宵待ちの月
小烏 つむぎ
月見酒
折しも今夜は
「この刻限なら、月はまだ天空にゃいやしねえか」
薄闇の中、近くのお座敷から
深川にある永代寺の門前には名のある茶屋が軒を連ね、たくさんの屋台が所狭しと並んでいる。なんとも賑やかなことこの上ない。岡場所(遊郭)なんざ白粉の匂いを頼りに探す前に、向こうから袖を引いてくれる。ほの明るい店の提灯に誘われる虫のように客が集まる場所だ。
この四畳余りの小さな座敷は、オイラのためにオイラの想い人が取ってくれた。茶屋の本座敷からは大きな庭を隔てて廊下づたいにある。部屋の濡れ縁の先には竹垣で囲われた坪庭。クロモジの足元の羊歯に隠れるようにある小さな流れのそばの小さな
「
雁は列を成して飛び行き
月は真夜中の空に渡る、ってやつだな」
夕暮れに宵の明星が現れる頃から
濡れ縁の柱を背にうたた寝をしていたオイラの知らないうちに、『
オイラの肩には
おヨシはいったいどんな顔をしてこの
他の座敷から届く三味線や太鼓の賑やかな音は少し遠い。坪庭を流れる水音のほうが耳に届くくらいだ。おかげでオイラはススキをお供に、のんびりと独り酒を楽しむことが出来る。
彼女からのささやかな贈り物の
「あぁ、そろそろ宴も
月は、ずいぶん高くなった。辰巳芸者の『
向かいの
「なぁ、おヨシ。
早く来ねぇと、
甘い酒を口にして驚いた顔をするおヨシを思って、ふふふと笑った。
遠くから廊下を急ぐ軽い足音が耳に届く。おヨシの声が「新さん」とオイラの名を呼ぶ。カラリと障子が開き、ひゅぅと風が動いた。
風は肩に引っ掛けた羽織の袂を翻して通り過ぎた。
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江戸の深川で活躍した粋を信条にした芸者衆。
薄化粧に地味な着物で、冬も素足のまま。
当時男のものだった羽織を引っ掛け座敷に上がった。
芸は売っても色は売らない心意気が江戸で非常に人気があった。
家の入口や店先、柱。廊下などに掛ける照明
持ち歩るけるように柄をつけた燭台。
十三夜(「九月十三夜陣中作」)上杉謙信
霜満軍営秋気清
数行過雁月三更
越山併得能州景
遮莫家郷憶遠征
霜は軍営に満ちて 秋気清し
越山 併せ得たり能州の
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