笑み男ガイ・フォークスの仮面を付け、緑のコンビニ制服を着ている。


「モンスター退治はもう飽きた! プレイヤーキル専門チャンネル始めます」


 ダンジョンオブジェクトの廃墟ビル群を背景に、サタケは中指を立てて挑発の構えを取った。格好良いと思ってやったのだろうが、かえって薄っぺらく見える。


「お送りするのはこのサタケ。初回配信はインパクトが欲しかったので先に配信者プレイヤーキルしておきました。いかがでしょうか」


 サタケは再びオッサンを蹴る。死体が「く」の字に曲がった。


「いかが! で! しょうか!」 


 サタケは楽し気に死体を蹴り続ける。蹴るたびに鈍い音がした。


「ほらっあの世で喜べオッサン! オモチャになってくれてありがとう!」

 

 げらげら笑い、サタケは死体の頭をシュートする。スイカみたいに砕けた。


「僕ちゃん有名になりたい! だからいっぱい配信者プレイヤーキルします! 有名プレイヤーのアンチ、スナッフ大好キッズ、猟奇的オ〇ニー主義者、人間のクズなどはチャンネル登録よろしく! それでは狩りを始めます!!」


 そんなサタケの配信、同時接続者ライブリスナー数はゼロだった。「プレイヤーキルやります!」なんてタイトルの動画に関心を持つ者はいないためだ。




 サタケが殺した「プレイヤー」とは、撮影目的で「迷宮と呼ばれる異界ダンジョン」に潜る者の総称だ。


 百年前の二〇四八年、ダンジョンへの転移門が世界中に現れた。


 初期には「探索者」と呼ばれる者たちがあった。彼らはダンジョンに潜って未知のルート開拓、資源採取、モンスター狩りを行った。

 時を経て殆どのダンジョンは探索され、資源は供給過多となり、探索者はオワコン職種に転落する。


 入れ替わり、ダンジョン内での活動を配信する者が台頭した。彼らは配信に差し込まれる広告の報酬リワード投げ銭スーパーチャット、ファングッズ販売を収入源とする。これがプレイヤーだ。


 ダンジョン配信者はゲーム配信を参考にすることが多かった。

 バトル配信、ダンジョンRTA、ウォークスルー、モンスター百匹狩り耐久など、ゲーム配信に影響されたコンテンツは数知れない。

 そのためダンジョン配信者はプレイヤーと呼ばれるようになった。


 ダンジョンでの活動にはモンスターを倒す力が要る。これは先天的要素が大きい。先天能力は「迷宮適性値」と呼ばれる尺度で示されて、ゼロか、DからSSSまで。 最低ランクのD適性ですら訓練や実戦を経れば常人の十倍以上は強くなる。

 一般論としてプレイヤーは強いのだが、サタケは苦もなく殺せたらしい。彼の迷宮適性値は高いのだろう。人間のクズプレイヤーキラーだが。




 オッサンの死体を残置して、サタケは散歩でもするようにダンジョンをブラつく。


 遠い昔の魔獣大攻勢スタンピードにより、世界各地はモンスターに破壊されて放棄された。豊洲地区もその一つ。

「豊洲エンカウント」は破壊された豊洲地区を丸写しにした廃都市型ダンジョンで、エンカウント率が高く、バトル配信の定番とされる。天候は曇り空で固定。散歩には向かないが、狩りプレイヤーキルにはちょうどいい。


 サタケは曇天に手を伸ばした。


「マジ狩る ☆ 血みどろアックス~!」


 言葉に合わせ、空中に血まみれの手斧が現れる。該当スキルは「アイテム錬成」。空気を素材にすればこの手の芸当が出来る。

 サタケは落下する斧の柄をキャッチして、カンフー映画のように構えた。


「初回配信のターゲットは『ユグドラ・シーカーズ』。あいつらリア充すぎてイラっとしたので殺します! 人生を謳歌するリア充なんて許せない! にゃははははははははは!」


 ずしんと地響きがあった。廃ビルの陰から全長十メートルほどのオーガが現れる。サタケの笑い声に引き寄せられて出現したのだろう。ボス級だ。


 オーガの瞳にサタケが映る。

 戦闘開始エンカウント

 重低音の声を発しつつ、オーガは四車線の道路に足を振り下ろした。アスファルトに亀裂が走る。


「モンスターなんぞ要らん! 死ね!」


 スキル「身体強化」を発動したサタケは駆けて地を蹴り、大きくジャンプする。

 空を舞うサタケと、体長十メートルのオーガがすれ違う。すれ違いざま、サタケは手斧を振った。「身体強化」にて、斧を振る手は音速を超えた。

 斧から生じた音速衝撃波ソニックブームが巨大オーガの腹に大穴を開ける。

 オーガはぐらり揺らいで倒れた。同時にサタケが着地する。


 倒れたオーガの巨体は灰となる。灰は粉雪のように溶けて消えた。地面には魔石が残される。

 魔石は階段状にデコボコした石でビスマス結晶に似る。魔力の象徴で、武具への付呪に用いられることが多い。

 ダンジョン資源が供給過多の現在でも魔石には需要があり、良い値段で売れるが、サタケは魔石を無視して進む。


 ラスボスのサタケは人を殺したかった。救われない人間のクズだからだ。

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